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レストランに着いた後、星熊は百合を窓際の席に座らせて、自分は厨房に入った。
温かい紅茶を一杯。
しばらくすると甘い優しい香りが、店内にふんわりと漂い始めた。
白いココット皿からふっくらと顔を見せているのはキツネ色のスフレだった。
「……ありがとうございます」
照明を絞った店内にはゆったりとした時間が流れている。
星熊は後片付けを済ませると自分のコーヒーを淹れて、百合の真向かいの席に座った。
「星熊さん、あの……さっき言ってたこと」
「何のことだ?」
「『千年以上の付き合いだって』って……あの話。本当のことなんですよね?」
「鬼嶋の……鬼の姿をみたんだな?」
あえて百合の顔は見ず、星熊は手元のコーヒーカップを覗き込みながら星熊は切り出した。
「……はい。今でも信じられないけど……あれは確かに」
カタカタカタ……
ソーサーに触れたティーカップが小さく音を立てて、手が震えていることに気づいた。
青緑の鬼火が照らし出した鬼嶋の横顔――今まで見たことのないような冷たい笑いを浮かべた表情……。
「あんな鬼嶋さん……私、初めて見た……」
百合のことを常に気にかけ、柔和な表情を崩したことのないあの鬼嶋が、あんな顔をするなんて……。
「……鬼嶋は」
窓の外の闇をジッと見つめながら星熊は呟くように言った。
「如月の家との約束をずっと守ってきた。愛する女と再び巡り合って……今度こそ、結ばれることだけを願って」
ふうっ、とため息を零して星熊は続けた。
「律儀で、それでいて不器用な奴なんだよ。……人間でも鬼でもそういう奴はいるよな」
「……鬼って、一体何なんですか? 星熊さんも千年以上生きている……鬼なんですよね?」
百合の真っすぐな視線が射抜くように星熊に向けられた。
再び、深くため息を吐いてから、星熊は淡々とした調子で話し始めた。
「鬼は……人間の何倍も寿命がある、人間にない力がある。人間と同じ姿かたちをとることはできても、本質的には異質な存在だ。……だから昔は人里でずっと根を下ろして暮らすことはできなかった。」
カップに残ったコーヒーを飲み干してから、星熊は百合の目をじっと見つめた。
「俺も、かつて人間の女を嫁に迎えたことがある。鬼嶋が嫁を迎える前の話だ」
「星熊さんも……?」
「ああ……もう、何百年も昔の話だけどな」
温かい紅茶を一杯。
しばらくすると甘い優しい香りが、店内にふんわりと漂い始めた。
白いココット皿からふっくらと顔を見せているのはキツネ色のスフレだった。
「……ありがとうございます」
照明を絞った店内にはゆったりとした時間が流れている。
星熊は後片付けを済ませると自分のコーヒーを淹れて、百合の真向かいの席に座った。
「星熊さん、あの……さっき言ってたこと」
「何のことだ?」
「『千年以上の付き合いだって』って……あの話。本当のことなんですよね?」
「鬼嶋の……鬼の姿をみたんだな?」
あえて百合の顔は見ず、星熊は手元のコーヒーカップを覗き込みながら星熊は切り出した。
「……はい。今でも信じられないけど……あれは確かに」
カタカタカタ……
ソーサーに触れたティーカップが小さく音を立てて、手が震えていることに気づいた。
青緑の鬼火が照らし出した鬼嶋の横顔――今まで見たことのないような冷たい笑いを浮かべた表情……。
「あんな鬼嶋さん……私、初めて見た……」
百合のことを常に気にかけ、柔和な表情を崩したことのないあの鬼嶋が、あんな顔をするなんて……。
「……鬼嶋は」
窓の外の闇をジッと見つめながら星熊は呟くように言った。
「如月の家との約束をずっと守ってきた。愛する女と再び巡り合って……今度こそ、結ばれることだけを願って」
ふうっ、とため息を零して星熊は続けた。
「律儀で、それでいて不器用な奴なんだよ。……人間でも鬼でもそういう奴はいるよな」
「……鬼って、一体何なんですか? 星熊さんも千年以上生きている……鬼なんですよね?」
百合の真っすぐな視線が射抜くように星熊に向けられた。
再び、深くため息を吐いてから、星熊は淡々とした調子で話し始めた。
「鬼は……人間の何倍も寿命がある、人間にない力がある。人間と同じ姿かたちをとることはできても、本質的には異質な存在だ。……だから昔は人里でずっと根を下ろして暮らすことはできなかった。」
カップに残ったコーヒーを飲み干してから、星熊は百合の目をじっと見つめた。
「俺も、かつて人間の女を嫁に迎えたことがある。鬼嶋が嫁を迎える前の話だ」
「星熊さんも……?」
「ああ……もう、何百年も昔の話だけどな」
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