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第四章 山に木霊する叫び声
ゴール!
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山の頂上である台地を横切り、駆け下りて、崖に囲まれる小さな盆地へ訪れました。
出入り口となる場所は崖に挟まれた隙間だけ。
ここが目的地です。
盆地の中心には先生方と、何故かゴーレムと合成獣の集団がいます。
ゴーレムと合成獣は試験のラスボスみたいなものでしょうか?
私とエルマは崖の適当な場所を足場にして、軽やかに崖を降ります。
レンちゃんはラナちゃんをお姫様抱っこして、柔らに崖を降りていきました。
「せんせ~い!」
「え? なんで崖から?」
返事をしてくれたのは私のクラスの担当教官、口癖が「え~っと」のレリー=アーティ先生。
赤味がかった茶色の長い髪をオールバックに流して、その長い髪を真ん丸団子にして後ろにまとめています。
彼女は清楚な緑の服に身を包み、白縁の横長眼鏡をくいっと上げて驚いた様子を見せます。
「え~っと、あなたたち、どうして崖から?」
「山の本道を歩くと時間が掛かるので、ショートカットしてきました」
「え……道を外れた場所には罠がいっぱいあったでしょう?」
「全部、無効化しました」
「は? え~っと……」
レリー先生は軽く頭を押さえて、少し左右に振ります。
「えっと、そうね。ショートカットした理由は?」
「今回の授業の本質は情報を素早く確実に届けることです。私たち四人は自身の力量を見極め、より早く目的地を目指す方法を取りました!」
元気よくビシビシと今回の授業の本質はわかってるぞ! と伝えました。
すると、レリー先生は他の先生方と霞のような声で言葉を交わし合います……。
「どうしましょう、予想外ですよ」
「まぁ、授業の内容は理解しておるようだし、構わないのでは?」
「私はあまり良しとしないけど……そうだね、今回は彼女たちの才が私たちを上回ったってことで」
「えと、ゴーレムと合成獣はどうします?」
「もう、それは良いだろ」
「あの数のトラップを打ち破り、あっさり山を越えてくるような子たちには必要ないだろうね」
レリー先生は幾度か他の先生方とやり取りを行い、私たちに近づいてきました。
「え~っと、それでは……授業、クリアおめでとう。ミコン、ラナ、レン、エルマ」
「アリガシャス、押忍!」
と、体育会系の人が言いそうなお礼をお渡ししました。
先生は頭を抱えるような仕草を取りましたが、そこから気を取り直して懐から懐中時計を取り出し言葉を続けます。
「え~っとですね、点数になりますけど――三時間もかかってない!? となると、基準点とサービス点を入れて~、390点です」
「やった~! って、それ高得点なんですか?」
「そうですねぇ、これから到着する人たち次第ですが、それでもトップ5には確実に入るでしょう」
「トップ5か~。せっかくショートカットしたんだから確実にトップ3は目指したかったですね」
そう、声を出すと、レンちゃんたちが言葉を返してきます。
「となると、私たちは今から他の生徒が早く到着しないようにやきもきすることになるね。あはは」
「スタンプもあんも。いっぱい集められてたらぶけうん」
「うわ~、こういう待つのって苦手だぜ。なんだか、そわそわしちまう。早く時間、すぎねぇかなぁ。それに、あと二時間以上も暇だし」
そんなエルマの声にレリー先生が答えます。
「暇なら、ゴーレムと戦いますか?」
「え、先生、それはちょっと……山越えで疲れてるし」
「そうですか。でしたら、残りの時間は……」
「休憩っすね」
「授業をしましょう!」
「は?」
エルマは素っ頓狂な声を生みました。
私もまた声には出ていませんが、脳内は素っ頓狂です。
私は先生の暴挙を諫めようとします。
「レ、レリー先生。それはいくらなんでも……」
「何を言っているんですか、ミコンさん。時間は有限。有効に使わないといけません。特にミコンさん。あなたは魔導学においては芳しくないんですから」
「うにゃっ!」
「プププ、ミコン。言われてやんの~」
「何を言っているんだ。お前もだぞ、エルマ」
エルマの担当教官と思われる筋肉ムキムキな男性の先生がエルマに声を掛けてきます。
そして、こう言葉を続けます。
「お前は座学の方はさっぱりだろ。せっかくだ、特別授業でみんなに追いつけるよう頑張ろう」
「えええ!?」
レリー先生と男性の先生は交互に声を出します。
「フフフ、特別授業ですよ」
「よかったな、お前たち。早く到着したおかげで、みんなよりも勉強できるんだぞ」
「よくないですよ!」
「よくないよ!」
と唾を飛ばしますが、先生方は容赦がありません。
そんな中でレンちゃんとラナちゃんは――
「あの、私たちは?」
「わんずの授業は?」
「いえ、お二人は成績優秀ですからね。レンさんは自習。ラナさんはあちらにいる先生から癒しの術について意見交換を行ってください。彼女は癒しの術のスペシャリストですから、きっと為になりますよ」
「「はい」」
二人は返事をすると、私たちに手を振って、ここから離れていきました。
「く~、なんで私たちだけ、こんな山の中で普通に授業を!」
「ちきしょう~、こんなことならゴーレム相手に戦ってればよかった!」
――崖上
ミコンたちを取り囲む崖の上に影が揺らめく。
影は白い歯を薄く見せて笑う。
「フフ、さ~って、アトリア学園の実力を拝見しようかな。特にミコン。ニャントワンキル族の直系にして、魔女王の贄である君の力をね……」
出入り口となる場所は崖に挟まれた隙間だけ。
ここが目的地です。
盆地の中心には先生方と、何故かゴーレムと合成獣の集団がいます。
ゴーレムと合成獣は試験のラスボスみたいなものでしょうか?
私とエルマは崖の適当な場所を足場にして、軽やかに崖を降ります。
レンちゃんはラナちゃんをお姫様抱っこして、柔らに崖を降りていきました。
「せんせ~い!」
「え? なんで崖から?」
返事をしてくれたのは私のクラスの担当教官、口癖が「え~っと」のレリー=アーティ先生。
赤味がかった茶色の長い髪をオールバックに流して、その長い髪を真ん丸団子にして後ろにまとめています。
彼女は清楚な緑の服に身を包み、白縁の横長眼鏡をくいっと上げて驚いた様子を見せます。
「え~っと、あなたたち、どうして崖から?」
「山の本道を歩くと時間が掛かるので、ショートカットしてきました」
「え……道を外れた場所には罠がいっぱいあったでしょう?」
「全部、無効化しました」
「は? え~っと……」
レリー先生は軽く頭を押さえて、少し左右に振ります。
「えっと、そうね。ショートカットした理由は?」
「今回の授業の本質は情報を素早く確実に届けることです。私たち四人は自身の力量を見極め、より早く目的地を目指す方法を取りました!」
元気よくビシビシと今回の授業の本質はわかってるぞ! と伝えました。
すると、レリー先生は他の先生方と霞のような声で言葉を交わし合います……。
「どうしましょう、予想外ですよ」
「まぁ、授業の内容は理解しておるようだし、構わないのでは?」
「私はあまり良しとしないけど……そうだね、今回は彼女たちの才が私たちを上回ったってことで」
「えと、ゴーレムと合成獣はどうします?」
「もう、それは良いだろ」
「あの数のトラップを打ち破り、あっさり山を越えてくるような子たちには必要ないだろうね」
レリー先生は幾度か他の先生方とやり取りを行い、私たちに近づいてきました。
「え~っと、それでは……授業、クリアおめでとう。ミコン、ラナ、レン、エルマ」
「アリガシャス、押忍!」
と、体育会系の人が言いそうなお礼をお渡ししました。
先生は頭を抱えるような仕草を取りましたが、そこから気を取り直して懐から懐中時計を取り出し言葉を続けます。
「え~っとですね、点数になりますけど――三時間もかかってない!? となると、基準点とサービス点を入れて~、390点です」
「やった~! って、それ高得点なんですか?」
「そうですねぇ、これから到着する人たち次第ですが、それでもトップ5には確実に入るでしょう」
「トップ5か~。せっかくショートカットしたんだから確実にトップ3は目指したかったですね」
そう、声を出すと、レンちゃんたちが言葉を返してきます。
「となると、私たちは今から他の生徒が早く到着しないようにやきもきすることになるね。あはは」
「スタンプもあんも。いっぱい集められてたらぶけうん」
「うわ~、こういう待つのって苦手だぜ。なんだか、そわそわしちまう。早く時間、すぎねぇかなぁ。それに、あと二時間以上も暇だし」
そんなエルマの声にレリー先生が答えます。
「暇なら、ゴーレムと戦いますか?」
「え、先生、それはちょっと……山越えで疲れてるし」
「そうですか。でしたら、残りの時間は……」
「休憩っすね」
「授業をしましょう!」
「は?」
エルマは素っ頓狂な声を生みました。
私もまた声には出ていませんが、脳内は素っ頓狂です。
私は先生の暴挙を諫めようとします。
「レ、レリー先生。それはいくらなんでも……」
「何を言っているんですか、ミコンさん。時間は有限。有効に使わないといけません。特にミコンさん。あなたは魔導学においては芳しくないんですから」
「うにゃっ!」
「プププ、ミコン。言われてやんの~」
「何を言っているんだ。お前もだぞ、エルマ」
エルマの担当教官と思われる筋肉ムキムキな男性の先生がエルマに声を掛けてきます。
そして、こう言葉を続けます。
「お前は座学の方はさっぱりだろ。せっかくだ、特別授業でみんなに追いつけるよう頑張ろう」
「えええ!?」
レリー先生と男性の先生は交互に声を出します。
「フフフ、特別授業ですよ」
「よかったな、お前たち。早く到着したおかげで、みんなよりも勉強できるんだぞ」
「よくないですよ!」
「よくないよ!」
と唾を飛ばしますが、先生方は容赦がありません。
そんな中でレンちゃんとラナちゃんは――
「あの、私たちは?」
「わんずの授業は?」
「いえ、お二人は成績優秀ですからね。レンさんは自習。ラナさんはあちらにいる先生から癒しの術について意見交換を行ってください。彼女は癒しの術のスペシャリストですから、きっと為になりますよ」
「「はい」」
二人は返事をすると、私たちに手を振って、ここから離れていきました。
「く~、なんで私たちだけ、こんな山の中で普通に授業を!」
「ちきしょう~、こんなことならゴーレム相手に戦ってればよかった!」
――崖上
ミコンたちを取り囲む崖の上に影が揺らめく。
影は白い歯を薄く見せて笑う。
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