上 下
17 / 60
第一章【幼少編】

目には目を、歯には歯を①

しおりを挟む



「――レイ様。朝ですよ」

「…ふぁーっ。ん、おはよう…」


誰かに身体を揺らされ目を覚ました。自室の窓からは眩しい朝日が差し込んでおり、目を擦って身体をベッドから起こすとベッドから少し離れた場所にいつも朝に起こしに来てくれているエマが立っていた。


「まだ凄く眠たそうですね。やっぱり色々と考えていて、あまり寝付けなかったのですか?」

「んー…いや、そんな事はないよ。…昨日はそう、夜遅くまで家族で色々と話し合いをしてたんだ」

「そうなのですか。それはお疲れ様です」


―――昨晩の事は特にエマに言うつもりはない。しかし夜遅くまで店で品物を色々と見て回ったせいで帰って来てから寝る時間が全く足りていないのか物凄く眠気がする。そんな俺の普段とは違う細かい様子もエマには気付かれており、昨日の件と結び付けてそれで俺が眠れなかったと思っているようだ。

俺は適当に話を作って誤魔化すと欠伸を噛み殺しながら箪笥の前まで行き、箪笥から着替えを取り出して寝間着から着替える。


「部屋の前に朝ご飯用意されているので、いつも通りに机に運びますね」

「うん。お願い」


その間にエマが部屋の前に用意されていた朝飯を机まで運んでくれたので、俺は着替えが終わると椅子に座って用意されていた冷めきった朝飯を食べた。


「…ごちそうさまでした。…あの、エマ?」

「はい」

「なんでそんな離れてるの?」

「あっ…えっ、えっと…」


飯を食べ終えた俺は朝飯を食べている間抱いていた違和感のもとの少し離れた場所に立っているエマの方に振り返った。いつもはエマが傍で話し相手になってくれながら朝飯を食べていたのだが、何故か今日は離れて廊下側の壁際に立ちながら遠くを見てずっと黙ったままだった。そんなエマは俺の問いに言葉を詰まらせ何故か狼狽えている。


「…?」

「…」


自分で食器を部屋の外に設置されている棚に置いた後、俺はエマの傍に近寄ろうとするとエマは俺から視線を逸らして床に顔を向けた。


「…エマ」

「…」


俯くエマの傍まで近寄ると何となく原因が分かった。エマの瞼を覆い隠すまで伸びきっている髪の毛のせいでぱっと見では分からなかったのだが、良く見ると目が開けられない程左目付近が大きく腫れ上がっており充血して痣となっている。それを普通の人が見たらどういう状況でなったのか話を聞かないと確実な事は分からないだろうと思うが、前の人生で子供の頃に散々暴力を振るわれていた俺には良く分かる。


「…またお父さんだね?」

「…」

「お願いエマ。俺には正直に言って欲しい」

「…はい」

「じゃあ、もう一回聞くよ。その左目の痣はお父さんのせいだよね?」

「…そうです。で、でもレイ様。私が悪いんです、昨日お父さんに少し反抗的な態度を取ってしまったので、お父さんいつも大変なのに私が怒らせてしまって殴られてしまっただけなんです」


間違いなくエマのその大きな痣は誰かに暴力を振るわれて出来た傷であり、思い当たる人物は一人しか居ない。彼女を問い詰めるとようやく口を開くが、傷ついている度に同じような事を言っており典型的な虐待されている子供の言い分しか言っていなかった。


「…」

見ていて痛々しい。…このまま虐待がエスカレートしていったら止める人間が居ないエマの行き着く先は虐待死である事は最早疑いの余地がない。俺の中には黒い感情が芽生える。

前の人生では俺は親父の暴力から最終的には母によって助けられた、けどエマの母さんの話はあまり聞かないが此処まで放っているのだからどういう理由があるにせよ役に立っていないのは明白。

――なら俺が動くしかない。エマが取り返しのつかない事態に陥る前に、俺は確実にこの子を守る為に動こう。法だモラルだなんてどうでも良い。…この世界は正義がなくとも生きていけるが、悪意があれば長生き出来るのだから。

それに人生を一度理不尽に奪われた今の俺は手を汚す事に対して何の躊躇いもない。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

記憶喪失になった嫌われ悪女は心を入れ替える事にした 

結城芙由奈@12/27電子書籍配信中
ファンタジー
池で溺れて死にかけた私は意識を取り戻した時、全ての記憶を失っていた。それと同時に自分が周囲の人々から陰で悪女と呼ばれ、嫌われている事を知る。どうせ記憶喪失になったなら今から心を入れ替えて生きていこう。そして私はさらに衝撃の事実を知る事になる―。

幼い公女様は愛されたいと願うのやめました。~態度を変えた途端、家族が溺愛してくるのはなぜですか?~

朱色の谷
ファンタジー
公爵家の末娘として生まれた6歳のティアナ お屋敷で働いている使用人に虐げられ『公爵家の汚点』と呼ばれる始末。 お父様やお兄様は私に関心がないみたい。愛されたいと願い、愛想よく振る舞っていたが一向に興味を示してくれない… そんな中、夢の中の本を読むと、、、

ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活

天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――

システムバグで輪廻の輪から外れましたが、便利グッズ詰め合わせ付きで他の星に転生しました。

大国 鹿児
ファンタジー
輪廻転生のシステムのバグで輪廻の輪から外れちゃった! でも神様から便利なチートグッズ(笑)の詰め合わせをもらって、 他の星に転生しました!特に使命も無いなら自由気ままに生きてみよう! 主人公はチート無双するのか!? それともハーレムか!? はたまた、壮大なファンタジーが始まるのか!? いえ、実は単なる趣味全開の主人公です。 色々な秘密がだんだん明らかになりますので、ゆっくりとお楽しみください。 *** 作品について *** この作品は、真面目なチート物ではありません。 コメディーやギャグ要素やネタの多い作品となっております 重厚な世界観や派手な戦闘描写、ざまあ展開などをお求めの方は、 この作品をスルーして下さい。 *カクヨム様,小説家になろう様でも、別PNで先行して投稿しております。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

疲れきった退職前女教師がある日突然、異世界のどうしようもない貴族令嬢に転生。こっちの世界でも子供たちの幸せは第一優先です!

ミミリン
恋愛
小学校教師として長年勤めた独身の皐月(さつき)。 退職間近で突然異世界に転生してしまった。転生先では醜いどうしようもない貴族令嬢リリア・アルバになっていた! 私を陥れようとする兄から逃れ、 不器用な大人たちに助けられ、少しずつ現世とのギャップを埋め合わせる。 逃れた先で出会った訳ありの美青年は何かとからかってくるけど、気がついたら成長して私を支えてくれる大切な男性になっていた。こ、これは恋? 異世界で繰り広げられるそれぞれの奮闘ストーリー。 この世界で新たに自分の人生を切り開けるか!?

毒を盛られて生死を彷徨い前世の記憶を取り戻しました。小説の悪役令嬢などやってられません。

克全
ファンタジー
公爵令嬢エマは、アバコーン王国の王太子チャーリーの婚約者だった。だがステュワート教団の孤児院で性技を仕込まれたイザベラに籠絡されていた。王太子達に無実の罪をなすりつけられエマは、修道院に送られた。王太子達は執拗で、本来なら侯爵一族とは認められない妾腹の叔父を操り、父親と母嫌を殺させ公爵家を乗っ取ってしまった。母の父親であるブラウン侯爵が最後まで護ろうとしてくれるも、王国とステュワート教団が協力し、イザベラが直接新種の空気感染する毒薬まで使った事で、毒殺されそうになった。だがこれをきっかけに、異世界で暴漢に腹を刺された女性、美咲の魂が憑依同居する事になった。その女性の話しでは、自分の住んでいる世界の話が、異世界では小説になって多くの人が知っているという。エマと美咲は協力して王国と教団に復讐する事にした。

絞首刑まっしぐらの『醜い悪役令嬢』が『美しい聖女』と呼ばれるようになるまでの24時間

夕景あき
ファンタジー
ガリガリに痩せて肌も髪もボロボロの『醜い悪役令嬢』と呼ばれたオリビアは、ある日婚約者であるトムス王子と義妹のアイラの会話を聞いてしまう。義妹はオリビアが放火犯だとトムス王子に訴え、トムス王子はそれを信じオリビアを明日の卒業パーティーで断罪して婚約破棄するという。 卒業パーティーまで、残り時間は24時間!! 果たしてオリビアは放火犯の冤罪で断罪され絞首刑となる運命から、逃れることが出来るのか!?

処理中です...