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Bクラス争奪戦 第二章 ラウラウ編

新たな“自分”こそが究極の答えかも知れない

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 俺は今、何を考えている?
 ずっとモヤついていたものが取り払われた気分だ。
 相変わらず胸は重いけど、手先まで神経が通るような感覚がする。


「ナキア!」

「ニーナ!」

「は、はい!」

「なに?」

「「私今、どんな顔してる⁉︎」」

「え? わ、笑ってるけど……」

「うん。見た事ない顔で笑ってる。映画のアクション俳優みたいにキリッとしてる」


 ラウラウの振り下ろす時計剣を、気分が跳ねるがまま躱す。そして返しの回し蹴りを向こうも躱してくる。繰り返される攻防。
 変わりつつある感覚が明確にある。
 そうだ、俺は前の自分ばかりを求めていた。しかし今はソニアなんだ。体は女の子。それを認めた上で……どう戦うかじゃないのか。
 だったら戦い方を考える必要がある。ソニアに相応しい喧嘩の仕方を考える。それは……。


「この体は腕のリーチは短め……けど、足は長い!」

「なによ考え事⁉︎ アンタはアタシが待ち望んだ試練! 真面目にやって!」

「やだね! 誰がお前の言うこと聞くもんか!」

「はあ⁉︎」

「私の家族は3人とも自分勝手なんだ! 親父もお袋も! 私だって自覚はある! ある上で望むように生きたい! 誰かに従うよりも自分の矜持に従う!」

「家族? ブラックパンツァーは4歳の時に山向こうの学園長一家が営んでる孤児院に預けられてたって、長期休暇の時も帰省してなかったし……いいえ、いいわ。アタシは!」


 今までラウラウは、決して剣を向けなかった。ずっと円形の外周の枠でぶん殴って来た。しかし念を込めて武器にコアを送ったようで、剣が一人でに動き出し、二本の剣がこちらに向けられた。


「アンタを本気で倒す!」


 走り出しながら剣を回転させ、別々の方向に剣を配置し、殴りかかって来る。
 持ち手を回転させつつ振り下ろされたそれは、まず一本の剣が振り下ろされて来て、それを身を翻して躱す。しかしラウラウは向きを変えて二本目の剣を躱した方へ向けて来た。
 それを枠部分を足で蹴って方向を無理やり変え、狙いを外させた。
 が、躱した俺にラウラウは剣を持っていない方の手で顔面を掴んで来た。同時に掴んで来た腕を掴み返そうとした俺の腕が、アザができるほど武器で強く叩かれ、痺れて動けなくなってしまった。


「ぅぐぅ!」


 胸のワッペンを守るため腹の前で右膝を折りたたむ。剣はもう迫って来ていて、右足の右っ側少しと、太ももが少し斬られた。血が出る。


「痛っ……」


 痛みで右足がまともに動かせなくなった。無理矢理左足を動かして、ラウラウの腹に付いたワッペンを狙って蹴るが、大きく後ろに飛び退かれて躱される。
 俺の方は支えとなるはずの右足にダメージを負って、蹴ったポーズのまま崩れ落ちて、右倒れに倒れてしまう。
 飛び退いたはずのラウラウは、意外な行動に出ていた。俺のすぐそばにある、講堂の壁に向かって走り込んでいたのだ。


(な、何する気……って、ええ⁉︎)


 ガガガガッ!
 剣を壁に突き立てたかと思うと、二本の剣を高速回転させ、ラウラウの体は壁に沿ってどんどん上昇していった。
 そして高い位置まで上がると剣を壁から抜いて、飛びかかって来た。


「って、ヤベェ!」


 転がって躱す。俺のいた場所にはラウラウの剣が深く地面に突き刺さっていた。


「恐ろしい技だが……突き刺さった剣は、抜けづらいくらい深く刺さってるみたいだな!」


 ラウラウが剣を抜こうとする間に、なんとか起き上がり、顔面を動く左足で蹴り飛ばす。


「ぐあっ、ぐっ!」


 思いっきり蹴り飛ばしたが、ラウラウは武器から手を離さない。代わりに突き立てた剣を支えにして体を引き戻し、俺の股の間に頭突きしてきた。
 一瞬ゾッとしたが、あまり威力はなく、俺をど突いて後ろに倒すくらいの威力しかなかった。しかしその勢いで剣が抜けた。
 倒れた俺に、体を回転させつつ武器を振り下ろしてくる。それを横に転がって躱す。
 だがラウラウは俺に躱される事を想定していたようだ。今武器を振り下ろしたのは攻撃のためではなく、地面に当てた衝撃の反動から跳ね上がり、そのまま俺の頭上に飛び上がることだった。


(か、躱し切れない———!)


 反動を生かした、バネのように俊敏で、なおかつ俺の意表をついたその行動。回避行動を終えたばかりの俺には避けられる余裕がなかった。


(避けられないなら———!)


 俺は逆に、上半身を起こした。顔面にラウラウの武器が振り下ろされる。
 その時、上を跳ぶラウラウの発した言葉が確かに聞こえた。


「———そう言えば、折れた木の棒は?」


 振り下ろされる瞬間、俺は武器が顔面に当たる前に大きく顔を逸らした。武器は頭を逸れて、通り抜け、頭の後ろの地面に落ちる。そのままラウラウがぶつかってくる。
 それに対して俺は、服の中に隠していた木の棒を、足を上げて突き上げる。腹のところに縦で隠していた棒。それを足で突き上げさせると、アレを動かす。


「おっぱ———ぷひゃん!」


 俺の巨乳が、武器の重さに引っ張られて眼前に迫ったラウラウの顎にヒットした。ただ乳房の弾力で攻撃したわけではなく、胸につけていた硬いワッペンを当てたのだ。割れるリスクもあったが、これしかないと感じたからやった。
 後悔はない、恥ずかしいけど。


「ぷぶッぷっ———」


 変な声を上げながら、俺の頭の上を通り過ぎて、後ろの方へ吹っ飛び地面を滑るラウラウ。
 反動で激しく揺れる胸の重さにバランスが崩されながらも、立ち上がって、駆け寄り、うつ伏せで倒れるラウラウの背中に乗っかる。


「くっ! うう」


 砂まみれの顔を上げるラウラウは、まだ戦意がある。
 時計剣を持った方のラウラウの手を足で押さえつける。


「これであとは腹に付けた……」

「させ、ない!」


 押さえ付けられていない腕を背中側に捻って回して、俺の太ももをつねり上げてきた。


「いっ、だっ!」


 激痛が走るが気にしてられない。
 背中に乗っかったまま、腹を攻撃するためにひっくり返すか否かを考える。しかしひっくり返すと武器を持つ手を解放する事になるためリスクが高いと考え、背中側から攻撃して、腹にあるワッペンを地面と挟んで潰し、割ろうと考えた。
 ラウラウの腰の辺りに尻を乗っけて、全体重をかける。


「ぐ、うう、カハッ……あ、ぁあ……けほっ、んん、ゲほッ」


 腹が押さえつけられてラウラウが苦しそうな声を上げる。だがワッペンが壊れるまでの辛抱だとして、聞かないようにする。
 しかしラウラウは一枚上手だった。ずっと離さないでいた時計剣をあっさり手放すと、両手を使って俺の足を持ち上げて来た。そのまま信じられない力で俺の体を持ち上げ、おんぶの体勢のまま立ちあがろうとする。
 力で押し返そうとするが、できない。原因はわかっている。


(コアの、ちから差……!)

「こほっ、こほ! アタシだって……アタシだって!」

(まずい!)


 おんぶのまま立ち上がり、そしてラウラウは後ろに倒れ込む。このままだと逆に俺が乗っかられてしまい、そして俺のワッペンは胸にある。俺がやろうとした背中側から押し潰して割る方法よりも、体が上を向いてしまうこれからの俺の体勢の方が割るのに簡単だ。


(倒させるわけにはいかない!)


 と、その時、視界の横にラウラウの手放した時計剣が見えた。掴まれた足を激しく動かして、もがき、ラウラウの手から抜け出し時計剣に足を引っ掛けて引き寄せる。


(足から、コアを———)

「たあああああ!」


 ダァン!
 俺の背中は強かに打ち付けられた。だがそれは地面ではなく、時計剣の上だ!
 衝撃によるダメージも、地面にぶつかるよりも薄い!


「なっ! アタシの剣を!」

「咄嗟だったが……」


 足からコアを流し込み、時計剣の二本の剣を動かした。そしてそれを真下に配置することで、地面に刺さり込み、結果時計剣は斜めの形で立った。


「そしてぇ……」

「え、なに……何する気よ!」


 動揺したラウラウは俺の足を解放した。その一瞬の隙を見逃さずに、背中側からラウラウの腰に足を回して抱き込んだまま固定する。


「私が欲しいのは、ラウラウの体重!」

「は、え、まさか———!」


 俺の体重とラウラウの体重。二人分の体重を支えられるほど、剣は頑丈ではなかった。地面に突き刺さったまま、時計剣の本体にかけられた重量のせいで、ボキン!と折れた。


「ああッ! アタシのっ」


 倒れ込む俺とラウラウ。
 剣を折ることに成功したが、まだだ。腰に回した足は緩めない。そのまま締め上げる。足の下にワッペンの感触はある!


「が、アア、あァあぐぅううッ———くあああ!」


 腹が締め付けられて苦しむラウラウ。彼女の武器は刃をもがれて、俺の背中側にある。もうなす術ないはずだ。


「割れろ……ワレ、ろ!」

「ぐうウあア……ぁ、あ、あ、あ……ごひゅっ、けほっ、かはっ!」


 さらに締め付ける。
 ギリ、ギシギシ、ミシ、と後ろの時計剣の軋む音と一緒に骨が軋む音がする。


(あれ、これ、マズイんじゃ……このまま行くと、ラウラウの脊髄が折れてしまうんじゃ。そうでなくても腰の骨が……)

「が、アア………………………」


 もう苦しむ声さえ無くなって来ている。このまま行くと取り返しがつかなくなるかも。そう考えてしまい、俺は、思わず足の力を緩めてしまった。
 瞬間———ラウラウの意識が一気に覚醒した気配がした。締め付けていた足を手で掴むと、無理矢理剥がし始め、コアの力量差からあっけなく取られてしまった。そしてそのまま足を掴んで背負い投げして来た。
 咄嗟に地面にぶつかる前に両手を置いてダメージを回避し、跳び退いて着地する。着地した瞬間、コアやパワーを使いすぎたのか、視界がぐらついた。
 歪む視界の中で、ラウラウはゆらりと立ち上がっていた。


「アンタの不安要素、変なところで甘い部分……へへ、まだ残ってたわね」


 そう笑いながら、ラウラウはキュッと縮めていた腹を戻す。まさか腹を窄めてわざと骨が折れるくらいまで締め付けさせたのか!骨の軋む音を聞き、俺が力を抜くと知って!


「う、ぐ、マズい……」

「完全に変われたのは、アタシの方だったわね!」


 剣は壊れたが、武器を取り戻し、彼女は勢いのまま突進してくる。
 俺は服の中から木の棒を取り出して、迎え撃つ体制を整える。
 が、瞬間、意外な事が起きた。なんとラウラウが時計剣を振り上げた瞬間に、破裂して壊れたのだ。


「え! な、なんで壊れて……」


 俺は予想がつかなかった。


「———まさか、ブラックパンツァーのコアの力を受けて? くっ! だったら!」


 ラウラウの方は原因がわかった様子だった。
 わからないままの俺とは違って、壊れてもすぐに攻撃の意思を取り戻す。拳を握り込んで使ってくる。
 それを見て……俺は咄嗟に持っていた木の棒を手放した。


「ッ! やっぱりアンタは!」


 変わらず、甘いのか。
 違う、向かってくる拳を見て、元の自分が蘇った気がした。
 喧嘩なら慣れない武器を使うべきではないと。心に刻まれた経験と“自信”がそうさせたと思った。
 ならその“自信”を信じてやらねばなるまいて!
 俺は足を踏み込み加速した。そして拳を躱し、ラウラウの鳩尾に肘を突き刺す。ドスッ、と入った肘はラウラウの意識を昏倒させかける。
 だがラウラウも完全に意識を失ってはいない。踏ん張って、さらに殴り返してくる。それを見て俺は、彼女の横頬目掛けて拳を突き出す。
 ただの拳ではなく、肩を回し、腕を伸ばす最中に回転させて、勢いを増した必殺パンチ。


「“木瓜紋もっこうもん!!」


 殴り飛ばされたラウラウの体は、天高く吹き飛ばされて、最後に地面に落下した。
 俺も、無理だとわかっていても、やってしまった技により肩の痛みで崩れ落ちそうになる。だがその前に……俺は仰向けに倒れるラウラウの腹にあるワッペンを取り外し、地面において踏み壊した。


『ラウラウ、ナキア! 脱落!』


 ▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲

「うう……ん」


 ラウラウが目を覚ました。彼女は寝転んだまま辺りを見て、俺を発見するとしばらく無言で見つめてきて、そしてフッと笑った。


「負けたのね」

「ああ、勝った」

「フッ、くすくすっ……体が心地いい、治してくれたの?」

「ナキアがな」

「ラウラウ大丈夫?」

「平気よ。ありがとう、それと、ごめんなさい。負けちゃった」

「完全にラウラウ頼りだったから文句言えないよー」


 ラウラウとナキアは互いに微笑み合い、そしてラウラウは俺の方を再度見て来た。


「ところで、もう行かなくていいの? もしかしてアタシが起きるまで待ってた?」

「ああ、言いたい事があって」


 ギブソン時はなんも話せなかったしな、と心の中で付け加えてから、しゃがんでラウラウの方に手を伸ばす。


「これからもよろしくな、ラウラウ」

「……ちょーっと図々しいというか、なんというか」

「喧嘩別れしたくない相手とはいつもこうしてんだ。喧嘩すんのは仕方ない、なら、喧嘩した後にどうするか……ってな」

「喧嘩に綺麗さ求めてる? てか、喧嘩じゃなくて勝負だし……ま、いいや」


 ぎゅっ、と握り込んでくる手。
 そして思いっきり引っ張り込み立ち上がらせる。互いに視線を正面に合わせて、笑う。


「あはは、変なの」

「そうか?」

「うん、なんか変。てか、早く移動しないと他から狙われちゃうよ?」


 その時、グラウンドの方から爆発音が連続して聞こえて来た。


「なんだ、今の?」

「……多分、音から察するにテンテラの“爆撃”かなぁ」

「爆撃?」


 俺の質問には答えず……と言うか、聞こえてないようで、ラウラウは俺を見つめると、ポツリとつぶやいた。


「心ってなんなんだって思ってたけど、見つけたかも」

「え?」

「んーん、なんでもない。それじゃ、頑張って」

「ああ」

「ニーナもね」

「………………………………………」


 話しかけられても、ニーナはラウラウの腕のあたりを見つめて固まったまま喋らなかった。反応すらない。


「ニーナ?」

「………何も考えてないから」

「え? ああ、うん。ん?」


 返答の意味がわからず思わず首を傾げてしまう。
 ラウラウもどういう事なのかわからない様子だったが、ナキアは思案顔のまま顎を引いてニーナを見つめた。


「……それじゃ、アタシたちは言われた通り講堂行くから。って、すぐそこだ」

「ああ、またな」

「ええ、また」


 そうしてラウラウとナキアと別れた俺は———その場にうずくまる。


「ぐぐぐぐ……い、いでぇ……」

「我慢しすぎ」


 手をかざした先から、優しい光がニーナから発せられて、そうして段々と体が良くなって来た感覚がした。


「おお? 治った?」

「外傷はね。けど、体力とかコアの量までは元通りにできてないから。あと———」


 ダラン、と腕を下ろして、バツが悪そうな顔になったニーナは一言。


「回復は後一回が限界」

「サンキュー、ニーナ」

「ううん」


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