大魔法使い(予定)・猫の子ミコン~現代魔法は苦手だけど、破壊力抜群の古代魔法は得意なんです~

雪野湯

文字の大きさ
上 下
26 / 32
第四章 山に木霊する叫び声

武道家としては二流

しおりを挟む
――ミコンチーム・食後


「ニャニャ!?」

 私は後ろへ飛び退き、猫耳の毛を逆立てて、尾っぽの毛をボンッと膨らませました。
 その行動に驚いたレンちゃんが声を掛けてきます。

「ど、どうしたんだミコン!? いきなり?」
「わ、わかりません。今、凄まじい殺気が駆け抜けていきました。とんでもない殺意です。絶対に私を殺すという気持ちが明確に込められた呪いの殺気です。思わず、恐怖で毛が逆立ってしまいました」
「殺気? 誰が?」
「わかりません。ですが、これほどの殺気、産まれて七回くらいしか味わったことのないもの……」


「七回はさすがに多すぎな気が……」
「どんな人生送ってんだよ、ミコンは?」
「あんま、きないことしたら駄目。ミコン」

「私の里は結構スリリングなんで。因みに七回中、五回はおばあちゃんで、二回は柚迩ゆにちゃん師匠からです」
「君の里の事情はわからないけど……」


 レンちゃんが一つ間を置いて、言葉に警戒を籠めて続けます。
「殺気……私は感じなかったが、心当たりはあるな」

 そう、レンちゃんが言葉を漏らし、私はこくりと頷きました。
「ええ、もしかしたら、出発前に感じた視線のぬしかもしれません」

 
 この声に、ラナちゃんとエルマがはてなマークを頭上に飛ばします。
「「視線?」」

「スタート地点でお話ししましたよね。川の向こう岸から妙な視線を感じたと」
「ああ、そんな話してたな。それじゃあ、もしかして、レン?」
「ああ。先生方が生徒たちを見守っているんだろうと思っていたけど。もし、さっきの殺気が視線のぬしなら……」

「レンちゃん」
「ミコン?」
「さっきの殺気はダジャレ?」
「そんなつもりはないっ。ともかく、警戒はしておいた方がいいかもね」


 とりあえず、私の受けた殺意の波動に対して警戒を怠らない、ということで話が落ち着きました。
 話し合いに僅かな隙間が生まれます。
 そこを借りて、エルマが先程の会話で気になった部分を問いかけてきました。

「あのさ、ミコン。さっき……ダジャレじゃないぞ」
「わかってますよ。これ以上、話の腰を折るような真似はしませんから。テンポが悪くなりますし。どうぞ、続けてください」
「うん、それじゃ……さっき、『柚迩ゆにちゃん師匠』って言ってたけど、誰なんだ?」

「私の武術の師匠です。めっちゃ強いんですよ。私じゃ全く歯が立たない」
「ミコンは魔法使いなのに、武術の師匠かよ」
「そこはツッコまないでください。武術は護身程度。私の目標は魔法使いなんで」

 ここでラナちゃんがちっちゃく手を上げて声を差し入れます。
「あの、なんで柚迩『ちゃん』師匠なんか? 失すると思うけど」
「それはですね、私よりもちっちゃくて可愛いからです。私より年上なんですけど、見た目は十二歳ですから」


「え?」
「は?」

「不思議に思いますよね。でも、世の中、変わった話がたくさん転がっているんですよ。因みに実年齢は自分でもわからないそうです」

「わからないって……」

「詳しくはわかりませんが、何度も時間の流れがおかしな状況になって、正確な年齢がわからなくなったそうです。それでも無理やり年齢を換算して、二十歳くらいかな~っと言ってました」

「ますますわからん」
「わんずも」

「実を言うとも、私も柚迩ちゃん師匠の全部を知っているわけじゃありませんから。ともかく、柚迩ちゃん師匠が私の村に訪れた時に、武術を教えてくれたんです」

「へ~、じゃあ、ミコンって武術の才能があるんだ。たしかに崖登りとき、めっちゃ軽やかだったもんな」
「いえ、才能はまったくないです」
「はい?」

「柚迩ちゃん師匠から『二流になれても一流にはなれない』と、太鼓判を押されましたから」
「それ、太鼓判っていうのかよ。でも、俺はそう感じないけどなぁ」


 エルマはこう私を評価してくれます。
 そこで私の問題点を知るレンちゃんが私たちにある提案をしました。


「うん、少しだけなら時間に余裕がある。もしよかったら、二人で模擬戦をやってみたら? 言葉で説明するよりもわかりやすいし。それに、エルマの武を修める者としての才も見ることができるし」
「え、俺、試される感じ?」
「ふふ、自分というのを知るにはいい機会だと思う」
「はぁ、まぁ、ミコンがいいなら」

「そうですね。私の問題点と武を目指す者に必要な才を知るにはいいかもしれません。それでは」


 私は少し離れた広場に移動します。
 エルマもあとに続き、私と相対する位置で槍を手に構えました。
 怪我をしないように槍の穂先にはカバーが付いています。

「一応、カバーを付けてるけど、最悪、骨くらい折れるかもしれないぞ」
「そうならないように頑張ります。では、参ります……」

 言葉を止めて、小さくスッと息を吸い込む――と、同時にエルマの懐へ飛び込みました。
 エルマは槍を突き牽制しますが、それを躱し、さらに詰め寄り、拳をお見舞いします。

 彼女は後ろへ飛び退いて距離を取り、槍の間合いを生かそうとしましたが、それを私が許しません!

 エルマを追うように私も前方へ駆け出し、右上段蹴りをお見舞いしようとしました。
 それに、彼女は反応しますが――


「チッ、なんてスピードだよ! だけど、これくらいなら――え!?」

 彼女は驚きに一瞬、息を止めました。
 それは右上段蹴りだと思われたものが――ニャンコの尻尾だったからです!

「フェイク!? それじゃ本命は!?」

 本命は――左脚! 
 意識が上に向いているこの隙を狙い、エルマの頭部へ蹴りをぶつけようとしました。
 しかしそれを、エルマは身をよじり躱します。


 互いに距離を取り、エルマは冷や汗を顔中に張り付かせています。

「あっぶねぇ! 尻尾のフェイントとか。全く予想をしていなかったぜ。やるな、ミコン!」
「……ええ、ありがとうございます」
「ん、どうした、ミコン? なんだか声のトーンが低いけど?」
「エルマに、私の左蹴りは見えていたんですか?」
「え? いや、咄嗟に体が反応しただけで、かなりヤバかったぜ」
「そうですか……」

 私は拳を降ろし、エルマに羨望ともいえる眼差しを向けます。
「エルマは、才能があるんですね」
「はい?」

 私は言葉を返さず、大きくため息を地に降ろし無言を纏います。
 代わりに、レンちゃんが声を上げました。


「思いもよらぬ攻撃への対処。武の才能がある者は、己の経験や才で切り抜けられる。今、エルマが見せたのがその経験と才だ」
「え、あ、そうかな? 本当に咄嗟にって感じだったんだけど」


 レンちゃんに褒められ、頬を掻いて照れているエルマに、私はちょっぴり寂し気な言葉を渡しました。

「私にはそれがないんです」
「へ?」
「私は相手の動きをしっかり見て、対応している。あくまでも『見て』です。ですから、咄嗟にというのは難しいんです」
「でもよ、咄嗟に何とかするって、武道家じゃなくてもあるもんじゃねぇの?」


「ええ、ありますよ。でも、それは一手先を読む程度。先読み。つまり、『せんを読む』、というもの。たしかに私はせんは読めます。先の先までなら何とか読めるかもしれません。だけど、先の先の先となると無理なんです」

 
 一流の武道家同士の戦い。
 己の力量はもちろん、自身の経験、そして勘すらも注ぎ込み、互いに相手の手を読み合う。
 それは何十手先までも。
 さらに、その手から外れても、エルマが見せたように体が無意識に反応を示す。
 それは無意識に見えて、実のところ無意識じゃない。

 エルマのせんを読む才が思考を追い越して、身体が反応を示した……。

「私は僅かさきの手を読めても、はるか遠くは望めない。そして、もし、読み手から外れようものなら対処すらおぼつかない。私は武道家としての勘が皆無なんです。だから二流止まり。一流にはなれない……」

 
 私は自分の才能の無さに言葉を小さく漏らしてしまいました。
 そのせいで、辺りに寒々とした気配が広がります。
 その気配を察してか、空までもどんよりとしてきました。
 私は場の空気を変えるために話題を変えます。

「曇ってきましたね。山の天候は変わりやすいですから、急いで目的地へ向かいましょう」
 そう言って、私は食事の後片付けを始めました。
 みんなもそれに促されて、後片付けを始めます。

 その中で、エルマが声を掛けてきました。
「正直さ、俺にはその武術の勘ってのがよくわからない。でもよ、ミコンは才能あると思うぜ」
「にゃふふ、ありがとうございます。でも、才ある人はわからなくても持っているんですよ。ちょっぴり羨ましいです」
「ミコン……」

「でもね、大丈夫なんです!」

 私は猫耳と尾っぽをぴんと張ります。

「私が目指しているのは武道家ではなく魔法使い! 大魔法使い猫の子ミコンとして名を広めてやりますよ……その前に、現代魔法をしっかり会得しないといけないんだけど」

 ここで猫耳がへにゃりましたが――私は魔法について、とある部分においては誰にも負けないという自負するものがあります!


「現代魔法は苦手でも魔力が使えないわけじゃありません。私の身に宿る魔力量と魔法の力は――ネティアなんか目じゃありません! あの大賢者セラウィク様だって!」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件

美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…? 最新章の第五章も夕方18時に更新予定です! ☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。 ※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます! ※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。 ※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

婚約破棄されて辺境へ追放されました。でもステータスがほぼMAXだったので平気です!スローライフを楽しむぞっ♪

naturalsoft
恋愛
シオン・スカーレット公爵令嬢は転生者であった。夢だった剣と魔法の世界に転生し、剣の鍛錬と魔法の鍛錬と勉強をずっとしており、攻略者の好感度を上げなかったため、婚約破棄されました。 「あれ?ここって乙女ゲーの世界だったの?」 まっ、いいかっ! 持ち前の能天気さとポジティブ思考で、辺境へ追放されても元気に頑張って生きてます!

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

魔具師になったら何をつくろう?

アマクニノタスク
ファンタジー
いつもありがとうございます。 ☆お気に入りも3500を突破しました☆ ~内容紹介~ ある日、雷にうたれた事をきっかけに前世の記憶が目醒めました。 どうやら異世界へ転生してしまっているようです。 しかも魔具師と言う何やら面白そうな職業をやっているではないですか! 異世界へ転生したんだし、残りの人生を楽しもうじゃないですか!! そんなこんなで主人公が色んな事に挑戦していきます。 知識チートで大儲けしちゃう? 魔導具で最強目指しちゃう? それともハーレムしちゃう? 彼が歩む人生の先にはどんな結末が待っているのか。

処理中です...