アイドルはナマモノですか!?

春花菜

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 「お前たち二人のユニット名だが『SugarRainシュガーレイン』だ。コンセプトは『君を甘やかす雨になりたい』そしてデビュー曲は、お前たち二人が出演するCMの曲となる」


 休み明けの日、俺とすばるくんはシンさんに朝から二人呼び出されてグループで共用している部屋でミーティングを行っていた。


 シンさんはデモテープとCMの企画書の概要を書いたものをそれぞれの前に置くと、俺たちは中身を確認した。


 「口紅のCMですか。女性用のコスメのCMは初めてですね」


 すばるくんがそう言うと、シンさんはニヤリと微笑んだ。


 「そうだな。SSRでは受けなかったタイプのCMだ。せっかくだからSSRは仲良しキラキラ王子さま~な、ザ・アイドル路線とは違う大人で魅力的な男性として売り出したいと思ってる。こう、なんつーのかな。溺れるような甘い誘惑みたいな雰囲気を出したいんだよな」


 そういう色っぽい大人の魅力みたいなものは、俺全然ないけど大丈夫かな…。
不安に思いながら、すばるくんの方をチラッと見ると軽く指を曲げて唇に指を当てながら考えるような仕草で資料を真剣に見ていた。
すばるくんが下を向いていると、サラサラの髪が顔を撫でるように落ちてくる。
白くて長い綺麗な指で滑らかに髪を耳にかける。
その仕草が、男の俺でもドキドキするくらいに色っぽい。


 すばるくんはやっぱり完璧だ。
今回の仕事もすばるくんは問題なくこなせると思うけど、自分は足を引っ張ることが容易に予想できる。
年齢的には二十歳になって、大人の仲間入りもしたけど、中身はこどものまんまだと自覚しているし、アイドルを目指していた頃も夢を追い求めることに夢中で、今もアイドルとして仕事できるのが楽しくて、恋人どころか初恋すら知らない恋愛ド素人に誘惑するような大人の魅力を求められても正直無茶ぶりにしか感じられない。


 すばるくんと二人で仕事をすることは楽しみだったけど、不安しかない…。


 俺の様子に気づいたのか、シンさんが話を止めて「大丈夫か、七瀬」と気遣ってくれた。
活動をはじめる前から不安があることを隠すのはよくないな、と思って恐る恐る口を開いた。


 「俺で大丈夫だろうか…色気とか絶対ない。口下手だし、誘惑できるような要素一つもない」


 俺がしょんぼりしながら言うと、シンさんもすばるくんも鳩が豆鉄砲くらったみたいな顔で固まった。


 や、やっぱりまずかった!?これから二人で頑張っていこうって気合い入れないといけない場面で水を差すようなこと言っちゃって…努力をする前からこんなこと言って、怒られるどころか呆れられてしまっただろうか。


 青い顔で二人の顔を不安になりながら交互に見ていると、沈黙を破ったのはシンさんの大笑いだった。


 「ひゃはははははは!!ひぃー!何を心配してるのかと思ったら…七瀬はまったく…ぷはははっ!」


 何故、大爆笑?
思いもよらない反応にどうしたらいいかわからずにクエスチョンマークを頭にいっぱい浮かべていると、シンさんが笑いながらも身を乗り出してきて頭を少し乱暴にくしゃくしゃと撫でてきた。


 呆気にとられていると、シンさんは大笑いを引かせるように深く深呼吸をしていた。
ちなみにすばるくんは何故か優しい微笑みを俺に向けていた。


 「いや、七瀬。お前は何も考えなくていい」


 「でも…」


 「うーん、お前にあんまり情報与えるのも良くないと思ったんだが、自信が無さ過ぎるのもユニットにはマイナスか」


 ブツブツ考え込むシンさんから、時折『無自覚』とか『無防備』とか聞こえてくる。
やっぱり俺ってアイドルとしての自覚足りないかな!?ファンの子達を満足させてあげれてないかな!?!?もっと苦手なことも努力しないといけないよね!?!?!?
…でも、無防備ってなんだ?


 俺は頭の中でぐるぐると酔いそうなくらい考えていると、シンさんは考えがまとまったのか、よし!と自分の膝をパチン!と景気よく叩くと俺の目をしっかりと見た。


 一大決心したようなシンさんの真剣な表情に、俺は思わずゴクリと息をのんだ。


 「七瀬、お前のことファンがなんて言ってるか知ってるか?」


 「ファンの子達が…?」


 なんだろう。SSRは基本的に直接ファンとの交流はないし、SNSは禁止されているからファンの子達がどう言っているのかは正直全く知らない。
俺のことを応援してくれている子もコンサートなどで、俺のメンバーカラーである黒を意識的に服装や小物などに取り入れて身につけてくれていたり、グッズや団扇を持っていてくれていたりするのを見かけるので居ることは自覚している。
そんな子たちが、まさか悪口を言うとも思えないし…


 俺が考え込んでいると、まあわからんよな、とシンさんは俺の答えを待たずに口を開いた。


 「七瀬はなぁ『歩くフェロモン』って呼ばれてる」


 なんて!?シンさんなんて言った!?
歩くフェロモン?歩くフェロモンって言ったよね??てか、フェロモンってなんだっけ?
確か、なんかあれだよね。ちょっと色気ある的なあれだよね!?吸い寄せられるような…魅力するような不思議なやつだっけ??
と、いうかそんな俺とは真逆じゃない???


 あまりに予想しなかったことを言われてパニックになっていると、俺の反応が予想通りだったようでシンさんは生温かい表情で「まあ、七瀬。何も考えなくていつも通りでいいから」と、優しい声色で言ってくれた。


 「とにかくだ。七瀬はあまり肩に力を入れずにすばるにリードしてもらえばお前らなら上手くいく。すばる、七瀬のこと頼んだぞ」


 すばるくんは、ニコッとキラキラした笑顔でシンさんに「はい、もちろんです」と答えた。
やっぱりすばるくんはすごいなあ。
俺なんかそんな風に頼まれたらプレッシャー感じちゃうけど、そんなこと微塵も感じさせない笑顔ではっきり言えるすばるくんは本当に尊敬する。
俺が感動している前で、何故かシンさんは顔を引つらせて「あくまでほどほどにな」と言った。


 確かにリードばかりしてもらうのは申し訳ないし、憧れているすばるくんに少しでも追いつけるように頑張らないと!
気合いを入れていると「ナナ、一緒に頑張ろうね」と、手を握ってくれたので期待に応えるように手をぎゅっと握り返して「うん」と返事をした。


 「あー、えー、うん。まあ、改めてやる気になってくれたことはこちらにとってはありがたいが、話続けるぞー」


 と、何故か棒読みでシンさんが言うと、俺は改めて前に向き直した。
ちなみに何故かすばるくんが手を離してくれなかったので、手は繋いだままだ。


 「CMの話に戻るが、今回はクリスマスに彼氏に買わせたいというのが狙いだ。テーマは『独占欲』彼女の唇は自分のモノだっていうような、彼女からしたら彼の色に染められたいって感じでな。曲も独占欲丸出しの感情的な内容になってるから、振り付けもクールでかっこいいが、二人が掛け合うような少し難易度の高いものになる予定だ。ダンスの方はすばるも七瀬も全く心配はしてない。むしろ二人の良さが世間にアピールできるチャンスだと思ってる」


 ダンス難しいのに挑戦できるのかー!それは、すごく楽しみだ。
グループのコンサートでは、アルバムに収録されているユニット曲なんかもやっていたので、すばるくんと二人でダンスする機会もあったけど、本格的な掛け合いや絡みのダンスとなると初めてかもしれない。すごくわくわくする!


 ダンスレッスン早く始めたいなあー、と嬉しすぎて浮かれていると、ふいにすばるくんと繋いでいる手が、すばるくんの手でにぎにぎとされてハッと我に返ると、すばるくんはクスッと笑った。どうやらダンスのことで浮かれて話を聞いていなかったのがバレていたようだ。


 「まあ、そういうわけでボイストレーニングとダンスレッスン、CM撮影に、歌の録音、ジャケ写、CMとコラボした初回限定用ポスター撮影に、CMキャンペーンのクリスマスライブ、もちろんCD宣伝のインタビューや歌番組への出演なんかもするぞ。正直時間がないから、忙しいスケジュールになると思うが、お前たちの記念すべきユニットでのデビューだからな。全力でやりたいと思ってる。だが、葵や渚のこともあるから付きっきりで俺が見てやれるわけじゃないが…」


 スケジュールの計画表はびっくりするほど過密スケジュールだったが、クリスマス商戦なのだからしょうがない。
夏真っ盛りだが、CMなんて先取りしなければ意味がない。むしろ、時間が足りないくらいなのではないかと思う。
サプライズとしてツアーの最終日に発表することの大事さもわかるし、むしろツアーの準備もあったのにここまでしっかりと内容をつめていてくれていたことに感謝しかない。


 その思いに全力で応えたい。
俺はそう決意すると「全力で頑張って、みんなの想像を超えます」と、言った。
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