異世界転移した先で女の子と入れ替わった!?

灰色のネズミ

文字の大きさ
上 下
6 / 95
一話

初めての友達

しおりを挟む
 ニーナと共に教室に向かう途中で、俺はスマホに似た通信器具『フラン』を使って検索して、勇者学園の公式ホームページから生徒の一覧を開く。そこから先ほどの大きな身体をした強そうな金髪の男子を探す。
 どういう方針なのかわからないが、この学園は男女比率で女子の方が多い。なので少ない男子の中から探すのは簡単だった。


「名前は……ギブソン・ゼットロック。所属はBクラス、か」


 Bクラスは、俺がAクラスになるための足掛かりとなる。Bクラスの生徒と戦って勝てば俺もBクラスに昇格する。
 その昇格戦の相手は……このギブソンにするべきか?いやまだ決定するのは早い。


「……ねぇ、

「あ、え? なに?」


 名前を強調されて呼ばれ、フランから顔を上げてニーナの方を見ると、ニーナは俺の前で止まりこちらに顔を向けず、話し始める。


「前まではあんな感じじゃなかったよね?」

「あんな……って?」

「困った人の声を聞くとすぐさま立ち上がるような、そんなお人好しじゃなかった」

「え? そ、それが?」

「……………」


 ニーナは顔を俯かせた。黙り込む。
 しかしその手は俺のスカートの裾をつまんでいた。まるで『私が話し出すまでどこにも行かないで』と言いたげだった。
 俺はそんなニーナの肩に手を置いた。


「話してみて。ちゃんと聞くから。友達でしょ?」

「………」


 チラ、と赤い瞳をフードから覗かせてこちらを見てきたが、すぐに目を逸らして。



「今は、違うでしょ?」

「え?」

「……私は、ソニアと友達になったつもりはない。ソニアはどうか知らないけど」

「………」

「けど付き合いやすいからそばに居ただけ。あの日、勇者召喚の儀式の後に、学校に戻ってすぐに私から声かけたのも、あなたの様子が変でせっかくの居場所が無くなる気配を感じたから」

「居場所?」

「私は、王族だって一応話したよね? あなたとは寮の場所も違うし」


 学生寮のうち、2階が王族で、1階がそれ以外だ。


「うん。わかってる」

「でも私は落ちこぼれ。だから同じ落ちこぼれのソニアに近づいた。ハリボテでも居場所が欲しくて。それは別にソニアが好みだって話じゃなく……ソニアの卑屈さが、付き合いやすかっただけなの」

「卑屈……」


 この学園に来てから色々とソニアの話を聞いてきて、ある程度ソニアの人物像はわかっているつもりだ。卑屈だというのも、まあ間違いはないのだろう。


「でも、今のあなたは一緒にいてキツい」

「キツいって……」

「ポジティブな感じになってる。背筋も伸びた。多分、人が違っているんでしょうけど……それもちょっと不気味だし、近寄りがたい」

「………」

「でもね」

「ん?」


 そこで、ニーナはこちらに顔を向けた。赤い両目が俺を、ソニアの中にいる俺を見ているような気がした。


「今のあなたは居心地悪いけど、好みではあるかも」

「へ?」

「……もう無理して付き合わなくていいから」


 そう言ってニーナは足早に、俺を置いて教室に行ってしまった。
 俺はその小さな背中を見届けるしかなかった。


 ▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲
 Cクラスの縦列3番目、横列4番目の何でもない普通の場所がソニアの席だ。
 ニーナは縦列4番目、横列2番目の前の方の席。ニーナの背中が見える。


「えー、中学の時にもう学んだと思いますが基礎は大事という事で、改めて我々の中に眠るパワーについて説明しましょう」


 教壇で教師が授業を執り行う中で、俺はさっきの金髪の大男のことを考えていた。


(ギブソン・ゼットロック……Bクラスというのだからそれなりに強いはずだ)


 それと同時にこうも考えていた。


(ニーナは……なんであんな風に言ったんだろうか)


 目標であるBクラスのこと、そして……目の前で行われている授業はこれからの戦いに必要なことだ。


「……えー、我々には“深力コア”と呼ばれる力があり、筋肉隆々でも細身の女の子に力負けしてしまう光景を何度も見たことがあると思いますが、それはこのコアが影響しており、コアを鍛えるほど見た目以上のパワーやエナジーが得られるのです」


 けれど俺はもう一つ、重複して考えてしまっていることがあった。ニーナのことばかり考えてしまっていた。
 なぜだろう。ニーナは俺のことを解った上で突き放したのだ。
 もしも自分の友達の中身が誰かに代わっていたと想像してみると、怖いってレベルじゃない。恐ろしくてそばに置いときたくない気持ちになるだろう。だからニーナは突き放したと思うべきだ。そう考えるべきだ。
 彼女の気持ちを尊重すればおのずと……俺が、どうするべきか……———


(………)

「であるからして……このコアを高めるだけでなく、心身の成長も重要であると———」

「やっぱりおかしいいい!!!!」

「「⁉︎」」


 俺は立ち上がって、前に座るニーナの元へ向かった。そして驚く彼女の眼前に立ち、机を叩く。そして顔を近づける。


「なんでだよ! なんかおかしい! 確かにニーナの理屈は理解できるけど! ただ一つわからないことがある!」

「え?」

「お前の心の支えはどうするんだよ!」

「ッ⁉︎」

「お前、俺しかいないんだろ! 多分だけど! 俺がいなくなったら、そしたらお前、ひとりぼっちじゃんか! そんなん望むような事じゃない! お前は独りがいいのか?」

「え、えと……」


 俺はニーナの肩を掴み、さらに顔を近づける。


「お前が寂しそうにしてる姿を見て、俺はどーすればいい! その姿ばっかり想像しちまうんだよ! 俺は! そんなの見てられないんだよ! 頭の中の想像だけでも!」

「……ソニア」

「後で後悔するよりここで言ってやる! お前はずっと俺と一緒にいろ! 友達として!」

「………それ、私の答え、必要かな」

「あ、ああ! それは当然だ! もし本当に独りがいいなら俺も潔く腹を括って身を引く!」

「じゃあ答える前に一ついい?」

「なんだ?」

「今、授業中なのよね」

「あ……」


 気づいて周りを見れば、先生もクラスメイトもみんなポカンとしていた。そして先生は一瞬微笑んだ後、廊下を指差した。


「私が許可するわ。二人きりになってきなさい」


 ▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲
 学生寮の階段を最上段まで登ると、屋上に出る。出てみるとこの学園が一望できる。風が強い。長くなった髪が目にかかり、目を擦る。


「ん……。な、なあ本当に授業から抜け出して良かったのかな」

「抜け出したんじゃない。出されたのよ、先生直々に」

「……先生はどういうつもりなんだろ」

「それよりスカート捲れ上がってるよ」

「あ!」


 慌ててスカートを押さえる。風が強い日に女子がよくしていた行為を俺もすることになるとは。


「み、見えた?」

「ピンク」

「うぐっ」


 俺の趣味ではないが、どうやら履いてるヤツが見られてしまったらしい。いや女子の下着を履く趣味もないからな!


「こほん。で、俺らは———あ、いや、私たちは頭を冷やせってことなのかな」

「もういいよ。教室でもバリバリ男口調だったじゃない」

「あ、ああ……そうだっけ」


 自分でもわからないが、自分の中にあるモヤモヤが爆発してあんな真似をしてしまった。
 前を見ればニーナが短いスカートを小さな手で押さえながら、そっぽを向いていた。


「そうだ。答えを聞かせて欲しい」


 そこの気持ちは疑いようもない真実だ。俺は真摯に向き合うために、スカートから手を離して両手を横にする。バッサバッサスカートが捲れているが……男なら両拳を握るのが、覚悟の証だ。


「ニーナ、俺と友達になってほしい」

「…………?」

「ああ、俺と」


 その時、ニーナはチラッとこちらを見てから、俺と同じように両手を体の横にした。するとフード付きパーカーを着ているが、それでもスカートが捲れ上がって、赤と黒の燃え上がるようなパンツが見えてしまった。
 恥ずかしい気持ちになったが、男として、相手の覚悟を汲み取るときは堂々としなくてはならない。胸を張ってニーナに向き合う。
 結果パンツを見せ合う形になっているが、俺はニーナの答えを待つ。


「……私も後のことを考えてしまう」

「うん」

「もしあなたが元に戻った時、そのときは———」

「俺がお前を選ぶ」

「えっ?」

「俺が誰かまでは想像してなかったか。大丈夫だ、元に戻っても一緒にいる」

「……でも、実際のあなたとは付き合いも短い」

「友情に時間は必要ない。時計見ながら人とは会話できない。寸法や計測で友達はできない。俺は時計と友達になりたいわけじゃない、独りぼっちになってしまいそうなお前の心の拠り所に成れればそれでいい」

「本当に?」

「ああ」

「本当に……?」

「ああ」

「私の、ため?」

「ああ」


 俺たちは見つめ合う。泣きそうな顔の彼女の顔を見て、ああ言って良かったな、と後悔なんて微塵も感じなかった。
 泣きそうな顔を見て、思わず俺から言ってしまった。


「俺と、友達になってください」

「……はい!」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

令和の俺と昭和の私

廣瀬純一
ファンタジー
令和の男子と昭和の女子の体が入れ替わる話

入れ替わりノート

廣瀬純一
ファンタジー
誰かと入れ替われるノートの話

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

日本列島、時震により転移す!

黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

兄になった姉

廣瀬純一
大衆娯楽
催眠術で自分の事を男だと思っている姉の話

Another World〜自衛隊 まだ見ぬ世界へ〜

華厳 秋
ファンタジー
───2025年1月1日  この日、日本国は大きな歴史の転換点を迎えた。  札幌、渋谷、博多の3箇所に突如として『異界への門』──アナザーゲート──が出現した。  渋谷に現れた『門』から、異界の軍勢が押し寄せ、無抵抗の民間人を虐殺。緊急出動した自衛隊が到着した頃には、敵軍の姿はもうなく、スクランブル交差点は無惨に殺された民間人の亡骸と血で赤く染まっていた。  この緊急事態に、日本政府は『門』内部を調査するべく自衛隊を『異界』──アナザーワールド──へと派遣する事となった。  一方地球では、日本の急激な軍備拡大や『異界』内部の資源を巡って、極東での緊張感は日に日に増して行く。  そして、自衛隊は国や国民の安全のため『門』内外問わず奮闘するのであった。 この作品は、小説家になろう様カクヨム様にも投稿しています。 この作品はフィクションです。 実在する国、団体、人物とは関係ありません。ご注意ください。

処理中です...