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二話
パンツの友情
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———少し時間を遡る。時はソニアに友達ができた授業中の学生寮の三階から。
「こんな友達のなり方でよかったの?」
「海賊の探す宝物だってな、誰かが昔に作った物だ。宝箱もな。宝物とは作るもの。だから俺とニーナの友情は二人だけのオリジナルでいいんだよ。他人のやり方を見習う必要は一切無い。これでいいんだよ。俺は胸を張ってそう思う」
「パンツ見せ合うのが私らの友情?」
「ち、ちげーよ! あれは事故みたいなもんだからっ!」
脳に焼き付いた赤と黒の燃え上がるようなニーナのパンツを思い出してしまい、忘れるためにも首を振って弁明する。
と、ふとしてニーナは質問してきた。こてんと小首を傾げて顔を覗き込んでくる。赤い目がこちらを見る。その目の中にはついさっきまでの距離を置こうとする感じはなかった。
「あ、友達になった記念に一つ聞いていい?」
「答えられないものは答えられないぞ。あ、あとこっちも二つほど聞きたいことがあるんだが」
「答えられないって前置きしといて私より一つ多く聞くつもり? 強情な人。ま、多分答えられないだろうから先に私から聞いて、その後にあなたの質問に答えるわ」
「えと、何が聞きたいんだ?」
「あなたは、だあれ」
ジッ、と目を覗き込んでくる赤い瞳。
「……言えない。言いたいけど」
「そう……うん。わかった」
俺の内心を見抜いたかのように、あっさり承諾してくれた。
「では交換条件。どうぞいくらでも聞いて」
「ならまず一つ目」
「うん」
「なんでフード付きパーカー着てるんだ?」
「そんなこと? これは地元が結構暑い場所で、でも私は肌が弱くてね。肌を守るためにフードが必要だったの。ここでは気にして無いけど、生まれてからずっと何かしら被ってたから、クセでね」
「そうなのか。ネコミミがついてるのはなんで?」
ニーナの頭の上にあるネコミミを弄りながら尋ねる。その手は優しく掴まれて、ネコミミから離された。
「それが二つ目?」
「あ、ごめん。違う」
「ならネコミミに関してはまた今度って事で、二つ目は?」
俺は周りを見て、授業中の時間帯だと言うこともあり人気が少ないのを確かめてから、ニーナに向き合って訪ねる。
「なんで俺が入れ替わってるってわかったんだ? 直感だとしても、人が変わっているってわかるものか?」
「………」
「ん?」
黙り込んだニーナに首を傾げる。ニーナの顔は、真顔だった。
その顔にちょっとビックリする。
「な、なんだよ」
「もしも私が犯人だとしたら? 入れ替わりを引き起こした犯人が、私だとすると? そしたら入れ替わっている事を納得したのも納得できる———」
「そりゃないな。ソニアしかいない状態のお前が、ソニアが離れて行くきっかけを作るような事をするわけがない。本当にそうならこうして友達になれるわけもなし。何より———どうやって入れ替わっているのか、言えるか?」
「ぷっ、あはは。さすがにバレるか」
真顔から一点、綻んでお淑やかに口に手を当て楽しそうに笑うニーナ。やっぱりからかって来てたのか。
「実は私の地元の童話に、二人の人間の精神が入れ替わるってお話があってね。人が変わったあなたを見ながらもしかしたらあの童話と同じことが起きているのかも、そう思い出すと段々と確信に近づいた、という感じ」
「そうなのか……」
童話……その童話にもしかして、入れ替わりを元に戻す方法があるかも知れない。後でニーナに詳しく聞いてみるか。
「ああ、あと。お前が犯人だとしても友達はやめないから。別に犯人だとしてもお前との関係性は変わんねーな」
「いいの?」
「いいも悪いも俺はお前とこれから付き合いたいと思ったから友達になりたいと願った。それは決して揺るがさない」
「……私も言っておくわ」
「ん?」
「もしソニア本人が友達になりましょうと持ちかけて来てたら、私は多分突っぱねてた。あの子の卑屈さを心の拠り所にしてから、それ以上は、なんか違うと思ったはず。だから———」
ニーナは微笑んだ。
「私が友達と認めたのはあなただけ」
「それは光栄だな」
二人して笑い合う。するとそこで授業終了のベルが鳴った。
「このベルって」
「一限目終了の合図」
「やばっ! 戻ろう!」
「あ! 待ってっ!」
走り出そうとしたところで、スカートをニーナに掴まれた。と、そこでとんでもないことが起こる。
走り出そうとした俺のスカートをいきなり掴んだものだから、スカートの留め具が壊れて、そして———スカートがずり落ちた。
「………」
「………」
パンツ丸出しで固まる俺と、俺のスカートを掴んだままジッとこちらを見つめるニーナ。静寂が流れて、それを破ったのはニーナだった。
「やっぱり私たちの友情ってパンツ———」
「違うから! というかなんでスカート掴んだんだよ!」
「うん。今日は、サボりたい気分」
「え?」
「あなたとちょっと話していたいの……もちろん、あなたが嫌なら私も潔く身を引くわ」
「………」
ニーナは学生寮の一階にある食堂に誘って来た。そこで授業をサボりながら話がしたいのだという。
俺は一瞬サボることのデメリットを色々考えたが、その考えは鼻を鳴らすと共に消え去った。代わりにこう返す。
「その前にスカート直していい?」
「もちろん」
まあいい機会かもな。ちょうど入れ替わりの童話についても聞きたかったところだしな。
それにこの世界での初めての友達のお願いだし。
「こんな友達のなり方でよかったの?」
「海賊の探す宝物だってな、誰かが昔に作った物だ。宝箱もな。宝物とは作るもの。だから俺とニーナの友情は二人だけのオリジナルでいいんだよ。他人のやり方を見習う必要は一切無い。これでいいんだよ。俺は胸を張ってそう思う」
「パンツ見せ合うのが私らの友情?」
「ち、ちげーよ! あれは事故みたいなもんだからっ!」
脳に焼き付いた赤と黒の燃え上がるようなニーナのパンツを思い出してしまい、忘れるためにも首を振って弁明する。
と、ふとしてニーナは質問してきた。こてんと小首を傾げて顔を覗き込んでくる。赤い目がこちらを見る。その目の中にはついさっきまでの距離を置こうとする感じはなかった。
「あ、友達になった記念に一つ聞いていい?」
「答えられないものは答えられないぞ。あ、あとこっちも二つほど聞きたいことがあるんだが」
「答えられないって前置きしといて私より一つ多く聞くつもり? 強情な人。ま、多分答えられないだろうから先に私から聞いて、その後にあなたの質問に答えるわ」
「えと、何が聞きたいんだ?」
「あなたは、だあれ」
ジッ、と目を覗き込んでくる赤い瞳。
「……言えない。言いたいけど」
「そう……うん。わかった」
俺の内心を見抜いたかのように、あっさり承諾してくれた。
「では交換条件。どうぞいくらでも聞いて」
「ならまず一つ目」
「うん」
「なんでフード付きパーカー着てるんだ?」
「そんなこと? これは地元が結構暑い場所で、でも私は肌が弱くてね。肌を守るためにフードが必要だったの。ここでは気にして無いけど、生まれてからずっと何かしら被ってたから、クセでね」
「そうなのか。ネコミミがついてるのはなんで?」
ニーナの頭の上にあるネコミミを弄りながら尋ねる。その手は優しく掴まれて、ネコミミから離された。
「それが二つ目?」
「あ、ごめん。違う」
「ならネコミミに関してはまた今度って事で、二つ目は?」
俺は周りを見て、授業中の時間帯だと言うこともあり人気が少ないのを確かめてから、ニーナに向き合って訪ねる。
「なんで俺が入れ替わってるってわかったんだ? 直感だとしても、人が変わっているってわかるものか?」
「………」
「ん?」
黙り込んだニーナに首を傾げる。ニーナの顔は、真顔だった。
その顔にちょっとビックリする。
「な、なんだよ」
「もしも私が犯人だとしたら? 入れ替わりを引き起こした犯人が、私だとすると? そしたら入れ替わっている事を納得したのも納得できる———」
「そりゃないな。ソニアしかいない状態のお前が、ソニアが離れて行くきっかけを作るような事をするわけがない。本当にそうならこうして友達になれるわけもなし。何より———どうやって入れ替わっているのか、言えるか?」
「ぷっ、あはは。さすがにバレるか」
真顔から一点、綻んでお淑やかに口に手を当て楽しそうに笑うニーナ。やっぱりからかって来てたのか。
「実は私の地元の童話に、二人の人間の精神が入れ替わるってお話があってね。人が変わったあなたを見ながらもしかしたらあの童話と同じことが起きているのかも、そう思い出すと段々と確信に近づいた、という感じ」
「そうなのか……」
童話……その童話にもしかして、入れ替わりを元に戻す方法があるかも知れない。後でニーナに詳しく聞いてみるか。
「ああ、あと。お前が犯人だとしても友達はやめないから。別に犯人だとしてもお前との関係性は変わんねーな」
「いいの?」
「いいも悪いも俺はお前とこれから付き合いたいと思ったから友達になりたいと願った。それは決して揺るがさない」
「……私も言っておくわ」
「ん?」
「もしソニア本人が友達になりましょうと持ちかけて来てたら、私は多分突っぱねてた。あの子の卑屈さを心の拠り所にしてから、それ以上は、なんか違うと思ったはず。だから———」
ニーナは微笑んだ。
「私が友達と認めたのはあなただけ」
「それは光栄だな」
二人して笑い合う。するとそこで授業終了のベルが鳴った。
「このベルって」
「一限目終了の合図」
「やばっ! 戻ろう!」
「あ! 待ってっ!」
走り出そうとしたところで、スカートをニーナに掴まれた。と、そこでとんでもないことが起こる。
走り出そうとした俺のスカートをいきなり掴んだものだから、スカートの留め具が壊れて、そして———スカートがずり落ちた。
「………」
「………」
パンツ丸出しで固まる俺と、俺のスカートを掴んだままジッとこちらを見つめるニーナ。静寂が流れて、それを破ったのはニーナだった。
「やっぱり私たちの友情ってパンツ———」
「違うから! というかなんでスカート掴んだんだよ!」
「うん。今日は、サボりたい気分」
「え?」
「あなたとちょっと話していたいの……もちろん、あなたが嫌なら私も潔く身を引くわ」
「………」
ニーナは学生寮の一階にある食堂に誘って来た。そこで授業をサボりながら話がしたいのだという。
俺は一瞬サボることのデメリットを色々考えたが、その考えは鼻を鳴らすと共に消え去った。代わりにこう返す。
「その前にスカート直していい?」
「もちろん」
まあいい機会かもな。ちょうど入れ替わりの童話についても聞きたかったところだしな。
それにこの世界での初めての友達のお願いだし。
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