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第四章 山に木霊する叫び声
崖駆け上がり
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蔓をいじりながら歩く私とラナちゃん。
どうやらラナちゃんはとても器用なようで、私よりも複雑な道具を作り上げました。
「できた、カバン」
ラナちゃんは蔓でできたカバンを私たちに見せつけます。
それは蔓を何度も編み込んで作られたもの。
「やりますねぇ、ラナちゃん」
「なるほど、道具入れか」
「へ~、うまいもんだ。それで何を運ぶ気なんだ?」
「これ」
ラナちゃんが見せたのは、道中に生えている草。
だけど、ただの草ではありません。
食用や薬に適したものです。
その中でラナちゃんは薬効がある少し枯れた草をもみほぐし、炎の下位魔法『支炎』を唱えます。
草に炎を与えると、草から殺菌と殺虫効果のある煙が立ち昇り、それを蔓のカバンの中に入れて燻します。
こうやって、カバンの消毒を行っているのです。
火種をカバンに入れるのは危険そうに見えますが、燻す程度の火種で、蔓自体も水分を含んでいるので、そう簡単には燃えたりはしません。焦げないように気をつけないといけませんが。
ラナちゃんは煙がもくもく立ち昇るカバンを軽く振りながら、カバンの用途を答えます。
「道のりは長いから、お腹もすくし、ご飯を確保しておきたいから。山菜の他に薬草や果実なんかも」
「たしかに私たちは武器だけを手にして、そういった用意はなかったからね。なるほど、そのための鞄か」
「は~、ラナ、やるなぁ。意外にワイルドだし、イメージと違ってめっちゃ頼りになるな」
「そっかな」
ラナちゃんは恥ずかしそうに、それでいて嬉しそうに頬を掻いています。
少し前までぎこちなかった二人の関係がとても近くなったようで、私もなんだかうれしくなっちゃいます。
私は何重にも巻いた蔓を肩に掛けつつ、手に持つ蔓をいじくり倒しながら二人を見守ります。
すると、レンちゃんが私の蔓のことが気になったようで尋ねてきました。
「ミコンは何を作ってるんだい? ラナの鞄とは違い、随分と長そうだけど? 一部は地面を引きずってるし」
「え? あ、これですか。ロープを」
「ロープ?」
「地図で見た限り、途中で崖を登らないと駄目みたいなので、それで……」
「え、がけ? あの、やっぱりこのルートは止めて通常の――」
「大丈夫ですよ、レンちゃん! 私は故郷の野山でこういったことに慣れてますし、ラナちゃんも私と同じ自然に囲まれた場所出身みたいですし。それにレンちゃんやエルマだって、体力に自信のある騎士さんでしょっ。ではでは、元気よく崖登り、もとい、山登りを頑張りましょう~!!」
私はマリーゴールド色の猫耳とスレンダーな尻尾をピンと立てて、右拳を突き上げ前へ歩き出しました。
私の後方では三人が仲良くおしゃべりをしているみたいです。
――エルマ・ラナ・レン
「ついさっき会ったばかりでなんだけどよ、ミコンって見た目は女の子~って感じで言葉も丁寧だけど、中身は結構ヤバい奴だよな。ってか、ラナは崖登りとか大丈夫なのか?」
「い、いんや、ちょっとした野山をかけっこまわることはあったけど、崖は……」
「あはは、彼女の辞書には無茶という文字がないからね。でも、二人に危険が及ぶようだったら、私が無茶の文字となってミコンを止めるから安心してくれ」
――崖前
ゴールまでの最短ルートを歩き、目の前にそり立つ壁が現れました。
ごつごつとした岩肌に、少しばかりの緑が張り付いています。
高さは五十メートルほどです。
私は岩壁に近づき、壁の感触を確かめます。
「ふむふむ、頑丈ですね。砂状の壁じゃなくてよかったです。これなら楽勝で登れます」
「いやいやいや、無理だっての。俺やレンはともかく、ラナがいるんだぞ」
「え? ラナちゃん、無理っぽいですか?」
「ちょっと、これは無理だと思う……」
「そうですか。ですが、心配ご無用!」
「いや、心配しかねぇよ」
「エルマ、ツッコみも無用です。そのためのロープですよ!」
私はここまでちまちまと編んでいた蔓のロープを見せつけます。
それは三つ編みとなって、私たちの体重に十分耐えられるように強化された蔓。
蔓を見たレンちゃんが首を傾げながら、私から蔓のロープを受け取ります
「うん、たしかにこの強度なら問題ない。でも、ここにロープがあっても仕方ないんじゃ?」
「ニャッフッフッフ、目の前にいる愛らしい女の子を誰だと思っているんですか? 偉大なるニャントワンキル族にして猫の獣人族ミコンちゃんですよ! この程度の崖なんて平坦な地面を歩くようなものです。見ていてください!」
私はレモンイエローの瞳を輝かせて、下から上へと石壁を舐めるように見ました。
「あそことあそこを足場にすれば十分。よし、行きます!」
「ちょっとミコン、待っ――」
レンちゃんの言葉が背中にぶつかる寸前に私は飛び上がり、崖を駆け上がっていきます。
足のつま先を小さな足場に置いてはふわりと飛び上がり、足の側面を足場に置いてはふわり飛び上がり、かかとを置いてはふわりと飛び上がり、このようにして高所を自在に移動する鳶職のように崖を登ります……鳶ではなく猫ですけどね。
「ふふ、楽勝ですね。あとはあそこに足を置いて。足場は今までで一番小さいですけど、私の体重なら――え?」
最後の足場に足を乗せた途端、足場が崩れました。
「クッ、もしかして体重が増え――違う! 想定より足場がもろかっただけ!!」
体勢を崩した私に、三人が叫び声を上げました。
しかしながら、心配ご無用――私には尻尾さんがあります!
尻尾を使い、岩肌に張り付いていた茂みを掴み、落下を止めたと同時に壁を蹴って、一気に頂上へたどり着きました。
「ふ~、危なかった。でもまぁ、この程度お茶の子さいさいの賽の河原ですね。さてと」
私は崖下からこちらを見上げている三人に手を振ります。
「にゃっふっふっふ、このミコンに掛かればこんな崖なんて軽いものです。みなさ~ん、どうでした~?」
この呼びかけにレンちゃん・ラナちゃん・エルマは――
「黒だね」
「黒だ」
「黒だったな」
「えっと、皆さん何を……はっ!?」
私は思わずスカートを押さえて三人に言葉をぶつけました。
「ちょっと、どこを見ているんですか!? 女の子同士であってもそこは覗いじゃダメでしょう!!」
「いや、覗くも何も、あんな激しい動きをしながら駆け上がったら……」
「だ、見ない方がなんしい」
「だよな。ついでだけど、黒のショーツでローライズに透けた模様って。かなり派手だよな」
「そこまでしっかり見ないでくださいよ! だいたい、私がどんな下着をつけてたっていいでしょ!」
「ああ、悪い悪い。なんかミコンのイメージと違ってさ。あまりお洒落に興味なさそうな感じがしたんだけど、違ったんだな」
と、この言葉にレンちゃんが余計な情報を二人に吹き込みます。
「元々、ミコンが持ってた下着は大人しいものだったんだけど、町で色んな下着を見つけてそれが気に入ったみたいだね。自分の住んでた場所にはない色や模様だ~って、出会ったばかりの頃は色んな下着を見せられたし、買い物行脚もさせられたし」
「だだ。たしかにアダラにはぎょうさん物資があって、いろんなものみれるん」
「ああ~、お上りさんってところか。で、お洒落に目覚めたけど、その刺激を受けすぎて――偏り派手路線」
「偏り派手路線はないでしょう! 妙な用語を作らないでください! もう、レンちゃんもレンちゃんですよ!!」
「あはははは、ごめんごめん。でも、それよりもミコン」
「ん、なんですか?」
レンちゃんは右手に持つモノを私の視線の先へ持ってきます。
「ロープ、忘れてるよ」
「あ!?」
「だから待ってと言ったんだけどね」
「あうう、すみません」
顔を真っ赤に染める私。
この様子を見たエルマがお腹を押さえて笑っています。
「あはははは、ミコンってかなりのお調子者だよな。仕方ねぇな。レン、ロープを貸してくれるか?」
「ああ、いいよ」
レンちゃんが蔓のロープをエルマに渡します。
エルマはそれを自分の槍に結び付けて、私へ呼びかけました。
「お~い、ミコン。今から槍を投げてそっちにロープを渡すから少し離れててくれるか?」
「はい、わかりました……だけど、結構な高さがありますけど?」
「へ、舐めんなよ。こっちは槍の名門の看板を背負ってんだぜ。行くぜ! おりゃあぁ!!」
叫ぶと同時にエルマは槍をこちらへ投げてきました。
それは一気に崖を越えて、私の頭上をも越えます。
そこから――
「おりゃっと」
この掛け声に合わせて槍が空中で軌道を変えて、鋭く尖った穂先を地面に向けて落下。
見事、槍は私の傍に突き刺さりました。
「す、凄いですね。でも、どうして途中で軌道が変わったんですか?」
「ああ、それはな、槍の柄の部分の中に魔石があってよ、俺の魔力と連動して、多少なら軌道を変えられるんだよ」
「はぁ~、なるほど。となると、戦闘中もあらぬ動きを見せることが可能ということですか?」
「そういうこった。まぁ、激しい戦闘中に派手な動きは無理だけど、打点を僅かにずらすだけでも効果的だからな」
「敵が予測した動きを超えた動きが可能というわけですか。面白いですね」
「それよか、ロープを太い幹なんかに結んで固定してくれるか?」
「ええ、わかりました」
私は槍からロープを解き、それをとても頑丈そうな木の胴体に巻きつけました。そしてそのロープを崖下にいる三人へ垂らします。
「はい、どうぞ。登ってきてください」
「さて……はぁ、崖登りか。面倒だけどこのくらいなら大したことねぇか。ラナは大丈夫か?」
「う~ん、ちょっとなんしいかも」
「そっか。じゃあ、俺が支えて」
「それなら私がやるよ。私も見せ場が欲しいからね」
そう言って、レンちゃんはラナちゃんをお姫様抱っこしました。
「失礼」
「きゃっ?」
「ごめんね。驚かせて」
「い、い、なんもなんも」
「ふふ、それじゃあエルマ。先に行ってくれるかい。私たちもすぐに追いつくから」
「いいなぁ~」
エルマは指先を顎に置いて悩ましい声を上げています。
「うん? どうしたんだ、エルマ?」
「い、いえ、なんでもないっす」
憧れのレンちゃんにお姫様抱っこされるラナちゃんが羨ましかったのでしょう。エルマは後ろ髪を引かれる思いを言葉に乗せて崖を登り始めました。
「はぁ、んじゃ、先に行くよ。よいせっと」
槍を背に背負い、ロープを頼りに崖を登っていきます。
それはとても手際が良く、あっという間に頂上へ辿り着きました。
「はい、到着。はぁ、疲れた」
「そんなに疲れた様子は見えませんけどね」
「まぁな。だけどなんていうかな、精神的に疲れた」
「原因は?」
「ミコン」
「なんでですかっ?」
と、私たちがふざけたやり取りをしている間に、レンちゃんとラナちゃんの準備が整ったようです。
「ラナ、しっかり掴まっていてくれ。すぐに登り終えるから」
「だだ!」
お姫様抱っこをされたラナちゃんはとても逞しいレンちゃんの肉体に両手でしっかりと掴まりました。
キュッと目を瞑っているラナちゃんへレンちゃんは微笑み、次に崖を見上げます。
「さてと、せっかくのショートカット。あまり時間をかけては駄目だよね」
そう呟いた次の瞬間――レンちゃんは一気に5m程跳躍して崖にぶら下がるロープを右手で掴みます。
左手はラナちゃんを支えたまま。
そして、すぐにまた崖を蹴り上げて飛び上がりロープを掴む。それを数度繰り返しただけで、私たちのいる崖上へ到着してしまいました。
「よっと。ラナ、到着したよ」
「へ?」
ラナちゃんはお姫様抱っこされたまま、辺りを見回します。
私たちが近くにいて、後方には崖。
僅か数秒で五十メートル先の崖上にいることに戸惑っている様子。
「あれ、あんれ? どっだ?」
「ふふ、急いで登ったからね。はい、降ろすよ。足元気をつけて」
「え? あ、ん……ありなん」
状況をいまいち飲み込めず、驚き交じりのお礼を伝えるラナちゃん。
その驚きは私とエルマも同じです。
「嘘でしょ……ロープの補助があったとはいえ、ラナちゃんを抱えた状態で私より早く登っちゃってますよ」
「さ、さすがはレン様……じゃなかったレン。剣聖バスカ家の次女だけあるわ」
どうやらラナちゃんはとても器用なようで、私よりも複雑な道具を作り上げました。
「できた、カバン」
ラナちゃんは蔓でできたカバンを私たちに見せつけます。
それは蔓を何度も編み込んで作られたもの。
「やりますねぇ、ラナちゃん」
「なるほど、道具入れか」
「へ~、うまいもんだ。それで何を運ぶ気なんだ?」
「これ」
ラナちゃんが見せたのは、道中に生えている草。
だけど、ただの草ではありません。
食用や薬に適したものです。
その中でラナちゃんは薬効がある少し枯れた草をもみほぐし、炎の下位魔法『支炎』を唱えます。
草に炎を与えると、草から殺菌と殺虫効果のある煙が立ち昇り、それを蔓のカバンの中に入れて燻します。
こうやって、カバンの消毒を行っているのです。
火種をカバンに入れるのは危険そうに見えますが、燻す程度の火種で、蔓自体も水分を含んでいるので、そう簡単には燃えたりはしません。焦げないように気をつけないといけませんが。
ラナちゃんは煙がもくもく立ち昇るカバンを軽く振りながら、カバンの用途を答えます。
「道のりは長いから、お腹もすくし、ご飯を確保しておきたいから。山菜の他に薬草や果実なんかも」
「たしかに私たちは武器だけを手にして、そういった用意はなかったからね。なるほど、そのための鞄か」
「は~、ラナ、やるなぁ。意外にワイルドだし、イメージと違ってめっちゃ頼りになるな」
「そっかな」
ラナちゃんは恥ずかしそうに、それでいて嬉しそうに頬を掻いています。
少し前までぎこちなかった二人の関係がとても近くなったようで、私もなんだかうれしくなっちゃいます。
私は何重にも巻いた蔓を肩に掛けつつ、手に持つ蔓をいじくり倒しながら二人を見守ります。
すると、レンちゃんが私の蔓のことが気になったようで尋ねてきました。
「ミコンは何を作ってるんだい? ラナの鞄とは違い、随分と長そうだけど? 一部は地面を引きずってるし」
「え? あ、これですか。ロープを」
「ロープ?」
「地図で見た限り、途中で崖を登らないと駄目みたいなので、それで……」
「え、がけ? あの、やっぱりこのルートは止めて通常の――」
「大丈夫ですよ、レンちゃん! 私は故郷の野山でこういったことに慣れてますし、ラナちゃんも私と同じ自然に囲まれた場所出身みたいですし。それにレンちゃんやエルマだって、体力に自信のある騎士さんでしょっ。ではでは、元気よく崖登り、もとい、山登りを頑張りましょう~!!」
私はマリーゴールド色の猫耳とスレンダーな尻尾をピンと立てて、右拳を突き上げ前へ歩き出しました。
私の後方では三人が仲良くおしゃべりをしているみたいです。
――エルマ・ラナ・レン
「ついさっき会ったばかりでなんだけどよ、ミコンって見た目は女の子~って感じで言葉も丁寧だけど、中身は結構ヤバい奴だよな。ってか、ラナは崖登りとか大丈夫なのか?」
「い、いんや、ちょっとした野山をかけっこまわることはあったけど、崖は……」
「あはは、彼女の辞書には無茶という文字がないからね。でも、二人に危険が及ぶようだったら、私が無茶の文字となってミコンを止めるから安心してくれ」
――崖前
ゴールまでの最短ルートを歩き、目の前にそり立つ壁が現れました。
ごつごつとした岩肌に、少しばかりの緑が張り付いています。
高さは五十メートルほどです。
私は岩壁に近づき、壁の感触を確かめます。
「ふむふむ、頑丈ですね。砂状の壁じゃなくてよかったです。これなら楽勝で登れます」
「いやいやいや、無理だっての。俺やレンはともかく、ラナがいるんだぞ」
「え? ラナちゃん、無理っぽいですか?」
「ちょっと、これは無理だと思う……」
「そうですか。ですが、心配ご無用!」
「いや、心配しかねぇよ」
「エルマ、ツッコみも無用です。そのためのロープですよ!」
私はここまでちまちまと編んでいた蔓のロープを見せつけます。
それは三つ編みとなって、私たちの体重に十分耐えられるように強化された蔓。
蔓を見たレンちゃんが首を傾げながら、私から蔓のロープを受け取ります
「うん、たしかにこの強度なら問題ない。でも、ここにロープがあっても仕方ないんじゃ?」
「ニャッフッフッフ、目の前にいる愛らしい女の子を誰だと思っているんですか? 偉大なるニャントワンキル族にして猫の獣人族ミコンちゃんですよ! この程度の崖なんて平坦な地面を歩くようなものです。見ていてください!」
私はレモンイエローの瞳を輝かせて、下から上へと石壁を舐めるように見ました。
「あそことあそこを足場にすれば十分。よし、行きます!」
「ちょっとミコン、待っ――」
レンちゃんの言葉が背中にぶつかる寸前に私は飛び上がり、崖を駆け上がっていきます。
足のつま先を小さな足場に置いてはふわりと飛び上がり、足の側面を足場に置いてはふわり飛び上がり、かかとを置いてはふわりと飛び上がり、このようにして高所を自在に移動する鳶職のように崖を登ります……鳶ではなく猫ですけどね。
「ふふ、楽勝ですね。あとはあそこに足を置いて。足場は今までで一番小さいですけど、私の体重なら――え?」
最後の足場に足を乗せた途端、足場が崩れました。
「クッ、もしかして体重が増え――違う! 想定より足場がもろかっただけ!!」
体勢を崩した私に、三人が叫び声を上げました。
しかしながら、心配ご無用――私には尻尾さんがあります!
尻尾を使い、岩肌に張り付いていた茂みを掴み、落下を止めたと同時に壁を蹴って、一気に頂上へたどり着きました。
「ふ~、危なかった。でもまぁ、この程度お茶の子さいさいの賽の河原ですね。さてと」
私は崖下からこちらを見上げている三人に手を振ります。
「にゃっふっふっふ、このミコンに掛かればこんな崖なんて軽いものです。みなさ~ん、どうでした~?」
この呼びかけにレンちゃん・ラナちゃん・エルマは――
「黒だね」
「黒だ」
「黒だったな」
「えっと、皆さん何を……はっ!?」
私は思わずスカートを押さえて三人に言葉をぶつけました。
「ちょっと、どこを見ているんですか!? 女の子同士であってもそこは覗いじゃダメでしょう!!」
「いや、覗くも何も、あんな激しい動きをしながら駆け上がったら……」
「だ、見ない方がなんしい」
「だよな。ついでだけど、黒のショーツでローライズに透けた模様って。かなり派手だよな」
「そこまでしっかり見ないでくださいよ! だいたい、私がどんな下着をつけてたっていいでしょ!」
「ああ、悪い悪い。なんかミコンのイメージと違ってさ。あまりお洒落に興味なさそうな感じがしたんだけど、違ったんだな」
と、この言葉にレンちゃんが余計な情報を二人に吹き込みます。
「元々、ミコンが持ってた下着は大人しいものだったんだけど、町で色んな下着を見つけてそれが気に入ったみたいだね。自分の住んでた場所にはない色や模様だ~って、出会ったばかりの頃は色んな下着を見せられたし、買い物行脚もさせられたし」
「だだ。たしかにアダラにはぎょうさん物資があって、いろんなものみれるん」
「ああ~、お上りさんってところか。で、お洒落に目覚めたけど、その刺激を受けすぎて――偏り派手路線」
「偏り派手路線はないでしょう! 妙な用語を作らないでください! もう、レンちゃんもレンちゃんですよ!!」
「あはははは、ごめんごめん。でも、それよりもミコン」
「ん、なんですか?」
レンちゃんは右手に持つモノを私の視線の先へ持ってきます。
「ロープ、忘れてるよ」
「あ!?」
「だから待ってと言ったんだけどね」
「あうう、すみません」
顔を真っ赤に染める私。
この様子を見たエルマがお腹を押さえて笑っています。
「あはははは、ミコンってかなりのお調子者だよな。仕方ねぇな。レン、ロープを貸してくれるか?」
「ああ、いいよ」
レンちゃんが蔓のロープをエルマに渡します。
エルマはそれを自分の槍に結び付けて、私へ呼びかけました。
「お~い、ミコン。今から槍を投げてそっちにロープを渡すから少し離れててくれるか?」
「はい、わかりました……だけど、結構な高さがありますけど?」
「へ、舐めんなよ。こっちは槍の名門の看板を背負ってんだぜ。行くぜ! おりゃあぁ!!」
叫ぶと同時にエルマは槍をこちらへ投げてきました。
それは一気に崖を越えて、私の頭上をも越えます。
そこから――
「おりゃっと」
この掛け声に合わせて槍が空中で軌道を変えて、鋭く尖った穂先を地面に向けて落下。
見事、槍は私の傍に突き刺さりました。
「す、凄いですね。でも、どうして途中で軌道が変わったんですか?」
「ああ、それはな、槍の柄の部分の中に魔石があってよ、俺の魔力と連動して、多少なら軌道を変えられるんだよ」
「はぁ~、なるほど。となると、戦闘中もあらぬ動きを見せることが可能ということですか?」
「そういうこった。まぁ、激しい戦闘中に派手な動きは無理だけど、打点を僅かにずらすだけでも効果的だからな」
「敵が予測した動きを超えた動きが可能というわけですか。面白いですね」
「それよか、ロープを太い幹なんかに結んで固定してくれるか?」
「ええ、わかりました」
私は槍からロープを解き、それをとても頑丈そうな木の胴体に巻きつけました。そしてそのロープを崖下にいる三人へ垂らします。
「はい、どうぞ。登ってきてください」
「さて……はぁ、崖登りか。面倒だけどこのくらいなら大したことねぇか。ラナは大丈夫か?」
「う~ん、ちょっとなんしいかも」
「そっか。じゃあ、俺が支えて」
「それなら私がやるよ。私も見せ場が欲しいからね」
そう言って、レンちゃんはラナちゃんをお姫様抱っこしました。
「失礼」
「きゃっ?」
「ごめんね。驚かせて」
「い、い、なんもなんも」
「ふふ、それじゃあエルマ。先に行ってくれるかい。私たちもすぐに追いつくから」
「いいなぁ~」
エルマは指先を顎に置いて悩ましい声を上げています。
「うん? どうしたんだ、エルマ?」
「い、いえ、なんでもないっす」
憧れのレンちゃんにお姫様抱っこされるラナちゃんが羨ましかったのでしょう。エルマは後ろ髪を引かれる思いを言葉に乗せて崖を登り始めました。
「はぁ、んじゃ、先に行くよ。よいせっと」
槍を背に背負い、ロープを頼りに崖を登っていきます。
それはとても手際が良く、あっという間に頂上へ辿り着きました。
「はい、到着。はぁ、疲れた」
「そんなに疲れた様子は見えませんけどね」
「まぁな。だけどなんていうかな、精神的に疲れた」
「原因は?」
「ミコン」
「なんでですかっ?」
と、私たちがふざけたやり取りをしている間に、レンちゃんとラナちゃんの準備が整ったようです。
「ラナ、しっかり掴まっていてくれ。すぐに登り終えるから」
「だだ!」
お姫様抱っこをされたラナちゃんはとても逞しいレンちゃんの肉体に両手でしっかりと掴まりました。
キュッと目を瞑っているラナちゃんへレンちゃんは微笑み、次に崖を見上げます。
「さてと、せっかくのショートカット。あまり時間をかけては駄目だよね」
そう呟いた次の瞬間――レンちゃんは一気に5m程跳躍して崖にぶら下がるロープを右手で掴みます。
左手はラナちゃんを支えたまま。
そして、すぐにまた崖を蹴り上げて飛び上がりロープを掴む。それを数度繰り返しただけで、私たちのいる崖上へ到着してしまいました。
「よっと。ラナ、到着したよ」
「へ?」
ラナちゃんはお姫様抱っこされたまま、辺りを見回します。
私たちが近くにいて、後方には崖。
僅か数秒で五十メートル先の崖上にいることに戸惑っている様子。
「あれ、あんれ? どっだ?」
「ふふ、急いで登ったからね。はい、降ろすよ。足元気をつけて」
「え? あ、ん……ありなん」
状況をいまいち飲み込めず、驚き交じりのお礼を伝えるラナちゃん。
その驚きは私とエルマも同じです。
「嘘でしょ……ロープの補助があったとはいえ、ラナちゃんを抱えた状態で私より早く登っちゃってますよ」
「さ、さすがはレン様……じゃなかったレン。剣聖バスカ家の次女だけあるわ」
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