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三話

勇者が2人来たようで

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 ———一方、ソニア側

 “深力”は心が重要!
 肉体ではなく心が重要なら、今の俺にとって救いとなる。この体だと戦闘面での期待はできなかったが、心なら多分大丈夫。まあ今の状態でコアが正常に扱えるかはわからないが。
 と、そんな事を考えている内に突然ベルとアナウンスが流れて、言われた通り俺はレッサーベアーと共に講堂に向かっていた。


「ところでさ、レッサーベアー」

「なに?」

「なんでここまでしてくれたの? そういえば興味があるって言ってたけど、詳しくは聞いてなかったなって」

「あなたが私と違う考えの持ち主かも知れない。そう思ったから会話したかったの。心の成長のためにね」

「なんで私がアンタと違うって思ったの?」

「勇者召喚以前におらず、その後にいきなり現れた女の子……なら勇者召喚を見て心変わりをして歩み出した、そんな子だと考えてね。私は男勇者に興味ないしー、だからあの勇者を見てあなたが何を思ったのか聞きたかったの」

「なるほど。てことは俺、一方的に借り作ってるだけか? 何も返せてないぞ」

「仕方ないわよ。今度また会いましょう……と、私の女の子達が待ってたみたい。行くわね」

「あ、ああ」


 講堂の前まで行くと中学生と思しき女の子や、同級生、上級生の女の子まで揃ってレッサーベアーを待っていたようだ。彼女は可愛いウィンクをしてから俺に別れを告げてそちらへ行った。


「こぐまちゃん。もしかして新しい彼女?」

「ううん、メインターゲット。なかなか堕ちなくてね」


 レッサーベアーと彼女の女の子達のそんな会話が聞こえて来た。ターゲット、そう聞いて恐ろしさから寒気がした。
 てか服も運動着で肩も腹も脚も出てしまっているから寒いんじゃないか。他にも同じように着替える暇もなく運動着で来ている生徒もいるが……やはり恥ずかしいから着替えたかった。でも早急に集まれとの事なので着替えるたびに苦悩している俺は時間がかかりそうで迷惑かけそうだな。


「けどやっぱ恥ずかしい……」

「私も掴むスカートが無くて困るわ」

「なんで掴むのが義務みたいになってんだよ」


 ジト目で、いつのまにかそばにいニーナを睨む。俺のスカートをなんだと思ってるんだ。
 そしてニーナも招集に応じて来たらしい。


「ほら、行くわよ。どうやら勇者様が来てるみたい」

「なっ! ゆ、勇者って……」


 ニーナに手を引かれて講堂に入る。途中持ち物検査があったが、俺はされなかった。まあ何か持てるような服ではないし、ポッケはあるが、何か入れてたらすぐ気づく。
 そして講堂に入ると真ん中のステージに見覚えのありすぎる姿があった。


「ッ! あ、アイツ……!」

「私たちの代の勇者。私たちの中から仲間を選ぶ人。126代目勇者の浅倉颯太ね」


 すぐ横でニーナから本来の自分の名前が呼ばれて変な感覚だった。ニーナは俺を呼んだわけじゃない、それがまた異質で……どこか寂しさを感じた。
 角刈りで、身長180と1センチの背が高めで筋肉もついてる、学生服の少年。あの学生服は高校のもので、買った後に帰宅途中の電車に乗っていると、この世界に来た……あれを着るのは俺のはずだったのに。


「どうしたの?」

「あ、いや……」


 ニーナに手を引かれたまま、適当な空いてる席に座った。


(しかし……アイツ、何のつもりだ?)


 まさかこの学園に現れるとは微塵も思っていなかった。次に会うのは勇者が仲間を選ぶ時だと思っていた。
 俺はアイツが……ソニアが元に戻りたくないのだと考えている。学園長に頭を下げられてニヤついているのがその証拠だと思う。


(アイツは勇者という立場になれた事を嬉しんでいる。ルームメイトのロザリアの話からすれば、卑屈ながらもあんな風に賛美される立場を望んでいた節がある。あれこそがヤツの望んだもの)


 真ん中のステージには元俺と、学園長、そしてそれなりの装備を着た日本人っぽい女の子と、偉大な魔術師ナパがいた。
 ナパさんは俺が見ていることに気づいて、視線をこちらに送り、こちらは任せろという感じで頷いた。


「わ、あのナパさんがこっち見てたね」

「そう……」

「関心ないの?」


 適当に生返事してしまうことになってしまったが、それでも俺は突然現れやがったアイツの事を考えざるを得ない。
 あそこにいるナパさんの話では、入れ替わりは魔王の力で行われたという。魔王の力を感知したから間違いないんだとか。
 ならこの入れ替わりはアイツにとっても不本意なはず。少なからず元に戻りたいと思うべきじゃないか?けれどアイツは楽しんでいる。


(それほど今の勇者として褒め称えられる状況が気に入ったのか、それとも入れ替わりを引き起こした張本人か……)


 どちらも可能性はある。そしてその可能性をここにいる俺が考えていることを、向こうもわかってるはずなんだ。けどアイツはここに現れた。
 どういうつもりだ?
 たしかに護衛もいて俺の方から手出しは出来そうもないが、しかしここに来るのは元に戻りたくないアイツにとってリスクが高いはずだ。


「なあ、ニーナ」

「なに?」

「勇者ってよくこの学園に来るのか?」

「そりゃもちろん、仲間を選ぶためにも学生とは交流しとかないと。でも中にはぜーんぜん来ない勇者もいる。来るか来ないかは勇者が決めるみたい、王都側はなるべく来させたいはずだけど、決定権は勇者にある」


 つまりアイツは望んでこっちに来たというのか。しかもなんの連絡も学生側に来てないところを見れば、急な来訪のようだ。
 ナパさんが付いているのは、ヤツを警戒してくれているからだろうな。無理にでもココに来てくれたのかも。


「ちなみに、横にいるあの目立つ女の子も勇者だから。124代目の、今年の卒業生を選んで、今年旅立つ人」

「そうなのか」

「名前は紅屋べにや桜姫おうひ。知ってる?」

「いや」

「そう」


 つまり俺の前の前の代の勇者か。もしかしてその紅屋について来て、アイツも来たのかもな。それともアイツが行くと言ったから紅屋もついて来た?
 と、そこで紅屋がある方向に視線を向けたのが見えた。その視線を辿ってみると、あの金髪で体のでかいBクラスの男子、ギブソン・ゼットロックがいた。


「ん? なんでギブソンの方を見てるんだ?」

「そりゃあ……ギブソンは命の恩人だからじゃない?」

「命の恩人?」

「二年前、彼女が来たばかりの頃に、彼女は勇者という立場から逃げ出そうとした。けど逃げ出した先で王都のならず者に捕まって……それをギブソンが助けた」

「なるほど……」


 ギブソンと124代目勇者には関わり合いがあったのか。


「ま、ギブソンの女の子救出体質はみんな知ってるから別に驚くことじゃないけどね。も前に話してたし~」

「……わかってて揶揄ってるだろ」

「まあね。意図せず私もちょっとずつ核心に近づいてるみたいだし」

「……女の勘ってやつか?」

「あなたにはないのかしら」

「あったらいいな」


 あったら、アイツの考えもわかるだろうに。
 俺はステージに立つ元俺からのニヤついた視線を受けて、それを睨み返した。
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