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しおりを挟む渚の家(と、言っても同じフロアにある俺の家の隣)にやって来た。
…やって来たものの、どうやって切り出す?なんて言う?発情期みたいなのがきたんだけど、発情期って人間にもあるの?どうやって収めるの?って聞けばいいのか?
頭でぐるぐると考えてはいるものの、なかなかインターフォンが押せない。
押せてないのに、ムラムラは一向に無くならない。あー、もー、やだ。本当にやだ、この体。
唸りそうになるが、なんとかそこは抑えて、とりあえず一旦冷静になろうと、ドアとは反対側の壁に背中を預ける。
冷静になれ。冷静になれ。そして、できればムラムラも無くなれ。
呪文のように唱えていると、靴をするような足音が聞こえて、ピタッと止まった。
「ナナ?」
「……葵」
黒のキャップを目深にかぶっていて表情はわかりにくいが、長年一緒に居るから葵だとすぐに分かる。
会うのはあの日以来だから、随分と久しぶりな気がする。
「待ってくれてた…ってわけじゃないか。あー、ヤバイ。久しぶりにナナに会えて超うれしい…どんな顔したらいいか、わかんねえ…っ」
両手を覆い、しゃがみこむ葵に思わず目を見開いた。正直どう反応したらいいか全然わからん。
「ど、どうした…」
「だって、最近ほとんど寝れないし、現場はしんどいし」
「葵…」
確かに朝も夜もずっと居なかった。顔すら見かけなかった…まあ、会って普通にできるかわからなかったから葵には悪いけど俺的にはちょうど良かった。テンパってるけど、普通に接することが出来そうな感じだし。結果的に良かった。…葵はだいぶ疲れてそうだけど。
葵の背中を擦ってやろうと中腰になって近づくと、葵の手がグッと俺の手首を掴んできたので驚いて思わずビクッとした。
「会いたかった」
顔をあげた葵と目が合う。
切なげな瞳が揺れ、それでいて照れくさいような表情で微笑む葵は耳まで真っ赤で、こっちまで恥ずかしくなってくる。
言葉が上手く出てこなくて、固まっていると葵は悲しそうに微笑んで立ち上がった。
「ごめん、ナナは会いたくなかったよな」
しゅんとした葵に対して、俺は首を横に振った。
「会えて、嬉しい」
痴態を晒してしまったわけだから、どんな顔して、どんな声をかけていいのか悩んだこともあったけど、会いたくないわけじゃなかった。
元気にしてるのかって心配もしていたし、そりゃあ気恥ずかしい部分がないわけじゃないけど、会えない時間はやっぱり寂しいものだ。
「ナナ、少し話せる?」
「え?あ……うん」
渚に相談したかったけど、滅多に顔を合わせることのない葵と会えたわけだし…少しくらい、いっか。
割と死活問題だから早急に解決したいけど。
俺は内心そう思いながらも頷くと、渚の家の更に奥に歩みを進める。
さっきからずっと掴まれたままの手首を引っ張られながらドアをくぐると、ガチャリと鍵を葵がかけ、靴を脱いだと同時くらいに玄関あがりの廊下に体を押し当てられた。
「な……っ」
「ナナ、どうしたの?コレ」
股間にグッと膝を割り入れられ、グリグリと上に押し上げられて思わず声が漏れる。
「こんな勃ててさ、なんであんなとこに居たの?俺を待っててくれたんなら嬉しいけどさ…そうじゃないよな?なに、渚とこんなとこ興奮させるようなことしてんの?」
「ちが…っ」
確かに渚のところには相談しようと思って訪ねようとしたけど、だからって渚とエロいことしたとかしようとかそういうつもりでは全くなかった。これは、何故か体が馬鹿になってしまっているだけだ。どう考えても誤解だ。
「違う?本当?」
悲鳴のような声が出そうになるのを堪えながら俺はコクコクと頷く。
正直、されている行為は乱暴なのに悲しいことに体は快感を貪るようになってしまうらしく、そんなことさえ気持ちよくなってしまって涙が滲んだ。
「相談、しようと…っ」
「相談?」
相談という単語に葵は膝を動かすのをピタッと止めた。非常にありがたい。
「そうだ」
「なにを相談するつもりだった?」
「それは…」
言い辛い。
渚に相談しようと勢いよく部屋を飛び出したものの、恥ずかしいやら、どう切り出していいものやら悩んでしまってインターフォンを押せなかったんだから、めちゃくちゃ言い辛い。
「俺には言えないことか?」
「そういうわけじゃない」
もちろん恥ずかしいけど、秘密にするようなことじゃない。
葵が真っ直ぐ俺の瞳を見る。
真剣な眼差しに、俺は観念するように大きくため息をついてから口を開いた。
「…その、体がおかしくて」
「は?大丈夫なのか?ちょっと待て。こっちで話そう」
葵に案内され、ソファに座るように誘導された。
相変わらず物のないシンプルな部屋は生活感がない。
俺が腰をかけた横に葵が座り、硬い表情でオレを見た。
「調子悪いとか知らなかった…ごめん」
泣きそうな顔でうつむかれ、俺はギョッとしてオロオロとしてしまった。
待って待って待って。そんな深刻になるような話じゃなくて、いや、割と死活問題だけど!落ち込むようなそんな体調不良じゃないから!逆に元気すぎるんだ!どことは言えないけど!!
「いや、葵……そうじゃない。その、あれが……収まらなくて」
「ん?」
「あー、だから…体がおかしいっていうのは、その、ずっとムラムラしてて、一人でしても収まらなくて、どうしたらいいかわからなくて……」
「……は?」
「だ、だから出しても出しても収まらないから体がおかしいんじゃないかって言ってるんだ!このままじゃ仕事にも影響出るかもしれないし、解決できるならしたいって話だ!!」
俺は「何言ってんだコイツ」的な顔で口をぽかんと開けている葵に若干苛立ちながら、恥ずかしいがカミングアウトした。顔熱い。こういう反応は予想していたものの、気分は最悪だ。悪かったな!人間に発情期があるなんて知らなかったんだっつーの!!!
「それで勃ってたんだ?」
「……そうだ」
「さっきまで一人でしてたのか?」
「……っ、言わせんな!」
「……へえ」
葵の唇が意地悪そうに弧を描く。
太ももに手を置かれ、すーっと撫でるように動かれて思わず体がビクッと反応してしまった。
「それ、治して欲しい?」
「治る、のか?」
そりゃあ治るなら治して欲しい!!こんな状態とてもじゃないけど困る。仕事に支障が出ると嫌だし、すぐにでも解決したい。
「うん、たぶん」
「たぶんって……」
たぶんかよ。頼っておいて文句は言えないけど、ちょっと心許ない。
「んー、それさ……たぶんだけど俺とヤったからじゃないか?」
「やったって……」
「セックス」
「ぶっ……!!な、な、な……っ」
「だってよく言うだろ?セックス覚えたては猿みたいに盛るって」
「うっ」
たしかに何かそういう感じのことは聞いたことがある。え、じゃあ何。オレ、葵と致してしまったから猿みたいに盛ってるってこと???
「それってさ……セックスするまで収まらないんじゃね?」
「そ、それは……」
そうかもしれない。体は馬鹿みたいに興奮してるし、やたらムラムラするのに、自慰したところで収まらなかったし…
「俺とする?」
葵が包み込むように抱きしめると、ゴリッとしたモノが体に当たった。
……葵も勃ってる。
ゴキュッと喉が鳴る。
どうしよう。このまま流されるようにしていいものなのだろうか。
こういう行為は結ばれる男女がするもんじゃないのか?恋人でも婚約者でも結婚相手でもない友達で、しかも男同士なのに、簡単にしていいものなのか?
「……誰か他にヤる相手いんの?」
葵が低い声で囁くと、体がビクッと震えた。
ヤるとか……そんな相手、いるはずない。
一瞬すばるくんの顔が頭に浮かんだけど、それはあくまで恋人の勉強をしてもらってるわけで本当に恋人ってわけじゃないし、ただでさえ甘えてばかりなのに……そんなこと、頼めるはずもない。
オレは首を横にふるふると振ると、葵は目を細めてフッと笑う。
なんだかその表情が安堵を含んだ甘い表情に見えて、思わずドキッとしてしまった。
「しよっか、ナナ」
ゆっくりと葵の顔が近づく。
指でやんわりと葵を制しするように唇に触れると、葵はピタッと動きを止めた。
「やっぱりキスはだめなんだ?」
「だめ」
「ふーん」
葵は俺の手を掴むと、指を口に含んだ。
艶かしく動く舌が指に絡んで思わず甘い声が漏れる。
「……っ、ん」
じゅるじゅるとわざと音を立てるようにされ、熱のこもった瞳を向けられると、気持ちが煽られていく。
興奮しっぱなしの体には、目の前に人参をぶら下げられた馬のようで、今にも飛びつきたくなる。
「七瀬」
その声が体のスイッチを押すように、ぶわっと震えるほどゾクゾクとする何かがこみ上げてくる。
その声で、その名前で呼ばれた時間を体が覚えていると応えるように
「観念して俺に抱かれろ、七瀬」
ぺろっと見せつけるように舌を指に這わせる。
ああ、もうだめだ。
抗えないほどの興奮が体を占めて、ふらっと力が抜けるように葵にもたれかかる。
「したい。して……葵、治して。もう、体…辛い」
呼吸が乱れて、途切れ途切れに言葉を紡ぐと葵は満足したのか嬉しそうなとびっきり甘い声で「いいよ」と耳元で囁くと、俺の体を軽々と抱き抱えて歩いたのだった。
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