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エピローグ
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長い冬が終わり、花々が一斉に咲き乱れる頃。
パリスイの空は朝から快晴――抜けるような青空が広がっていた。
礼装に身を包んだ人々が式場の車寄せで花嫁と花婿の到着を今か今かと待ち望んでいる。
その中にはひときわ艶やかなバラ色のドレスに身を包んだ侯爵令嬢アリアンヌの姿があった。
「まあ、ここにいらしたのね。いいのかしら、花嫁についていなくて。ドレスをデザインしたのはあなたたのでしょう――リオネル」
アリアンヌの呼びかけに、丁重に頭を下げてからリオネルは微笑みを浮かべて答えた。
「ドレスの準備は万端ですよ。それに二人の邪魔をするわけにいかないですしね」
肩を竦めておどけたようにそう言うリオネルにアリアンヌはクスリと笑ってしまう。
「お仕事、順調なようね。リタリアの歌劇団の舞台衣装のデザインも請け負っているのですって?」
「恐れ入ります。しばらくの間は仕事に打ち込もうかと思いまして……」
「あら……!」
珍しく控えめな態度のリオネルにアリアンヌが軽く首を傾げて見せた。
「そんなこと、誰にも分らなくてよ。――こんなに美しい季節なのだからどこで花が咲くかは誰にもわからないわ」
そう言って悪戯っぽく微笑むアリアンヌを見つめてリオネルは目を細めた。
「そうですね。ここは花の都ですから――」
リオネルが言い終えるのとほぼ同時に群衆から歓声が上がった。
二頭立ての白馬に引かれた美しい馬車が式場に到着したのだった。
馬車の上には繊細なレースをふんだんに使った可憐なウェディングドレスの美鈴と白い礼服に身を包んだフェリクスの姿が見える。
車が到着して二人が馬車を降りるとあたりは湧きおこる歓声に包まれた。
降り注ぐ陽光の中、お互いに手を取り合い二人はまっすぐに前を見つめて式場への道を歩いていく。
「……さあ、わたくしたちも参りましょう」
アリアンヌとリオネルは互いに顔を見合わせると二人の後を式場に向かって急いだ。
パリスイの空は朝から快晴――抜けるような青空が広がっていた。
礼装に身を包んだ人々が式場の車寄せで花嫁と花婿の到着を今か今かと待ち望んでいる。
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「まあ、ここにいらしたのね。いいのかしら、花嫁についていなくて。ドレスをデザインしたのはあなたたのでしょう――リオネル」
アリアンヌの呼びかけに、丁重に頭を下げてからリオネルは微笑みを浮かべて答えた。
「ドレスの準備は万端ですよ。それに二人の邪魔をするわけにいかないですしね」
肩を竦めておどけたようにそう言うリオネルにアリアンヌはクスリと笑ってしまう。
「お仕事、順調なようね。リタリアの歌劇団の舞台衣装のデザインも請け負っているのですって?」
「恐れ入ります。しばらくの間は仕事に打ち込もうかと思いまして……」
「あら……!」
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「そんなこと、誰にも分らなくてよ。――こんなに美しい季節なのだからどこで花が咲くかは誰にもわからないわ」
そう言って悪戯っぽく微笑むアリアンヌを見つめてリオネルは目を細めた。
「そうですね。ここは花の都ですから――」
リオネルが言い終えるのとほぼ同時に群衆から歓声が上がった。
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馬車の上には繊細なレースをふんだんに使った可憐なウェディングドレスの美鈴と白い礼服に身を包んだフェリクスの姿が見える。
車が到着して二人が馬車を降りるとあたりは湧きおこる歓声に包まれた。
降り注ぐ陽光の中、お互いに手を取り合い二人はまっすぐに前を見つめて式場への道を歩いていく。
「……さあ、わたくしたちも参りましょう」
アリアンヌとリオネルは互いに顔を見合わせると二人の後を式場に向かって急いだ。
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