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第一章【幼少編】
怒り
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「……」
背負っていたリュックサックを淡々とその場に降ろし、チャックを開けて中からそれを取り出す。
取り出して自分の手に持ったのは重みのある鉄の塊、拳銃に酷似した物体。
――それはこの世界では魔砲と呼ばれている魔法使いにしか作る事の出来ない高価な武器であり、様々な種類がある中で自分の小さな手でも扱える小型の魔砲を商会から受け取っていた。
その仕組みは銃より単純であり、火薬などは必要としていない為に撃鉄などの装置は付いておらず、特殊な弾薬を装着して引き金を引けば弾丸が発射され、そのカートリッジは既に魔砲に装着済みである。
昨晩店主が実演で見せてくれたので、使った事はないがその威力は分かっていた。
「…」
そして右手の人差し指を引き金に添えて、何時でも弾丸を発射出来る状態にした魔砲をベッドの上で固まっているロックの方に向けた。
「そりゃあ…どう言うつもりですかい坊ちゃん?悪ふざけも度が過ぎますぜ」
ロックは職業柄魔砲は当然知っている反応でそれを自分に向けている俺を睨む様に、やや怒気の籠った口調となっている。
――だが、そんな事は知った事ではない。俺は躊躇う事もなくその引き金を引こうとした…が。
「――ま、待って下さいレイ様!」
「っ。…其処を退いてエマ」
実の父に悍ましい事をされていたであろう跡の残る裸のままで、エマはベッドの上から飛び降りて俺とベッドの上に居るロックの間に割って入る。
「ち、違うんですレイ様。お父さんは寂しかっただけなんです…少し前にお母さんが家を出て行って…それで…その…お母さんの代わりをしろって……あ、あれっ…」
「……っ…ごめん。ごめんねエマ…」
――エマの瞳からは涙が溢れ出しており、エマ自身がその涙に困惑している様であった。そんなエマの様子を見て堪らなく自分自身も涙が出てしまった。
一番傍に居たのに何も気付いていなかった自分自身の無能さに。そして肉体的、性的な虐待を加えられて尚その元凶を庇ってしまうエマを想って。
「…もう良い。もう良いんだエマ。…君はこんな所に居ちゃ行けない」
「レ、レイ様…で、でも私…」
自身の涙を手の甲で拭って持っている魔砲を着ている服のポケットにしまい、割って入って来たエマに近寄りそっと抱き締める。抱き締めたエマは硬直したまま溢れ出る涙で言葉が詰まってしまっていた。
「…勝手な事言って貰っちゃ困りますよ坊ちゃん。それは俺の娘でどう扱おうが俺の自由、いくらボスの子供だからって好き放題出来る訳ではありませんぜ。…そもそもこんな夜中に勝手に家に侵入して来るなんて問題ですぜ」
「っ!」
険しい表情をしたロックがベッドの上から降り、醜く肥えた腹を揺らしながらエマと俺を引き離そうとして来たので俺はエマを抱き締めたまま距離を取ろうとした。
「――其処までだおっさん。二人には指一本触れるな」
「…あぁっ?」
するとその時、今まで黙っていたルーカスがようやく口を開き、俺達とロックの間に立ち塞がってくれた。
「…レイ。どうする?この件の発起はお前だから、どうするかはお前の判断に任せる」
「……」
彼は怒っている様であった。俺達には背中を向けているので表情は窺い知れないが、背中越しでも伝わって来る程の、味方である事は分かり切っているのにそれでも思わず背筋が寒くなってしまう程のとてつもない怒り。
「――…殺して」
「ははっ。…良いね。了解」
「っ!ま、待って…」
「…君は少し眠ってて」
「っつ……」
俺は魔砲をしまったポケットとは反対のポケットからロックの意識を奪う為に持って来ていた道具を取り出し、それを抱き締めていたエマに打ち込む。
その瞬間エマはガクッと力なく俺に凭れ掛かる様に意識を失い、俺はそれを支えながら壁際で彼女を降ろした後に自分の上着を脱いで彼女の裸を隠す。
そしてロックとルーカスの方に向き直った。
背負っていたリュックサックを淡々とその場に降ろし、チャックを開けて中からそれを取り出す。
取り出して自分の手に持ったのは重みのある鉄の塊、拳銃に酷似した物体。
――それはこの世界では魔砲と呼ばれている魔法使いにしか作る事の出来ない高価な武器であり、様々な種類がある中で自分の小さな手でも扱える小型の魔砲を商会から受け取っていた。
その仕組みは銃より単純であり、火薬などは必要としていない為に撃鉄などの装置は付いておらず、特殊な弾薬を装着して引き金を引けば弾丸が発射され、そのカートリッジは既に魔砲に装着済みである。
昨晩店主が実演で見せてくれたので、使った事はないがその威力は分かっていた。
「…」
そして右手の人差し指を引き金に添えて、何時でも弾丸を発射出来る状態にした魔砲をベッドの上で固まっているロックの方に向けた。
「そりゃあ…どう言うつもりですかい坊ちゃん?悪ふざけも度が過ぎますぜ」
ロックは職業柄魔砲は当然知っている反応でそれを自分に向けている俺を睨む様に、やや怒気の籠った口調となっている。
――だが、そんな事は知った事ではない。俺は躊躇う事もなくその引き金を引こうとした…が。
「――ま、待って下さいレイ様!」
「っ。…其処を退いてエマ」
実の父に悍ましい事をされていたであろう跡の残る裸のままで、エマはベッドの上から飛び降りて俺とベッドの上に居るロックの間に割って入る。
「ち、違うんですレイ様。お父さんは寂しかっただけなんです…少し前にお母さんが家を出て行って…それで…その…お母さんの代わりをしろって……あ、あれっ…」
「……っ…ごめん。ごめんねエマ…」
――エマの瞳からは涙が溢れ出しており、エマ自身がその涙に困惑している様であった。そんなエマの様子を見て堪らなく自分自身も涙が出てしまった。
一番傍に居たのに何も気付いていなかった自分自身の無能さに。そして肉体的、性的な虐待を加えられて尚その元凶を庇ってしまうエマを想って。
「…もう良い。もう良いんだエマ。…君はこんな所に居ちゃ行けない」
「レ、レイ様…で、でも私…」
自身の涙を手の甲で拭って持っている魔砲を着ている服のポケットにしまい、割って入って来たエマに近寄りそっと抱き締める。抱き締めたエマは硬直したまま溢れ出る涙で言葉が詰まってしまっていた。
「…勝手な事言って貰っちゃ困りますよ坊ちゃん。それは俺の娘でどう扱おうが俺の自由、いくらボスの子供だからって好き放題出来る訳ではありませんぜ。…そもそもこんな夜中に勝手に家に侵入して来るなんて問題ですぜ」
「っ!」
険しい表情をしたロックがベッドの上から降り、醜く肥えた腹を揺らしながらエマと俺を引き離そうとして来たので俺はエマを抱き締めたまま距離を取ろうとした。
「――其処までだおっさん。二人には指一本触れるな」
「…あぁっ?」
するとその時、今まで黙っていたルーカスがようやく口を開き、俺達とロックの間に立ち塞がってくれた。
「…レイ。どうする?この件の発起はお前だから、どうするかはお前の判断に任せる」
「……」
彼は怒っている様であった。俺達には背中を向けているので表情は窺い知れないが、背中越しでも伝わって来る程の、味方である事は分かり切っているのにそれでも思わず背筋が寒くなってしまう程のとてつもない怒り。
「――…殺して」
「ははっ。…良いね。了解」
「っ!ま、待って…」
「…君は少し眠ってて」
「っつ……」
俺は魔砲をしまったポケットとは反対のポケットからロックの意識を奪う為に持って来ていた道具を取り出し、それを抱き締めていたエマに打ち込む。
その瞬間エマはガクッと力なく俺に凭れ掛かる様に意識を失い、俺はそれを支えながら壁際で彼女を降ろした後に自分の上着を脱いで彼女の裸を隠す。
そしてロックとルーカスの方に向き直った。
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