45 / 56
第六章 声
第45話 空からの絶望
しおりを挟む
王都まで旅路は続き、ひと月が経った。
ラプユスとレムの話では、あとは丘を越えるだけ。
その丘から王都が見渡せるそうだ。
ついに王都へ到着する。
そこで勇者として認めてもらい、国家公認勇者証明書を手に入れることができれば、俺は堂々と勇者を名乗ることができる!
心が躍る。
もうすぐ旅が終わる――いや、始まるのか。
これまでは旅の序章にしか過ぎない。
これから、勇者フォルスとしての旅が始まるんだ!!
思いは体に伝播して、心のなしか丘を登る足は軽い。
でも、どこかに緊張感もある。不安もある。
勇者証明書には実績と実力が不可欠。
実績の方はナグライダの件でラプユスが保証をしてくれるのだが、問題は実力の方。
試験があるそうだが、それに合格できるかどうか。
ここまでの旅路でみんなに鍛え上げられ、俺は強くなった。知識も得た。
だがそれは、勇者と名乗って良いほどのものだろうか?
伝説の勇者であったレムは十分だと言ってくれるが、今を以って彼女たちの背中は遠い。
彼女たちの中では一段実力が劣るララやラプユスを相手にしても、勝てるかどうかわからない。
だけど! みんなが応援してくれている。支えてくれている。信じてくれている。
彼女たちの期待を裏切るわけにはいかない。
だからこそっ、不安を蹴散らして、緊張を力に変えて、試験に挑んでやる!!
足取りは軽いものから、しっかり地を踏むものへ変わる。
覚悟が心から四肢へと伝わる。
俺は、幼いころから夢を見ていた勇者になるべく、王都へ向かう――
丘の頂まであと少し、あそこまでいけば王都が見渡せるそうだ。
はたして、王都とはどれほど大きいのだろうか?
ワクワクが胸を打ち、前へ出る瞳に釣られ、歩く速度が増す。
そのせいでみんなから少し離れてしまった。
――それをアスカに咎められようとしたときだった。
「こら、フォルス。気持ちはわかるがあまり逸るでは――なんじゃ!?」
アスカが空を見上げる。
同じタイミングでシャーレとレムも空を見上げ、彼女たちの動きに合わせ、俺やラプユスやララも空を見上げた。
方角は王都――
王都の空の上に、赤紫色に光る巨大な円の魔法陣が浮かんでいる。
円の周囲には魔法言語と呼ばれる古代言語が散りばめられ、円の内部には三角のマークをいくつも重なり合わせた複雑な模様が描かれていた。
その模様から浮塵子 の如く小さな粒が王都前の草原に降り注いでいる。
あれは何だろうか?
それを疑問に出そうとしたとき、シャーレが歯ぎしりを交え、答える。
「あれは転送魔法陣!? 召喚されてるのは――魔族!!」
想像だにしなかった答えに俺は声を生むこともできない。
代わりにアスカとレムが声を生む。
「魔族が王都を攻めてきたということかっ?」
「あれほど、大規模な、転送魔法陣を行える技術が、この時代に?」
「そんなものはない!」
シャーレは声を弾き飛ばし、そこで一度言葉を切り、歯を噛みしめるように言葉を漏らす。
「大規模転送魔法には、莫大な魔力が必要。場合によっては、生贄を使い魔力を抽出することも……あれほどの規模となると、何千――いえ、何万単位の命が使われているはず」
これにラプユスとララが驚きの声を上げた。
「そんな、人の命を……」
「使っているのは人間の命じゃない! この魔法陣が生んでいる魔力の波動は――魔族の命よ!!」
俺が声を跳ね上げる。
「待ってくれ! 魔族は同胞の命を使って転送とやらを行い、王都を攻めてきたのか! そんなバカなことを何故!?」
「わかんないよ、そんなこと! 私だって、いま目の前で起きてることが本当かどうかもわからないんだから!!」
目の前で行われている出来事にララは信じられないと何度も頭を横に振る。
魔法陣から感じられる同胞たちの何万という命の犠牲へ、彼女は瞳に涙を浮かべて、それが現実であることを否定しようと何度も頭を横に振る。
彼女の前に立つシャーレが小さく呟く。
「巫女フィナクル……あいつよ。あいつが行ったんでしょうね」
魔族の頂は、シャーレからフィナクルへと変わった。
つまりこれは、フィナクルの決断!
シャーレは左肩に手を添えて、握り締める。
「なんて愚かな判断を。王都を直接攻めて勝ち目があると思っているの? 強固な防御結界に防衛魔導兵器。有能な軍団に勇者だっているのに……」
アスカはシャーレの震える手を見つめて、言う。
「あるのじゃろう。巫女フィナクルとは、おぬしほどの存在から玉座を奪った者。勝算もなしにこのような真似をすまい」
レムがラプユスヘ尋ねる。
「現状、勇者は何名、ですか? 王都へ滞在は?」
「七名です。常に一人は王都に滞在していますが……そうか! 巡回の季節!?」
「巡回、とは?」
「夏頃になると勇者たちは主だった地域に巡回するんです。それを狙って!」
「と、いうことは、現在、王都に勇者は不在、である可能性、が?」
この言葉を聞いて、俺は魔族たちが降り注ぐ魔法陣から瞳を王都へ向けた。
王都は遠くの丘からも巨大であることが見て取てるが、今はそれに感動している暇はない。
「みんな! 行こう!!」
俺は王都へ駆け出す。
そのあとにみんなが続く。
ラプユスとレムの話では、あとは丘を越えるだけ。
その丘から王都が見渡せるそうだ。
ついに王都へ到着する。
そこで勇者として認めてもらい、国家公認勇者証明書を手に入れることができれば、俺は堂々と勇者を名乗ることができる!
心が躍る。
もうすぐ旅が終わる――いや、始まるのか。
これまでは旅の序章にしか過ぎない。
これから、勇者フォルスとしての旅が始まるんだ!!
思いは体に伝播して、心のなしか丘を登る足は軽い。
でも、どこかに緊張感もある。不安もある。
勇者証明書には実績と実力が不可欠。
実績の方はナグライダの件でラプユスが保証をしてくれるのだが、問題は実力の方。
試験があるそうだが、それに合格できるかどうか。
ここまでの旅路でみんなに鍛え上げられ、俺は強くなった。知識も得た。
だがそれは、勇者と名乗って良いほどのものだろうか?
伝説の勇者であったレムは十分だと言ってくれるが、今を以って彼女たちの背中は遠い。
彼女たちの中では一段実力が劣るララやラプユスを相手にしても、勝てるかどうかわからない。
だけど! みんなが応援してくれている。支えてくれている。信じてくれている。
彼女たちの期待を裏切るわけにはいかない。
だからこそっ、不安を蹴散らして、緊張を力に変えて、試験に挑んでやる!!
足取りは軽いものから、しっかり地を踏むものへ変わる。
覚悟が心から四肢へと伝わる。
俺は、幼いころから夢を見ていた勇者になるべく、王都へ向かう――
丘の頂まであと少し、あそこまでいけば王都が見渡せるそうだ。
はたして、王都とはどれほど大きいのだろうか?
ワクワクが胸を打ち、前へ出る瞳に釣られ、歩く速度が増す。
そのせいでみんなから少し離れてしまった。
――それをアスカに咎められようとしたときだった。
「こら、フォルス。気持ちはわかるがあまり逸るでは――なんじゃ!?」
アスカが空を見上げる。
同じタイミングでシャーレとレムも空を見上げ、彼女たちの動きに合わせ、俺やラプユスやララも空を見上げた。
方角は王都――
王都の空の上に、赤紫色に光る巨大な円の魔法陣が浮かんでいる。
円の周囲には魔法言語と呼ばれる古代言語が散りばめられ、円の内部には三角のマークをいくつも重なり合わせた複雑な模様が描かれていた。
その模様から浮塵子 の如く小さな粒が王都前の草原に降り注いでいる。
あれは何だろうか?
それを疑問に出そうとしたとき、シャーレが歯ぎしりを交え、答える。
「あれは転送魔法陣!? 召喚されてるのは――魔族!!」
想像だにしなかった答えに俺は声を生むこともできない。
代わりにアスカとレムが声を生む。
「魔族が王都を攻めてきたということかっ?」
「あれほど、大規模な、転送魔法陣を行える技術が、この時代に?」
「そんなものはない!」
シャーレは声を弾き飛ばし、そこで一度言葉を切り、歯を噛みしめるように言葉を漏らす。
「大規模転送魔法には、莫大な魔力が必要。場合によっては、生贄を使い魔力を抽出することも……あれほどの規模となると、何千――いえ、何万単位の命が使われているはず」
これにラプユスとララが驚きの声を上げた。
「そんな、人の命を……」
「使っているのは人間の命じゃない! この魔法陣が生んでいる魔力の波動は――魔族の命よ!!」
俺が声を跳ね上げる。
「待ってくれ! 魔族は同胞の命を使って転送とやらを行い、王都を攻めてきたのか! そんなバカなことを何故!?」
「わかんないよ、そんなこと! 私だって、いま目の前で起きてることが本当かどうかもわからないんだから!!」
目の前で行われている出来事にララは信じられないと何度も頭を横に振る。
魔法陣から感じられる同胞たちの何万という命の犠牲へ、彼女は瞳に涙を浮かべて、それが現実であることを否定しようと何度も頭を横に振る。
彼女の前に立つシャーレが小さく呟く。
「巫女フィナクル……あいつよ。あいつが行ったんでしょうね」
魔族の頂は、シャーレからフィナクルへと変わった。
つまりこれは、フィナクルの決断!
シャーレは左肩に手を添えて、握り締める。
「なんて愚かな判断を。王都を直接攻めて勝ち目があると思っているの? 強固な防御結界に防衛魔導兵器。有能な軍団に勇者だっているのに……」
アスカはシャーレの震える手を見つめて、言う。
「あるのじゃろう。巫女フィナクルとは、おぬしほどの存在から玉座を奪った者。勝算もなしにこのような真似をすまい」
レムがラプユスヘ尋ねる。
「現状、勇者は何名、ですか? 王都へ滞在は?」
「七名です。常に一人は王都に滞在していますが……そうか! 巡回の季節!?」
「巡回、とは?」
「夏頃になると勇者たちは主だった地域に巡回するんです。それを狙って!」
「と、いうことは、現在、王都に勇者は不在、である可能性、が?」
この言葉を聞いて、俺は魔族たちが降り注ぐ魔法陣から瞳を王都へ向けた。
王都は遠くの丘からも巨大であることが見て取てるが、今はそれに感動している暇はない。
「みんな! 行こう!!」
俺は王都へ駆け出す。
そのあとにみんなが続く。
0
お気に入りに追加
85
あなたにおすすめの小説
俺だけ永久リジェネな件 〜パーティーを追放されたポーション生成師の俺、ポーションがぶ飲みで得た無限回復スキルを何故かみんなに狙われてます!〜
早見羽流
ファンタジー
ポーション生成師のリックは、回復魔法使いのアリシアがパーティーに加入したことで、役たたずだと追放されてしまう。
食い物に困って余ったポーションを飲みまくっていたら、気づくとHPが自動で回復する「リジェネレーション」というユニークスキルを発現した!
しかし、そんな便利なスキルが放っておかれるわけもなく、はぐれ者の魔女、孤高の天才幼女、マッドサイエンティスト、魔女狩り集団、最強の仮面騎士、深窓の令嬢、王族、謎の巨乳魔術師、エルフetc、ヤバい奴らに狙われることに……。挙句の果てには人助けのために、危険な組織と対決することになって……?
「俺はただ平和に暮らしたいだけなんだぁぁぁぁぁ!!!」
そんなリックの叫びも虚しく、王国中を巻き込んだ動乱に巻き込まれていく。
無双あり、ざまぁあり、ハーレムあり、戦闘あり、友情も恋愛もありのドタバタファンタジー!

ブラックギルドマスターへ、社畜以下の道具として扱ってくれてあざーす!お陰で転職した俺は初日にSランクハンターに成り上がりました!
仁徳
ファンタジー
あらすじ
リュシアン・プライムはブラックハンターギルドの一員だった。
彼はギルドマスターやギルド仲間から、常人ではこなせない量の依頼を押し付けられていたが、夜遅くまで働くことで全ての依頼を一日で終わらせていた。
ある日、リュシアンは仲間の罠に嵌められ、依頼を終わらせることができなかった。その一度の失敗をきっかけに、ギルドマスターから無能ハンターの烙印を押され、クビになる。
途方に暮れていると、モンスターに襲われている女性を彼は見つけてしまう。
ハンターとして襲われている人を見過ごせないリュシアンは、モンスターから女性を守った。
彼は助けた女性が、隣町にあるハンターギルドのギルドマスターであることを知る。
リュシアンの才能に目をつけたギルドマスターは、彼をスカウトした。
一方ブラックギルドでは、リュシアンがいないことで依頼達成の効率が悪くなり、依頼は溜まっていく一方だった。ついにブラックギルドは町の住民たちからのクレームなどが殺到して町民たちから見放されることになる。
そんな彼らに反してリュシアンは新しい職場、新しい仲間と出会い、ブッラックギルドの経験を活かして最速でギルドランキング一位を獲得し、ギルドマスターや町の住民たちから一目置かれるようになった。
これはブラックな環境で働いていた主人公が一人の女性を助けたことがきっかけで人生が一変し、ホワイトなギルド環境で最強、無双、ときどきスローライフをしていく物語!

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

日本列島、時震により転移す!
黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。

異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします
Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。
相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。
現在、第三章フェレスト王国エルフ編
この世界で唯一『スキル合成』の能力を持っていた件
なかの
ファンタジー
異世界に転生した僕。
そこで与えられたのは、この世界ただ一人だけが持つ、ユニークスキル『スキル合成 - シンセサイズ』だった。
このユニークスキルを武器にこの世界を無双していく。
【web累計100万PV突破!】
著/イラスト なかの

巻き込まれ召喚されたおっさん、無能だと追放され冒険者として無双する
高鉢 健太
ファンタジー
とある県立高校の最寄り駅で勇者召喚に巻き込まれたおっさん。
手違い鑑定でスキルを間違われて無能と追放されたが冒険者ギルドで間違いに気付いて無双を始める。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる