死刑囚だった俺は異世界転生しても主人公ではなかったので裏社会で成り上がる

第一章【幼少編】

目には目を、歯には歯を④

「――‘初めまして’ルーカスさん。俺はレイでこっちがエマって言います」

「…は、初めまして！」


部屋に入って来たルーカスは昨晩会った時と同じ様にフード付きの黒いローブを身に纏っていた。そんな彼に打ち合わせ通りに初対面を装って挨拶をする。
そして正真正銘ルーカスと初対面である隣のエマは、声が裏返りながらも同じ様にルーカスに挨拶をした。


「おぉ。‘初めまして’俺はルーカス、知ってると思うけど爺ちゃんから言われて暫くの間、この家の跡継ぎの護衛を頼まれたんだけど。えぇっと…レイとエマって呼んで良いか？堅苦しいのは苦手でね。勿論そっちも気楽に接してくれ」

「えぇ。良いですよ」

「わ、私も…だ、大丈夫です」

「良し、決まりだな。二人とも宜しく」


向こうもきちんと初対面を装ってくれており、昨日会って打ち解けていた俺だけではなく、年下だからと上から目線な態度を全く取る事もなくエマとも同じ目線で接して握手を交わしてくれた。


「…君がエマか、君の話はレイの次くらいに爺ちゃんから良く聞いてるよ。跡継ぎさん…レイのとても可愛いガールフレンドだって」

「えっ…ち、ち、違います！そんな事、恐れ多いです。私は…私はただのレイ様の従者です」

「ふーん。そうなのか？…まっ、二人の関係にあーだこーだと口を挟む気はないから別に何でも良いけど…その左目辺りの腫れ凄く痛そうだけど…どうしたんだ？」

「……あ、えっ、その…」


エマと握手を交わした際にルーカスはエマの左目付近に出来ている怪我に気付いて訊ねる。事情を知っている者からしたら無神経な質問であるが、彼は何も事情を知らないので仕方がない。
そして質問されたエマは俺にも最初は言えなかった事を会ったばかりの者に言える訳がなく、明らかに動揺して答えに詰まってしまっており、無意識なのか手を伸ばして隣に立っている俺の服の裾を掴んでしまっていた。


「…あぁ。えーっと、エマの怪我は色々と事情があってね。それ以上はまぁ…察して欲しいな」

「おっと…そうか。いや済まないな。気になった事はずかずかと言っちまう性格なんだ。謝るよエマ」

「あ、えっ。べ、別に大丈夫…です。――ってあぁっ！す、済みませんレイ様」


服の裾を引っ張られている俺は助け船を出し、ルーカスに目線でそれとなく伝えるとそれが伝わってくれたのかルーカスは素直に謝ってくれた。
エマはその謝罪を謝られている側なのに何故か申し訳なさそうに受け取り、そして俺の服の裾を引っ張っていた事に気付くと慌てて離したのであった。