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しおりを挟むミーティングが終わると、シンさんは「次は渚の打ち合わせで…」と、スケジュールの確認を忙しそうにはじめたので、俺達は受け取った資料などを持って自分たちの部屋に帰ることにした。
今日は、朝と昼はメンバーそれぞれやることが違うが夜からは歌番組の収録だ。
俺とすばるくんは、ミーティングの後はもらった資料の確認をしたりする時間を作っていてくれたようで、夕方の移動までまるっと予定が空いていた。
せっかくなので、二人で意見を言い合ったりした方が有意義だろうとすばるくんに提案されて、俺はすばるくんの家にお邪魔していた。
相変わらず綺麗で片付いたオシャレなのに無駄のない部屋はとてもすばるくんらしくてかっこいい。
ちなみに俺はあまりこの手のことは得意ではないので、メンバーやシンさんに家具を選んでもらったり、コーディネートするのを手伝ってもらったのでかっこよくてとても気に入ってる。
「ナナは座ってて」
大きな液晶テレビの正面の革張りのソファを指差すと、すばるくんはテキパキとDVDプレーヤーや音楽のデッキなどのたくさんの電源をオンにしていき、手早く準備してくれた。
俺は、すばるくんに言われた通りにソファに座ってもらった資料に目を通していく。
独占欲かあ…。
資料にあるテーマなどに目を通すとやっぱりその言葉がひっかかる。
今回出させてもらうCMのテーマなのだから、今回のキーとなる感情なのだろうが、正直言葉は理解していてもよくわからない。
やっぱりこの言葉の感情がちゃんと心が理解していないと、今回のプロジェクトは上手くいかない気がする。
絶対に成功させたいのに、どうしよう。
「ナナ、どうかした?大丈夫?」
不安が顔に出てしまっていたのか、すばるくんは俺の横に座ると心配そうに声をかけてくれた。
大丈夫、と言おうと思ったが、言葉を飲み込んだ。
やっぱり一緒に成功させたい。
恥を忍んで相談するべきだと、直感的にそう思った。
「俺、独占欲って気持ちがわからない。言葉は理解できてるけど、そういう風に思ったことがない。恋人どころか初恋もまだだし…20歳にもなってこんなこと言うのもヤバイのかもしれない。でも、アイドルって夢に夢中で、楽しくて、アイドルとしての毎日充実してたから…」
頭で思ってることを伝えられるように、言葉を整理しながらゆっくりと話すと、すばるくんは相づちを打ちながらしっかりと聞いてくれた。
「それは、つまり恋を知らないから自分しか見れないようにしたいとか、束縛したいとか思ったことがないってこと?例えば、ファンの子にも自分しか見ないで欲しいとか自分だけを愛して欲しいとか思わないの?」
「思わない。好きで居てくれるのは嬉しいし、幸せな時間をあげれたらいいなって思う。でも、俺よりもキラキラしたアイドルはいっぱいいるから他の人も見たほうがきっと幸せな時間は増えると思う」
「ナナは自己評価が異常に低いからね…うん、わかった。じゃあ、僕と一緒に勉強しよっか」
「勉強?」
「うん、勉強。でも、みんなにはナイショだよ?僕が必死で勉強してるなんてイメージじゃないでしょ?」
確かにすばるくんは、何でもスマートにやってしまうイメージがある。
俺の為に勉強を一緒にやってくれるというのに、イメージを崩すのは本意ではない。
「うん、わかった。内緒にできる」
コクコクと頷くと、すばるくんは微笑んで「いいこだね」と言って、ちゅっとキスをした。
え?キス???
確かに今、すばるくんの綺麗でキラキラした美しい顔がふっと近くなって、柔らかい唇が触れた。絶対触れた。だって、柔らかな感触が唇に残ってるから!!
「すばるくん…キス…?」
混乱しすぎて、ひどくマヌケな声が出てしまった。
すばるくんは返事をしない代わりにとてもいい笑顔で微笑むと「おいで、ナナ」とすばるくんは俺の腕を掴んで引き寄せると、すばるの膝を跨ぐように座らされた。
え、何この状況。ますますわからない。
と、いうかこの格好ちょっと恥ずかしいし、すばるくんの顔も近いし、俺の方が背低いからいつもなら見下ろすことなんてまずないのに見下ろしてるし、逃げたくても背中まで手でホールドされてるし、それより俺なんか乗って大丈夫なの!?
だいぶ重いと思うのに涼しい顔してるし、てか、すばるくんて腕力強すぎない?俺、簡単に引っ張られた気がするんですけど???
「ナナ、また色々考えてるでしょ」
「だ、だって…これ、今どういう状況…?」
「そんな怯えなくても。僕のこと、怖い?」
なるほど、これがアイドルの上目遣いか。
見上げてばかりの俺が、すばるくんの上目遣いが見れる日が来るなんて、最初で最後かもしれない、と思いながら首を横にぶんぶんと振った。
「すばるくんが怖いわけない。ただ、その状況に全く追いつかなくて」
なんだ、良かった。と、すばるくんはホッとするように微笑んだ。
うっ、可愛い。
キラキラした完璧な笑顔も素敵だけど、こうして時々いつもと違う表情を見せられると、キュンとしてしまう。
これはいわゆる『萌え』というらしいと、前に葵が教えてくれた。
「説明もなしにごめんね?ナナは、僕とキスするの嫌?」
「嫌じゃない。前にしてくれたのも…びっくりしたけど、すごく気持ちよかったし…」
思い出すと顔が熱くなるのがわかる。
でも、本当にとろけてしまいそうなくらい気持ちよかった。
「じゃあ、これは?」
ホールドされていた腕ですばるくんと体が密着するように抱き寄せられるとぎゅっと優しく抱きしめられた。
時々されるハグと違って、なんだかドキドキする。
「…ドキドキする」
「嫌じゃない?」
息がかかりそうな距離で耳元囁かれると、ぞくぞくっと甘い刺激が腰のあたりからこみ上げてきて、ビクッと体が小さく震えた。
声にして返事をする余裕がなくて、ふるふると首を縦に振った。
「じゃあナナ、僕と『恋人』の勉強をしない?僕たちアイドルは恋人を作ることはできないじゃない?だから、僕たちは恋人というものがわからない。でも、ナナは知りたいんでしょ?恋人がしてることとかを、僕と一緒にしてみたらわかるかもしれないと思わない?リードするように頼まれてるのもあるけど、僕も勉強してみたい。だめ?」
確かにアイドルは恋愛禁止、恋人なんて作ったらファンを悲しませることになる。
夢が見たいファンたちは、きっと許してくれないだろう。
だからこそ、俺も知らないことだし、すばるくんも知りたいことなんだと思う。
内緒で『恋人体験』をすることが出来れば、仕事もワンランク上のことができるかもしれない。
「でも、勉強のためとはいえ俺と…本当にいいのか?女の子は無理にしても、渚みたいに可愛い子の方が…んんンッ!?」
話をしている途中なのに、唇で口を塞がれた。
なんで?なんで?
頭に浮かんだ疑問も甘い刺激に、次々とかき消されていく。
まだ唇を重ねて間もないのに、すばるくんの舌は何でも知っているかのように、ピンポイントで俺の気持ち良いところばかりを動き回る。
乱れて、暴れそうになるほど官能的なキスは、酸素が無くなりそうになるほどに長い時間繰り返された。
唇が開放されると、体から力が抜けて、くたっとすばるくんの体にもたれかかるように身を預けると、荒い呼吸で酸素を体に取り込んだ。
「だめだよ、ナナ。こんな格好で恋人がすることをしてみたいっていう男の前で他の男の名前を呼ぶなんて」
「ごめん…すばるくん、よく聞こえ、ない…なんて?」
ハァハァと、必死で呼吸を繰り返すことしかできない俺は、すばるくんの言葉がよく聞こえなかった。
酸素の足りない脳に甘い刺激ばかり与えられてぼんやりと霞がかるばかりで、まともに考えることも言葉をちゃんと聞き取ることもできそうにない。
「僕とナナでって言ったんだから、他の人じゃ意味がないってこと。わかった?もう他の人となんて言わないでね」
今度はなんとか聞き取れたので、必死でコクコクと頷くと「じゃあ決まりね」と、すばるくんは体をぎゅっと抱きしめながら、よしよし、と頭を撫でてくれた。
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