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「し、失礼します……」
開いたドアに向かって軽くお辞儀をしてから百合は部屋の中に入った。
部屋に入ってすぐに気が付いたのは、ふんわりと香る檜のような木材の良い香り。
――いい香り。なんだか、懐かしい……。
木製の家具が多い社長室の内装は驚くほど『硬さ』がなく、天然木の一枚板らしいテーブルの上にはヒスイ色の焼き物に梅の花が生けられている。
部屋の中央、テーブルの傍に佇んでいる大柄な男性は茶色の少しウェーブした髪に涼しい瞳の……。
「あっ! あの時の……」
ツナマヨの君!という言葉を百合は辛うじて飲み込んだ。
――この人が社長なの? こんな偶然って……。
驚きのあまり言葉を失った百合の顔を見て、ツナマヨの君もとい社長はふっと笑った。
「ああ、確か以前、コンビニで……」
「ハイ! その節は……ツナマヨおにぎりを譲っていただき、どうもありがとうございました!」
勢いで頭を下げ、礼を言った百合を見て社長はこらえきれないといった様子でクスクスと笑った。
「そんな、礼を言われるほどのことはしてないさ」
笑うときりっとした顔がいい感じに崩れて少しだけ幼い印象になる。そんなところも含めて。
――素敵だなぁ……。
思わずうっとりと見惚れそうになりながらも、百合は頭を切替えて言った。
「ほ、本日は面談のお時間をいただきましてありがとうございます。私、如月百合と申します」
「如月さん。私が社長の鬼嶋です。こちらこそ今日はお越しいただきありがとうございます……どうぞおかけください」
「こちら、お持ちした履歴書・職務経歴書です」
「拝見します」
書類を扱う丁寧な動作。綺麗に手入れされた爪と大きく男らしい手の甲のギャップ。
先日のネイビーのスーツもとてもよく似合っていたけれど、薄いグレーのスーツにダークカラーのシャツを合わせた今日の装いもどこか色気があって素敵だと思う。
若くして社長しかもイケメン。こんな人が実際にいるんだ……世の中は広いなあ、などと考えていると鬼嶋が不意に顔を上げて百合を見た。
「N市ご出身なんですか? 」
え、と百合が驚いてみつめ返すと、鬼嶋は「急にすみません」とすまなさそうに笑った。
「K高校……我が社のモデルハウスというか、事務所に使っている物件が近いので、もしかしてと思いまして」
「ええ、そのとおりです。N市出身で、就職で東京に住み始めて……」
「そうなんですね。……N市、いいところですよね。自然が豊かで温泉もあって」
「そうですね。何もない田舎ですけど……」
「そうですか?」
謙遜してそう言った百合の顔を、鬼嶋は真剣な表情で見つめた。
急にまじまじと見つめられて百合の心臓がドキリと音を立てる。
顔貌が整っているだけではない。さすが社長というべきか、鬼嶋にはある種の迫力というかオーラのようなものがある。
しばしの間、じっと無言で百合を見詰めていた鬼嶋がふと頬を緩めて優しい笑顔を浮かべた。
「私は、好きです……とても」
それは相手の心を蕩かすような魅惑的な微笑みだった。
開いたドアに向かって軽くお辞儀をしてから百合は部屋の中に入った。
部屋に入ってすぐに気が付いたのは、ふんわりと香る檜のような木材の良い香り。
――いい香り。なんだか、懐かしい……。
木製の家具が多い社長室の内装は驚くほど『硬さ』がなく、天然木の一枚板らしいテーブルの上にはヒスイ色の焼き物に梅の花が生けられている。
部屋の中央、テーブルの傍に佇んでいる大柄な男性は茶色の少しウェーブした髪に涼しい瞳の……。
「あっ! あの時の……」
ツナマヨの君!という言葉を百合は辛うじて飲み込んだ。
――この人が社長なの? こんな偶然って……。
驚きのあまり言葉を失った百合の顔を見て、ツナマヨの君もとい社長はふっと笑った。
「ああ、確か以前、コンビニで……」
「ハイ! その節は……ツナマヨおにぎりを譲っていただき、どうもありがとうございました!」
勢いで頭を下げ、礼を言った百合を見て社長はこらえきれないといった様子でクスクスと笑った。
「そんな、礼を言われるほどのことはしてないさ」
笑うときりっとした顔がいい感じに崩れて少しだけ幼い印象になる。そんなところも含めて。
――素敵だなぁ……。
思わずうっとりと見惚れそうになりながらも、百合は頭を切替えて言った。
「ほ、本日は面談のお時間をいただきましてありがとうございます。私、如月百合と申します」
「如月さん。私が社長の鬼嶋です。こちらこそ今日はお越しいただきありがとうございます……どうぞおかけください」
「こちら、お持ちした履歴書・職務経歴書です」
「拝見します」
書類を扱う丁寧な動作。綺麗に手入れされた爪と大きく男らしい手の甲のギャップ。
先日のネイビーのスーツもとてもよく似合っていたけれど、薄いグレーのスーツにダークカラーのシャツを合わせた今日の装いもどこか色気があって素敵だと思う。
若くして社長しかもイケメン。こんな人が実際にいるんだ……世の中は広いなあ、などと考えていると鬼嶋が不意に顔を上げて百合を見た。
「N市ご出身なんですか? 」
え、と百合が驚いてみつめ返すと、鬼嶋は「急にすみません」とすまなさそうに笑った。
「K高校……我が社のモデルハウスというか、事務所に使っている物件が近いので、もしかしてと思いまして」
「ええ、そのとおりです。N市出身で、就職で東京に住み始めて……」
「そうなんですね。……N市、いいところですよね。自然が豊かで温泉もあって」
「そうですね。何もない田舎ですけど……」
「そうですか?」
謙遜してそう言った百合の顔を、鬼嶋は真剣な表情で見つめた。
急にまじまじと見つめられて百合の心臓がドキリと音を立てる。
顔貌が整っているだけではない。さすが社長というべきか、鬼嶋にはある種の迫力というかオーラのようなものがある。
しばしの間、じっと無言で百合を見詰めていた鬼嶋がふと頬を緩めて優しい笑顔を浮かべた。
「私は、好きです……とても」
それは相手の心を蕩かすような魅惑的な微笑みだった。
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