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番外編
番外編『告白①』
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その日は朝からツイてなかった。
牛乳をコップに入れたら一口分くらいしかなかったり、電車に乗ろうとしたら定期がきれていたり、体操服に着替えようと思ったら体操袋に体操服が入ってなかったり、お弁当を食べようとしたら弁当箱をひっくり返してしまった。
だけど、そんなことを忘れてしまうくらい嬉しい出来事があった。
あの“電車での出来事”以来疎遠になっていたブンが話しかけてくれたんだ。
あんなことに巻き込んでしまって、ドン引きされるのは当たり前だし、避けられても仕方ないって諦めてた。
でも、ブンが話しかけてくれた。
一緒に帰ろうって、なんなら遊ぼうって言ってくれて嬉しかった。
だから、オレは浮かれて、二つ返事で「オレの家で遊ぼ!」って誘ったんだ。
モモは進学校のせいかオレたちより帰ってくるのも遅いし、それに何より今日から両親が居ないから騒いでも大丈夫だし!
ブンも頷いてくれたから、久しぶりで少しぎこちないながらも二人で話しながら帰って、お菓子食べながらゲームしたりなんかして、今までみたいな関係に戻れたみたいで嬉しいなって浮かれてた。
浮かれてたんだよな~…
そう、浮かれてすっかり忘れてたんだ。
今日は朝からツイてなかったってことを。
✳✳✳✳✳✳
「…っ!なに、すんだよ…!外せよ!コレ!!!」
オレは今、ブンと遊んでいた自分の部屋ではなく、モモの部屋に居た。
正確に言うと、トイレで用を足した後に拉致され、後ろ手で拘束されている。
一瞬の出来事過ぎて、きちんと確認できていないが、手錠のようなものをつけられた。
手を動かすたびに、金属のチャリチャリという音が聞こえる。なんか、ちょっとふわふわしててこそばゆい気もするけど、気にするところはそこじゃない。
なんでオレは今こうしてモモの部屋にいるのか。問題はそこなのだ。
でも、なんとなく…なんとなくだけど、見当は…ついてなくも、ない。
「オレ、今友達が来てて…っ」
「知ってる」
モモは底から冷えるような冷たい声で、ピシャリと告げた。
抑揚もない、冷めた声に思わずゾクリと背中から震えた。
「じ、じゃあ、ふざけてないで外せよ…っ」
震えてしまいそうな声をなんとかいつも通りに聞こえるように努力する。
でも、オレの努力も虚しく、オレの言葉に苛だったのかさらにモモからの何とも言えない圧がかかり「ひっ、」と声が漏れ出てしまった。
こ、こえぇ…っ!!なんだよ、この状況…っ
「兄さん」
「な、なんだよ…」
よ、良かった…“千紘くん”呼びじゃない…!!
こんな状況だからもしかしたらまたエロいことさせられるのかと思って内心ヒヤヒヤしていたオレはこっそりと安心して胸をなでおろした。
せっかくブンと仲直りできたのに、またブンの前で痴態を晒すようなことになれば、それこそもう関係修復は出来ない気がする。
でも、まあ…こんな状況だし、完全に安心はできない。
「兄さん、あの人に言い寄られてるの?」
「ぶっ!!!!ちが…っ」
「じゃあ、なんで押し倒されてたの?」
「押し…っ、いや、あれは違う!誤解だ!!!」
そう、それはさっき起きたトラブルの話だ。
楽しく部屋でブンとオレは遊んでいた。
それで、昔好きだったアーティストの話になって「そのアルバムなら持ってる」って、盛り上がって、結構古いアルバムだったから上の棚に片付けてあって、それを無理矢理取ろうとしたらよろけて、ブンが支えてくれようとして、運悪く足元にあった本を踏んじゃって、バランスを崩して、まあ…二人して結局コケてしまった。オレにブンが重なる形で。
なんてない事故だった。
男女だったらそこから何かがはじまる可能性がないってこともない状況だけど、オレとブンにそんなことがはじまるわけもない。
頭打って、ちょっと痛かっただけ。
なのに、今日はとことんツイてないせいか運が悪いことに帰ってきたモモに目撃されて、人を目で殺せそうなくらいの目で見られてから、何でもなかったような笑顔で「ただいま」と、言われ、「おかえり」と言うとモモは何事もなかったように自分の部屋に帰って行った。
…めちゃくちゃ怖くてブルった。
それからブンとオレは、少しだけ気まずい時間もあった気がするけど、問題なくゲームをして遊んだ。
それで、なんやかんやあって、トイレに行きたくなって、トイレに行って、部屋に帰ろうとして拉致られたわけだ。
「まさか兄さんから誘ったの?」
「ばっ、誘うってなんだよ…っ」
「そのままの意味だけど?」
「あのな、あれは事故だっつうの!!」
「ふーん…」
全く納得していないであろう不機嫌が全面に出ている顔でモモ「そう」と、呟いた。
元々綺麗な顔をしているだけに、迫力がすごい。
厳つい人が凄むのとはまた別の恐ろしさみたいなものがあって、オレはビクビクとしてしまった。
エロいことは、まあ…してしまったりしてるわけだけど、モモとは当たり前だけど恋人ってわけじゃない兄弟って関係だから、万が一にもブンと何かがあったとしても、それを咎められる理由もないし、後ろめたいことなんて一つもないし、なんなら怒られているようなこの状況にオレが理不尽だと怒っていいはずだ。
いいはず、なんだけど…圧倒的な恐怖にオレは情けないことに萎縮してしまっている。
「えっと、だから…モモ」
「なに」
「これ、外せよ…」
「なんで」
「え?あ、え?なんでって…」
なんでってなんだよ。
一瞬オレがおかしなお願いをしてしまったように勘違いしそうになったが、いやいや…オレはどう考えてもおかしくない。
だって、後ろ手で弟に拘束されてるなんてどう考えてもおかしい。
だから、外して欲しいし、拘束なんてされてないことこそが正解だ。うん。
オレは少しドキドキしながらも、自分はおかしくないことを脳内会議で確認したので、深く息を吸って、吐き出してから、もう一度モモを見た。けど、やっぱり怖いな。コイツ…
「いや、誤解だってわかっただろ?てか!オレがもし本当に押し倒したり、押し倒されてたとしてもお前には関係ないだろ?オレだっていずれは、か、か、彼女だって!できる、はずだし、そうなったらエロいことももちろんするわけで…そうなったら、ぐっ、う゛!?」
「へえ」
苦しい苦しい苦しい苦しい!!!
勢いよく手を口に押し当てるように塞がれ、後ろにあったモモのベッドに頭を打ち付けられた。
幸いベッドは柔らかくて頭は全く痛くないが、手をぐぐぐぐ…っとまるで顔にめり込むようなくらい力を入れられ顎が痛い。ついでに言うと舌を噛みそうになった。
モモの感情の読めない瞳に飲まれ込みそうなくらい顔が近い。
恐怖が体の底から湧いてきて、うまく息ができない。
怖い、怖い、怖い…!
なんで、オレはこんな目に遭わないといけないんだ!?
なんか間違ったこと言ったか!?
「兄さんさ」
笑っていない瞳でモモは口元を歪ませて笑う。
それはいつも見るような、気持ちの悪い変態みたいな笑い顔じゃなくて、背筋が凍りそうな冷たい笑顔だった。
「彼女なんて、本気でできると思ってんの?」
「ゔぐっ!」
「ああ、ごめんね。口を塞いでたら話せないよね…あまりに聞きたくない言葉が聞こえてきたから…ごめんね?」
全く“ごめん”してるようには感じない調子でモモはそう言うと、オレに押し当てていた手を外した。
い、痛かった…。
ちょっとだけ泣いちゃったかもしんない…少しだけ涙の滲んだ目を誤魔化すようにグッと、一回目を閉じてから、ゆっくりと開けた。
相変わらず自分と血の分けた兄弟とは思えないくらいの綺麗な顔が目の前にあった。
いつもなら近すぎる!と、軽く距離を取るけど、後ろにはベッドがあるし、横にズレようにも結局壁があるし、モモの足が邪魔だし、どうにもなりそうにない。
あと、オレの言葉を待っているのか、食い入るように見てくるモモの目が怖い。
「…オレはお前みたいに顔がいいわけじゃないし、地味だし、なにやっても平凡ってゆうか普通だけど…彼女、できるかもしんないじゃん」
「兄さんは可愛いし、なにやっても可愛いし、結局可愛いけど、彼女できないよ」
「なっ…なんでお前にそんなこと言われなきゃ…」
「好きな子いるの?」
「い、いないけど…」
「じゃあなんで欲しいの?」
「え、なんでって…」
そりゃあ、彼女ってなんか憧れるし、いいニオイしそうだし、楽しそうだし、エロいことだってしたい…って、そんなこと言うのは恥ずかしい気がして口を噤むと、モモはフッと息を吐くように意地悪く笑う。
「兄さんは彼女とセックスとかできないよ」
「セッ…!って、え、オレ口に出して…」
「兄さんの考えてることくらいわかるよ」
「うぐ…」
まあ、確かに単純だけど。
でも、エロいことしたくない男なんていないだろ…?
誰に言い訳するわけでもないのに心の中でそう言うと、またモモは呆れたように鼻で笑った。
さっきまで怖い怖いって思ってたけど、今はなんかちょっと腹が立ってきた。
「…なんだよ」
「兄さんは彼女なんてできないし、彼女ができたとしてもセックスはできないよ、絶対」
「はあ!?」
「だって、抱けるの?抱かれることしか知らないのに」
「な…っ」
オレはモモの言葉にカッと体を熱くした。
彼女がいなかったわけだし、だから童貞でも仕方ない。それに、童貞を卒業するときは誰しもはじめてだ。初体験だ。
だから、はじめてに経験もクソもない。
それに、抱かれる経験はたしかに不本意ながらこの憎たらしい弟のせいで経験してしまっている…が、誰のせいだと思ってるんだ。その不必要な経験をしてしまったのは。
くっそ、マジでイライラしてきた。
「おま、お前のせいだろ!?お前が、お前がオレを…っ」
「抱いたね」
「だ、」
もうちょいオブラートに包んで言えよバカやろう!!!!
オレはそう言いたい気持ちとかなんか感情がぐちゃぐちゃになって、口だけをパクパクと動かしていると、モモの手がオレに伸びてきた。
牛乳をコップに入れたら一口分くらいしかなかったり、電車に乗ろうとしたら定期がきれていたり、体操服に着替えようと思ったら体操袋に体操服が入ってなかったり、お弁当を食べようとしたら弁当箱をひっくり返してしまった。
だけど、そんなことを忘れてしまうくらい嬉しい出来事があった。
あの“電車での出来事”以来疎遠になっていたブンが話しかけてくれたんだ。
あんなことに巻き込んでしまって、ドン引きされるのは当たり前だし、避けられても仕方ないって諦めてた。
でも、ブンが話しかけてくれた。
一緒に帰ろうって、なんなら遊ぼうって言ってくれて嬉しかった。
だから、オレは浮かれて、二つ返事で「オレの家で遊ぼ!」って誘ったんだ。
モモは進学校のせいかオレたちより帰ってくるのも遅いし、それに何より今日から両親が居ないから騒いでも大丈夫だし!
ブンも頷いてくれたから、久しぶりで少しぎこちないながらも二人で話しながら帰って、お菓子食べながらゲームしたりなんかして、今までみたいな関係に戻れたみたいで嬉しいなって浮かれてた。
浮かれてたんだよな~…
そう、浮かれてすっかり忘れてたんだ。
今日は朝からツイてなかったってことを。
✳✳✳✳✳✳
「…っ!なに、すんだよ…!外せよ!コレ!!!」
オレは今、ブンと遊んでいた自分の部屋ではなく、モモの部屋に居た。
正確に言うと、トイレで用を足した後に拉致され、後ろ手で拘束されている。
一瞬の出来事過ぎて、きちんと確認できていないが、手錠のようなものをつけられた。
手を動かすたびに、金属のチャリチャリという音が聞こえる。なんか、ちょっとふわふわしててこそばゆい気もするけど、気にするところはそこじゃない。
なんでオレは今こうしてモモの部屋にいるのか。問題はそこなのだ。
でも、なんとなく…なんとなくだけど、見当は…ついてなくも、ない。
「オレ、今友達が来てて…っ」
「知ってる」
モモは底から冷えるような冷たい声で、ピシャリと告げた。
抑揚もない、冷めた声に思わずゾクリと背中から震えた。
「じ、じゃあ、ふざけてないで外せよ…っ」
震えてしまいそうな声をなんとかいつも通りに聞こえるように努力する。
でも、オレの努力も虚しく、オレの言葉に苛だったのかさらにモモからの何とも言えない圧がかかり「ひっ、」と声が漏れ出てしまった。
こ、こえぇ…っ!!なんだよ、この状況…っ
「兄さん」
「な、なんだよ…」
よ、良かった…“千紘くん”呼びじゃない…!!
こんな状況だからもしかしたらまたエロいことさせられるのかと思って内心ヒヤヒヤしていたオレはこっそりと安心して胸をなでおろした。
せっかくブンと仲直りできたのに、またブンの前で痴態を晒すようなことになれば、それこそもう関係修復は出来ない気がする。
でも、まあ…こんな状況だし、完全に安心はできない。
「兄さん、あの人に言い寄られてるの?」
「ぶっ!!!!ちが…っ」
「じゃあ、なんで押し倒されてたの?」
「押し…っ、いや、あれは違う!誤解だ!!!」
そう、それはさっき起きたトラブルの話だ。
楽しく部屋でブンとオレは遊んでいた。
それで、昔好きだったアーティストの話になって「そのアルバムなら持ってる」って、盛り上がって、結構古いアルバムだったから上の棚に片付けてあって、それを無理矢理取ろうとしたらよろけて、ブンが支えてくれようとして、運悪く足元にあった本を踏んじゃって、バランスを崩して、まあ…二人して結局コケてしまった。オレにブンが重なる形で。
なんてない事故だった。
男女だったらそこから何かがはじまる可能性がないってこともない状況だけど、オレとブンにそんなことがはじまるわけもない。
頭打って、ちょっと痛かっただけ。
なのに、今日はとことんツイてないせいか運が悪いことに帰ってきたモモに目撃されて、人を目で殺せそうなくらいの目で見られてから、何でもなかったような笑顔で「ただいま」と、言われ、「おかえり」と言うとモモは何事もなかったように自分の部屋に帰って行った。
…めちゃくちゃ怖くてブルった。
それからブンとオレは、少しだけ気まずい時間もあった気がするけど、問題なくゲームをして遊んだ。
それで、なんやかんやあって、トイレに行きたくなって、トイレに行って、部屋に帰ろうとして拉致られたわけだ。
「まさか兄さんから誘ったの?」
「ばっ、誘うってなんだよ…っ」
「そのままの意味だけど?」
「あのな、あれは事故だっつうの!!」
「ふーん…」
全く納得していないであろう不機嫌が全面に出ている顔でモモ「そう」と、呟いた。
元々綺麗な顔をしているだけに、迫力がすごい。
厳つい人が凄むのとはまた別の恐ろしさみたいなものがあって、オレはビクビクとしてしまった。
エロいことは、まあ…してしまったりしてるわけだけど、モモとは当たり前だけど恋人ってわけじゃない兄弟って関係だから、万が一にもブンと何かがあったとしても、それを咎められる理由もないし、後ろめたいことなんて一つもないし、なんなら怒られているようなこの状況にオレが理不尽だと怒っていいはずだ。
いいはず、なんだけど…圧倒的な恐怖にオレは情けないことに萎縮してしまっている。
「えっと、だから…モモ」
「なに」
「これ、外せよ…」
「なんで」
「え?あ、え?なんでって…」
なんでってなんだよ。
一瞬オレがおかしなお願いをしてしまったように勘違いしそうになったが、いやいや…オレはどう考えてもおかしくない。
だって、後ろ手で弟に拘束されてるなんてどう考えてもおかしい。
だから、外して欲しいし、拘束なんてされてないことこそが正解だ。うん。
オレは少しドキドキしながらも、自分はおかしくないことを脳内会議で確認したので、深く息を吸って、吐き出してから、もう一度モモを見た。けど、やっぱり怖いな。コイツ…
「いや、誤解だってわかっただろ?てか!オレがもし本当に押し倒したり、押し倒されてたとしてもお前には関係ないだろ?オレだっていずれは、か、か、彼女だって!できる、はずだし、そうなったらエロいことももちろんするわけで…そうなったら、ぐっ、う゛!?」
「へえ」
苦しい苦しい苦しい苦しい!!!
勢いよく手を口に押し当てるように塞がれ、後ろにあったモモのベッドに頭を打ち付けられた。
幸いベッドは柔らかくて頭は全く痛くないが、手をぐぐぐぐ…っとまるで顔にめり込むようなくらい力を入れられ顎が痛い。ついでに言うと舌を噛みそうになった。
モモの感情の読めない瞳に飲まれ込みそうなくらい顔が近い。
恐怖が体の底から湧いてきて、うまく息ができない。
怖い、怖い、怖い…!
なんで、オレはこんな目に遭わないといけないんだ!?
なんか間違ったこと言ったか!?
「兄さんさ」
笑っていない瞳でモモは口元を歪ませて笑う。
それはいつも見るような、気持ちの悪い変態みたいな笑い顔じゃなくて、背筋が凍りそうな冷たい笑顔だった。
「彼女なんて、本気でできると思ってんの?」
「ゔぐっ!」
「ああ、ごめんね。口を塞いでたら話せないよね…あまりに聞きたくない言葉が聞こえてきたから…ごめんね?」
全く“ごめん”してるようには感じない調子でモモはそう言うと、オレに押し当てていた手を外した。
い、痛かった…。
ちょっとだけ泣いちゃったかもしんない…少しだけ涙の滲んだ目を誤魔化すようにグッと、一回目を閉じてから、ゆっくりと開けた。
相変わらず自分と血の分けた兄弟とは思えないくらいの綺麗な顔が目の前にあった。
いつもなら近すぎる!と、軽く距離を取るけど、後ろにはベッドがあるし、横にズレようにも結局壁があるし、モモの足が邪魔だし、どうにもなりそうにない。
あと、オレの言葉を待っているのか、食い入るように見てくるモモの目が怖い。
「…オレはお前みたいに顔がいいわけじゃないし、地味だし、なにやっても平凡ってゆうか普通だけど…彼女、できるかもしんないじゃん」
「兄さんは可愛いし、なにやっても可愛いし、結局可愛いけど、彼女できないよ」
「なっ…なんでお前にそんなこと言われなきゃ…」
「好きな子いるの?」
「い、いないけど…」
「じゃあなんで欲しいの?」
「え、なんでって…」
そりゃあ、彼女ってなんか憧れるし、いいニオイしそうだし、楽しそうだし、エロいことだってしたい…って、そんなこと言うのは恥ずかしい気がして口を噤むと、モモはフッと息を吐くように意地悪く笑う。
「兄さんは彼女とセックスとかできないよ」
「セッ…!って、え、オレ口に出して…」
「兄さんの考えてることくらいわかるよ」
「うぐ…」
まあ、確かに単純だけど。
でも、エロいことしたくない男なんていないだろ…?
誰に言い訳するわけでもないのに心の中でそう言うと、またモモは呆れたように鼻で笑った。
さっきまで怖い怖いって思ってたけど、今はなんかちょっと腹が立ってきた。
「…なんだよ」
「兄さんは彼女なんてできないし、彼女ができたとしてもセックスはできないよ、絶対」
「はあ!?」
「だって、抱けるの?抱かれることしか知らないのに」
「な…っ」
オレはモモの言葉にカッと体を熱くした。
彼女がいなかったわけだし、だから童貞でも仕方ない。それに、童貞を卒業するときは誰しもはじめてだ。初体験だ。
だから、はじめてに経験もクソもない。
それに、抱かれる経験はたしかに不本意ながらこの憎たらしい弟のせいで経験してしまっている…が、誰のせいだと思ってるんだ。その不必要な経験をしてしまったのは。
くっそ、マジでイライラしてきた。
「おま、お前のせいだろ!?お前が、お前がオレを…っ」
「抱いたね」
「だ、」
もうちょいオブラートに包んで言えよバカやろう!!!!
オレはそう言いたい気持ちとかなんか感情がぐちゃぐちゃになって、口だけをパクパクと動かしていると、モモの手がオレに伸びてきた。
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