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プロローグ
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『アネスティラの代わりに死になさい』
これが、私の母を殺した女性…ダリア・マクレーガン伯爵夫人からの最期の命令だった。
唯一、アネスティラでは無いことを証明出来たはずの瞳も焼き潰されてしまった。
一体、私は何のために生きてきたのだろう…
母が死んでしまった日…私も死を選ぶべきだった。
みっともなく縋りついた生の先に、こんな地獄が待っていると知っていたなら…
夢を見るべきではなかった。
愛を求めるべきではなかった。
あの人達を信じたいと思わなければ…。
「………」
最期に思い出されるのは、まっすぐ私を愛してくれた母の笑顔。
幸せだったあの頃…
優しい声で聞かせてくれた寝物語を思い出す。
「……ァ……リ…ヴィ………」
言い終わると同時に落とされる刃。
───ザンッ!!
そこで私の意識は途切れてしまった…。
*
「──イーリス…?」
懐かしい声に意識が覚醒する。
ありえない…
私は断頭台で首を切られたはずなのだから。
声が聞こえた方へ視線を向けると、そこにはすっかりやつれてしまったお母様が横たわっていた。
足首には足枷がつけられており、身体を動かした私に合わせてじゃらりと鎖が擦れる音が響く。
二度と見ることは叶わないと思っていた…私と同じ紫の瞳が優しくこちらを見つめている。
握り返される手から伝わる懐かしい温もりに思わず涙が零れてしまう。
「───!」
死んだはずの母がいる…
焼き潰されたはずの目が見える…
しかしそれは一瞬の喜びと共に、私を更なる絶望へと突き落とすだけの光景でしかなかった。
地下牢へ幽閉されていたあの頃…
鞭打ちで裂けた肉の痛みと酷い熱に苦しみ続けた母。
呻き声も上げず、このように落ち着いていた母を見たのは…
母が亡くなる前の日だけだった。
「………お、かぁさま…?」
何故この景色なのだろうか。
走馬灯にしてももっと温かくて幸せだった光景があったはずなのに…
「……イーリス?具合でも悪いの…?」
心配そうに覗き込んでくる母の姿に違和感を覚える。
忘れようにも忘れられなかったあの日。
私と母はこのような会話をしていない。
記憶の中の母は、ただただ天井を眺め…悲しみの涙を流していた。
最期にひと目父に会いたい、こんなところに私を一人遺していけない、と。
「………お母様、私は生きているのですか?」
「…馬鹿な子ね、あなたが死ぬことはないわ。私は死ねばあの人はきっとあなたをここから出してくれるはずよ…」
記憶にない会話が成立している。
「───お母様!!私に話してくれた童話の呪文は本当の話だったのですか?!」
「………あぁ、あなたも…戻ってきてしまったのね…!」
唇を震わせながら両手で顔を覆う母を私は呆然と眺めた。
幼い頃、母が寝物語に聞かせてくれたのは《やり直しのお姫様》というお話…
謀反に巻き込まれてしまった幼いお姫様は、神様の気まぐれでやり直しの機会を与えられる。
一人の騎士に助けられ、謀反の戦火から無事逃れることが出来たお姫様は、国を捨て世界を旅しながら幸せに暮らすというお話だった。
たしか神様から教えて貰った呪文をお姫様が唱えることで、謀反が起こる前まで時間が巻き戻ったという話だったはず…
このやり直しの呪文は誰にも秘密だと再三言いつけられていたが、所詮童話だと気にしたことは無かった。
「………変えられる…」
地獄のような、あの未来を…!
復讐の機会を手に入れたことを悟った私は思わず口元を綻ばせてしまう。
その様子を眺めていた母から、驚くべき事実を聞かされることになるとは知らずに…
これが、私の母を殺した女性…ダリア・マクレーガン伯爵夫人からの最期の命令だった。
唯一、アネスティラでは無いことを証明出来たはずの瞳も焼き潰されてしまった。
一体、私は何のために生きてきたのだろう…
母が死んでしまった日…私も死を選ぶべきだった。
みっともなく縋りついた生の先に、こんな地獄が待っていると知っていたなら…
夢を見るべきではなかった。
愛を求めるべきではなかった。
あの人達を信じたいと思わなければ…。
「………」
最期に思い出されるのは、まっすぐ私を愛してくれた母の笑顔。
幸せだったあの頃…
優しい声で聞かせてくれた寝物語を思い出す。
「……ァ……リ…ヴィ………」
言い終わると同時に落とされる刃。
───ザンッ!!
そこで私の意識は途切れてしまった…。
*
「──イーリス…?」
懐かしい声に意識が覚醒する。
ありえない…
私は断頭台で首を切られたはずなのだから。
声が聞こえた方へ視線を向けると、そこにはすっかりやつれてしまったお母様が横たわっていた。
足首には足枷がつけられており、身体を動かした私に合わせてじゃらりと鎖が擦れる音が響く。
二度と見ることは叶わないと思っていた…私と同じ紫の瞳が優しくこちらを見つめている。
握り返される手から伝わる懐かしい温もりに思わず涙が零れてしまう。
「───!」
死んだはずの母がいる…
焼き潰されたはずの目が見える…
しかしそれは一瞬の喜びと共に、私を更なる絶望へと突き落とすだけの光景でしかなかった。
地下牢へ幽閉されていたあの頃…
鞭打ちで裂けた肉の痛みと酷い熱に苦しみ続けた母。
呻き声も上げず、このように落ち着いていた母を見たのは…
母が亡くなる前の日だけだった。
「………お、かぁさま…?」
何故この景色なのだろうか。
走馬灯にしてももっと温かくて幸せだった光景があったはずなのに…
「……イーリス?具合でも悪いの…?」
心配そうに覗き込んでくる母の姿に違和感を覚える。
忘れようにも忘れられなかったあの日。
私と母はこのような会話をしていない。
記憶の中の母は、ただただ天井を眺め…悲しみの涙を流していた。
最期にひと目父に会いたい、こんなところに私を一人遺していけない、と。
「………お母様、私は生きているのですか?」
「…馬鹿な子ね、あなたが死ぬことはないわ。私は死ねばあの人はきっとあなたをここから出してくれるはずよ…」
記憶にない会話が成立している。
「───お母様!!私に話してくれた童話の呪文は本当の話だったのですか?!」
「………あぁ、あなたも…戻ってきてしまったのね…!」
唇を震わせながら両手で顔を覆う母を私は呆然と眺めた。
幼い頃、母が寝物語に聞かせてくれたのは《やり直しのお姫様》というお話…
謀反に巻き込まれてしまった幼いお姫様は、神様の気まぐれでやり直しの機会を与えられる。
一人の騎士に助けられ、謀反の戦火から無事逃れることが出来たお姫様は、国を捨て世界を旅しながら幸せに暮らすというお話だった。
たしか神様から教えて貰った呪文をお姫様が唱えることで、謀反が起こる前まで時間が巻き戻ったという話だったはず…
このやり直しの呪文は誰にも秘密だと再三言いつけられていたが、所詮童話だと気にしたことは無かった。
「………変えられる…」
地獄のような、あの未来を…!
復讐の機会を手に入れたことを悟った私は思わず口元を綻ばせてしまう。
その様子を眺めていた母から、驚くべき事実を聞かされることになるとは知らずに…
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