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王都へ 第三章 ガンマンズ
“第三位階級”ホーネット・メイフライ
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北西の、王城が建っている高台の真下に軍事基地はある。王都駐屯軍事支部基地。麻の葉の柄をした四角い建物だ。
「姐さん。軍事基地に来て、何かわかるの?」
「あっち、見て」
姐さんが指差したのは、軍事基地のすぐ隣にあるアーチ状の門と入り口。その先の奥の方に、立派な西洋風のお城が建っていた。
「城?」
「上に立ってる王城は割と新しいもので、あの奥にある城は昔の古都プラネスから還都したばかりの時に使ってた城で、今は勇者が使ってるの」
「勇者」
「そう。あのアーチから先は勇者が住む区域。つまり軍事基地が王都で最も勇者区域の情報が来る場所で、私たち軍人が居れば聞きやすい絶好の情報源」
フライヤーを先頭に基地内に入ると、入り口の開けたロビーで数人が集まって話し合っているところだった。
1人は勇者小原、そして数人の軍服を着た人がいて……そして1人存在感を放つ女性がいた。
歳は30代くらいだろうか。黒い髪を流し、左目に眼帯をして軍服のジャケットを肩から羽織り、背筋がピンと伸びた綺麗で勇ましそうな風貌の人。一目見た時ちょっとドキッとした。
「ん……?」
眼帯の年上女性軍人さんがこちらに気づいた。
先頭にいるフライヤーから、アキツ、ライトニング、オシリン、オシラーゼと順番に見ていき、最後に俺に目が止まると———
「———タ……」
俺を見た瞬間、隻眼を大きく見開き固まった。
ツンと尖った目尻をした鋭い目つきの彼女だが、俺を見た時の目は、目玉が飛び出すんじゃないかと思うくらい大きく見開かれていた。
「どうしたホーネット」
勇者小原がそれに気づいて、ホーネットと呼ばれた女性軍人が見ている視線を追いかけて、俺たちを視認した。
「お。大神官様から話は聞けたのか?」
「はい」
「そうか、他所の担当者なのに協力してもらって悪いな。それから『星のカケラ』で一番うまいのはピザトーストだ、ベーコンとコーンが乗ってる。今度食ってみろ」
どうやら俺らがパン屋に寄っていた事も承知しているらしい。監視されてたのも本当で、そして情報通達速度も速い。下手な真似は絶対にできないようだ。
「で、お前はなんで機能停止してんだホーネット」
「はっ! す、すみません小原様」
カチャ、とメガネをかけ直してから、俺を見続けて固まっているホーネットさんに声をかける。ずっと見つめられて居心地が悪かった。
「その、勇者蹴りがここに現れて警戒していたと言うか」
「そう言う風には見えなかったが、まあそう言うことにして置こう。ブラックパンツァー、お前も有名になると大変だな」
「は、はあ……」
どう答えていいかわからない。
代わりにライトニング姐さんに、ホーネットさんが誰なのか尋ねる意味合いも兼ねて視線を送る。すると代わりにフライヤーが答えた。
「彼女は中心基地ガイア所属の“三階級”の軍人、ホーネット・メイフライです。あなたを見て固まった意味は分かりませんが」
「三階級って」
「星雲。そして中心基地ガイアと言うのは王国の中心に位置する場所に、陸軍海軍合わせた全軍事機関の集まる大型基地があって、そこの事です」
「109代目勇者パーティ“候補”だった勇者学園のOBだ」
姐さんが説明に付け加える。
「けどなんでここにいるんだろうな」
「そ、それは学園長から昨日の夜に呼ばれまして……と言ってもガイアに来た要請に対して、私が派遣されたと言う形でして」
まあバイクを持ってる私が急な遠くへの移動も容易いからと言う関係もありますが、とホーネットさんは付け加えた。
見た目からして凄い厳しそうな人に見えたのだが、なんだか抜けた感じがする。
「ん? 要請? 学園長が?」
学園長は確か俺らを送り出す時に、どこからか電話が来て出立する時は会えなかったな。
そういえばあの電話はなんだったんだろう。
「んで、軍部取り仕切ってる役回りしてる俺がその件について話聞いてるところだ。しかも学園長の要請内容は学園の方じゃなく、この王都に対する応援要請だった」
勇者小原の説明を聞いてさらに分からなくなる。
なんで学園長は王都に要請を?
なんの意味があってそんなことを?
何か知っている……?例えば王都で起こる事件とかを予知してるとか。
「まあその線が濃厚でしょうね。私たちが学園から出た後、何があったのか……」
フライヤーが俺の思考を読んだかのようにそう言い、思案顔になる。
と、そこへ俺たちの背後にある基地の入り口の自動ドアが開く音がした。
振り返ると貴族っぽい服装をした剣士たちが数人ゾロゾロと入ってきた。確かパン屋で聞いた話だと王都騎士団と言う陸軍とはまた別の軍事機関の騎士たちだ。
(陸軍は割と新めの軍事機関なのに対して、王都騎士団は古めの軍事機関という関係って姐さんが話してくれたな。そしてその二つが衝突しないように緩和剤になっているのが、勇者小原灯旗)
「小原様、我々王都騎士団は街の方へ部隊を編成し、分散して調査しに当たります。陸軍は神殿とも近いですし、そちらと勇者居住区の方の警備は陸軍に任せます」
「ああ、それでいい。後それからヒデさんと仁科が北のキングフィッシュ町からの経路を警戒して北側に配備している。できれば数人そっちに回してもらえないか」
「分かりました。南側には団長がいますし、あと封じるべきは商都から繋がる東側ですが……」
「わざと開けている。入り込むのに簡単な場所をわざと開ける事で、おめおめ入り込んでくればルートが見えて御の字、警戒して入ってこなくても御の字。東側の警戒はあえて薄める」
「了解しました」
勇者小原の指示を聞いて騎士団達は基地から出て行った。
「随分忙しない、わね。ガンマンズってそんなにヤバいの?」
「ええ。けど……ちょっと不安な部分はあるわね。内部が手薄な気がするわ」
口調に気をつけつつ、姐さんと話す。
「フライヤー」
すると勇者小原がフライヤーの名前を呼んだ。
「はい! 私は神殿の警護に当たればよろしいでしょうか?」
「お? よく分かってんじゃねーか。大神官様は皆に神殿で神に祈る権利があるとかなんとかで、立ち入り禁止にはあんまりしたくないらしい。てことでそこをお前らに頼みたい。と言っても柱が壊されてたのは単なる脅しだろうから、大した事はしてこないだろう」
「そうでしょうか」
「念の為、神殿から近いここにはホーネットに待機してもらう。んで俺と巻島さんは勇者居住区だ」
△▼△▼△▼△▼△▼△
勇者小原の指示によって俺たちは神殿の警護に当たる事に。と言っても俺は軍人じゃない、学生の立場だからあんまり命令しにくいとの事で、ライトニング姐さんやオシリンとオシラーゼを連れて街中を歩くことに。
一種の観光。
「でも昨日の木刀が出てこないとも限らない。あんまブラブラできないわ」
「だから……私をカフェに連れてきたのね」
姐さんに連れられたのは神殿が見える位置にある喫茶店。
俺コーヒー苦手なんだが。
「まあここに連れてきた理由は他にもあるわ」
コーヒーカップを丁寧に置くと、姐さんは俺とオシリンを交互に見た。
「あなた達の話す場が欲しかった」
「う……」
「別に、私は上官の決定を反対するわけではありませんから」
苦い顔をしてしまう。
オシリンの声は冷たい。
「私がなんの相談もなくソニアと兄弟になったのは事実だ。そこから兄弟となったみんなで話して、互いにわかり合って、擦り合わせていくのはこれからだ」
……まあ俺は似たようなことした記憶があるから、強くはいえない。
けれどライトニングの行動は中々に自分勝手のように思える。
オシリンの気持ちは。
オシラーゼの気持ちは。
そして多分、フライヤーも何か思うところがある。それに連なってアキツも何か思ってるはず。
「……オシリン、私のことこれから何て呼ぶ?」
俺から近寄る。
オシリンは俺の質問に、ぷいっと目を逸らしながら答える。
「普通に、ソニア?」
「そっか」
オシリンはライトニングを一瞥してから。
「逆にそっちは?」
「オシリンと、オシラーゼ。そのまま」
「ふぅん」
「けどライトニングは姐さんって呼びたい」
兄弟になってから一夜明けて、俺はライトニングの事を姐さんと呼ぶことにした。理由はわからないけど、感覚的にそう呼ぼうと思って、そのまま呼んでいる。
(もしかしたらレディースの総長だった母さんと雰囲気的に似てるから———いや、やめとこ。なんか恥ずかしい)
「顔赤い」
オシラーゼからぷにぷにと指で頰を突かれる。
そういえばオシラーゼはどうなんだろう。今も俺の隣に座って、毛嫌いされてる気配はしない。
「オシラーゼはどう思うの?」
「お姉ちゃんが増えた。ふかふかのおねーちゃん。ソニアお姉ちゃん」
「いいの? 私がお姉ちゃんで」
「ん。別にイヤじゃない。ただ私のお姉ちゃんにはオシリンお姉ちゃんもいる」
「だよね、うん。それはそう」
▼△▼△▼△▼△
「場所変えて、気分も変えようか」
しばらくポツリポツリと話していた所で、姐さんがそう提案した。
「別の場所なら、また別の話ができるはずだし」
姐さんが会計するためにレジへ向かおうとした。だが彼女の前にホーネットさんが現れた。
「ホーネットさん? どうしたんですか? 持ち場は……」
「他の者に一旦任せている、元々私は他所の所属だし。まあすぐに戻る。それより……座ってくれないか」
突然に現れたホーネットさんは落ち着いた表情をして、椅子を指差し、姐さんを椅子に座り直させた。そして空いていた席に綺麗な所作で座る。
「突然すまないな。君たちの会計はすでに済ませておいた」
「え?」
「話がしたい。そちらの」
そう言って俺の方を右目で見てくる。
さっき初めて会った時のようなおかしな感じは一切なく、落ち着いている。キリッとしていてまたちょっとドキッとした。
お姉さん系には弱いんだ。
「は、はい、なんでしょうか」
「名前を聞きそびれていた。勇者蹴りとして噂程度に名を聞き及んでいるが、君の口から聞かせてほしい」
「えと……ソニア・ブラックパンツァーです」
「ソニアに、ブラックパンツァーか……フッ、そうか」
ホーネットさんは目を細めて、俺の名前を噛み締めるように繰り返した。
それだけ聞くと、ホーネットさんは立ち上がった。
「その名前、大事にな」
最後に俺の頭を優しく撫でてから、店から出て行った。
「……一体なんだったの? ソニア、あなたホーネットさんと何か関係あんの?」
「な、ない……と、思うけど」
「姐さん。軍事基地に来て、何かわかるの?」
「あっち、見て」
姐さんが指差したのは、軍事基地のすぐ隣にあるアーチ状の門と入り口。その先の奥の方に、立派な西洋風のお城が建っていた。
「城?」
「上に立ってる王城は割と新しいもので、あの奥にある城は昔の古都プラネスから還都したばかりの時に使ってた城で、今は勇者が使ってるの」
「勇者」
「そう。あのアーチから先は勇者が住む区域。つまり軍事基地が王都で最も勇者区域の情報が来る場所で、私たち軍人が居れば聞きやすい絶好の情報源」
フライヤーを先頭に基地内に入ると、入り口の開けたロビーで数人が集まって話し合っているところだった。
1人は勇者小原、そして数人の軍服を着た人がいて……そして1人存在感を放つ女性がいた。
歳は30代くらいだろうか。黒い髪を流し、左目に眼帯をして軍服のジャケットを肩から羽織り、背筋がピンと伸びた綺麗で勇ましそうな風貌の人。一目見た時ちょっとドキッとした。
「ん……?」
眼帯の年上女性軍人さんがこちらに気づいた。
先頭にいるフライヤーから、アキツ、ライトニング、オシリン、オシラーゼと順番に見ていき、最後に俺に目が止まると———
「———タ……」
俺を見た瞬間、隻眼を大きく見開き固まった。
ツンと尖った目尻をした鋭い目つきの彼女だが、俺を見た時の目は、目玉が飛び出すんじゃないかと思うくらい大きく見開かれていた。
「どうしたホーネット」
勇者小原がそれに気づいて、ホーネットと呼ばれた女性軍人が見ている視線を追いかけて、俺たちを視認した。
「お。大神官様から話は聞けたのか?」
「はい」
「そうか、他所の担当者なのに協力してもらって悪いな。それから『星のカケラ』で一番うまいのはピザトーストだ、ベーコンとコーンが乗ってる。今度食ってみろ」
どうやら俺らがパン屋に寄っていた事も承知しているらしい。監視されてたのも本当で、そして情報通達速度も速い。下手な真似は絶対にできないようだ。
「で、お前はなんで機能停止してんだホーネット」
「はっ! す、すみません小原様」
カチャ、とメガネをかけ直してから、俺を見続けて固まっているホーネットさんに声をかける。ずっと見つめられて居心地が悪かった。
「その、勇者蹴りがここに現れて警戒していたと言うか」
「そう言う風には見えなかったが、まあそう言うことにして置こう。ブラックパンツァー、お前も有名になると大変だな」
「は、はあ……」
どう答えていいかわからない。
代わりにライトニング姐さんに、ホーネットさんが誰なのか尋ねる意味合いも兼ねて視線を送る。すると代わりにフライヤーが答えた。
「彼女は中心基地ガイア所属の“三階級”の軍人、ホーネット・メイフライです。あなたを見て固まった意味は分かりませんが」
「三階級って」
「星雲。そして中心基地ガイアと言うのは王国の中心に位置する場所に、陸軍海軍合わせた全軍事機関の集まる大型基地があって、そこの事です」
「109代目勇者パーティ“候補”だった勇者学園のOBだ」
姐さんが説明に付け加える。
「けどなんでここにいるんだろうな」
「そ、それは学園長から昨日の夜に呼ばれまして……と言ってもガイアに来た要請に対して、私が派遣されたと言う形でして」
まあバイクを持ってる私が急な遠くへの移動も容易いからと言う関係もありますが、とホーネットさんは付け加えた。
見た目からして凄い厳しそうな人に見えたのだが、なんだか抜けた感じがする。
「ん? 要請? 学園長が?」
学園長は確か俺らを送り出す時に、どこからか電話が来て出立する時は会えなかったな。
そういえばあの電話はなんだったんだろう。
「んで、軍部取り仕切ってる役回りしてる俺がその件について話聞いてるところだ。しかも学園長の要請内容は学園の方じゃなく、この王都に対する応援要請だった」
勇者小原の説明を聞いてさらに分からなくなる。
なんで学園長は王都に要請を?
なんの意味があってそんなことを?
何か知っている……?例えば王都で起こる事件とかを予知してるとか。
「まあその線が濃厚でしょうね。私たちが学園から出た後、何があったのか……」
フライヤーが俺の思考を読んだかのようにそう言い、思案顔になる。
と、そこへ俺たちの背後にある基地の入り口の自動ドアが開く音がした。
振り返ると貴族っぽい服装をした剣士たちが数人ゾロゾロと入ってきた。確かパン屋で聞いた話だと王都騎士団と言う陸軍とはまた別の軍事機関の騎士たちだ。
(陸軍は割と新めの軍事機関なのに対して、王都騎士団は古めの軍事機関という関係って姐さんが話してくれたな。そしてその二つが衝突しないように緩和剤になっているのが、勇者小原灯旗)
「小原様、我々王都騎士団は街の方へ部隊を編成し、分散して調査しに当たります。陸軍は神殿とも近いですし、そちらと勇者居住区の方の警備は陸軍に任せます」
「ああ、それでいい。後それからヒデさんと仁科が北のキングフィッシュ町からの経路を警戒して北側に配備している。できれば数人そっちに回してもらえないか」
「分かりました。南側には団長がいますし、あと封じるべきは商都から繋がる東側ですが……」
「わざと開けている。入り込むのに簡単な場所をわざと開ける事で、おめおめ入り込んでくればルートが見えて御の字、警戒して入ってこなくても御の字。東側の警戒はあえて薄める」
「了解しました」
勇者小原の指示を聞いて騎士団達は基地から出て行った。
「随分忙しない、わね。ガンマンズってそんなにヤバいの?」
「ええ。けど……ちょっと不安な部分はあるわね。内部が手薄な気がするわ」
口調に気をつけつつ、姐さんと話す。
「フライヤー」
すると勇者小原がフライヤーの名前を呼んだ。
「はい! 私は神殿の警護に当たればよろしいでしょうか?」
「お? よく分かってんじゃねーか。大神官様は皆に神殿で神に祈る権利があるとかなんとかで、立ち入り禁止にはあんまりしたくないらしい。てことでそこをお前らに頼みたい。と言っても柱が壊されてたのは単なる脅しだろうから、大した事はしてこないだろう」
「そうでしょうか」
「念の為、神殿から近いここにはホーネットに待機してもらう。んで俺と巻島さんは勇者居住区だ」
△▼△▼△▼△▼△▼△
勇者小原の指示によって俺たちは神殿の警護に当たる事に。と言っても俺は軍人じゃない、学生の立場だからあんまり命令しにくいとの事で、ライトニング姐さんやオシリンとオシラーゼを連れて街中を歩くことに。
一種の観光。
「でも昨日の木刀が出てこないとも限らない。あんまブラブラできないわ」
「だから……私をカフェに連れてきたのね」
姐さんに連れられたのは神殿が見える位置にある喫茶店。
俺コーヒー苦手なんだが。
「まあここに連れてきた理由は他にもあるわ」
コーヒーカップを丁寧に置くと、姐さんは俺とオシリンを交互に見た。
「あなた達の話す場が欲しかった」
「う……」
「別に、私は上官の決定を反対するわけではありませんから」
苦い顔をしてしまう。
オシリンの声は冷たい。
「私がなんの相談もなくソニアと兄弟になったのは事実だ。そこから兄弟となったみんなで話して、互いにわかり合って、擦り合わせていくのはこれからだ」
……まあ俺は似たようなことした記憶があるから、強くはいえない。
けれどライトニングの行動は中々に自分勝手のように思える。
オシリンの気持ちは。
オシラーゼの気持ちは。
そして多分、フライヤーも何か思うところがある。それに連なってアキツも何か思ってるはず。
「……オシリン、私のことこれから何て呼ぶ?」
俺から近寄る。
オシリンは俺の質問に、ぷいっと目を逸らしながら答える。
「普通に、ソニア?」
「そっか」
オシリンはライトニングを一瞥してから。
「逆にそっちは?」
「オシリンと、オシラーゼ。そのまま」
「ふぅん」
「けどライトニングは姐さんって呼びたい」
兄弟になってから一夜明けて、俺はライトニングの事を姐さんと呼ぶことにした。理由はわからないけど、感覚的にそう呼ぼうと思って、そのまま呼んでいる。
(もしかしたらレディースの総長だった母さんと雰囲気的に似てるから———いや、やめとこ。なんか恥ずかしい)
「顔赤い」
オシラーゼからぷにぷにと指で頰を突かれる。
そういえばオシラーゼはどうなんだろう。今も俺の隣に座って、毛嫌いされてる気配はしない。
「オシラーゼはどう思うの?」
「お姉ちゃんが増えた。ふかふかのおねーちゃん。ソニアお姉ちゃん」
「いいの? 私がお姉ちゃんで」
「ん。別にイヤじゃない。ただ私のお姉ちゃんにはオシリンお姉ちゃんもいる」
「だよね、うん。それはそう」
▼△▼△▼△▼△
「場所変えて、気分も変えようか」
しばらくポツリポツリと話していた所で、姐さんがそう提案した。
「別の場所なら、また別の話ができるはずだし」
姐さんが会計するためにレジへ向かおうとした。だが彼女の前にホーネットさんが現れた。
「ホーネットさん? どうしたんですか? 持ち場は……」
「他の者に一旦任せている、元々私は他所の所属だし。まあすぐに戻る。それより……座ってくれないか」
突然に現れたホーネットさんは落ち着いた表情をして、椅子を指差し、姐さんを椅子に座り直させた。そして空いていた席に綺麗な所作で座る。
「突然すまないな。君たちの会計はすでに済ませておいた」
「え?」
「話がしたい。そちらの」
そう言って俺の方を右目で見てくる。
さっき初めて会った時のようなおかしな感じは一切なく、落ち着いている。キリッとしていてまたちょっとドキッとした。
お姉さん系には弱いんだ。
「は、はい、なんでしょうか」
「名前を聞きそびれていた。勇者蹴りとして噂程度に名を聞き及んでいるが、君の口から聞かせてほしい」
「えと……ソニア・ブラックパンツァーです」
「ソニアに、ブラックパンツァーか……フッ、そうか」
ホーネットさんは目を細めて、俺の名前を噛み締めるように繰り返した。
それだけ聞くと、ホーネットさんは立ち上がった。
「その名前、大事にな」
最後に俺の頭を優しく撫でてから、店から出て行った。
「……一体なんだったの? ソニア、あなたホーネットさんと何か関係あんの?」
「な、ない……と、思うけど」
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