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王都へ 第三章 ガンマンズ

ガキと大人

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 王都陸軍駐屯基地。
 昼に来た時は人が結構いたが、今は出払っているようで人が少なめ。それでも人はいて、ホーネットさんが出迎えてくれた。


「小原様に巻島様? それと朝倉様に、ソニアとオシリン。あれ? オシリン、オシラーゼは?」

「これから話します」

「いいや俺が話す」


 勇者小原が事情を説明した。
 話していくうち、朝倉が強姦の疑いがかけられているのを知り、ホーネットさんの顔色がみるみるうちに変わっていった。そして最後には鬼気迫る表情となり、冷静さは欠いていないものの、鬼の形相で朝倉を睨みつけていた。


「説明は、あるのですよね、勇者方」

「怒りは分かるがまだ事実だと決まったわけではない。落ち着け、ホーネット」


 勇者小原がホーネットさんを落ち着かせているところで、俺は思う。
 なぜそんなに怒っているのか、俺は不思議に思った。事情だけ聞くと俺も怒る。しかしあんな鬼のように怒るとは思わなかった。まるで親の仇のようにブチギレている。


「……ホーネットさん」

「ッ! ああ、すまないソニア」

「いえ、もっと詳しく話そうかと思いまして」


 俺は勇者学園のVIPルームでの一件と、そこで朝倉颯太が俺を襲いながら、自慢げに奴隷とメイドと性行為をしたと思わせる発言をした。
 それを聞いて小原も、巻島も、ゴミを見るような目で朝倉を見———ホーネットさんはコアで剣を作り出した。


「ま、待って! ち、違うわ! それはそいつの嘘よ!」

「…………今はどちらの言も聞かない。事実は、後でわかるようだから、今は引いておく」


 ブチギレているホーネットさんは、我を忘れたかのように朝倉を睨み続ける。


「……待て、ホーネット。お前は一度外に出ていろ。頭を冷やせ」

「なっ! 今のを聞いて席を外せと……⁉︎」

「ああそうだ。我慢しろ。後で結果を話すから、お前はとにかくこの場にいて良い精神状態じゃない」

「……! ……!」


 ホーネットさんは全員の顔をなん度も見てから、大きく息を吐き、剣を納めて大股で外に出ていった。


「ホーネットさん……」

「来たな」


 入れ替わりで四人の女性が入って来た。
 話を聞くと黒髪ロングの綺麗な人が勇者で巻島の奥さん、巻島夜歌。
 小柄で可愛らしい童顔な顔つきをしているのが勇者日立成美。
 そしてその後ろをついて来ているボロ切れみたいな服を着ているのが朝倉颯太の奴隷と、メイド服の方がメイド。年端も行かない女の子だ。


「連れて来たわよ悠太。こんなお使いさせるなんて」

「まあ、すぐ終わる」

「それでにゃんのはにゃし?」


 勇者夜歌、巻島、日立が話している。
 あんな小さな女の子が、あれが朝倉の奴隷とメイド。
 どちらも身綺麗と言いにくい、少し薄汚れた服を着ている。
 そして———朝倉颯太の姿を見た瞬間、怯えた表情を見せた。

 それでわかった。
 それで全部悟った。

 瞬間俺は、床に頭を殴打し、二人に土下座した。
 周りから驚く声が聞こえる。

 土下座をした。
 が、同時に失敗したと思った。


(……まずった)


 今謝ったのは俺の身体が彼女らを少なからず傷つけているとわかったからだ。
 しかしそれを謝ると言うことは、朝倉颯太がソニアである自分と同じか、もしくは……入れ替わった関係だと明かす必要がある。
 だがそれは言えない。

 言えないのであれば、俺は今なんのために謝ったのか説明できない。


(……勢いで、なんも考えず謝ってしまった……けど、間違いだろうがなんだろうが、男が一度下げた頭をおいそれと上げることは出来ねぇ……)


 何を謝ったのか、言い訳も取り繕う気もないが、しかしなぜ土下座したのかの説明が必要だ。
 俺は瞬時に考えてから、土下座したまま手を伸ばして、差し出した。


「今まで見つけられなくてごめん、何もできなくてごめん、ただ……ただ……日々怖い思いをしてるのなら、この手を取ってくれ」


 沈黙、静寂する時間。
 少しの間その時間が続いて、そして勇者小原のため息の声が聞こえた。そして次に小原は冷静な口調で話し始める。


「事実確認だ。朝倉颯太の召使、えーと、名前は?」


「え、あ」とどもる声が聞こえて、少しして二人は答えた。


「エクレア、です」

「ショコラです……」


 声の位置的にメイドがエクレア、奴隷がショコラ。
 小原の話は続く。


「わかった。じゃあエクレアとショコラに聞く。お前ら主人から襲われたか? 行為があったことは事実だろうが、それは同意の元で行われたものか?」

「え⁉︎」

「そ、それは……」

「朝倉颯太の方を見なくて良い。答えてくれ」

「……………ど、同意、あり、ました」

「わたしも、同意、しました……」

「……そうか。辛いところ答えてもらって悪かったな。そんで、そー言うわけだ傲慢野郎」


 横から大きな右手が俺の顔を掴み上げると、そのまま力づくで顔を上げさせられた。俺の頬を指で挟み込んで持ち上げているのは小原、そして顔を上げた時に見えた光景はエクレアとショコラが泣いている場面だった。


「……おい」

「いいんだ、もう話はついた。朝倉颯太は同意の元彼女らと行為に及んだ。だったらもう話は終わ———」


 朝倉颯太の顔を見れば、ホッと胸を撫で下ろしている所だった。
 瞬間、俺は目の前にいる小原の顔を逆に掴み返す。周りから息を呑む声が聞こえる。
 だが俺はもう何も考えられない。


「なんであの二人が泣いてんだ! なんでそれが良いんだ!」

「やめろ」


 掴んでいた手はいとも簡単に振り払われた。


「落ち着け、ここで暴れれば陸軍の軍人がお前を……」

「だったら全員殴り飛ばす!」


 振り払われた手を握りしめて、小原の顔面に叩き込もうとした。だが背が足りなかった。拳は小原の胸に、心臓の部分に当たる。
 小原は涼しい顔をしている。それがまた、腹たった。


「なんで泣いてんだって聞いてんだよ! なんで泣き顔見なきゃなんねーんだ! 何が勇者だ! 何が軍だ! 泣いていい世界じゃなく、泣かなきゃいけない世界まもんのがお前らの仕事かよ!」

「そんなわけねーだろ」

「じゃあなんで!」

「事情を聞き、答えを聞いた。その内容がこの場の問答を終わらせた。以上だ。これ以上何もできないからだ」

「“喧嘩”はできるだろーが!!」


 小原は一瞬ハッとした表情に変わったが、すぐに歯噛みして面倒くさそうに顔をしかめる。


「喧嘩をしたらダメだから言ってんだ!」

「じゃあテメーは今のこの状況見て拳を握らねーのか! 泣いてる人がいて、不条理で、そんな状況で争いごとの一つも起こせねーのか! 争ってテメーの正しいと思えるもんを押し通す気概もねーのか!」

「……! テメェ……!」

「俺は“やる”! 今のルールが人を泣かせるんなら、それを変えるために争う! 作り替えるために争う!」


 拳を握りしめ、決意の表れとして両拳を体の横に置き、そして驚いた表情で固まる朝倉颯太を見据える。


「この世で最も見たくねーもんが二つある。ウンコとか、ゲロとか、ゾウモツとかじゃねぇ。人の泣き顔と死に顔だあんなもん二度も見るもんじゃねぇ二度と見たくねぇ」


 思い浮かぶ苦い記憶。

 ———泣く両親の顔。

 ———眠るセンセーの顔。


「俺は、俺のために、“喧嘩”、するぞ……!」


 進んだ俺を、どついて横に飛ばし、小原の拳が朝倉の頬をとらえて殴り飛ばした。
 床を何度もバウンドしながら吹っ飛んでいった朝倉の体は最後に壁にぶつかり、気を失った。
 小原は立ち、この場にいる皆に指示する。


「この場の収拾と責任は、俺が負う。お前らは全員元の暮らしに戻れ」




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