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第四章 山に木霊する叫び声
貴重なたんぱく源
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五分が経ち、山の中で集めた食料品を持ち寄りました。
どうやら、レンちゃんとエルマは先に戻ってきていたようで、火を起こしている途中でした。
私は一人、茂みをかき分けて二人の前へ飛び出します。
「よっと。おや、お二人とも早いですね?」
「あ~、ちょっとね」
「野草や果実は見つかったんだけど……肉の方が」
「あら、そうなんですか」
「この周辺に獣の気配が一切いなくて。鳥の方も」
「で、先に戻って、せめて火だけでも起こしておこうってな」
「そういうことですか。仕方ありませんね。でも、運よく、私の方でタンパク質の確保ができましたので、問題なしです」
「そうなんだ? で、どんなお肉を?」
「お肉? にゃふふふ、もっと美味しいものですよ。それはとっておきに。あとはラナちゃんですか?」
「あれ、一緒じゃなかったのかい?」
「途中でたんぱく質を求めて分かれました」
と言うと、エルマが心配そうな声を上げます。
「おいおい、一人にして大丈夫かよ?」
「チッチッチ、ラナちゃんを舐めてはいけませんよ。ラナちゃんは私と同じ、田舎の子自然の子。この程度の山で迷うようなことはありません」
「いや~、ミコンと同じ扱いをするのはちょっとなぁ」
「にゃ!? どういう意味ですか、それ!?」
「だって、魔法使いなのに体力バカじゃん」
「た、たいりょくばか!? なんという評価を! ねぇ、レンちゃん。ひどすぎせん!?」
「…………」
「え、まさかの沈黙回答!? もしかして、レンちゃんも私をそんな風に……?」
「え~っとね、元気があることはいいと思うよ」
「にゃぎぎ、なんという不当評価。いいでしょう! お二人にはいずれお淑やかな私を見せつけてやりますからね!」
「お淑やかな奴が見せつけるなんて言わないだろ。それよか、ラナは?」
そう、エルマがラナちゃんの名前を出すと、タイミングよく茂みからラナちゃんが出てきました。
「ちくれて、ごめん。キノコしゅめにちょっと夢中になった」
そう言って、蔓カバンから零れ落ちるくらいの大量のキノコを見せてきました。
「え、凄い。こんな短時間にあんなに」
「やるねぇ、ラナ」
「おお、美味そうじゃん」
「てへ」
ラナちゃんはみんなから褒められてとても嬉しそうに微笑みました。
その笑顔を見ているとなんだか幸せな気分になります。
「では、ラナちゃんが採ってきてくれたキノコを主食にお昼にしましょう」
軽く火で炙り消毒した木の枝にキノコを刺し、それを火の傍のおいてキノコ自体も炙ります。
野草はラナちゃんが産んだ水球に放り込んで、火にくべてひと煮立ちさせて灰汁を抜き、果実の汁で味付けをして頂きます。
残った果実はそのまま丸かじりです。
これらの料理にレンちゃん、エルマ、ラナちゃんが感想を述べているみたい。
「キノコ、美味しいね。味付けもないのに」
「ホントだ。うめぇ。焼いただけなのに」
「焼いただけでもびみみなキノコを選んだから。でも、野草にちょっとエグみがあるのが残念」
この言葉に私が声を返します。
「仕方ありませんよ。野草はしっかりとした準備をしないと美味しくいただけませんから。でも、道具類もない状況でこの味。かなりいい線を行っていると思いますよ。果実の酸味と合わさって、サラダみたいで」
「ふふ、確かにミコンの言うとおりだ。そういえば、ミコン。君はお肉を確保したとか言っていなかったかい?」
「お肉じゃありませんが、食後のデザート代わりなる貴重なたんぱく源です。皆さん、食事も頂いたところですし、どうぞ!」
私は茂みに隠していたとっておきをみんなの前で披露しました。
しかし、どういうわけか、それを目にした三人が恐れおののきます。
「え、ミコン!?」
「ひっ、なんだよこれ!?」
「ミコン、なんも!?」
「何って…………蜂蜜と蜂の子ですけど?」
そう、これがとっておきのごちそう。
そうだというのに、三人の反応がいまいちです。
「どうしたんですか、皆さん? 滋養強壮に富み、甘く美味しい食材ですよ」
「いやね、滋養強壮はわかるよ。でも、なんか、いる」
「蜂蜜はわかるぜ、蜂蜜は。だけど、なんか、いる」
「ミコン、蜂の子どもはないーや」
「ええ!? 蜂の子は大自然の恵み! 最高のごちそうでしょう!!」
そう訴えますが、三人は一斉に首を横に振ります。
「あっれ~、そんなに嫌ですか? まぁ、都会っ子には珍しいかもしれませんが……ラナちゃんは大丈夫でしょう?」
「いんや、わんずのところでは虫食はあんまり……」
「そうですか……こんなに美味しそうなのに」
ハチの巣からひょっこり顔を出している子どもたちはもにょもにょ動いています。
活きが良くて大変美味しそうです。
そうだというのにエルマは身震いをしながら、言葉に針をつけてきます。
「いやいやいや、おいしそうじゃねぇよ。気持ち悪いよ!」
「ええ!? この子たちのどこが気持ち悪いんですか!? 白くて、丸くて、もこもこしてて、ぷにぷにしてる。可愛いの代名詞が揃い踏みですよ!」
「代名詞だけ揃っても可愛くはねぇよ! ってか、可愛いならなおさら食べようとすんなよ!!」
凄まじい剣幕で言葉を返されました。
どうやら、見た目だけで忌避して、美食を追う勇気はないみたいです。
それはエルマだけではなく、レンちゃんとラナちゃんも。
私は残念感を声に乗せます。
「はぁ~、せっかくのご馳走なんですけどね。まぁ、慣れない食材は恐ろしいものですから仕方ありません。調理部の方々もお出しした最初は戸惑ってましたし。味の探求者以外には不向きなのかもしれませんね」
このように言葉を出すと、レンちゃんが首を少し斜めに傾けました。
「部活の人たちには出したの?」
「はい」
「それで……食べたの?」
「はい、驚いた様子でしたが、食べ物と伝えるとこぞってハチの巣に群がり口に入れてましたよ」
「そ、そうなんだ。しかも生で食べるんだね。調理部の人たちは逞しいな。だけど、申し訳ない。私たちはちょっと……」
レンちゃんはとても申し訳なさそうな声を漏らしました。ラナちゃんとエルマもそんな態度を取っています。
「いえいえ、お気になさらずに。食べたくないものを無理やり食べさせるのは間違っていますし。でも、そんなに嫌ですかね? 調理部の部長もネティアも食べ物とわかると普通に食べてましたけど」
「ん、ネティアが?」
「どうしました、レンちゃん?」
「いや、ネティアが、それを食べたの?」
「ええ。出した当初はギャーギャー騒いでましたが、美味と伝えると途端にだらしなく頬を垂らして意地汚く貪ってましたよ」
「貪ってたって。さすがに誇張なんだろうけど。そうか、彼女が……」
「別に誇張でも何でもないですよ。この美味しさを知ったネティアは学園中のハチの巣を食べつくして、一時的に学園内から蜂の姿が消えましたし。もちろん、食べられる蜂だけですが」
「ええ!?」
レンちゃんが山に響く渡るくらいの大きな声を上げました。
エルマとラナちゃんも同じく驚いた様子です。
「マジかよ。あの人って、めっちゃ貴族やってるのに」
「人は見かけによらんな」
「まぁ、ウザい存在ですが、美食を追うという点では評価できますね。だけど、そういったことに興味がない人には不慣れな食べ物は受け入れられませんよね……はぁ~」
私はつい、せっかく見つけた豪華食材が受け入れてもらえなくてため息を漏らしてしまいました。
すると、それを救い上げる人がいます――レンちゃんです。
「ネティアが。そうか、彼女はこういったことでは公平なのか……ミコン、待ってくれ」
「はい?」
「君がせっかく用意してくれた食材だ。無下には扱えない。それに、一度も口にすることなく嫌うのは良くないからね。いただくよ」
「よろしいんですか? 無理しなくても」
「ふふ、無理はしてないさ。たしかに抵抗はあるけど。ミコンが美味しいと言っているんだから、それを信じるよ」
このレンちゃんの声に触発されてラナちゃんが声を上げます。
「わ、わんずもしょくす。おばあちゃんやおじいちゃんの世代を食べてたとぶんし、美味しいと思う」
二人の声にエルマが取り乱します。
「ちょちょちょちょちょ、待て待て待て待て。この流れ、俺も食べないといけない流れじゃん。えええええ、本気? 本気なの? ふたりとも?」
そんなエルマへ私は優しく言葉を掛けます――寂しげに微笑みながら……。
「いいんですよ、エルマ。無理をしなくても……」
「その笑み! ずるいだろ!! わーったよ! 俺も食べるよ!! 友達が用意してくれた料理だからな。調理されてねぇけど!」
エルマはやけっぱちな声を出して、私が両手で持つハチの巣の前に立ちました。
レンちゃんやラナちゃんも集まってきます。
「うわ、もぞもぞしてる」
「食べると言い出したのは私だけど、凄いビジュアルだね」
「どんな味がするか、わんもーな? ミコン?」
「この蜂の種類だと、蜂蜜にクリームを混ぜたような味ですね」
「蜂によって味が違うん?」
「甘い卵焼きみたいな味の蜂の子とかもいますよ」
この一言にエルマが小さな嘆きを漏らします。
「やめてくれ。卵焼きが食べられなくなるから……うう、それじゃ、みんなで」
三人はこっくりと深い頷きを見せて、ハチの巣に手を伸ばします。
そこまで覚悟して食べるものではないんですが……この子たちは毒も寄生虫も雑菌も問題のない種類なのに。
エルマは蜂の子をつまんで息荒く声を出します。
「うわ、うわ、ぷにぷにしてる!」
「可愛いの代名詞ですよね!」
「可愛くはない! は、は、は、ホントに食べられるのか、これ?」
「食べられます。そして、下手なお菓子より美味しいです!」
「俺は下手なお菓子の方がいいよ! ちきしょう~!」
意外に意外、一番怯えていたエルマが真っ先に蜂の子を口の中へ放り込みました。
彼女に続いて、レンちゃんとラナちゃんも蜂の子を口に含みます。
私は三人へアドバイスを送ります。
「丸飲みは駄目ですよ~。のどに詰まっちゃいますから。噛んで味わってください。余裕があるなら舌先で踊る蜂の子の感触を味わうといいですよ~」
三人は口を閉じてムームーと声にならぬ声を返すだけ。
とりあえず、丸飲みはしてないみたいです。
ここから三人が味わう様子を表しても良いのですが、刺激が強すぎるので音だけをどうぞ。
パクっ、もにゅ。にゅるん。ハム、ハムムム! ぶちちょ! どろり、じゅわ、ぬちゃり。ぬちゃ、ぬちゃ……うぐ、ゴクン!
三人は舌先で感触を味わい、しっかり噛んで蜂の子から漏れだす滋養強壮のエキスを堪能して、喉奥へ通し、胃へ届けたみたいです。
私はレンちゃん・ラナちゃん・エルマに尋ねます。
「どうですか? 美味しいでしょ?」
「…………たしかに、美味しい」
「蜂蜜クリームを食べてるみたい」
「甘くて、下手なお菓子より何倍を美味しい」
「でしょでしょ」
「「「だけど」」」
「ん?」
「「「できれば食べたくない!」」」
「ええ~、なんでですかぁ!?」
どうやら、レンちゃんとエルマは先に戻ってきていたようで、火を起こしている途中でした。
私は一人、茂みをかき分けて二人の前へ飛び出します。
「よっと。おや、お二人とも早いですね?」
「あ~、ちょっとね」
「野草や果実は見つかったんだけど……肉の方が」
「あら、そうなんですか」
「この周辺に獣の気配が一切いなくて。鳥の方も」
「で、先に戻って、せめて火だけでも起こしておこうってな」
「そういうことですか。仕方ありませんね。でも、運よく、私の方でタンパク質の確保ができましたので、問題なしです」
「そうなんだ? で、どんなお肉を?」
「お肉? にゃふふふ、もっと美味しいものですよ。それはとっておきに。あとはラナちゃんですか?」
「あれ、一緒じゃなかったのかい?」
「途中でたんぱく質を求めて分かれました」
と言うと、エルマが心配そうな声を上げます。
「おいおい、一人にして大丈夫かよ?」
「チッチッチ、ラナちゃんを舐めてはいけませんよ。ラナちゃんは私と同じ、田舎の子自然の子。この程度の山で迷うようなことはありません」
「いや~、ミコンと同じ扱いをするのはちょっとなぁ」
「にゃ!? どういう意味ですか、それ!?」
「だって、魔法使いなのに体力バカじゃん」
「た、たいりょくばか!? なんという評価を! ねぇ、レンちゃん。ひどすぎせん!?」
「…………」
「え、まさかの沈黙回答!? もしかして、レンちゃんも私をそんな風に……?」
「え~っとね、元気があることはいいと思うよ」
「にゃぎぎ、なんという不当評価。いいでしょう! お二人にはいずれお淑やかな私を見せつけてやりますからね!」
「お淑やかな奴が見せつけるなんて言わないだろ。それよか、ラナは?」
そう、エルマがラナちゃんの名前を出すと、タイミングよく茂みからラナちゃんが出てきました。
「ちくれて、ごめん。キノコしゅめにちょっと夢中になった」
そう言って、蔓カバンから零れ落ちるくらいの大量のキノコを見せてきました。
「え、凄い。こんな短時間にあんなに」
「やるねぇ、ラナ」
「おお、美味そうじゃん」
「てへ」
ラナちゃんはみんなから褒められてとても嬉しそうに微笑みました。
その笑顔を見ているとなんだか幸せな気分になります。
「では、ラナちゃんが採ってきてくれたキノコを主食にお昼にしましょう」
軽く火で炙り消毒した木の枝にキノコを刺し、それを火の傍のおいてキノコ自体も炙ります。
野草はラナちゃんが産んだ水球に放り込んで、火にくべてひと煮立ちさせて灰汁を抜き、果実の汁で味付けをして頂きます。
残った果実はそのまま丸かじりです。
これらの料理にレンちゃん、エルマ、ラナちゃんが感想を述べているみたい。
「キノコ、美味しいね。味付けもないのに」
「ホントだ。うめぇ。焼いただけなのに」
「焼いただけでもびみみなキノコを選んだから。でも、野草にちょっとエグみがあるのが残念」
この言葉に私が声を返します。
「仕方ありませんよ。野草はしっかりとした準備をしないと美味しくいただけませんから。でも、道具類もない状況でこの味。かなりいい線を行っていると思いますよ。果実の酸味と合わさって、サラダみたいで」
「ふふ、確かにミコンの言うとおりだ。そういえば、ミコン。君はお肉を確保したとか言っていなかったかい?」
「お肉じゃありませんが、食後のデザート代わりなる貴重なたんぱく源です。皆さん、食事も頂いたところですし、どうぞ!」
私は茂みに隠していたとっておきをみんなの前で披露しました。
しかし、どういうわけか、それを目にした三人が恐れおののきます。
「え、ミコン!?」
「ひっ、なんだよこれ!?」
「ミコン、なんも!?」
「何って…………蜂蜜と蜂の子ですけど?」
そう、これがとっておきのごちそう。
そうだというのに、三人の反応がいまいちです。
「どうしたんですか、皆さん? 滋養強壮に富み、甘く美味しい食材ですよ」
「いやね、滋養強壮はわかるよ。でも、なんか、いる」
「蜂蜜はわかるぜ、蜂蜜は。だけど、なんか、いる」
「ミコン、蜂の子どもはないーや」
「ええ!? 蜂の子は大自然の恵み! 最高のごちそうでしょう!!」
そう訴えますが、三人は一斉に首を横に振ります。
「あっれ~、そんなに嫌ですか? まぁ、都会っ子には珍しいかもしれませんが……ラナちゃんは大丈夫でしょう?」
「いんや、わんずのところでは虫食はあんまり……」
「そうですか……こんなに美味しそうなのに」
ハチの巣からひょっこり顔を出している子どもたちはもにょもにょ動いています。
活きが良くて大変美味しそうです。
そうだというのにエルマは身震いをしながら、言葉に針をつけてきます。
「いやいやいや、おいしそうじゃねぇよ。気持ち悪いよ!」
「ええ!? この子たちのどこが気持ち悪いんですか!? 白くて、丸くて、もこもこしてて、ぷにぷにしてる。可愛いの代名詞が揃い踏みですよ!」
「代名詞だけ揃っても可愛くはねぇよ! ってか、可愛いならなおさら食べようとすんなよ!!」
凄まじい剣幕で言葉を返されました。
どうやら、見た目だけで忌避して、美食を追う勇気はないみたいです。
それはエルマだけではなく、レンちゃんとラナちゃんも。
私は残念感を声に乗せます。
「はぁ~、せっかくのご馳走なんですけどね。まぁ、慣れない食材は恐ろしいものですから仕方ありません。調理部の方々もお出しした最初は戸惑ってましたし。味の探求者以外には不向きなのかもしれませんね」
このように言葉を出すと、レンちゃんが首を少し斜めに傾けました。
「部活の人たちには出したの?」
「はい」
「それで……食べたの?」
「はい、驚いた様子でしたが、食べ物と伝えるとこぞってハチの巣に群がり口に入れてましたよ」
「そ、そうなんだ。しかも生で食べるんだね。調理部の人たちは逞しいな。だけど、申し訳ない。私たちはちょっと……」
レンちゃんはとても申し訳なさそうな声を漏らしました。ラナちゃんとエルマもそんな態度を取っています。
「いえいえ、お気になさらずに。食べたくないものを無理やり食べさせるのは間違っていますし。でも、そんなに嫌ですかね? 調理部の部長もネティアも食べ物とわかると普通に食べてましたけど」
「ん、ネティアが?」
「どうしました、レンちゃん?」
「いや、ネティアが、それを食べたの?」
「ええ。出した当初はギャーギャー騒いでましたが、美味と伝えると途端にだらしなく頬を垂らして意地汚く貪ってましたよ」
「貪ってたって。さすがに誇張なんだろうけど。そうか、彼女が……」
「別に誇張でも何でもないですよ。この美味しさを知ったネティアは学園中のハチの巣を食べつくして、一時的に学園内から蜂の姿が消えましたし。もちろん、食べられる蜂だけですが」
「ええ!?」
レンちゃんが山に響く渡るくらいの大きな声を上げました。
エルマとラナちゃんも同じく驚いた様子です。
「マジかよ。あの人って、めっちゃ貴族やってるのに」
「人は見かけによらんな」
「まぁ、ウザい存在ですが、美食を追うという点では評価できますね。だけど、そういったことに興味がない人には不慣れな食べ物は受け入れられませんよね……はぁ~」
私はつい、せっかく見つけた豪華食材が受け入れてもらえなくてため息を漏らしてしまいました。
すると、それを救い上げる人がいます――レンちゃんです。
「ネティアが。そうか、彼女はこういったことでは公平なのか……ミコン、待ってくれ」
「はい?」
「君がせっかく用意してくれた食材だ。無下には扱えない。それに、一度も口にすることなく嫌うのは良くないからね。いただくよ」
「よろしいんですか? 無理しなくても」
「ふふ、無理はしてないさ。たしかに抵抗はあるけど。ミコンが美味しいと言っているんだから、それを信じるよ」
このレンちゃんの声に触発されてラナちゃんが声を上げます。
「わ、わんずもしょくす。おばあちゃんやおじいちゃんの世代を食べてたとぶんし、美味しいと思う」
二人の声にエルマが取り乱します。
「ちょちょちょちょちょ、待て待て待て待て。この流れ、俺も食べないといけない流れじゃん。えええええ、本気? 本気なの? ふたりとも?」
そんなエルマへ私は優しく言葉を掛けます――寂しげに微笑みながら……。
「いいんですよ、エルマ。無理をしなくても……」
「その笑み! ずるいだろ!! わーったよ! 俺も食べるよ!! 友達が用意してくれた料理だからな。調理されてねぇけど!」
エルマはやけっぱちな声を出して、私が両手で持つハチの巣の前に立ちました。
レンちゃんやラナちゃんも集まってきます。
「うわ、もぞもぞしてる」
「食べると言い出したのは私だけど、凄いビジュアルだね」
「どんな味がするか、わんもーな? ミコン?」
「この蜂の種類だと、蜂蜜にクリームを混ぜたような味ですね」
「蜂によって味が違うん?」
「甘い卵焼きみたいな味の蜂の子とかもいますよ」
この一言にエルマが小さな嘆きを漏らします。
「やめてくれ。卵焼きが食べられなくなるから……うう、それじゃ、みんなで」
三人はこっくりと深い頷きを見せて、ハチの巣に手を伸ばします。
そこまで覚悟して食べるものではないんですが……この子たちは毒も寄生虫も雑菌も問題のない種類なのに。
エルマは蜂の子をつまんで息荒く声を出します。
「うわ、うわ、ぷにぷにしてる!」
「可愛いの代名詞ですよね!」
「可愛くはない! は、は、は、ホントに食べられるのか、これ?」
「食べられます。そして、下手なお菓子より美味しいです!」
「俺は下手なお菓子の方がいいよ! ちきしょう~!」
意外に意外、一番怯えていたエルマが真っ先に蜂の子を口の中へ放り込みました。
彼女に続いて、レンちゃんとラナちゃんも蜂の子を口に含みます。
私は三人へアドバイスを送ります。
「丸飲みは駄目ですよ~。のどに詰まっちゃいますから。噛んで味わってください。余裕があるなら舌先で踊る蜂の子の感触を味わうといいですよ~」
三人は口を閉じてムームーと声にならぬ声を返すだけ。
とりあえず、丸飲みはしてないみたいです。
ここから三人が味わう様子を表しても良いのですが、刺激が強すぎるので音だけをどうぞ。
パクっ、もにゅ。にゅるん。ハム、ハムムム! ぶちちょ! どろり、じゅわ、ぬちゃり。ぬちゃ、ぬちゃ……うぐ、ゴクン!
三人は舌先で感触を味わい、しっかり噛んで蜂の子から漏れだす滋養強壮のエキスを堪能して、喉奥へ通し、胃へ届けたみたいです。
私はレンちゃん・ラナちゃん・エルマに尋ねます。
「どうですか? 美味しいでしょ?」
「…………たしかに、美味しい」
「蜂蜜クリームを食べてるみたい」
「甘くて、下手なお菓子より何倍を美味しい」
「でしょでしょ」
「「「だけど」」」
「ん?」
「「「できれば食べたくない!」」」
「ええ~、なんでですかぁ!?」
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