死刑囚だった俺は異世界転生しても主人公ではなかったので裏社会で成り上がる

第二章【少年期・旅立ち編】

疑心暗鬼

「……っ！？」

「くそっ…」


覗き込んだ部屋の中にそれはあった、一目で分かる寝間着を着ている仰向けの死体。
その死体の腹部は大きく切り裂かれ、中の内臓が引き摺り出されて部屋に敷き詰められている絨毯の上にばら撒かれていた。

部屋の中は天井までも飛び散った血が付着して絨毯は赤く染まり、凄惨な現場となっていた。


「うっ……」

部屋の中の凄惨な光景に思考が停止して一瞬凍りついてしまうが、部屋の中から漂う強烈な刺激臭によって我に返り、其処でようやく気付いた。
家の中に充満していた臭いの元が、絨毯の上にばら撒かれていた糞尿よりも刺激の強い内臓から漂っていた事に。


「婆ちゃん！」

「……」


そして部屋の中に入るのを躊躇っていた俺とは違い、ルーカスは凄惨な光景が広がる部屋の中をお構いなしに進み、その死体の傍まで駆け寄ると両膝をついて死体を抱き抱えた。


「えっ。クレア？」

ルーカスが抱き抱えたその死体の顔が目に入ると、思わず目を疑ってしまった。
その顔はどう見ても家のメイド長だったクレアでありシヴァの奥さん、そしてルーカスの祖母にあたる人物であった。

――長年家の屋敷に勤めてくれていて幼い頃から知っている人物なので見間違える訳がないし、ルーカスの言動を見ても疑う余地がない。

死体がクレアである事が分かった俺は居ても立っても居られずに慌てて部屋の中に入り、両膝をついているルーカスの傍に近寄って抱き抱えている死体を改めてよく確認した。


「ど、どうして…誰が殺ったんだ。…ルーカスは何か知ってるの？」

ルーカスに抱き抱えられ、その胸の中で息絶えているクレアは腹部の凄惨さとは打って変わり目を瞑って眠っているかの様な穏やかな表情のまま固まっていた。


「……っ。あぁ、爺ちゃんだ…」

「…えっ。はっ？――…じ、爺ちゃんって…シヴァの事？」

「……そうだ。爺ちゃんが…婆ちゃんを殺したんだ」

「…ま、待ってよ。じょ、冗談でしょ？意味が分からないよ!?」


――何を言っているんだと思わず声を荒げてしまった。するとルーカスは怒った顔で此方に振り返り、俺を睨みつける。


「こんな事を冗談で言うか馬鹿野郎！…俺は見たんだよ、昨日の夜…」

「……何があったの…？」

「…昨日、爺ちゃんに俺の代わりにお前の護衛を頼んだ件のお礼を言おうと夜にこの家に来たら、爺ちゃんが婆ちゃんに襲いかかってて…止めようとしたら爺ちゃんにあっという間に気絶させられちまったんだ…そしてお前に叩き起こされて目が覚めたら、こうなってた訳だ。それで爺ちゃん以外に誰が犯人だって言うんだ？」

「……」


ルーカスは複雑な表情で俺に問い掛ける。――シヴァがそんな事をするなんて信じたくないが、それに対するを明白な答えを持たない俺は黙って目を逸らす事しか出来なかった。