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第六章 声
第45話 空からの絶望
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王都まで旅路は続き、ひと月が経った。
ラプユスとレムの話では、あとは丘を越えるだけ。
その丘から王都が見渡せるそうだ。
ついに王都へ到着する。
そこで勇者として認めてもらい、国家公認勇者証明書を手に入れることができれば、俺は堂々と勇者を名乗ることができる!
心が躍る。
もうすぐ旅が終わる――いや、始まるのか。
これまでは旅の序章にしか過ぎない。
これから、勇者フォルスとしての旅が始まるんだ!!
思いは体に伝播して、心のなしか丘を登る足は軽い。
でも、どこかに緊張感もある。不安もある。
勇者証明書には実績と実力が不可欠。
実績の方はナグライダの件でラプユスが保証をしてくれるのだが、問題は実力の方。
試験があるそうだが、それに合格できるかどうか。
ここまでの旅路でみんなに鍛え上げられ、俺は強くなった。知識も得た。
だがそれは、勇者と名乗って良いほどのものだろうか?
伝説の勇者であったレムは十分だと言ってくれるが、今を以って彼女たちの背中は遠い。
彼女たちの中では一段実力が劣るララやラプユスを相手にしても、勝てるかどうかわからない。
だけど! みんなが応援してくれている。支えてくれている。信じてくれている。
彼女たちの期待を裏切るわけにはいかない。
だからこそっ、不安を蹴散らして、緊張を力に変えて、試験に挑んでやる!!
足取りは軽いものから、しっかり地を踏むものへ変わる。
覚悟が心から四肢へと伝わる。
俺は、幼いころから夢を見ていた勇者になるべく、王都へ向かう――
丘の頂まであと少し、あそこまでいけば王都が見渡せるそうだ。
はたして、王都とはどれほど大きいのだろうか?
ワクワクが胸を打ち、前へ出る瞳に釣られ、歩く速度が増す。
そのせいでみんなから少し離れてしまった。
――それをアスカに咎められようとしたときだった。
「こら、フォルス。気持ちはわかるがあまり逸るでは――なんじゃ!?」
アスカが空を見上げる。
同じタイミングでシャーレとレムも空を見上げ、彼女たちの動きに合わせ、俺やラプユスやララも空を見上げた。
方角は王都――
王都の空の上に、赤紫色に光る巨大な円の魔法陣が浮かんでいる。
円の周囲には魔法言語と呼ばれる古代言語が散りばめられ、円の内部には三角のマークをいくつも重なり合わせた複雑な模様が描かれていた。
その模様から浮塵子 の如く小さな粒が王都前の草原に降り注いでいる。
あれは何だろうか?
それを疑問に出そうとしたとき、シャーレが歯ぎしりを交え、答える。
「あれは転送魔法陣!? 召喚されてるのは――魔族!!」
想像だにしなかった答えに俺は声を生むこともできない。
代わりにアスカとレムが声を生む。
「魔族が王都を攻めてきたということかっ?」
「あれほど、大規模な、転送魔法陣を行える技術が、この時代に?」
「そんなものはない!」
シャーレは声を弾き飛ばし、そこで一度言葉を切り、歯を噛みしめるように言葉を漏らす。
「大規模転送魔法には、莫大な魔力が必要。場合によっては、生贄を使い魔力を抽出することも……あれほどの規模となると、何千――いえ、何万単位の命が使われているはず」
これにラプユスとララが驚きの声を上げた。
「そんな、人の命を……」
「使っているのは人間の命じゃない! この魔法陣が生んでいる魔力の波動は――魔族の命よ!!」
俺が声を跳ね上げる。
「待ってくれ! 魔族は同胞の命を使って転送とやらを行い、王都を攻めてきたのか! そんなバカなことを何故!?」
「わかんないよ、そんなこと! 私だって、いま目の前で起きてることが本当かどうかもわからないんだから!!」
目の前で行われている出来事にララは信じられないと何度も頭を横に振る。
魔法陣から感じられる同胞たちの何万という命の犠牲へ、彼女は瞳に涙を浮かべて、それが現実であることを否定しようと何度も頭を横に振る。
彼女の前に立つシャーレが小さく呟く。
「巫女フィナクル……あいつよ。あいつが行ったんでしょうね」
魔族の頂は、シャーレからフィナクルへと変わった。
つまりこれは、フィナクルの決断!
シャーレは左肩に手を添えて、握り締める。
「なんて愚かな判断を。王都を直接攻めて勝ち目があると思っているの? 強固な防御結界に防衛魔導兵器。有能な軍団に勇者だっているのに……」
アスカはシャーレの震える手を見つめて、言う。
「あるのじゃろう。巫女フィナクルとは、おぬしほどの存在から玉座を奪った者。勝算もなしにこのような真似をすまい」
レムがラプユスヘ尋ねる。
「現状、勇者は何名、ですか? 王都へ滞在は?」
「七名です。常に一人は王都に滞在していますが……そうか! 巡回の季節!?」
「巡回、とは?」
「夏頃になると勇者たちは主だった地域に巡回するんです。それを狙って!」
「と、いうことは、現在、王都に勇者は不在、である可能性、が?」
この言葉を聞いて、俺は魔族たちが降り注ぐ魔法陣から瞳を王都へ向けた。
王都は遠くの丘からも巨大であることが見て取てるが、今はそれに感動している暇はない。
「みんな! 行こう!!」
俺は王都へ駆け出す。
そのあとにみんなが続く。
ラプユスとレムの話では、あとは丘を越えるだけ。
その丘から王都が見渡せるそうだ。
ついに王都へ到着する。
そこで勇者として認めてもらい、国家公認勇者証明書を手に入れることができれば、俺は堂々と勇者を名乗ることができる!
心が躍る。
もうすぐ旅が終わる――いや、始まるのか。
これまでは旅の序章にしか過ぎない。
これから、勇者フォルスとしての旅が始まるんだ!!
思いは体に伝播して、心のなしか丘を登る足は軽い。
でも、どこかに緊張感もある。不安もある。
勇者証明書には実績と実力が不可欠。
実績の方はナグライダの件でラプユスが保証をしてくれるのだが、問題は実力の方。
試験があるそうだが、それに合格できるかどうか。
ここまでの旅路でみんなに鍛え上げられ、俺は強くなった。知識も得た。
だがそれは、勇者と名乗って良いほどのものだろうか?
伝説の勇者であったレムは十分だと言ってくれるが、今を以って彼女たちの背中は遠い。
彼女たちの中では一段実力が劣るララやラプユスを相手にしても、勝てるかどうかわからない。
だけど! みんなが応援してくれている。支えてくれている。信じてくれている。
彼女たちの期待を裏切るわけにはいかない。
だからこそっ、不安を蹴散らして、緊張を力に変えて、試験に挑んでやる!!
足取りは軽いものから、しっかり地を踏むものへ変わる。
覚悟が心から四肢へと伝わる。
俺は、幼いころから夢を見ていた勇者になるべく、王都へ向かう――
丘の頂まであと少し、あそこまでいけば王都が見渡せるそうだ。
はたして、王都とはどれほど大きいのだろうか?
ワクワクが胸を打ち、前へ出る瞳に釣られ、歩く速度が増す。
そのせいでみんなから少し離れてしまった。
――それをアスカに咎められようとしたときだった。
「こら、フォルス。気持ちはわかるがあまり逸るでは――なんじゃ!?」
アスカが空を見上げる。
同じタイミングでシャーレとレムも空を見上げ、彼女たちの動きに合わせ、俺やラプユスやララも空を見上げた。
方角は王都――
王都の空の上に、赤紫色に光る巨大な円の魔法陣が浮かんでいる。
円の周囲には魔法言語と呼ばれる古代言語が散りばめられ、円の内部には三角のマークをいくつも重なり合わせた複雑な模様が描かれていた。
その模様から浮塵子 の如く小さな粒が王都前の草原に降り注いでいる。
あれは何だろうか?
それを疑問に出そうとしたとき、シャーレが歯ぎしりを交え、答える。
「あれは転送魔法陣!? 召喚されてるのは――魔族!!」
想像だにしなかった答えに俺は声を生むこともできない。
代わりにアスカとレムが声を生む。
「魔族が王都を攻めてきたということかっ?」
「あれほど、大規模な、転送魔法陣を行える技術が、この時代に?」
「そんなものはない!」
シャーレは声を弾き飛ばし、そこで一度言葉を切り、歯を噛みしめるように言葉を漏らす。
「大規模転送魔法には、莫大な魔力が必要。場合によっては、生贄を使い魔力を抽出することも……あれほどの規模となると、何千――いえ、何万単位の命が使われているはず」
これにラプユスとララが驚きの声を上げた。
「そんな、人の命を……」
「使っているのは人間の命じゃない! この魔法陣が生んでいる魔力の波動は――魔族の命よ!!」
俺が声を跳ね上げる。
「待ってくれ! 魔族は同胞の命を使って転送とやらを行い、王都を攻めてきたのか! そんなバカなことを何故!?」
「わかんないよ、そんなこと! 私だって、いま目の前で起きてることが本当かどうかもわからないんだから!!」
目の前で行われている出来事にララは信じられないと何度も頭を横に振る。
魔法陣から感じられる同胞たちの何万という命の犠牲へ、彼女は瞳に涙を浮かべて、それが現実であることを否定しようと何度も頭を横に振る。
彼女の前に立つシャーレが小さく呟く。
「巫女フィナクル……あいつよ。あいつが行ったんでしょうね」
魔族の頂は、シャーレからフィナクルへと変わった。
つまりこれは、フィナクルの決断!
シャーレは左肩に手を添えて、握り締める。
「なんて愚かな判断を。王都を直接攻めて勝ち目があると思っているの? 強固な防御結界に防衛魔導兵器。有能な軍団に勇者だっているのに……」
アスカはシャーレの震える手を見つめて、言う。
「あるのじゃろう。巫女フィナクルとは、おぬしほどの存在から玉座を奪った者。勝算もなしにこのような真似をすまい」
レムがラプユスヘ尋ねる。
「現状、勇者は何名、ですか? 王都へ滞在は?」
「七名です。常に一人は王都に滞在していますが……そうか! 巡回の季節!?」
「巡回、とは?」
「夏頃になると勇者たちは主だった地域に巡回するんです。それを狙って!」
「と、いうことは、現在、王都に勇者は不在、である可能性、が?」
この言葉を聞いて、俺は魔族たちが降り注ぐ魔法陣から瞳を王都へ向けた。
王都は遠くの丘からも巨大であることが見て取てるが、今はそれに感動している暇はない。
「みんな! 行こう!!」
俺は王都へ駆け出す。
そのあとにみんなが続く。
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