【R18】奈落に咲いた花

夏ノ 六花

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第一章〜First end〜

☆ 困ってしまいます

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手首以外には何も痕跡が残っていないとこに、不気味な気持ち悪さを感じつつも浴室へ向かう。

「───っ!」

しかしネグリジェを脱いであらわになった肌には、シリウスの独占欲を表すようにたくさんの痕が残されていた。

お風呂にゆっくり浸かって疲れを取ると違うネグリジェに着替えてガウンを羽織る。

食事を摂るような気分ではなく、そのままベッドに倒れ込む。
ベッド傍のサイドテーブルにはいつからあったのか、ティーポットとカップが用意されていた。

水滴が付いているところを見るに、アイスティーのようだ。
喉が乾いていたことを思い出してカップに注いでみる。

しかしカップの中で揺れる綺麗な茶色い液体を眺めているうちに、何故か飲む気が失せて口をつけずにテーブルに戻す。
下腹部に残る鈍い痛みを思い出して、結局私はそのままベッドで眠ることにした。



夕方。
ドアから届いたノックの音に目を覚ます。
どうやら一日中眠っていたようだ。

返事をすると、見慣れたメイドがドアから顔を覗かせた。

「晩餐の時間ですが、いかがされますか?」
「……体調が良くなくて食欲がないの。ただの風邪だと思うけどうつしてもよくないし、私の食事は結構よ」
「かしこまりました。少し声が枯れていらっしゃいますね、大丈夫ですか?朝から何も召し上がられてないようですし…お薬とスープでもお持ちしましょうか?」

邸のメイドから初めて気遣いの言葉をかけられ、ダリアかアネスティラの差金かと思わず疑ってしまう。
だが、そんな自分に嫌気が差してすぐに頭を振る。

「…ありがとう、そうしてくれると嬉しいわ」
「かしこまりました。料理長に消化にいい物を作ってもらってすぐお持ちしますね!」
「……え?普通に晩餐にでるスープの残りで構わないの…だけれど…」

締まりきったドアを見て言葉を止める。
どうやら意気揚々と引き返していったメイドには私の言葉は届かなかったようだ。

「………」

やっぱり…気遣いを拒まなくてよかった。
嬉しそうに笑うメイドの顔が思い出され、心があたたかくなるのを感じる。

考えすぎよね…?
どの道このまま全て疑ってなにも飲まず食わずでいられる訳でもないし…

シリウスが持ってきてくれた食事なら安心して口に入れられるのに。
とはいえ、昨夜のシリウスにはまだ不安は残るが…

「次、あの子が来たら名前を聞いておかなきゃね…」



             *



身体に何かが這うような気持ち悪さを感じて思わず目が覚める。

え?寝るつもりはなかったのにどうして…?

「………?」

あのメイドがスープを持ってきてくれて、ノエルという名前を聞いたことまでは覚えている。

軽く話しただけだが、やはりノエルからは変な感情は見受けられなかった。
この数年敵意に晒されて生きてきたおかげで、私は自分に向けられる視線に悪意があるのかある程度見分けられるようになっていたが、そんなノエルに安心してスープを飲んでしまったのが間違いだった。

ダリアからありとあらゆるものを少しずつ飲まされてきた結果、私は毒物や薬に対してある程度の耐性が付いている。
昨日よりは今日、と同じ毒を飲んでも体への影響が薄れていることには元々気づいていたが…全く効かないわけではない。
おそらく睡眠薬が入っていたのだろうが、スープでお腹が満たされたこともあって簡単に眠りこけてしまったようだ。

付けていたはずのランプも消されており、暗闇の中ではあったがベッドに横たわっていることは理解できた。
闇の中で私に覆い被さる影が動いたのを見た気がした。

「っ─────!!」

突然の挿入に驚き、叫びそうになるのを必死に抑える。
昨夜とは全く違う快感に全身から冷や汗が吹き出して震えが止まらなくなる。

「…あぁ、目が覚めましたか?」

蕩けるような笑顔で私を見下ろしていたのはシリウスだった。
着ていたはずのガウンもネグリジェも見当たらない。
昨夜と同じような光景に思わず夢を疑ったが、始まってしまった抽挿の快感がそれを真っ向から否定してくる。

「───…ど、して…ぁ……ぁっ!」
「…はあ……起きてくれそうになかったので、我慢出来なくて先に始めてしまいました。すみません、まさか姉様にもスープが出されているとは思わず…」
「…また皆に薬を盛ったの?」
「当然です。姉様の淫らでこの美しい姿を誰にも見せるつもりはありませんから」

幸せそうな笑顔を浮かべて好き勝手に動き始めたシリウスを止めようとつい言葉にしてしまう。

「…もうこんなことやめて…!私は、コンラッド殿下のことを…」

動きが止まったシリウスを見上げると、瞳の奥で妖しく揺らめいている闇に気づいてゾッとしてしまう。

「………殿下のことを?」
「……その…」
「なに…?」
「な、なんでもないの…」

口に出してはいけないと本能的に悟る。
今のシリウスにはコンラッド王子にすら危害を与えかねない危うさがあった。

「でも…私たちは姉弟だから…もうこんなことはやめた方がいいと思うの。女性に興味があるなら娼館だってあるし、あなたも好きな人が出来たら…」
「それならもう試してみました」
「………え?」
「士官学校で知り合った友人に誘われて娼館にも行きましたし、街で誘ってくれた女性を抱いたこともありますが、姉様ほど気持ちいいとは思いませんでした。こんな風に抱き潰したいと渇望してしまうのは姉様だけですから安心してください。というより、二度目に誘われた時はむしろ不愉快でしたね」
「………」

…この人は、本当に私の知っているシリウスなのだろうか?
耳を疑うような言葉を平然と吐き出すシリウスに恐れを覚える。

「もういいですか?」
「え…?」
「殿下の話もそうですが、私を怒らせようとしても無駄ですよ」
「そんなつもりじゃ…」
「……クローゼットの奥に隠してるプレゼントを私が見逃してあげているのは、あんなもの…どうでも良かったからです。姉様がどれほど望もうとも、あの男達によって純潔を失った時点で、王子妃になることは出来なくなったのですから」
「だからなの…?私は穢されたから…私には何をしてもいいってこと…?」
「……いいえ、の姉様が穢されたから私はあなたが欲しくなった。美しいだけの憧れの存在だった姉様が私の中で明確に女に変わったのは、あの時あいつらが姉様を陵辱している姿を見たからですよ」
「………」
「…あの光景を見て、率直に羨ましいと思いました。私だってこんなにも姉様を想っているのに、姉様が王子や他の男へ嫁ぐのを黙って見ていることしか出来ない自分が嫌になりました。その時、姉様を殺してしまおうという男が居たので、穢されたことへの怒りを思い出してせっかくなので全て斬り捨てることに決めたんです」

…理解が出来ない。
セドリックが気弱であることも、ダリアが私を憎むことも、アネスティラの嫉妬にも理解は出来るのに…
シリウスの言っている愛は、本当に私へ向けられているものなのだろうか?

「私が傷ついたことを知っていて、どうしてあんなことが出来たの…?今も…眠る私を…!」
「姉様が私の子を孕めば、両親は私たちを認めるしかなくなるからです」

シリウスの手が私の下腹部を撫でる。
私の中に入ったままのシリウスによって、お腹の圧迫感が大きくなる。

「情緒のない話はそろそろ止めませんか?さっきも言ったとおり、私は姉様の全てを受け入れてここにいるんですから。王子にも侍従にも姉様を譲るつもりはありません。今更王家が姉様を手に入れようと画策したところで、この関係を知った姉様ならとても王子は選べないでしょう?本当なら成人した後、私に依存した姉様をここから連れ出して、どこかで二人穏やかに過ごしながらゆっくり愛を育みたいと思っていたのですが…」
「……ふぁっ…ぁ、っ…んっ……ぁん…!」
「そんな時間が無くなりそうだったので、心は後から手に入れることにしました」

嬉しそうに微笑むシリウスは念願が叶ったことを心から喜んでいるように見えた。

「はぁ…姉様、早く孕んで欲しい…世界中に姉様が私のものだと知らしめたいんです。あぁ…でも…」

徐々にシリウスの動きが激しくなって思わずしがみついてしまう。

「────!!」
「っ───…同じくらい…このまま…男女の関係を純粋に楽しんでいたいとも思っているんです。姉様が絡むと冷静な判断が出来なくなって、困ってしまいます」

一番深いところにシリウスの劣情が吐き出されて、しがみついていた腕を離す。
シリウスの幸せそうな笑顔に絆されてしまいそうでつい目を逸らしてしまう。

「……はぁ…はぁ…」

ベッドに倒れ込み荒くなった息を整えていると、身体を反転されてうつ伏せにさせられる。
そのまま深く挿入され、身体を貫く新しい快感に耐えきれずはしたなく嬌声をあげてしまう。

打ち付けられる度に部屋中に響く水音と、頭の奥をくらくらと支配してくる自身の嬌声に異様な興奮を覚える。
獣のような交尾にすら、恥ずかしさより最早快感が勝ってしまっていた。

「っ…士官学校へ戻るまであと三日…孕んでもらえるようたくさん注いであげますからね、姉様…」
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