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しおりを挟むその後、歌詞が飛んだり、よろけてすばるくんにフォローしてもらったり、動揺しすぎて散々だった。
4人手を繋いで、客席に礼をすると舞台から楽屋へと移動した。
「お疲れ様~皆!今日も最高だったぞー!」
良かった良かった、と迎えてくれたのはマネージャーのシンさんで、社長に育てられた精鋭の異名を持つ1人で敏腕マネージャーだ。
「シンさん!何アレ!びっくりしたんだけど!!」
渚が開口一番にそう言うと、メンバー全員同意とばかりに頷いた。
「サプライズはあるだろうけど、普通はファンに対してのサプライズであって、僕らは知ってるものじゃないの?」
すばるがそう言うと、またメンバー全員同意とばかりに頷いた。
「まあ、普通はな!でも社長がその方が面白いだろって!」
ごめんごめんと、軽く謝ると全員呆れたような顔をした。
「お前らほんっと仲良いよな…性格全然違うのに反応が一緒って」
ククッとシンさんは笑ってから、真面目な顔になった。
「そんな仲良しなお前らだからこそ素の反応を見せた方がいいと思ったんだ。今はSNSの時代だからな、お前らの反応と情報が拡散されたらこっちにとっていいことだらけだ。ほら、これ見てみろ。もうトレンドにあがってる」
シンさんは、自分のスマホを取り出すとメンバーにツブヤイタッターという誰もが使っていると言われているSNSのトレンド欄を見せてくれた。
自分はやっていないのでよく知らないが、シンさんの説明によるとトレンドというのは、ツブヤイタッターで呟かれたメッセージでよく呟かれたワードを集計するようなシステムらしい。
そこには、SSRやメンバーの名前が乱立していた。
『佐々木葵くん大河主演決定おめでとう』
『ナギ様がいよいよ脱ぐらしいので全力待機』
『すばナナユニット結成決定』
「あ、ナナがコケたのも拡散されてる!」
葵の言葉に、うっ、と俺が思わず口籠ると「大丈夫、ほら可愛いだって」と、すばるくんが追い打ちをかけるようなフォローをしてくる。
「てか、なんでオレだけ様づけ?」
「それは時々ナギが俺様になるからじゃない?」
ブツブツいう渚に葵が的確にツッコミながら、4人はシンさんのスマホをまじまじと楽しそうに見ながら話した。
すると、衝撃的な文字が飛び込んできた。
『すばナナついに結婚』
『結婚式には参列しなくては』
『ご祝儀用意しないと』
と、祝福モードの呟きがズラリと並んでいる。
「すばナナ結婚!?え!すばるくん、結婚するのか!?あ、でもそうなると俺も結婚?俺誰と結婚するんだ…?」
俺が動揺していると、渚が「ナナちゃん落ち着いて落ち着いて~」と、頭をなでなでしてきた。
「そうだな、そのことも含めてお前らに話がある。まあ、とにかく今は着替えて後で話そう!スタッフに迷惑かけちゃだめだからな!」
シンさんがニカッと笑うと、4人は素直にわかりましたと返事をして、帰り支度をはじめた。
全員ワゴンに乗り込むと、都内でも有数のセキュリティばっちりのセレブマンションに向かった。
4人は、事務所が借りてくれているこのマンションに住んでいて、4人の部屋の他にもう一室ミーティング用に集まれるSSRの為の部屋がある。
シャワーを浴びたら集合するように言われ、さっとシャワーを浴びると、ラフな格好に着替えて、部屋を出た。
ミーティングルームに行くと、他のメンバーもそれぞれ好きな場所に座ってリラックスしていた。
「あ!また髪をちゃんと乾かしてない!」
派手な配色の服を着た渚がズンズンと近づくと、ワシャワシャと髪を拭かれた。
「本当、ナナはいつもだね」
そう言ってすばるくんは手招きをして、自分の足元に座るように言うとドライヤーで優しくなでるように乾かしてくれる。
「はいはい!次はこっち!ナナ、どうせ保湿もしてないだろう?」
葵がひょこっと現れると、ペタペタと顔をケアしてくれた。
「お前らほんっと仲良いな…つーか、七瀬を甘やかしすぎだ。まあいいけどよ…ほら、気が済んだらこっち座れ。話するぞ~」
シンさんがちょいちょいと手招きすると、4人はシンさんと向かい合うようにテーブルを挟んでソファに腰をかけた。
「今回のサプライズの件だが、葵が大河の主演になることがそもそもの発端だ。大河ってのは、長期的に拘束される。その間グループで活動することも出来なくはないが、葵にとって大きなチャンスだから体調管理も含めて無理はさせたくないってのが事務所の方針だ。まあ、もちろん今あるレギュラー番組は今まで通りだが、新規の番組やゲスト出演、キャンペーンイベントやCMなんかは、できるならすばると七瀬にふるつもりだ」
「迷惑かけて皆ごめん。でもオレ頑張る。絶対に結果残すから」
葵が言うと「謝る必要ない」「応援してるから」「オレも負けないように頑張る」と口々にエールをおくり、葵は「ありがとう」と少し涙ぐみながら礼を言った。
「次に、渚だけどな。前々からオファーがあって、写真集の話はあったんだ。でも今回はただの写真集じゃない。半年間連続刊行写真集だ」
「え!?」
4人が驚くと「そうだろ、驚いただろう」と、シンさんは自慢げな顔でフフンと言った。
「有名写真家はもちろん、監督やクリエイターに参加してもらう。6人から見た6通りの渚を見せるという企画だ。具体的には渚と会ってもらって決定していく。そして、沢山の刺激を受けて渚は写真の個展をひらく。PV撮影なんかの合間に渚がメンバーとのプライベート写真を撮ったやつ、あれ初回特典でつけただろ?あれが結構好評でな。ファンの間でプレミアついてたりするんだ」
「そうだったんだ。結構嬉しいかも」
渚が天使のようにふんわり照れるように微笑むと、隣にいた葵がニッと笑って頭をなでるのを見て、俺も嬉しくなって頭をなでた。
すばるくんは、微笑ましい様子を眺めるように微笑むと「良かったね、ナギ」と言った。
「後は、すばると七瀬のことだがすばるはオールマイティに何でもこなすから1人での仕事が結構オファーも多い。七瀬は、ダンスが断トツに上手いし、歌唱力もあるからソロ活動させようかって話もあったんだが…」
シンさんはそう言いながらカバンからおもむろに何かを取り出して、机にドンっと置いた。
「なんですかコレ?本?」
マンガのような絵が描いてある表紙だが、自分の知っているマンガサイズでもなく、薄い。そして、男性二人組が幸せそうに見つめ合っている。
「と、いうか…もしかしてこれ僕とナナじゃない?」
「え!?」
言われて見れば似てる。
積み上げられた一番上の本をまじまじと見てから、すばるくんを見るとすばるくんは少し困ったように微笑んでいた。
「実は、お前たちSSRのファンは腐女子が多い」
「ふじょ…し?何?」
俺がきょとんとしていると「婦人会みたいな人妻とか年上のおねえさん方じゃないか?」と、葵がコソコソと言うと渚は呆れた顔を、すばるくんはいつものスマイルを崩さずシンさんの方を見ていた。
「あー、うん。とりあえずコレ読んでみろ」
シンさんは一番上の本を俺に、その次に積まれていた本を葵に渡した。
『スイートヘブン』と書かれた表紙をめくると、綺麗なイラストで物語が綴られていた。
やっぱりマンガかー。すばるくんと俺がマンガの中にいるなんて不思議な気分だけど、すごく上手だな。ファンの人が描いてくれたのかな?
そんな嬉しい気持ちでペラペラと読みすすめた。
『ナナ、今日も来るよね?』
『うん』
って、なんで家に誘われてるだけでこんな照れた顔してるんだ?確かに、出逢ったばかりのときは緊張してたから顔赤くなったりしたけど今はさすがに話かけられても普通に話せるし、家に行って遊ぶことくらい普通にできるのに。
ちょっとむぅとしながらページをめくると、すばるくんの家のドアが閉じた途端にマンガの中の俺は急にすばるくんに抱き寄せられて、濃厚なキスをした!
ドエぇええーーーッ!!?
本をバタン!と閉じてすばるくんの方を見ると「ああ、やっぱり」と冷静に笑っていた。
自分はきっと真っ赤になっているというのに、すばるくんはどこまでも王子様風で全然取り乱してなくて本当にすごい。根っからのアイドルっていうのはこういうところなんだろうか。
すばるくんの方を見ていると「ナナ、もう読まなくていいの?」と、クスッと笑われたので俺は「も、もういい…」と首を横に振った。
本を机に置くと、葵もちょうど読み終わったようで本を閉じて机に置くと、目を閉じて深呼吸すると「めっちゃエロかった!!!」と、大声で言うと、隣にいた渚が「あー、そうだね。はいはい」と、興奮ぎみの葵に若干引きつつ落ち着かせようとした。
「今のでだいたいわかったと思うが、お前らのファンたちは男同士の恋模様を妄想することに生きがいを見出している人が多い。正直アイドル界では断トツだ」
断トツ。それはアイドルとしてはいいことなのだろうか…俺は夢を与えたり、魅せたりすることができていないんじゃないか、と1人脳内反省会をしようとしたところに、すばるくんがポンと肩に手を置いて「難しく考えなくていいと思うよ」と、輝くスマイルで慰めてくれた。
「それで、だ。そのSSRのカップリングのなかでも特に人気なのはすばると七瀬だ。すばナナが優勝。その次は、七瀬総受だな」
何!?総受ってなんだ!?聞いてみたいけど、なんか聞くのがすごく怖い。
「ねーねー、シンさん。そのナナすばってさー」と、葵が言いかけるとシンさんはクワッと目を見開いて「すばナナだ!迂闊な発言は戦争になるぞ!」と、すごい勢いで言った。
血走った目が怖い。
「ご、ごめん!シンさん…」と、葵がしょんぼりすると「もしかして、お盆とか年末にシンさん突然いなくなるのって…」と、渚はぼそっと意味深に呟いた。
「わかればいいんだ。迂闊な発言は命取りになるからな…気をつけろよ。それで、なんだ?質問か?」
コホン、とわざとらしく咳払いをしてシンさんは言うと葵は少し怯えながら口を開いた。
「その、すばナナ結婚ってファンの子たちが呟いてたのってもしかしてそういうこと?」
どういうこと?と、俺は頭の中に沢山のクエスチョンマークが浮かぶ。
「つまり、今回すばると七瀬がユニット結成して活動することがファンにとってすばると七瀬が結婚するってことだ」
ゴーン、とチャペルの荘厳な鐘が頭の中で鳴ったような気がした。
なんだろう、宇宙の世界だ…。
くらくらしそうな頭を手で抑えていると「大丈夫?」と、すばるくんが心配そうに言ってくれたので「大丈夫」と、コクンと頷いた。
「まあ、そういうわけでファンも喜ぶだろうし、単純に良い組み合わせだとも思ってこうなったわけだ。お前らの活躍期待してるからな」
シンさんがニカッと笑うとすばるくんと目を合わせて頷いてから「よろしくお願いします」と、頭を下げた。
それからシンさんが用意してくれていた夕食を軽い打ち上げがてら皆でわいわいと食べた。明日はオフということでお酒も飲ませてもらって、ツアーも無事に終わったのも相まって、楽しい宴となった。
帰りに何故か、さっきの本が入ったカバンを持って帰らされた。すごく重くて苦労したが、なんとか自分の部屋にちゃんと帰ることができて、疲れとお酒のせいかベッドに倒れ込むとそのまま寝てしまった。
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