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第一章【幼少編】

鉄槌

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「――ぎゃあああっ!!な、何しやがるんだ!」

「…おいおいおい。避けんなよおっさん、うっかり狙いが狂っちまったじゃねぇか」

「……」


見るとルーカスが懐に隠し持っていた短剣を取り出して、それでロックの右手の手首から先を斬り落としていた。ロックは残った左手を使って、右手の手首から床に敷かれていた絨毯の上に溢れ出る出血を必死の形相で押さえている。
…殺す前に痛め付ける為にわざと狙いを外したのでないだろうか?――ルーカスは額に青筋を浮かべながら、一片の慈悲もない容赦ない鉄槌を加えている様であった。


「ひ、ひぃ!ぼ、坊ちゃん。こ、これは問題に為りますぜ!早くこの男を止めてくだせぃ!」

ロックはその光景を直ぐ傍で見ていた俺の方を見ながら、涙目で懇願して来た。


「えっ。なんで?」

「な、なんでって…俺がこの件をボスに報告したら、ボスの息子でもどうなるか分かりませんぜ!――この男は勿論殺されるでしょうがね!」

「…へぇ。で、どうやって報告するの?お前は此処で死ぬのに」


しかしロックそれの懇願など全く心に響かず、冷たく突き放した。


「……ほ、本気、じゃあ…無いですよね?」

「いや。誠心誠意本気だよ。お前はエマの人生に害にしか為らないし」

「…だ、だったら坊ちゃんにそいつはあげますんで!良く仕込んでるんで、きっと坊ちゃんもよろこ――…が、はっ……

「耳が腐る。…っと悪いなレイ、話しの途中で」

「…ううん。ありがとう」


ロックの背後から、その頭部にルーカスは持っていた短剣を勢い良く突き刺した。鋭い刃先の短剣はロックの頭部に深くめり込みルーカスが短剣を引き抜くと、傷口からドロッとした中身が零れ落ちながらロックは白目を剥いて床に崩れ去った。
人が目の前で殺されたのに全く感情が揺り動かされないその光景を見た後に、俺はきちんと礼を述べながらルーカスを見上げる。


「んっ。どうした?」

「…うん。あのさ、魔法で人の記憶って消せたり…する?その…エマがそいつにされてた事をさ…」

「……悪いなレイ。魔法は万能だが、魔法使いはそれぞれ得手不得手があって万能じゃないんだ。そう言う人の脳に部分的に干渉するのは専門的な魔法使いじゃないと危険が大きい…下手したら殺しちまう。どうでも良い奴ならいざ知らず…お前の大切な者を殺したくないし、俺自身も子供を殺す様な事をしたくない」

「そっか…」

「まぁ。でも俺なら…ついさっきの事だし、大雑把に俺達が来た記憶を全て消す事なら自信を持って大丈夫って言えるが…消しとくか?」

「うん。…お願い。それだったらこいつは強盗にでも殺された様に見せかけよう、その方が都合が良いし」

「分かった」


…魔法ならばエマが父親から受けていた悍ましい出来事を記憶から消してあげる事が出来るのではないか。と一縷の望みを抱いたが、あっけなくその望みは消え去った。
――魔法は万能だが魔法使いは万能ではない。…彼のそんな言葉を深く噛み締めながら、俺はこの出来事を強盗の仕業に見せかけるべくルーカスと共に動き出した。

先ずはルーカスがエマの記憶から俺達が来た記憶を消去した後、俺は何回かこの家を訪れた事があるので一先ず意識の無い彼女を上の階の自室に運んだ後に、あまり裸を見ないように彼女の身体を綺麗に拭いてベッドに寝かせ、そして再び一階に降りてルーカスと一緒に一階を適当に荒らしまくった。
物取りの強盗犯の仕業に見せかける為であり、タンスや机の引き出しをひっくり返したりと中々忙しいものである。

そしてもう十分だろうと判断した俺達は最後にとある細工をした後に、これ以上の長居は無用なのでエマの家を後にしたのであった。
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