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第四章 山に木霊する叫び声
武道家としては二流
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――ミコンチーム・食後
「ニャニャ!?」
私は後ろへ飛び退き、猫耳の毛を逆立てて、尾っぽの毛をボンッと膨らませました。
その行動に驚いたレンちゃんが声を掛けてきます。
「ど、どうしたんだミコン!? いきなり?」
「わ、わかりません。今、凄まじい殺気が駆け抜けていきました。とんでもない殺意です。絶対に私を殺すという気持ちが明確に込められた呪いの殺気です。思わず、恐怖で毛が逆立ってしまいました」
「殺気? 誰が?」
「わかりません。ですが、これほどの殺気、産まれて七回くらいしか味わったことのないもの……」
「七回はさすがに多すぎな気が……」
「どんな人生送ってんだよ、ミコンは?」
「あんま、きないことしたら駄目。ミコン」
「私の里は結構スリリングなんで。因みに七回中、五回はおばあちゃんで、二回は柚迩ちゃん師匠からです」
「君の里の事情はわからないけど……」
レンちゃんが一つ間を置いて、言葉に警戒を籠めて続けます。
「殺気……私は感じなかったが、心当たりはあるな」
そう、レンちゃんが言葉を漏らし、私はこくりと頷きました。
「ええ、もしかしたら、出発前に感じた視線の主かもしれません」
この声に、ラナちゃんとエルマがはてなマークを頭上に飛ばします。
「「視線?」」
「スタート地点でお話ししましたよね。川の向こう岸から妙な視線を感じたと」
「ああ、そんな話してたな。それじゃあ、もしかして、レン?」
「ああ。先生方が生徒たちを見守っているんだろうと思っていたけど。もし、さっきの殺気が視線の主なら……」
「レンちゃん」
「ミコン?」
「さっきの殺気はダジャレ?」
「そんなつもりはないっ。ともかく、警戒はしておいた方がいいかもね」
とりあえず、私の受けた殺意の波動に対して警戒を怠らない、ということで話が落ち着きました。
話し合いに僅かな隙間が生まれます。
そこを借りて、エルマが先程の会話で気になった部分を問いかけてきました。
「あのさ、ミコン。さっき……ダジャレじゃないぞ」
「わかってますよ。これ以上、話の腰を折るような真似はしませんから。テンポが悪くなりますし。どうぞ、続けてください」
「うん、それじゃ……さっき、『柚迩ちゃん師匠』って言ってたけど、誰なんだ?」
「私の武術の師匠です。めっちゃ強いんですよ。私じゃ全く歯が立たない」
「ミコンは魔法使いなのに、武術の師匠かよ」
「そこはツッコまないでください。武術は護身程度。私の目標は魔法使いなんで」
ここでラナちゃんがちっちゃく手を上げて声を差し入れます。
「あの、なんで柚迩『ちゃん』師匠なんか? 失すると思うけど」
「それはですね、私よりもちっちゃくて可愛いからです。私より年上なんですけど、見た目は十二歳ですから」
「え?」
「は?」
「不思議に思いますよね。でも、世の中、変わった話がたくさん転がっているんですよ。因みに実年齢は自分でもわからないそうです」
「わからないって……」
「詳しくはわかりませんが、何度も時間の流れがおかしな状況になって、正確な年齢がわからなくなったそうです。それでも無理やり年齢を換算して、二十歳くらいかな~っと言ってました」
「ますますわからん」
「わんずも」
「実を言うとも、私も柚迩ちゃん師匠の全部を知っているわけじゃありませんから。ともかく、柚迩ちゃん師匠が私の村に訪れた時に、武術を教えてくれたんです」
「へ~、じゃあ、ミコンって武術の才能があるんだ。たしかに崖登りとき、めっちゃ軽やかだったもんな」
「いえ、才能はまったくないです」
「はい?」
「柚迩ちゃん師匠から『二流になれても一流にはなれない』と、太鼓判を押されましたから」
「それ、太鼓判っていうのかよ。でも、俺はそう感じないけどなぁ」
エルマはこう私を評価してくれます。
そこで私の問題点を知るレンちゃんが私たちにある提案をしました。
「うん、少しだけなら時間に余裕がある。もしよかったら、二人で模擬戦をやってみたら? 言葉で説明するよりもわかりやすいし。それに、エルマの武を修める者としての才も見ることができるし」
「え、俺、試される感じ?」
「ふふ、自分というのを知るにはいい機会だと思う」
「はぁ、まぁ、ミコンがいいなら」
「そうですね。私の問題点と武を目指す者に必要な才を知るにはいいかもしれません。それでは」
私は少し離れた広場に移動します。
エルマもあとに続き、私と相対する位置で槍を手に構えました。
怪我をしないように槍の穂先にはカバーが付いています。
「一応、カバーを付けてるけど、最悪、骨くらい折れるかもしれないぞ」
「そうならないように頑張ります。では、参ります……」
言葉を止めて、小さくスッと息を吸い込む――と、同時にエルマの懐へ飛び込みました。
エルマは槍を突き牽制しますが、それを躱し、さらに詰め寄り、拳をお見舞いします。
彼女は後ろへ飛び退いて距離を取り、槍の間合いを生かそうとしましたが、それを私が許しません!
エルマを追うように私も前方へ駆け出し、右上段蹴りをお見舞いしようとしました。
それに、彼女は反応しますが――
「チッ、なんてスピードだよ! だけど、これくらいなら――え!?」
彼女は驚きに一瞬、息を止めました。
それは右上段蹴りだと思われたものが――ニャンコの尻尾だったからです!
「フェイク!? それじゃ本命は!?」
本命は――左脚!
意識が上に向いているこの隙を狙い、エルマの頭部へ蹴りをぶつけようとしました。
しかしそれを、エルマは身をよじり躱します。
互いに距離を取り、エルマは冷や汗を顔中に張り付かせています。
「あっぶねぇ! 尻尾のフェイントとか。全く予想をしていなかったぜ。やるな、ミコン!」
「……ええ、ありがとうございます」
「ん、どうした、ミコン? なんだか声のトーンが低いけど?」
「エルマに、私の左蹴りは見えていたんですか?」
「え? いや、咄嗟に体が反応しただけで、かなりヤバかったぜ」
「そうですか……」
私は拳を降ろし、エルマに羨望ともいえる眼差しを向けます。
「エルマは、才能があるんですね」
「はい?」
私は言葉を返さず、大きくため息を地に降ろし無言を纏います。
代わりに、レンちゃんが声を上げました。
「思いもよらぬ攻撃への対処。武の才能がある者は、己の経験や才で切り抜けられる。今、エルマが見せたのがその経験と才だ」
「え、あ、そうかな? 本当に咄嗟にって感じだったんだけど」
レンちゃんに褒められ、頬を掻いて照れているエルマに、私はちょっぴり寂し気な言葉を渡しました。
「私にはそれがないんです」
「へ?」
「私は相手の動きをしっかり見て、対応している。あくまでも『見て』です。ですから、咄嗟にというのは難しいんです」
「でもよ、咄嗟に何とかするって、武道家じゃなくてもあるもんじゃねぇの?」
「ええ、ありますよ。でも、それは一手先を読む程度。先読み。つまり、『先を読む』、というもの。たしかに私は先は読めます。先の先までなら何とか読めるかもしれません。だけど、先の先の先となると無理なんです」
一流の武道家同士の戦い。
己の力量はもちろん、自身の経験、そして勘すらも注ぎ込み、互いに相手の手を読み合う。
それは何十手先までも。
さらに、その手から外れても、エルマが見せたように体が無意識に反応を示す。
それは無意識に見えて、実のところ無意識じゃない。
エルマの先を読む才が思考を追い越して、身体が反応を示した……。
「私は僅か先の手を読めても、はるか遠くは望めない。そして、もし、読み手から外れようものなら対処すらおぼつかない。私は武道家としての勘が皆無なんです。だから二流止まり。一流にはなれない……」
私は自分の才能の無さに言葉を小さく漏らしてしまいました。
そのせいで、辺りに寒々とした気配が広がります。
その気配を察してか、空までもどんよりとしてきました。
私は場の空気を変えるために話題を変えます。
「曇ってきましたね。山の天候は変わりやすいですから、急いで目的地へ向かいましょう」
そう言って、私は食事の後片付けを始めました。
みんなもそれに促されて、後片付けを始めます。
その中で、エルマが声を掛けてきました。
「正直さ、俺にはその武術の勘ってのがよくわからない。でもよ、ミコンは才能あると思うぜ」
「にゃふふ、ありがとうございます。でも、才ある人はわからなくても持っているんですよ。ちょっぴり羨ましいです」
「ミコン……」
「でもね、大丈夫なんです!」
私は猫耳と尾っぽをぴんと張ります。
「私が目指しているのは武道家ではなく魔法使い! 大魔法使い猫の子ミコンとして名を広めてやりますよ……その前に、現代魔法をしっかり会得しないといけないんだけど」
ここで猫耳がへにゃりましたが――私は魔法について、とある部分においては誰にも負けないという自負するものがあります!
「現代魔法は苦手でも魔力が使えないわけじゃありません。私の身に宿る魔力量と魔法の力は――ネティアなんか目じゃありません! あの大賢者セラウィク様だって!」
「ニャニャ!?」
私は後ろへ飛び退き、猫耳の毛を逆立てて、尾っぽの毛をボンッと膨らませました。
その行動に驚いたレンちゃんが声を掛けてきます。
「ど、どうしたんだミコン!? いきなり?」
「わ、わかりません。今、凄まじい殺気が駆け抜けていきました。とんでもない殺意です。絶対に私を殺すという気持ちが明確に込められた呪いの殺気です。思わず、恐怖で毛が逆立ってしまいました」
「殺気? 誰が?」
「わかりません。ですが、これほどの殺気、産まれて七回くらいしか味わったことのないもの……」
「七回はさすがに多すぎな気が……」
「どんな人生送ってんだよ、ミコンは?」
「あんま、きないことしたら駄目。ミコン」
「私の里は結構スリリングなんで。因みに七回中、五回はおばあちゃんで、二回は柚迩ちゃん師匠からです」
「君の里の事情はわからないけど……」
レンちゃんが一つ間を置いて、言葉に警戒を籠めて続けます。
「殺気……私は感じなかったが、心当たりはあるな」
そう、レンちゃんが言葉を漏らし、私はこくりと頷きました。
「ええ、もしかしたら、出発前に感じた視線の主かもしれません」
この声に、ラナちゃんとエルマがはてなマークを頭上に飛ばします。
「「視線?」」
「スタート地点でお話ししましたよね。川の向こう岸から妙な視線を感じたと」
「ああ、そんな話してたな。それじゃあ、もしかして、レン?」
「ああ。先生方が生徒たちを見守っているんだろうと思っていたけど。もし、さっきの殺気が視線の主なら……」
「レンちゃん」
「ミコン?」
「さっきの殺気はダジャレ?」
「そんなつもりはないっ。ともかく、警戒はしておいた方がいいかもね」
とりあえず、私の受けた殺意の波動に対して警戒を怠らない、ということで話が落ち着きました。
話し合いに僅かな隙間が生まれます。
そこを借りて、エルマが先程の会話で気になった部分を問いかけてきました。
「あのさ、ミコン。さっき……ダジャレじゃないぞ」
「わかってますよ。これ以上、話の腰を折るような真似はしませんから。テンポが悪くなりますし。どうぞ、続けてください」
「うん、それじゃ……さっき、『柚迩ちゃん師匠』って言ってたけど、誰なんだ?」
「私の武術の師匠です。めっちゃ強いんですよ。私じゃ全く歯が立たない」
「ミコンは魔法使いなのに、武術の師匠かよ」
「そこはツッコまないでください。武術は護身程度。私の目標は魔法使いなんで」
ここでラナちゃんがちっちゃく手を上げて声を差し入れます。
「あの、なんで柚迩『ちゃん』師匠なんか? 失すると思うけど」
「それはですね、私よりもちっちゃくて可愛いからです。私より年上なんですけど、見た目は十二歳ですから」
「え?」
「は?」
「不思議に思いますよね。でも、世の中、変わった話がたくさん転がっているんですよ。因みに実年齢は自分でもわからないそうです」
「わからないって……」
「詳しくはわかりませんが、何度も時間の流れがおかしな状況になって、正確な年齢がわからなくなったそうです。それでも無理やり年齢を換算して、二十歳くらいかな~っと言ってました」
「ますますわからん」
「わんずも」
「実を言うとも、私も柚迩ちゃん師匠の全部を知っているわけじゃありませんから。ともかく、柚迩ちゃん師匠が私の村に訪れた時に、武術を教えてくれたんです」
「へ~、じゃあ、ミコンって武術の才能があるんだ。たしかに崖登りとき、めっちゃ軽やかだったもんな」
「いえ、才能はまったくないです」
「はい?」
「柚迩ちゃん師匠から『二流になれても一流にはなれない』と、太鼓判を押されましたから」
「それ、太鼓判っていうのかよ。でも、俺はそう感じないけどなぁ」
エルマはこう私を評価してくれます。
そこで私の問題点を知るレンちゃんが私たちにある提案をしました。
「うん、少しだけなら時間に余裕がある。もしよかったら、二人で模擬戦をやってみたら? 言葉で説明するよりもわかりやすいし。それに、エルマの武を修める者としての才も見ることができるし」
「え、俺、試される感じ?」
「ふふ、自分というのを知るにはいい機会だと思う」
「はぁ、まぁ、ミコンがいいなら」
「そうですね。私の問題点と武を目指す者に必要な才を知るにはいいかもしれません。それでは」
私は少し離れた広場に移動します。
エルマもあとに続き、私と相対する位置で槍を手に構えました。
怪我をしないように槍の穂先にはカバーが付いています。
「一応、カバーを付けてるけど、最悪、骨くらい折れるかもしれないぞ」
「そうならないように頑張ります。では、参ります……」
言葉を止めて、小さくスッと息を吸い込む――と、同時にエルマの懐へ飛び込みました。
エルマは槍を突き牽制しますが、それを躱し、さらに詰め寄り、拳をお見舞いします。
彼女は後ろへ飛び退いて距離を取り、槍の間合いを生かそうとしましたが、それを私が許しません!
エルマを追うように私も前方へ駆け出し、右上段蹴りをお見舞いしようとしました。
それに、彼女は反応しますが――
「チッ、なんてスピードだよ! だけど、これくらいなら――え!?」
彼女は驚きに一瞬、息を止めました。
それは右上段蹴りだと思われたものが――ニャンコの尻尾だったからです!
「フェイク!? それじゃ本命は!?」
本命は――左脚!
意識が上に向いているこの隙を狙い、エルマの頭部へ蹴りをぶつけようとしました。
しかしそれを、エルマは身をよじり躱します。
互いに距離を取り、エルマは冷や汗を顔中に張り付かせています。
「あっぶねぇ! 尻尾のフェイントとか。全く予想をしていなかったぜ。やるな、ミコン!」
「……ええ、ありがとうございます」
「ん、どうした、ミコン? なんだか声のトーンが低いけど?」
「エルマに、私の左蹴りは見えていたんですか?」
「え? いや、咄嗟に体が反応しただけで、かなりヤバかったぜ」
「そうですか……」
私は拳を降ろし、エルマに羨望ともいえる眼差しを向けます。
「エルマは、才能があるんですね」
「はい?」
私は言葉を返さず、大きくため息を地に降ろし無言を纏います。
代わりに、レンちゃんが声を上げました。
「思いもよらぬ攻撃への対処。武の才能がある者は、己の経験や才で切り抜けられる。今、エルマが見せたのがその経験と才だ」
「え、あ、そうかな? 本当に咄嗟にって感じだったんだけど」
レンちゃんに褒められ、頬を掻いて照れているエルマに、私はちょっぴり寂し気な言葉を渡しました。
「私にはそれがないんです」
「へ?」
「私は相手の動きをしっかり見て、対応している。あくまでも『見て』です。ですから、咄嗟にというのは難しいんです」
「でもよ、咄嗟に何とかするって、武道家じゃなくてもあるもんじゃねぇの?」
「ええ、ありますよ。でも、それは一手先を読む程度。先読み。つまり、『先を読む』、というもの。たしかに私は先は読めます。先の先までなら何とか読めるかもしれません。だけど、先の先の先となると無理なんです」
一流の武道家同士の戦い。
己の力量はもちろん、自身の経験、そして勘すらも注ぎ込み、互いに相手の手を読み合う。
それは何十手先までも。
さらに、その手から外れても、エルマが見せたように体が無意識に反応を示す。
それは無意識に見えて、実のところ無意識じゃない。
エルマの先を読む才が思考を追い越して、身体が反応を示した……。
「私は僅か先の手を読めても、はるか遠くは望めない。そして、もし、読み手から外れようものなら対処すらおぼつかない。私は武道家としての勘が皆無なんです。だから二流止まり。一流にはなれない……」
私は自分の才能の無さに言葉を小さく漏らしてしまいました。
そのせいで、辺りに寒々とした気配が広がります。
その気配を察してか、空までもどんよりとしてきました。
私は場の空気を変えるために話題を変えます。
「曇ってきましたね。山の天候は変わりやすいですから、急いで目的地へ向かいましょう」
そう言って、私は食事の後片付けを始めました。
みんなもそれに促されて、後片付けを始めます。
その中で、エルマが声を掛けてきました。
「正直さ、俺にはその武術の勘ってのがよくわからない。でもよ、ミコンは才能あると思うぜ」
「にゃふふ、ありがとうございます。でも、才ある人はわからなくても持っているんですよ。ちょっぴり羨ましいです」
「ミコン……」
「でもね、大丈夫なんです!」
私は猫耳と尾っぽをぴんと張ります。
「私が目指しているのは武道家ではなく魔法使い! 大魔法使い猫の子ミコンとして名を広めてやりますよ……その前に、現代魔法をしっかり会得しないといけないんだけど」
ここで猫耳がへにゃりましたが――私は魔法について、とある部分においては誰にも負けないという自負するものがあります!
「現代魔法は苦手でも魔力が使えないわけじゃありません。私の身に宿る魔力量と魔法の力は――ネティアなんか目じゃありません! あの大賢者セラウィク様だって!」
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