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第一章【幼少編】

夜の街へ

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――



「んー…ってもう夜か。もう遅いしまた明日にしようか」

「…分かりました。それでは今日の処は失礼致しますね」

「うん。ばいばい、また明日」


それから色々な話しをしているといつの間にか日が完全に沈み快晴だった空には満天の星が散らばっている、俺は部屋の窓からそれを確認するといつまでもエマを留めて置くわけには行かないので今日の処は取り敢えず解散を提案した。
その提案をエマは了解して椅子から立ち上がり俺に別れの挨拶をすると、部屋のドアのカギを開けて出て行く時に此方に向かって小さく一礼をしてからドアを閉めて立ち去って行った。


「…さて」

エマが出て行き一人になった俺はもう一度窓から夜空を見る。一応、家族と呼べる三人は一階で仲良く夕食を食べている頃だろう。だが俺の飯は部屋の前に使用人が持ってくるようになっているので俺から会おうとしない限り夜は屋敷内に居る者達と会う事はない。


「行くか」

俺はベッドの上に放り投げていた上着を着直して部屋のカギを閉めると、ベッドの下から長いロープを引っ張り出した。それはたまに夜に外へ遊びに行く時に使っている家から抜け出す為の物。…俺は結構行動力のあるガキだったようで、外出を禁じられている夜にたまにこっそり抜け出してエマの家や中心街まで遊びに行っていたりしていたようである。
継母がそんな俺の行動を把握していない以上は昼間よりも遥かに安全なのは間違いないので、俺は思い立ったが吉日とばかりに出来る事は何でもしておこうと思っていたので中心街に行こうと思い、ロープの端を部屋のいつも通りの場所に括り付けた後ロープを窓から外へと垂らす。


「ごめんねエマ」

…エマはとても親身になってくれて素直にありがたいと思っている。だが、だからこそ出来るだけ危険な目に遭わせたくはない。昼間はいつもエマと一緒に居るので、俺はなるべく危ない橋は継母に行動を把握されない一人で動ける夜に渡ろうと決めたのだ。

そして俺は慣れた手つきで垂れたロープを伝って二階の窓から裏庭へと出る。警備の者達は外から中へ侵入してきそうな者などに目を光らせてる為、薄暗い夜に屋敷の窓から垂れたロープなどに気付く者はおらず、また警備の巡回ルートなどは分かっているので特に慎重になる事もなく裏庭を横切って屋敷を囲う鉄柵の傍に立つ。


「んっしょ…」

屋敷を囲う鉄柵は特殊な物となっており、鉄柵に誰かが触れば感知する魔法が施されている。
だが昔、俺がシヴァに頼み込んで子供が通れるぐらいの極一部だけを条件として、鉄柵に掛けられたその魔法を解除してくれていた。勿論その事を知っているのは他にはエマしかいない。
俺は三人の秘密のその魔法が施されていない鉄柵の隙間を上手く潜り抜け、そして後ろを振り返って特に異常がない事を確認すると眠る事のない賑やかな中心街へと向かった。
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