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一話
初めての友達
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ニーナと共に教室に向かう途中で、俺はスマホに似た通信器具『フラン』を使って検索して、勇者学園の公式ホームページから生徒の一覧を開く。そこから先ほどの大きな身体をした強そうな金髪の男子を探す。
どういう方針なのかわからないが、この学園は男女比率で女子の方が多い。なので少ない男子の中から探すのは簡単だった。
「名前は……ギブソン・ゼットロック。所属はBクラス、か」
Bクラスは、俺がAクラスになるための足掛かりとなる。Bクラスの生徒と戦って勝てば俺もBクラスに昇格する。
その昇格戦の相手は……このギブソンにするべきか?いやまだ決定するのは早い。
「……ねぇ、ソニア」
「あ、え? なに?」
名前を強調されて呼ばれ、フランから顔を上げてニーナの方を見ると、ニーナは俺の前で止まりこちらに顔を向けず、話し始める。
「前まではあんな感じじゃなかったよね?」
「あんな……って?」
「困った人の声を聞くとすぐさま立ち上がるような、そんなお人好しじゃなかった」
「え? そ、それが?」
「……………」
ニーナは顔を俯かせた。黙り込む。
しかしその手は俺のスカートの裾をつまんでいた。まるで『私が話し出すまでどこにも行かないで』と言いたげだった。
俺はそんなニーナの肩に手を置いた。
「話してみて。ちゃんと聞くから。友達でしょ?」
「………」
チラ、と赤い瞳をフードから覗かせてこちらを見てきたが、すぐに目を逸らして。
「今は、違うでしょ?」
「え?」
「……私は、ソニアと友達になったつもりはない。ソニアはどうか知らないけど」
「………」
「けど付き合いやすいからそばに居ただけ。あの日、勇者召喚の儀式の後に、学校に戻ってすぐに私から声かけたのも、あなたの様子が変でせっかくの居場所が無くなる気配を感じたから」
「居場所?」
「私は、王族だって一応話したよね? あなたとは寮の場所も違うし」
学生寮のうち、2階が王族で、1階がそれ以外だ。
「うん。わかってる」
「でも私は落ちこぼれ。だから同じ落ちこぼれのソニアに近づいた。ハリボテでも居場所が欲しくて。それは別にソニアが好みだって話じゃなく……ソニアの卑屈さが、付き合いやすかっただけなの」
「卑屈……」
この学園に来てから色々とソニアの話を聞いてきて、ある程度ソニアの人物像はわかっているつもりだ。卑屈だというのも、まあ間違いはないのだろう。
「でも、今のあなたは一緒にいてキツい」
「キツいって……」
「ポジティブな感じになってる。背筋も伸びた。多分、人が違っているんでしょうけど……それもちょっと不気味だし、近寄りがたい」
「………」
「でもね」
「ん?」
そこで、ニーナはこちらに顔を向けた。赤い両目が俺を、ソニアの中にいる俺を見ているような気がした。
「今のあなたは居心地悪いけど、好みではあるかも」
「へ?」
「……もう無理して付き合わなくていいから」
そう言ってニーナは足早に、俺を置いて教室に行ってしまった。
俺はその小さな背中を見届けるしかなかった。
▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲
Cクラスの縦列3番目、横列4番目の何でもない普通の場所がソニアの席だ。
ニーナは縦列4番目、横列2番目の前の方の席。ニーナの背中が見える。
「えー、中学の時にもう学んだと思いますが基礎は大事という事で、改めて我々の中に眠るパワーについて説明しましょう」
教壇で教師が授業を執り行う中で、俺はさっきの金髪の大男のことを考えていた。
(ギブソン・ゼットロック……Bクラスというのだからそれなりに強いはずだ)
それと同時にこうも考えていた。
(ニーナは……なんであんな風に言ったんだろうか)
目標であるBクラスのこと、そして……目の前で行われている授業はこれからの戦いに必要なことだ。
「……えー、我々には“深力”と呼ばれる力があり、筋肉隆々でも細身の女の子に力負けしてしまう光景を何度も見たことがあると思いますが、それはこのコアが影響しており、コアを鍛えるほど見た目以上のパワーやエナジーが得られるのです」
けれど俺はもう一つ、重複して考えてしまっていることがあった。ニーナのことばかり考えてしまっていた。
なぜだろう。ニーナは俺のことを解った上で突き放したのだ。
もしも自分の友達の中身が誰かに代わっていたと想像してみると、怖いってレベルじゃない。恐ろしくてそばに置いときたくない気持ちになるだろう。だからニーナは突き放したと思うべきだ。そう考えるべきだ。
彼女の気持ちを尊重すればおのずと……俺が、どうするべきか……———
(………)
「であるからして……このコアを高めるだけでなく、心身の成長も重要であると———」
「やっぱりおかしいいい!!!!」
「「⁉︎」」
俺は立ち上がって、前に座るニーナの元へ向かった。そして驚く彼女の眼前に立ち、机を叩く。そして顔を近づける。
「なんでだよ! なんかおかしい! 確かにニーナの理屈は理解できるけど! ただ一つわからないことがある!」
「え?」
「お前の心の支えはどうするんだよ!」
「ッ⁉︎」
「お前、俺しかいないんだろ! 多分だけど! 俺がいなくなったら、そしたらお前、ひとりぼっちじゃんか! そんなん望むような事じゃない! お前は独りがいいのか?」
「え、えと……」
俺はニーナの肩を掴み、さらに顔を近づける。
「お前が寂しそうにしてる姿を見て、俺はどーすればいい! その姿ばっかり想像しちまうんだよ! 俺は! そんなの見てられないんだよ! 頭の中の想像だけでも!」
「……ソニア」
「後で後悔するよりここで言ってやる! お前はずっと俺と一緒にいろ! 友達として!」
「………それ、私の答え、必要かな」
「あ、ああ! それは当然だ! もし本当に独りがいいなら俺も潔く腹を括って身を引く!」
「じゃあ答える前に一ついい?」
「なんだ?」
「今、授業中なのよね」
「あ……」
気づいて周りを見れば、先生もクラスメイトもみんなポカンとしていた。そして先生は一瞬微笑んだ後、廊下を指差した。
「私が許可するわ。二人きりになってきなさい」
▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲
学生寮の階段を最上段まで登ると、屋上に出る。出てみるとこの学園が一望できる。風が強い。長くなった髪が目にかかり、目を擦る。
「ん……。な、なあ本当に授業から抜け出して良かったのかな」
「抜け出したんじゃない。出されたのよ、先生直々に」
「……先生はどういうつもりなんだろ」
「それよりスカート捲れ上がってるよ」
「あ!」
慌ててスカートを押さえる。風が強い日に女子がよくしていた行為を俺もすることになるとは。
「み、見えた?」
「ピンク」
「うぐっ」
俺の趣味ではないが、どうやら履いてるヤツが見られてしまったらしい。いや女子の下着を履く趣味もないからな!
「こほん。で、俺らは———あ、いや、私たちは頭を冷やせってことなのかな」
「もういいよ。教室でもバリバリ男口調だったじゃない」
「あ、ああ……そうだっけ」
自分でもわからないが、自分の中にあるモヤモヤが爆発してあんな真似をしてしまった。
前を見ればニーナが短いスカートを小さな手で押さえながら、そっぽを向いていた。
「そうだ。答えを聞かせて欲しい」
そこの気持ちは疑いようもない真実だ。俺は真摯に向き合うために、スカートから手を離して両手を横にする。バッサバッサスカートが捲れているが……男なら両拳を握るのが、覚悟の証だ。
「ニーナ、俺と友達になってほしい」
「…………あなたと?」
「ああ、俺と」
その時、ニーナはチラッとこちらを見てから、俺と同じように両手を体の横にした。するとフード付きパーカーを着ているが、それでもスカートが捲れ上がって、赤と黒の燃え上がるようなパンツが見えてしまった。
恥ずかしい気持ちになったが、男として、相手の覚悟を汲み取るときは堂々としなくてはならない。胸を張ってニーナに向き合う。
結果パンツを見せ合う形になっているが、俺はニーナの答えを待つ。
「……私も後のことを考えてしまう」
「うん」
「もしあなたが元に戻った時、そのときは———」
「俺がお前を選ぶ」
「えっ?」
「俺が誰かまでは想像してなかったか。大丈夫だ、元に戻っても一緒にいる」
「……でも、実際のあなたとは付き合いも短い」
「友情に時間は必要ない。時計見ながら人とは会話できない。寸法や計測で友達はできない。俺は時計と友達になりたいわけじゃない、独りぼっちになってしまいそうなお前の心の拠り所に成れればそれでいい」
「本当に?」
「ああ」
「本当に……?」
「ああ」
「私の、ため?」
「ああ」
俺たちは見つめ合う。泣きそうな顔の彼女の顔を見て、ああ言って良かったな、と後悔なんて微塵も感じなかった。
泣きそうな顔を見て、思わず俺から言ってしまった。
「俺と、友達になってください」
「……はい!」
どういう方針なのかわからないが、この学園は男女比率で女子の方が多い。なので少ない男子の中から探すのは簡単だった。
「名前は……ギブソン・ゼットロック。所属はBクラス、か」
Bクラスは、俺がAクラスになるための足掛かりとなる。Bクラスの生徒と戦って勝てば俺もBクラスに昇格する。
その昇格戦の相手は……このギブソンにするべきか?いやまだ決定するのは早い。
「……ねぇ、ソニア」
「あ、え? なに?」
名前を強調されて呼ばれ、フランから顔を上げてニーナの方を見ると、ニーナは俺の前で止まりこちらに顔を向けず、話し始める。
「前まではあんな感じじゃなかったよね?」
「あんな……って?」
「困った人の声を聞くとすぐさま立ち上がるような、そんなお人好しじゃなかった」
「え? そ、それが?」
「……………」
ニーナは顔を俯かせた。黙り込む。
しかしその手は俺のスカートの裾をつまんでいた。まるで『私が話し出すまでどこにも行かないで』と言いたげだった。
俺はそんなニーナの肩に手を置いた。
「話してみて。ちゃんと聞くから。友達でしょ?」
「………」
チラ、と赤い瞳をフードから覗かせてこちらを見てきたが、すぐに目を逸らして。
「今は、違うでしょ?」
「え?」
「……私は、ソニアと友達になったつもりはない。ソニアはどうか知らないけど」
「………」
「けど付き合いやすいからそばに居ただけ。あの日、勇者召喚の儀式の後に、学校に戻ってすぐに私から声かけたのも、あなたの様子が変でせっかくの居場所が無くなる気配を感じたから」
「居場所?」
「私は、王族だって一応話したよね? あなたとは寮の場所も違うし」
学生寮のうち、2階が王族で、1階がそれ以外だ。
「うん。わかってる」
「でも私は落ちこぼれ。だから同じ落ちこぼれのソニアに近づいた。ハリボテでも居場所が欲しくて。それは別にソニアが好みだって話じゃなく……ソニアの卑屈さが、付き合いやすかっただけなの」
「卑屈……」
この学園に来てから色々とソニアの話を聞いてきて、ある程度ソニアの人物像はわかっているつもりだ。卑屈だというのも、まあ間違いはないのだろう。
「でも、今のあなたは一緒にいてキツい」
「キツいって……」
「ポジティブな感じになってる。背筋も伸びた。多分、人が違っているんでしょうけど……それもちょっと不気味だし、近寄りがたい」
「………」
「でもね」
「ん?」
そこで、ニーナはこちらに顔を向けた。赤い両目が俺を、ソニアの中にいる俺を見ているような気がした。
「今のあなたは居心地悪いけど、好みではあるかも」
「へ?」
「……もう無理して付き合わなくていいから」
そう言ってニーナは足早に、俺を置いて教室に行ってしまった。
俺はその小さな背中を見届けるしかなかった。
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Cクラスの縦列3番目、横列4番目の何でもない普通の場所がソニアの席だ。
ニーナは縦列4番目、横列2番目の前の方の席。ニーナの背中が見える。
「えー、中学の時にもう学んだと思いますが基礎は大事という事で、改めて我々の中に眠るパワーについて説明しましょう」
教壇で教師が授業を執り行う中で、俺はさっきの金髪の大男のことを考えていた。
(ギブソン・ゼットロック……Bクラスというのだからそれなりに強いはずだ)
それと同時にこうも考えていた。
(ニーナは……なんであんな風に言ったんだろうか)
目標であるBクラスのこと、そして……目の前で行われている授業はこれからの戦いに必要なことだ。
「……えー、我々には“深力”と呼ばれる力があり、筋肉隆々でも細身の女の子に力負けしてしまう光景を何度も見たことがあると思いますが、それはこのコアが影響しており、コアを鍛えるほど見た目以上のパワーやエナジーが得られるのです」
けれど俺はもう一つ、重複して考えてしまっていることがあった。ニーナのことばかり考えてしまっていた。
なぜだろう。ニーナは俺のことを解った上で突き放したのだ。
もしも自分の友達の中身が誰かに代わっていたと想像してみると、怖いってレベルじゃない。恐ろしくてそばに置いときたくない気持ちになるだろう。だからニーナは突き放したと思うべきだ。そう考えるべきだ。
彼女の気持ちを尊重すればおのずと……俺が、どうするべきか……———
(………)
「であるからして……このコアを高めるだけでなく、心身の成長も重要であると———」
「やっぱりおかしいいい!!!!」
「「⁉︎」」
俺は立ち上がって、前に座るニーナの元へ向かった。そして驚く彼女の眼前に立ち、机を叩く。そして顔を近づける。
「なんでだよ! なんかおかしい! 確かにニーナの理屈は理解できるけど! ただ一つわからないことがある!」
「え?」
「お前の心の支えはどうするんだよ!」
「ッ⁉︎」
「お前、俺しかいないんだろ! 多分だけど! 俺がいなくなったら、そしたらお前、ひとりぼっちじゃんか! そんなん望むような事じゃない! お前は独りがいいのか?」
「え、えと……」
俺はニーナの肩を掴み、さらに顔を近づける。
「お前が寂しそうにしてる姿を見て、俺はどーすればいい! その姿ばっかり想像しちまうんだよ! 俺は! そんなの見てられないんだよ! 頭の中の想像だけでも!」
「……ソニア」
「後で後悔するよりここで言ってやる! お前はずっと俺と一緒にいろ! 友達として!」
「………それ、私の答え、必要かな」
「あ、ああ! それは当然だ! もし本当に独りがいいなら俺も潔く腹を括って身を引く!」
「じゃあ答える前に一ついい?」
「なんだ?」
「今、授業中なのよね」
「あ……」
気づいて周りを見れば、先生もクラスメイトもみんなポカンとしていた。そして先生は一瞬微笑んだ後、廊下を指差した。
「私が許可するわ。二人きりになってきなさい」
▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲
学生寮の階段を最上段まで登ると、屋上に出る。出てみるとこの学園が一望できる。風が強い。長くなった髪が目にかかり、目を擦る。
「ん……。な、なあ本当に授業から抜け出して良かったのかな」
「抜け出したんじゃない。出されたのよ、先生直々に」
「……先生はどういうつもりなんだろ」
「それよりスカート捲れ上がってるよ」
「あ!」
慌ててスカートを押さえる。風が強い日に女子がよくしていた行為を俺もすることになるとは。
「み、見えた?」
「ピンク」
「うぐっ」
俺の趣味ではないが、どうやら履いてるヤツが見られてしまったらしい。いや女子の下着を履く趣味もないからな!
「こほん。で、俺らは———あ、いや、私たちは頭を冷やせってことなのかな」
「もういいよ。教室でもバリバリ男口調だったじゃない」
「あ、ああ……そうだっけ」
自分でもわからないが、自分の中にあるモヤモヤが爆発してあんな真似をしてしまった。
前を見ればニーナが短いスカートを小さな手で押さえながら、そっぽを向いていた。
「そうだ。答えを聞かせて欲しい」
そこの気持ちは疑いようもない真実だ。俺は真摯に向き合うために、スカートから手を離して両手を横にする。バッサバッサスカートが捲れているが……男なら両拳を握るのが、覚悟の証だ。
「ニーナ、俺と友達になってほしい」
「…………あなたと?」
「ああ、俺と」
その時、ニーナはチラッとこちらを見てから、俺と同じように両手を体の横にした。するとフード付きパーカーを着ているが、それでもスカートが捲れ上がって、赤と黒の燃え上がるようなパンツが見えてしまった。
恥ずかしい気持ちになったが、男として、相手の覚悟を汲み取るときは堂々としなくてはならない。胸を張ってニーナに向き合う。
結果パンツを見せ合う形になっているが、俺はニーナの答えを待つ。
「……私も後のことを考えてしまう」
「うん」
「もしあなたが元に戻った時、そのときは———」
「俺がお前を選ぶ」
「えっ?」
「俺が誰かまでは想像してなかったか。大丈夫だ、元に戻っても一緒にいる」
「……でも、実際のあなたとは付き合いも短い」
「友情に時間は必要ない。時計見ながら人とは会話できない。寸法や計測で友達はできない。俺は時計と友達になりたいわけじゃない、独りぼっちになってしまいそうなお前の心の拠り所に成れればそれでいい」
「本当に?」
「ああ」
「本当に……?」
「ああ」
「私の、ため?」
「ああ」
俺たちは見つめ合う。泣きそうな顔の彼女の顔を見て、ああ言って良かったな、と後悔なんて微塵も感じなかった。
泣きそうな顔を見て、思わず俺から言ってしまった。
「俺と、友達になってください」
「……はい!」
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