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第二章 愛に殉ずる聖女
第12話 巨なる悪魔
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突如、町のそばに姿を現した巨人。
彼の者は緑の皮膚を持ち、一糸纏うことのない姿。
そして、全身の皮膚にくまなく血の涙を流し続ける歪んだ顔を張り付けていた。
その姿を目にした聖女ラプユスが呟き、お付きの人が続く。
「前触れもなく封印が解かれた? まだまだ時間はあったはずですが? クッ、不穏な気配の正体はこれでしたか!」
「そんな馬鹿な、アレは常に監視していたはず!? すぐに馬を走らせ――」
「無駄でしょう。古の巨なる悪魔『ナグライダ』。その封印が解けて姿を現したということは監視班はすでに……避難の準備を! ナグライダの狙いは封印を施したモチウォン教。その象徴たるトラトスの塔と聖女の私!!」
「ラプユス様? まさか!?」
「私がこの場に残り、町を守護します。その間に住人を避難させてください」
「し、しかし!」
「問答を行っている時間はありません! ですが、安心してください。トラトスの塔の防衛結界と私の守護の力が連動すれば、住人を避難させられるだけの時間は稼げます!!」
そう、ラプユスは言葉を飛ばし、錫杖を空へ掲げ、全身を黄金の光で包んだ。
「トラトスの塔に眠りし二つ神の一柱モチウォンの愛心よ。我が心と共鳴し堅牢たる守護を授けよ。撃攘結界!」
黄金の光は錫杖の先端へ集約し、解き放たれる。
光はトラトスの塔の最頂点にぶつかり、塔から巨大な幕が降りた。
幕は町全体を包み、光の衣にて全てを守る。
この光の衣を見たアスカが何かを呟く。
「魔力ではないな。科学? いや、それとも少し違う。魔導と科学の融合文明? ふ~む、どちらにしろつまらんの。剣と魔法の世界は魔法のみであるべきじゃ。高度な文明の存在など興ざめじゃかからな。なぁ、そう思わんか?」
アスカはなんだかよくわからないことを言って、この場から逃げようとしていた青年をとっ捕まえて憤まんをぶつけている。
避難させてあげようよ。そのためにラプユスは頑張っているんだから……。
「さぁ、皆さん! エイグスが町を守っている間に――ぐっ!?」
ナグライダと呼ばれた巨大な化け物が光の衣へ拳を振るう。
拳がぶつかるとキーンという耳をつんざく音が響き、俺たちの鼓膜を痛みに包んだ。
その痛みに、ラプユスの悲痛が混じる。
「ウグッ。なんという膂力。想像よりも強い。ですが、これはただの結界ではありません。攻撃型結界です! 光の槍!!」
彼女の声に応え、結界の一部が隆起して鋭い槍となり、無数の槍がナグライダの全身を突き刺す。
だが――!?
「がぁぁぁあぁあぁぁあ!」
一つの咆哮――ただ、それだけで全身に突き刺さった槍が吹き飛び、一部は逆に結界へと穂先を突き立てた。
その衝撃に、ラプユスが悲鳴を上げる。
「きゃぁぁあぁぁ! ぐ、こ、これほどなんて……このままじゃ。皆さん、急いで避難を!! あなたたちも早く!!」
ラプユスの黄金の瞳が俺たちを捕らえた。だが、すぐに瞳をナグライダに戻し、全身を黄金の光に包む。
彼女の瞳に応え、同じく黄金の瞳を持つアスカが声を漏らす。
「ラプユスとかいう女、やりおる。塔からモチウォンとかいう神の力の補助を用いておるが、それでも町全体を包み込む結界とは……」
「アスカ?」
「じゃが、このままでは数分後には結界を破られ、町は灰燼に帰す。シャーレ」
「敵は巨なる悪魔『ナグライダ』。伝説級の魔物。倒せないことはないけど町は無事では済まない。多くの犠牲者が出る」
「そうか。ワシも回復が全然じゃからな。万全なら指先一つでぶっ倒してくれるのじゃが……何とかナグライダを牽制しつつ、避難の時間を稼ぐのがやっとか。良いか、シャーレ?」
「私にとってはどうでもいいこと」
シャーレはアスカの呼びかけに冷たい表情を纏う。
しかし、すぐに綻ばせて俺を見た。
「だけど、フォルスは助けたいと願っているはず。だから、なんとか町に被害が出ないように頑張る」
「シャーレ……」
たしかに俺は、みんなを助けたいと願っている。
そのためにシャーレは戦うと言っている。
だが、相手は巨大な化け物。魔王の名を冠するシャーレとて、町を守りながらの戦いは難しいようだ。
俺は……このまま彼女を送り出して良いのだろうか?
「俺は……」
シャーレを見つめる。彼女は俺のためなら全てを投げ出す覚悟を瞳に秘める。
耳には、泣き叫ぶ声が届く。混乱の最中、恐怖に怯え、怪我をする者。我が子を探す親。親を探し、泣き声を上げる幼子たち。
俺は弱い――だけど、シャーレやアスカに頼るだけなんて、勇者を目指す俺には絶対にできないこと!!
時滅剣ナストハの柄に手を置く。
それをアスカが引き留める。
「やめておけ。あれは規格外の化け物じゃ。倒すだけではなく町を守りながらとなるとどれほどの可能性が失われるかわからん。今回はワシらに任せておけ」
「それはできない!」
「何故じゃ!?」
俺は二人を置いて、前を歩く。
「俺は勇者を目指しているんだ。そうだというのに、誰かが悲しみ、涙をしている姿を黙って見ているわけにはいかない」
「馬鹿者、状況を見極めよ。ワシらだけでも十分に対処可能じゃ。じゃから――」
「でも、犠牲者が出てしまうのは避けられない」
「どのようなものにも犠牲はつきものじゃ! それは仕方ないこと! ワシらで守れる者だけを守り――」
「俺なら、全てを救える! それに――女の子の後ろで怯えているだけなんて、俺が俺を許せない!!」
俺は一気に駆け出して、巨なる魔物『ナグライダ』へ向かう。
背後ではアスカが大声を上げていた。
――アスカ
「待てと言うのに! この馬鹿者が! クッ、行ってしまったか……」
アスカはシャーレとラプユスに素早く視線を振ってから、ナグライダを黄金の瞳に納めた。
(これほどの強者が揃う世界じゃったとは……シャーレは魔王。これ以上の存在には早々当たらぬ考えておったが甘かった。これではたとえ、可能性の塊であるフォルスであっても、剣の使用を続ければ害が及ぶ)
シャーレは無言のアスカへ問い掛ける。
「私たちもフォルスの援護へ向かわないと」
「……その必要はなかろう」
「何故?」
「フォルスの才は底知れぬ。頂は神に匹敵する。その一端とはいえ振るうのじゃ。ナグライダなる者もあやつの敵ではない。じゃが……」
(このまま強者ばかりを相手にすると……何とかしてやらねば。ワシは世界を渡るだけの力を回復を望み、そのために剣を与え、強力な力が流入しやすい場を整えただけ。別にフォルスを廃人に追い込みたいとは思っておらん)
「対策が必要じゃの。フォルスが一足飛びで成長できるように直接的な加護を与えねば」
「加護?」
「気にするな、大した話ではない」
アスカは片手をひらひらと振って、いかにもどうとでもない話とアピールするが……。
(加護を与えるとなると口頭契約だけではなく、より密接な関係が必要。それこそ最初にフォルスに渡した言葉、ワシの魂の一部を憑りつかせることが必要なのじゃが……シャーレの目を誤魔化してとなると難しいのぅ。こっちの対策も考えんといかんな)
彼の者は緑の皮膚を持ち、一糸纏うことのない姿。
そして、全身の皮膚にくまなく血の涙を流し続ける歪んだ顔を張り付けていた。
その姿を目にした聖女ラプユスが呟き、お付きの人が続く。
「前触れもなく封印が解かれた? まだまだ時間はあったはずですが? クッ、不穏な気配の正体はこれでしたか!」
「そんな馬鹿な、アレは常に監視していたはず!? すぐに馬を走らせ――」
「無駄でしょう。古の巨なる悪魔『ナグライダ』。その封印が解けて姿を現したということは監視班はすでに……避難の準備を! ナグライダの狙いは封印を施したモチウォン教。その象徴たるトラトスの塔と聖女の私!!」
「ラプユス様? まさか!?」
「私がこの場に残り、町を守護します。その間に住人を避難させてください」
「し、しかし!」
「問答を行っている時間はありません! ですが、安心してください。トラトスの塔の防衛結界と私の守護の力が連動すれば、住人を避難させられるだけの時間は稼げます!!」
そう、ラプユスは言葉を飛ばし、錫杖を空へ掲げ、全身を黄金の光で包んだ。
「トラトスの塔に眠りし二つ神の一柱モチウォンの愛心よ。我が心と共鳴し堅牢たる守護を授けよ。撃攘結界!」
黄金の光は錫杖の先端へ集約し、解き放たれる。
光はトラトスの塔の最頂点にぶつかり、塔から巨大な幕が降りた。
幕は町全体を包み、光の衣にて全てを守る。
この光の衣を見たアスカが何かを呟く。
「魔力ではないな。科学? いや、それとも少し違う。魔導と科学の融合文明? ふ~む、どちらにしろつまらんの。剣と魔法の世界は魔法のみであるべきじゃ。高度な文明の存在など興ざめじゃかからな。なぁ、そう思わんか?」
アスカはなんだかよくわからないことを言って、この場から逃げようとしていた青年をとっ捕まえて憤まんをぶつけている。
避難させてあげようよ。そのためにラプユスは頑張っているんだから……。
「さぁ、皆さん! エイグスが町を守っている間に――ぐっ!?」
ナグライダと呼ばれた巨大な化け物が光の衣へ拳を振るう。
拳がぶつかるとキーンという耳をつんざく音が響き、俺たちの鼓膜を痛みに包んだ。
その痛みに、ラプユスの悲痛が混じる。
「ウグッ。なんという膂力。想像よりも強い。ですが、これはただの結界ではありません。攻撃型結界です! 光の槍!!」
彼女の声に応え、結界の一部が隆起して鋭い槍となり、無数の槍がナグライダの全身を突き刺す。
だが――!?
「がぁぁぁあぁあぁぁあ!」
一つの咆哮――ただ、それだけで全身に突き刺さった槍が吹き飛び、一部は逆に結界へと穂先を突き立てた。
その衝撃に、ラプユスが悲鳴を上げる。
「きゃぁぁあぁぁ! ぐ、こ、これほどなんて……このままじゃ。皆さん、急いで避難を!! あなたたちも早く!!」
ラプユスの黄金の瞳が俺たちを捕らえた。だが、すぐに瞳をナグライダに戻し、全身を黄金の光に包む。
彼女の瞳に応え、同じく黄金の瞳を持つアスカが声を漏らす。
「ラプユスとかいう女、やりおる。塔からモチウォンとかいう神の力の補助を用いておるが、それでも町全体を包み込む結界とは……」
「アスカ?」
「じゃが、このままでは数分後には結界を破られ、町は灰燼に帰す。シャーレ」
「敵は巨なる悪魔『ナグライダ』。伝説級の魔物。倒せないことはないけど町は無事では済まない。多くの犠牲者が出る」
「そうか。ワシも回復が全然じゃからな。万全なら指先一つでぶっ倒してくれるのじゃが……何とかナグライダを牽制しつつ、避難の時間を稼ぐのがやっとか。良いか、シャーレ?」
「私にとってはどうでもいいこと」
シャーレはアスカの呼びかけに冷たい表情を纏う。
しかし、すぐに綻ばせて俺を見た。
「だけど、フォルスは助けたいと願っているはず。だから、なんとか町に被害が出ないように頑張る」
「シャーレ……」
たしかに俺は、みんなを助けたいと願っている。
そのためにシャーレは戦うと言っている。
だが、相手は巨大な化け物。魔王の名を冠するシャーレとて、町を守りながらの戦いは難しいようだ。
俺は……このまま彼女を送り出して良いのだろうか?
「俺は……」
シャーレを見つめる。彼女は俺のためなら全てを投げ出す覚悟を瞳に秘める。
耳には、泣き叫ぶ声が届く。混乱の最中、恐怖に怯え、怪我をする者。我が子を探す親。親を探し、泣き声を上げる幼子たち。
俺は弱い――だけど、シャーレやアスカに頼るだけなんて、勇者を目指す俺には絶対にできないこと!!
時滅剣ナストハの柄に手を置く。
それをアスカが引き留める。
「やめておけ。あれは規格外の化け物じゃ。倒すだけではなく町を守りながらとなるとどれほどの可能性が失われるかわからん。今回はワシらに任せておけ」
「それはできない!」
「何故じゃ!?」
俺は二人を置いて、前を歩く。
「俺は勇者を目指しているんだ。そうだというのに、誰かが悲しみ、涙をしている姿を黙って見ているわけにはいかない」
「馬鹿者、状況を見極めよ。ワシらだけでも十分に対処可能じゃ。じゃから――」
「でも、犠牲者が出てしまうのは避けられない」
「どのようなものにも犠牲はつきものじゃ! それは仕方ないこと! ワシらで守れる者だけを守り――」
「俺なら、全てを救える! それに――女の子の後ろで怯えているだけなんて、俺が俺を許せない!!」
俺は一気に駆け出して、巨なる魔物『ナグライダ』へ向かう。
背後ではアスカが大声を上げていた。
――アスカ
「待てと言うのに! この馬鹿者が! クッ、行ってしまったか……」
アスカはシャーレとラプユスに素早く視線を振ってから、ナグライダを黄金の瞳に納めた。
(これほどの強者が揃う世界じゃったとは……シャーレは魔王。これ以上の存在には早々当たらぬ考えておったが甘かった。これではたとえ、可能性の塊であるフォルスであっても、剣の使用を続ければ害が及ぶ)
シャーレは無言のアスカへ問い掛ける。
「私たちもフォルスの援護へ向かわないと」
「……その必要はなかろう」
「何故?」
「フォルスの才は底知れぬ。頂は神に匹敵する。その一端とはいえ振るうのじゃ。ナグライダなる者もあやつの敵ではない。じゃが……」
(このまま強者ばかりを相手にすると……何とかしてやらねば。ワシは世界を渡るだけの力を回復を望み、そのために剣を与え、強力な力が流入しやすい場を整えただけ。別にフォルスを廃人に追い込みたいとは思っておらん)
「対策が必要じゃの。フォルスが一足飛びで成長できるように直接的な加護を与えねば」
「加護?」
「気にするな、大した話ではない」
アスカは片手をひらひらと振って、いかにもどうとでもない話とアピールするが……。
(加護を与えるとなると口頭契約だけではなく、より密接な関係が必要。それこそ最初にフォルスに渡した言葉、ワシの魂の一部を憑りつかせることが必要なのじゃが……シャーレの目を誤魔化してとなると難しいのぅ。こっちの対策も考えんといかんな)
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