異世界転移した先で女の子と入れ替わった!?

灰色のネズミ

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八話

勇者の守るものを知るために

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「「「ギブソンが退園した⁉︎⁉︎」」」


 勇者の紅屋と、五芒星のリキュアと共に学園長室に向かい、学園長から聞かされたのは衝撃的なものだった。
 なんとギブソンがこの学園を辞めたのだと言う。


「もとからルームメイトのライドウ君から言われてた事みたいで、勇者が気に入らないから勇者を殴った自分として、これ以上この学園には居られないってさ」


 ソファに座らせてもらい学園長の話を聞き終わる。テーブルを挟んで対面に座る紅屋は、すっかり俯いてしまっている。


「あの……」

「待ってください、ソニア殿」


 声をかけようとしたところで、隣に座るリキュアに肩を掴まれて止められる。そして耳元で『慰めるのはもう少し様子を見てから』と言われた。
 確かにギブソンが退園したと言うだけで紅屋が落ち込むだろうか。俺の知らない何かが彼女とギブソンの間にだけあって、それで責任か無念を感じて落ち込んでいるのだとしたら俺の出る幕はない。
 どうして落ち込んでいるのか、わかりようがない。安易に踏み込むべきではないか。
 なら俺が聞くべきは……学園長に対してかも。


「学園長、ギブソンが退園した理由ってそれだけなんですか?」

「勇者を殴り飛ばしてもう選ばれる事はないと諦めた事と、もう一つ理由がある」

「それは?」

「彼はまだ夢をあきらめていない、そのための各地を巡る旅だそうだ」


 夢?
 勇者を越える勇者になる、と言うやつか。
 それとも勇者を解体すると言ったアレのことか。
 どちらにせよ、勇者に関連することで、そのために旅に出たのだとすると……んー、どう言うわけなんだろう。
 と、そこでリキュアが推察を述べた。


「ギブソン殿の事ですから何か答えを求めているはずです。ソニア殿に戦いを申し込んだ時と同じく、些細なことでも気になるとどうしても答えを見つけ出したい。そういう人です」

「そうかもな」


 リキュアの考えに納得してしまう。確かにアイツはそう言う奴だな。


「どうして……」


 と、そこでずっと黙っていた紅屋がポツリと言葉をこぼした。
 俺とリキュア、そして学園長は黙り込む。
 静かな学園長室に紅屋の声が通る。


「今年は私が旅に行くって言うのに……どうしてあなたが先に行っちゃうのよ」


 何か声をかけようとして、またリキュアに止められた。
 そして紅屋は誰の顔も見ようともせず、顔を伏せたまま立ち上がった。そして最後に一言こぼした。


「初めての恋だったんだけどなぁ……」


 そうして紅屋は部屋から出ていく。
 それに応じて学園長がどこかに電話して、連絡していた。聞いてみると勇者の護衛に来ていたスーツのボディガード達に連絡して、紅屋を王都に返すよう指示したらしい。


「大丈夫か、アイツ……心の支えになってくれる人は、紅屋のそばにいるのかしら」

「ソニア殿は優しいのですね」

「そうかな。自分勝手な妄想する時もあるんだけどね」

「美徳は人それぞれ。それがこの学園の道徳の一つでもありますし」

「そっか」

「しかし私も紅屋殿の様子は気になりますね。彼女が王都に帰るまでに追いかけて声をかけてみます。ソニア殿は学園長とお話があるのですよね」

「あ、うん。ありがとう」

「ふふっ、それでは」


 リキュアも立ち上がって部屋から出ようと扉のドアノブに手をかけたところで……ふと、リキュアの動きが止まった。なんだろうと思い首を傾げてその背中を見つめていると、リキュアが振り返ってこちらを見つめてきた。
 その目は印象的だった。いつかの食堂での事、俺を見ていない目とは違う、俺だけを見つめている目。


「ソニア殿。どうしても認められない美徳もありますよね」

「え、ああ……」


 どこか思い悩んだ雰囲気の彼女は、俺に尋ねてきた。
 今の話の続きだろうか。しかし彼女は真剣そのもの。彼女の心が少し垣間見えたと感じた。


「ソニア殿」

「なに?」

「もしそれが、認めなくてはならないとしたら……どうしますか」

「どう言う状況か想像もつかないけど、私はさっきも言った通り、自分勝手だし。好きなようにすると思う」

「ああ、なるほど。私もそうあれたらどれだけ“楽”か……ふっ、【極楽鳥】の異名が泣きますね」

「……ねぇ、もしかしてリキュアが今想像してる、そのムリでも認めないといけない相手ってさ、朝倉颯太?」

「…………」


 しばらく黙り込んで、ドアノブを捻ってから扉を開けて、出て行く瞬間にリキュアはボソリと呟いた。


「もしも貴女が勇者だったらなと、考えてしまいます」


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