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ベテルギウス編 〜合同〜
勇者蹴りの知名度
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その後、もろもろの説明をして学園長は校舎の方へと戻って行った。
(説明の中にはAクラスとBクラスの面々はもうすでに基地の方へ行ってるって言ってたな。ってそれよりも)
話が終わって学園長もいなくなった所で俺はガーリックの方へ向かう。ニーナとライダークと一緒に。
話し方を気をつけながら聞く。
「あのー、ガーリック君? どうして私が参加する事黙ってたの?」
「今知ったろ」
なんでもないように済ました顔でそう答えられた。いやまあ確かに訓練開始直前の一日前に知れた事実はその通りなんだけど、もっと心構えできるタイミングで教えて欲しかった。
「はあ。こっちもお前の参加は昨日五芒星の奴らが集まった後に聞かされた。この時までタイミングがなかった。これでいいか?」
俺の不満がわかったのだろう。言い訳するように説明を付け加えられた。しかし内容は割と納得できるもので反論しにくかった。秘密の特訓として誰にも言わずにスクボトルさんとこで修行してんのは俺だし、タイミングが取りずらかったのはその通りだろう。
「わかった。でももう一個聞かせて」
「……なんだよ」
「なんでそんな機嫌悪いの?」
めんどくさそうに舌打ちされる。
「俺の機嫌悪い理由をお前が知ってどうするってんだ?」
「いや……」
「つまんねー心配してねーでお前は自分の心配をしろ。まず明日だ」
忠告いたみいる。
危険区域と言う場所がどう言う場所か、細かいところはまだわからないが学園長からの説明で注意事項の中に『死んだら責任は取るがそれだけだ』とあった。つまり死ねばそれまで、死ぬ可能性がある場所と言う意味だ。
死ぬかも知れない場所。そこに俺は明日行く。正直実感が湧かない。
「……うん、心してかかるよ。ありがとうガーリック、まずは明日の………ん? “まず”?」
まず、ってどう言う意味だ?
まず明日のことを心配しろ、と言うことは、まだ心配するべき事があると言うのか?
「後ろ」
ガーリックが指差したのは俺の背後。
振り向けばそこには———合同訓練のために集まった軍学校、騎士学校、魔法学校の面々が好奇な目でこちらを見ていた。
合計17名、計34個の目がこちらを見てきている。
「は、は? な、なにこれ」
「『勇者蹴り』」
助ける気はないと言った感じで帰って行くガーリックが最後に残した一言。それで全部理解した。
ガーリックに続いてサンタンクとオトロゴンも帰って行く中で俺は戦慄した。
そうだ俺は勇者を、朝倉颯太を蹴り飛ばした。それは王都の勇者達にも知られていたのだから、この国全体に知られていてもおかしくない。
すなわちここに集まった生徒達の目の前にいるのは、絶対的存在である勇者を蹴っ飛ばした不届者だ。興味の対象になって然るべき存在。
「ななななななな! あの時のこと教えてくれよ! スゲー事すんなぁお前! あと胸デケーな!!」
軍学校の前髪で片目が隠れたヤンチャそうな中性的の生徒がまず、興奮しながら聞いてきた。『な』のマシンガンを撃たれた。
「ふん、囃し立てるつもりはないが何分ウチらの勇者様だからな。興味なしではいられない。ついでにその乳に関しても聞きたいな」
「聞くべきと思う。脅威的なソレに関しても是非」
次に同じ軍学校のダルそうな赤髪と、黒い帽子を目深く被った小柄な少年が聞いてきた。
「ちょっと詰め寄りすぎだと思うけど、迷惑じゃなけりゃ聞きたいかな。どうしてあんな事をしたのか。何をすればそこまで大きくなるのか」
「ふ……勇者に関してはあまり気にしていないのだがな、私にとっては君が気になる。おっぱいもな」
「みんな不躾な。もっと気遣って聞くべきだろう、女の子には」
軍学校の真面目そうな黒髪の少女に、変な興味を持っている灰色髪の少女、普通な金髪メガネの少年も次々に聞いてきて、そして———
「…………じー」
銀髪の大人しそうな子はジッと俺と、俺の胸を凝視してきていた。
「全員興味あるよなぁ。なにせ『勇者蹴り』だしな。それと……乳のデカさも噂になってたな」
ニヤついた顔が張り付いた茶髪の魔法学校生に揶揄うように言われて。
「それは俺も気になってたなー、すげーって思ったぜ。どんな感じだったんだ? あと胸でけーな」
「ハッ! 話を聞いた時悔しいと思ったものだ! なにせ俺様よりも目立ったんだからな! その胸の大きさも目立つ!」
「【金色の魔女】は後回しだ。まずお前になんで勇者蹴ったのか聞きたいな。胸でっか」
魔法学校の黒髪、金髪、金髪ロン毛からも聞かれる。
「………質問に答えてもらう」
「否! まずは白黒つける!! 勇者を蹴ることは正義か悪か! 否! 悪である!! 故に……」
「アタシに謙虚と言う言葉はない! てことでほりゃ! うっほぉうあ! な、なんだこの弾力……この柔らかさ⁉︎」
「ぷにぷにだ、ふかふかだ」
騎士学校の寡黙そうな男子と、暑苦しい(嫌いじゃない)男子からは真っ当な質問を投げかけられている気がする。
その一方でクリーム髪の女子と帽子の女の子に片方ずつ胸を揉まれていた。
「ふざけてるの⁉︎ 勇者は絶対! 勇者を蹴るなんてどんな精神してたらできるのよ! ってかおっぱいデカ!」
「そうだな。僕も聞いておきたかった。ギブソンは後にしてまずは君だ。にしても大きいな」
ギザギザ歯の子には怒られて、赤髪の騎士学校の2人にも詰め寄られ。
ここにいるみんな、各々、俺に言いたい事が少なからずあるらしい。と言うか聞いてきている主な内容は『なんであんなことしたのか?』という問い。
(つーかみんなして俺の胸に一言コメントして行くなよ! 律儀に!)
いや騎士学校の寡黙な男子と煩い男子からは言われなかったけど、代わりに同じ騎士学校の女子2人からは触られ揉まれてるけども現在進行形で。
なんて答えればいいんだ?勇者の事だから何言っても角が立ちそうな気がするし。
窮していると、横からライダークが割り込んで俺の前に立った。俺を背にして集まった全員に向かい合う。
「おい、わりぃがコイツは俺のダチだ。そこまでにしといてもらえるか」
ライダーク!
助けてくれた!ついでに胸を揉んでた2人も引き離してくれた。助かった。
けど逆に今度はライダークが数人から睨まれた。
「あ? お前Cクラスだろ」
「その程度でアタシらの邪魔しようっての?」
「確かにな、そう言うのを無謀と言うのだ」
軍学校の赤髪のダルそうな少年と、同じ軍学校の灰色髪の少女と、魔法学校の金髪ロン毛にそう詰め寄られていた。
Cクラス。勇者学校の最下位クラスだ。
そこを突いてきた。
「何言って……」
「ソニア」
言い返そうとした俺をライダークが止めた。そしてさらにズイッと前に一歩出る。
「確かにそう言われれば俺とお前らじゃ実力差が開いてるだろうな。言われて気づいた」
「なら早く退いたほうがいいと思うけど」
ギザギザ歯の少女が忠告した。
しかしライダークは首を振った。
「だが例え勝てなくたってここを動くつもりはねぇ。何度も言うがコイツは大事なダチなんでな」
ライダーク……!
そこまで俺のことを。そして彼の強い意志は、何よりも響いた。
取り囲む他の学校のみんなも、その言葉に各々一歩二歩退がった。ほとんどが潔く退いていた。ライダークの意志を認めた証だ。
しかし一切動かなかった者が3人いた。
(騎士学校の赤髪、魔法学校の茶髪、そして軍学校のおとなしそうな銀髪の女の子)
その3人だけ身じろぎもしなかった。
赤髪はライダークよりも強い意志の感じる目で動かない。
茶髪はニヤけ面を貼り付けたまま動じていない。
銀髪は……よくわからない。一見するとおとなしいだけの儚げな少女に見えるのだが、一切動揺していない。
そして3人とも共通して、ライダークではなく俺を見ていた。
この3人だけなんだか住んでる世界が違うように感じた。
(いやなんにせよ助かった。後でライダークにはお礼しないと)
「……なんで、お前が……」
後ろからマックのそんな呟きが聞こえた気がした。
(説明の中にはAクラスとBクラスの面々はもうすでに基地の方へ行ってるって言ってたな。ってそれよりも)
話が終わって学園長もいなくなった所で俺はガーリックの方へ向かう。ニーナとライダークと一緒に。
話し方を気をつけながら聞く。
「あのー、ガーリック君? どうして私が参加する事黙ってたの?」
「今知ったろ」
なんでもないように済ました顔でそう答えられた。いやまあ確かに訓練開始直前の一日前に知れた事実はその通りなんだけど、もっと心構えできるタイミングで教えて欲しかった。
「はあ。こっちもお前の参加は昨日五芒星の奴らが集まった後に聞かされた。この時までタイミングがなかった。これでいいか?」
俺の不満がわかったのだろう。言い訳するように説明を付け加えられた。しかし内容は割と納得できるもので反論しにくかった。秘密の特訓として誰にも言わずにスクボトルさんとこで修行してんのは俺だし、タイミングが取りずらかったのはその通りだろう。
「わかった。でももう一個聞かせて」
「……なんだよ」
「なんでそんな機嫌悪いの?」
めんどくさそうに舌打ちされる。
「俺の機嫌悪い理由をお前が知ってどうするってんだ?」
「いや……」
「つまんねー心配してねーでお前は自分の心配をしろ。まず明日だ」
忠告いたみいる。
危険区域と言う場所がどう言う場所か、細かいところはまだわからないが学園長からの説明で注意事項の中に『死んだら責任は取るがそれだけだ』とあった。つまり死ねばそれまで、死ぬ可能性がある場所と言う意味だ。
死ぬかも知れない場所。そこに俺は明日行く。正直実感が湧かない。
「……うん、心してかかるよ。ありがとうガーリック、まずは明日の………ん? “まず”?」
まず、ってどう言う意味だ?
まず明日のことを心配しろ、と言うことは、まだ心配するべき事があると言うのか?
「後ろ」
ガーリックが指差したのは俺の背後。
振り向けばそこには———合同訓練のために集まった軍学校、騎士学校、魔法学校の面々が好奇な目でこちらを見ていた。
合計17名、計34個の目がこちらを見てきている。
「は、は? な、なにこれ」
「『勇者蹴り』」
助ける気はないと言った感じで帰って行くガーリックが最後に残した一言。それで全部理解した。
ガーリックに続いてサンタンクとオトロゴンも帰って行く中で俺は戦慄した。
そうだ俺は勇者を、朝倉颯太を蹴り飛ばした。それは王都の勇者達にも知られていたのだから、この国全体に知られていてもおかしくない。
すなわちここに集まった生徒達の目の前にいるのは、絶対的存在である勇者を蹴っ飛ばした不届者だ。興味の対象になって然るべき存在。
「ななななななな! あの時のこと教えてくれよ! スゲー事すんなぁお前! あと胸デケーな!!」
軍学校の前髪で片目が隠れたヤンチャそうな中性的の生徒がまず、興奮しながら聞いてきた。『な』のマシンガンを撃たれた。
「ふん、囃し立てるつもりはないが何分ウチらの勇者様だからな。興味なしではいられない。ついでにその乳に関しても聞きたいな」
「聞くべきと思う。脅威的なソレに関しても是非」
次に同じ軍学校のダルそうな赤髪と、黒い帽子を目深く被った小柄な少年が聞いてきた。
「ちょっと詰め寄りすぎだと思うけど、迷惑じゃなけりゃ聞きたいかな。どうしてあんな事をしたのか。何をすればそこまで大きくなるのか」
「ふ……勇者に関してはあまり気にしていないのだがな、私にとっては君が気になる。おっぱいもな」
「みんな不躾な。もっと気遣って聞くべきだろう、女の子には」
軍学校の真面目そうな黒髪の少女に、変な興味を持っている灰色髪の少女、普通な金髪メガネの少年も次々に聞いてきて、そして———
「…………じー」
銀髪の大人しそうな子はジッと俺と、俺の胸を凝視してきていた。
「全員興味あるよなぁ。なにせ『勇者蹴り』だしな。それと……乳のデカさも噂になってたな」
ニヤついた顔が張り付いた茶髪の魔法学校生に揶揄うように言われて。
「それは俺も気になってたなー、すげーって思ったぜ。どんな感じだったんだ? あと胸でけーな」
「ハッ! 話を聞いた時悔しいと思ったものだ! なにせ俺様よりも目立ったんだからな! その胸の大きさも目立つ!」
「【金色の魔女】は後回しだ。まずお前になんで勇者蹴ったのか聞きたいな。胸でっか」
魔法学校の黒髪、金髪、金髪ロン毛からも聞かれる。
「………質問に答えてもらう」
「否! まずは白黒つける!! 勇者を蹴ることは正義か悪か! 否! 悪である!! 故に……」
「アタシに謙虚と言う言葉はない! てことでほりゃ! うっほぉうあ! な、なんだこの弾力……この柔らかさ⁉︎」
「ぷにぷにだ、ふかふかだ」
騎士学校の寡黙そうな男子と、暑苦しい(嫌いじゃない)男子からは真っ当な質問を投げかけられている気がする。
その一方でクリーム髪の女子と帽子の女の子に片方ずつ胸を揉まれていた。
「ふざけてるの⁉︎ 勇者は絶対! 勇者を蹴るなんてどんな精神してたらできるのよ! ってかおっぱいデカ!」
「そうだな。僕も聞いておきたかった。ギブソンは後にしてまずは君だ。にしても大きいな」
ギザギザ歯の子には怒られて、赤髪の騎士学校の2人にも詰め寄られ。
ここにいるみんな、各々、俺に言いたい事が少なからずあるらしい。と言うか聞いてきている主な内容は『なんであんなことしたのか?』という問い。
(つーかみんなして俺の胸に一言コメントして行くなよ! 律儀に!)
いや騎士学校の寡黙な男子と煩い男子からは言われなかったけど、代わりに同じ騎士学校の女子2人からは触られ揉まれてるけども現在進行形で。
なんて答えればいいんだ?勇者の事だから何言っても角が立ちそうな気がするし。
窮していると、横からライダークが割り込んで俺の前に立った。俺を背にして集まった全員に向かい合う。
「おい、わりぃがコイツは俺のダチだ。そこまでにしといてもらえるか」
ライダーク!
助けてくれた!ついでに胸を揉んでた2人も引き離してくれた。助かった。
けど逆に今度はライダークが数人から睨まれた。
「あ? お前Cクラスだろ」
「その程度でアタシらの邪魔しようっての?」
「確かにな、そう言うのを無謀と言うのだ」
軍学校の赤髪のダルそうな少年と、同じ軍学校の灰色髪の少女と、魔法学校の金髪ロン毛にそう詰め寄られていた。
Cクラス。勇者学校の最下位クラスだ。
そこを突いてきた。
「何言って……」
「ソニア」
言い返そうとした俺をライダークが止めた。そしてさらにズイッと前に一歩出る。
「確かにそう言われれば俺とお前らじゃ実力差が開いてるだろうな。言われて気づいた」
「なら早く退いたほうがいいと思うけど」
ギザギザ歯の少女が忠告した。
しかしライダークは首を振った。
「だが例え勝てなくたってここを動くつもりはねぇ。何度も言うがコイツは大事なダチなんでな」
ライダーク……!
そこまで俺のことを。そして彼の強い意志は、何よりも響いた。
取り囲む他の学校のみんなも、その言葉に各々一歩二歩退がった。ほとんどが潔く退いていた。ライダークの意志を認めた証だ。
しかし一切動かなかった者が3人いた。
(騎士学校の赤髪、魔法学校の茶髪、そして軍学校のおとなしそうな銀髪の女の子)
その3人だけ身じろぎもしなかった。
赤髪はライダークよりも強い意志の感じる目で動かない。
茶髪はニヤけ面を貼り付けたまま動じていない。
銀髪は……よくわからない。一見するとおとなしいだけの儚げな少女に見えるのだが、一切動揺していない。
そして3人とも共通して、ライダークではなく俺を見ていた。
この3人だけなんだか住んでる世界が違うように感じた。
(いやなんにせよ助かった。後でライダークにはお礼しないと)
「……なんで、お前が……」
後ろからマックのそんな呟きが聞こえた気がした。
応援ありがとうございます!
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