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しおりを挟むキラキラとしたものが好きだった。
ラムネの瓶にキラキラ光るガラス玉
雨上がりの雫をのせた葉っぱ
母さんに連れて行ってもらったコンサートで目にしたのは、舞台で笑顔いっぱいで、歌って、踊るアイドルたち。
すごく輝いていて、ひどく惹かれた。
初めて憧れた。
なりたい、その世界に行きたい。
幼い心に焼き付けたその想いは、色あせずに今も胸にしっかりとある。
会場の電気が消え、きゃああああ!!!と、黄色い悲鳴が響く。
客席は、ペンライトのさまざまな光に埋め尽くされる。
音楽が鳴り、正面にある大きな画面にバンッと顔とローマ字で書かれた名前が映し出されると会場には一層大きくなった黄色い悲鳴が響いた。
『Nanase Ichikawa』
『Nagisa Kawakita』
『Aoi Sasaki』
『Subaru Aida』
1人ずつ順に映された後、スモークに4人の影が見えた。
シャアアア!!バンッ!!!と炎と花火そして、照明で同時に舞台が明るくなると、正面にある画面にアップで舞台のセンターにいる甘いマスクのまるで王子のような男が映し出された。
「罪なまでに甘い時間を君と」
声が響くと共に悲鳴にも似た声が客席から会場全体に響くと、音楽が鳴り、歌とダンスが始まる。
ワクワクとした興奮と緊張、でも何よりも楽しいという高揚感。
目の前に広がるサイリウムの光がまるで宇宙のようで、ふわふわと自分の体を浮かすような不思議な心地で、眩しすぎるほどの照明に照らされると今の時間だけは自分たちしかこの世界にいないのではないかと錯覚しそうになるほどくらくらする。
全力で自分を表現できる時間、キラキラとした世界を見せてくれる時間、大好きな時間。
汗がキラッと光に照らされるのが見えたその視線の先にいた、この世界で一番キラキラとしてるんじゃないかと思う人間と目が合う。
相田すばる
ファンには、王子様と呼ばれていてチャイドルいうデビュー前の時代から注目されていた。抜群の知名度を誇っていたすばるは、他のチャイドルたちとは別格として扱われていた。
そのすばるが満を持してデビューするため作られたグループが『sacredsugar』
ファンたちの間では『SSR』と呼ばれている4人組アイドルグループだ。
そして、俺『市川七瀬』は、そんなSSRのメンバーだ。
あの日、母さんに連れていってもらって知ったキラキラとした世界に憧れて、アイドルになることを夢みた俺は、審査を通ってチャイドルになることができた。
幼い頃から、バレエ、ジャズダンスを習っていた為にダンスレッスンは特に楽しくてしかたなかった。
ただ、言葉は頭の中では溢れているのに、口にするのが苦手で、その上愛想笑いも作り笑いもできない。
『市川七瀬は、無愛想』
俺はアイドルになれない、先輩や同期たちに散々言われた。
そんな中、一緒の日からチャイドルになった渚と葵は、そんな俺とも仲良くしてくれていつか一緒にアイドルになろうと励ましあった。
そして、出逢った。
先輩アイドルのコンサートにバックダンサーとして出演するのが決まって、レッスンがはじまったその日、すばるくんと初めて一緒にレッスンをすることになった。
誰よりもキラキラして、眩しかった。
眩しくて、目がくらみそうなくらいだった。
すごい、この人はもうアイドルだ。そう思った。
デビューはしていないものの、デビューしているアイドルたちに負けないほどの人気があり、雑誌で特集を組まれたり、時には先輩アイドルたちと一緒にテレビに出ることもあった。
そんなすごい先輩チャイドルがいることは知っていた。でも、目の前で動く彼の姿を見て初めて知った。
この人は特別だ、と。
今まで見た何よりもキラキラと輝いて、ひどく憧れた。
ずっと見ていたい、一緒に舞台に立ちたい、そう思った。
でも、無理だ。
すばるくんが光なら自分は影だ。
影は、一緒には舞台にはあがれない。
沈みそうになる気持ちで膝を抱えていると、声をかけられた。
「君、すごいね。あんなダンス、見たことない。すごく上手いね」
「えっ、あ…」
すばるくんだ。
ドキドキしすぎて言葉が出てこない。
ただ喋ってるだけなのに、眩しい。
顔を真っ赤にしてうつむくと、すばるは目を丸くしてからクスッと笑った。
「どんな子なのが知りたくて声かけちゃったけど、もしかして迷惑だった?」
すばるの言葉に、七瀬はぶんぶんと力いっぱい首を横に振った。
「嬉しいです、すばるくんと話ができるなんて思わなかった、から…」
モゴモゴと上目遣いで言うと、すばるはもう一度目を丸くしてから、ふにゃと笑った。
それからすばるは、七瀬の横に座ると休憩の間、ダンスを幼い頃からやっていることや、今回のダンスでどこが難しいなど楽しく話した。
途中「実は今まで見た誰よりもダンス上手いなって思ったんだ。先輩たちよりも、ね」と、内緒話をするように耳打ちして褒められた時は、心臓が止まるかと思った。
そして、一緒に舞台に立てるのが楽しみだと言ってもらった時には、最高に嬉しくて満面の笑みで頷いた。
それから一緒のレッスンの時は、自然と話していたし、一緒に舞台に立てるということが励みになって今まで以上に練習した。
そして、一緒に立った先輩のコンサートは大成功だった。
ただ、それからすばると七瀬はレッスン場で会うことはなかった。
片方は、すでに人気者。もう片方は、無名に近い新人だからだ。
それでも、また一緒の舞台に立てるかもしれない、と七瀬はそれを支えに一生懸命頑張った。
そして、俺が15歳になったある日、社長に呼ばれデビューすることが決まった。
夢にまでみたアイドルとしてのデビュー。
しかも、メンバーは渚、葵、そして驚くことにすばるも一緒だと聞いて、嬉しすぎて七瀬は倒れそうだった。
それからひたすらに頑張ってきて5周年。
今日は、ドームツアーのファイナル。
ヒートアップする歓声、熱気、こみ上げてくる感情をさらけ出すように歌もダンスも全てを全力でぶつけた。
アンコールがかかって、ツアーTシャツに着替えてから、人力だけど、ピカピカに電飾などがつけられた豪華なフロートに乗って、うちわのメッセージに反応してファンサービスをしたり、タオルでガシガシと渚に頭を拭かれたり、時折じゃれつきながらメドレーを歌ってドーム内をまわる。
メドレーを歌い終え、舞台の中央に戻り最後の曲を歌おうと、立ち位置に立つ。
すると、待っていたのは最後に歌うはずの曲のイントロではなく、画面にデカデカと『特報!』の、文字。
「えっ!?」
「なにこれサプライズ?」
「こんなの初めてじゃない?」
ザワザワとする会場と共に、SSRのメンバーも動揺が隠せない。
4人は顔を見合わせてから、画面を固唾をのんで見守った。
ダンッ、と音が鳴ると
『佐々木葵、大河ドラマ主演決定!!』
と、葵の顔と文字が映される。
「えっ!えっ!本当に…?ありがとうございます…っ」
葵は驚くと、ファンの方を向いて深々と礼をする。
「アオ!!すっごいじゃん!」「アオ良かったな」「葵おめでとう!」
と、メンバーが葵を取り囲むように肩を寄せ合って喜んでいると、客席からもおめでとうの葵コールが飛んでくる。
「ありがとう!ありがとうございます…っ」
と、もう一度と深々と礼をするとまたダンッ!と音が鳴った。
『河北渚、写真集発売!個展開催決定!』と、画面に渚の顔と文字が映される。
「えーっ!嘘!マジ!?」
可愛らしい顔が驚きいっぱいの表情になって、ぴょんぴょんと跳ねている。
メンバーは今度は渚に抱きつくと、黄色い歓声とおめでとう!の渚コールが祝福した。
「オレ、脱ぐのかなー!?」「そんなワクワクして言うことか…?」「脱げ脱げー!」「ナギ、良かったな」
と、メンバーが口々に喋っていると、またダンッと大きな音が響いた。
『相田すばる&市川七瀬ユニット結成!CDデビュー決定!!』
きゃああああ!!!!!と、ひときわ大きい黄色い歓声があがった。
ユニット?すばるくんと俺が?
驚いてすばるくんの方を見ると、すばるくんもこっちを見て固まっていた。
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