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第三章 すれ違いと仲直り
素直な女の子
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――課外授業の日
町から北東方向に離れた山の中。
濃い緑の木々が周囲を包む大きな川の近くで、大勢の生徒たちが必要最低限の装備を持ち、友人と談笑したり、装備の確認をしたりしています。
今日は魔導科と武術科との共同授業。
そのため、いつもはクラスが違うレンちゃんと一緒に授業が受けられます。
それは大変嬉しいのですが、今日は授業以外にも目的があります。
目的とは、ラナちゃんと同室のエルマ=ノール=コントウォイトという女の子との誤解を解くことです。
彼女は貴族のお嬢様で、レンちゃんと同様、武門の名家。
槍術の名門だそうです。
その子と同室となったラナちゃんはすれ違いがあり、仲良くできていません。
そこで、私とレンちゃんが仲を取り持つことにしたのです。
今回の授業は四~六人一組で行われるオリエンテーリング。
事前にレンちゃんがエルマに声を掛けて、授業で組むことを提案し、彼女はそれを快諾してくれたそうです。
というか、快諾どころじゃありませんでした……。
「レン様とご一緒できるなんて、俺っと、私、すっげぇ嬉しいっす!」
よく日に焼けた褐色の肌に赤色のショートヘアを持つ女の子が、まるで男の子のように声を燥いでいます。
どうやら、彼女はレンちゃんに憧れがあるようで、ぱっちりした深緑の瞳を輝かせてレンちゃんを見つめ続けています。
そんな彼女へ、レンちゃんは落ち着くように伝え、さらに気軽に接してほしいと伝えました。
「あはは、私もエルマと授業を受けられて嬉しいよ。同じ武術科でもクラスが違うからね。こういった機会がないと共に授業を受けることはないし」
「俺……いえ、私もとても嬉しいです! いえ、むしろ光栄です! あの剣聖と謳われるレグナー=ラス=バスカ様の次女であるレン様にお声を掛けられるなんて!」
「そのレン様は止めてくれ。君と私は同じ年で同級生。そう固くならず、気軽に接してほしい」
「そ、そうは言ってもっ、アトリア学園の剣姫と称されるレン様に気軽にだなんて」
「エルマ、君と私は短い時間とはいえ幼いころには共に武を学んだ仲だ。だから、様付けはよしてほしい」
「しかし、バスカ家とコントウォイト家では家格が」
「私と君は同級生。わかる?」
「ですがですが、そのような失礼を~~」
といった感じで、話が進みません。
仕方ないので私が間に立つことにしました。
「え~っと、エルマでいいんですか?」
「へ? 君は?」
「私はレンちゃんと同室のミコンと言います」
「ああ~!! 学園を消し飛ばそうとした子だね!」
「うぐ、それは忘れてくださいっ。そんなことよりも、レンちゃんをレン様と呼ぶとレンちゃんから嫌われますよ」
「え、どうして?」
「レンちゃんはみんなと仲良くなりたいんです。それなのに距離を置かれると悲しくなっちゃいますから」
「そ、そうなんだ。レンさ……えと、本当ですか?」
「うん、ミコンの言うとおりだよ」
「そうなんですか? では、なんとお呼びすればよろしいんでしょうか?」
「レンでいいよ。あと、敬語もなるべくなしで」
「え、呼び捨て。それは~」
戸惑うエルマ。
私が背中を押します。
「レン、と呼ぶだけです。ほら」
「いやだってさ」
「レンちゃん、エルマを睨んでください」
「あ、うん」
ぎろりとレンちゃんはエルマを睨みつけました。
その瞳に怯え、エルマは体を震わせます。
「ほらほら、レンちゃんが怒ってますよ。はい、レン。りぴーとあふたーみー。ほら、あふたーみー」
「ちょっと待って、言うから、言うから。そんなに急かさないで。す~は~、す~は~」
エルマは後ろを向いて何度も深呼吸を繰り返しからレンちゃんへ向き直り、小さく名前を呼びます。
「レン」
「なんだい、エルマ?」
「うわ、うわ、うわ、言っちゃった! 俺、言っちゃった! みんなの憧れの剣姫を呼び捨てにしちゃった!!」
エルマはその場でしゃがみ込み、よく日に焼けた肌の上からでもわかるくらい真っ赤になった顔を両手で隠して、身体を左右に振っています。
私はその様子を見て思いました。
「ふむふむ、単純……いえ、素直そう方ですね。貴族のお嬢様の雰囲気もないですし。これなら、ラナちゃんとの誤解は簡単に解けそう。ね、ラナちゃん?」
「えっと、エルマさんにこんな一面が……いつも部屋ではため息ばかりなのに」
同室とは言え、あまり交流がなかったラナちゃんは、今のエルマの姿に驚いた様子を見せています。
「ふふ、これからいろんな面を見ていきましょう。ラナちゃんもいろんな面をお渡ししましょうね」
「うん、ありなん」
「いえいえ……しかし、ただ名前を呼ぶだけでかなり時間を食ってしまいました。ではでは、私たちもサクッと自己紹介をして話を進めましょう」
私たちは互いに名前を伝え、同室の友達であることを言います。
そして、今日は一緒に頑張ろうという話をしました。
それらが終えたので、授業が始まる前に本題に入ります。
「あの、エルマ」
「ん、なに、ミコン?」
「実は今日ご一緒に授業を受けることになったのは、ラナちゃんのことが関係あるんです」
「え? ラナと?」
ちらりとエルマがラナちゃんへ視線を振ると、ラナちゃんは亀のように首を引っ込めてしまいました。
その様子を見て、エルマは小さく息を漏らします。
「ふぅ……ラナがこの授業と何の関係が?」
「実は、ラナちゃんはエルマと仲良くなりたくて、私たちに相談してきたんですよ」
「え? 仲良くって……だって、ラナは俺のことが嫌いなんじゃ?」
「え?」
小さく声を上げたのはラナちゃん。
二人は互いにお目目をぱちくりしています。
私とレンちゃんは軽く微笑んで、二人へ話しかけました。
「色々と誤解があるみたいなんで、この授業を借りて、お話しする機会を作ろうと思ったんです」
「ふふ、でも、思ったより早く誤解は解けそうだね」
エルマにラナちゃんとネティアのことを伝えます。
方言を笑われ、話しづらくなったこと。
そのせいで、エルマにも笑われるんじゃないかと思い、話しかけられても言葉を返せなかったこと。
エルマの方は、そんなラナちゃんの態度を受け取って、自分が嫌われていると思っていたみたいです。
だけど、どうして嫌われているのか、どうすれば距離を縮められるのかわからなくて、ため息を漏らす日々だったんだと。
「そっかぁ。てっきり、俺ががさつだから嫌われてんのかなぁと思ってたよ」
「そんな、わんずはエルマさんのこと別にだやなんて。むしろ、わんずがわるいとおもって、でもなんも言えずに」
「あはは、ただのすれ違いだったんだ。あ~、よかった~。これから三年間、一緒なのに話もできなくてさ。本当にどうしようかと思って……ミコン、レン。二人ともありがとう」
「いえいえ。お友達が困ってたら当然ですよ」
「ふふふ、二人とも仲良くなれそうで安心したよ。ね、ラナ」
「うん、二人のおかげ。ありがとう。エルマさんと仲良くなれそう」
ここでエルマが人差し指を立てて左右に振りました。
「ちょちょちょ、さん付けは無しな。エルマでいいよ」
「あ、うん……エルマ、ちゃん」
「ちゃんか……なんか、俺に合わねぇよなぁ。ちょっと、あははは」
エルマはまたもや日に焼けた肌の上からでもわかるくらいに頬を紅く染めて体をくねらせています。
私はそんな貴族らしくない姿に、尻尾ではてなマークを作りました。
町から北東方向に離れた山の中。
濃い緑の木々が周囲を包む大きな川の近くで、大勢の生徒たちが必要最低限の装備を持ち、友人と談笑したり、装備の確認をしたりしています。
今日は魔導科と武術科との共同授業。
そのため、いつもはクラスが違うレンちゃんと一緒に授業が受けられます。
それは大変嬉しいのですが、今日は授業以外にも目的があります。
目的とは、ラナちゃんと同室のエルマ=ノール=コントウォイトという女の子との誤解を解くことです。
彼女は貴族のお嬢様で、レンちゃんと同様、武門の名家。
槍術の名門だそうです。
その子と同室となったラナちゃんはすれ違いがあり、仲良くできていません。
そこで、私とレンちゃんが仲を取り持つことにしたのです。
今回の授業は四~六人一組で行われるオリエンテーリング。
事前にレンちゃんがエルマに声を掛けて、授業で組むことを提案し、彼女はそれを快諾してくれたそうです。
というか、快諾どころじゃありませんでした……。
「レン様とご一緒できるなんて、俺っと、私、すっげぇ嬉しいっす!」
よく日に焼けた褐色の肌に赤色のショートヘアを持つ女の子が、まるで男の子のように声を燥いでいます。
どうやら、彼女はレンちゃんに憧れがあるようで、ぱっちりした深緑の瞳を輝かせてレンちゃんを見つめ続けています。
そんな彼女へ、レンちゃんは落ち着くように伝え、さらに気軽に接してほしいと伝えました。
「あはは、私もエルマと授業を受けられて嬉しいよ。同じ武術科でもクラスが違うからね。こういった機会がないと共に授業を受けることはないし」
「俺……いえ、私もとても嬉しいです! いえ、むしろ光栄です! あの剣聖と謳われるレグナー=ラス=バスカ様の次女であるレン様にお声を掛けられるなんて!」
「そのレン様は止めてくれ。君と私は同じ年で同級生。そう固くならず、気軽に接してほしい」
「そ、そうは言ってもっ、アトリア学園の剣姫と称されるレン様に気軽にだなんて」
「エルマ、君と私は短い時間とはいえ幼いころには共に武を学んだ仲だ。だから、様付けはよしてほしい」
「しかし、バスカ家とコントウォイト家では家格が」
「私と君は同級生。わかる?」
「ですがですが、そのような失礼を~~」
といった感じで、話が進みません。
仕方ないので私が間に立つことにしました。
「え~っと、エルマでいいんですか?」
「へ? 君は?」
「私はレンちゃんと同室のミコンと言います」
「ああ~!! 学園を消し飛ばそうとした子だね!」
「うぐ、それは忘れてくださいっ。そんなことよりも、レンちゃんをレン様と呼ぶとレンちゃんから嫌われますよ」
「え、どうして?」
「レンちゃんはみんなと仲良くなりたいんです。それなのに距離を置かれると悲しくなっちゃいますから」
「そ、そうなんだ。レンさ……えと、本当ですか?」
「うん、ミコンの言うとおりだよ」
「そうなんですか? では、なんとお呼びすればよろしいんでしょうか?」
「レンでいいよ。あと、敬語もなるべくなしで」
「え、呼び捨て。それは~」
戸惑うエルマ。
私が背中を押します。
「レン、と呼ぶだけです。ほら」
「いやだってさ」
「レンちゃん、エルマを睨んでください」
「あ、うん」
ぎろりとレンちゃんはエルマを睨みつけました。
その瞳に怯え、エルマは体を震わせます。
「ほらほら、レンちゃんが怒ってますよ。はい、レン。りぴーとあふたーみー。ほら、あふたーみー」
「ちょっと待って、言うから、言うから。そんなに急かさないで。す~は~、す~は~」
エルマは後ろを向いて何度も深呼吸を繰り返しからレンちゃんへ向き直り、小さく名前を呼びます。
「レン」
「なんだい、エルマ?」
「うわ、うわ、うわ、言っちゃった! 俺、言っちゃった! みんなの憧れの剣姫を呼び捨てにしちゃった!!」
エルマはその場でしゃがみ込み、よく日に焼けた肌の上からでもわかるくらい真っ赤になった顔を両手で隠して、身体を左右に振っています。
私はその様子を見て思いました。
「ふむふむ、単純……いえ、素直そう方ですね。貴族のお嬢様の雰囲気もないですし。これなら、ラナちゃんとの誤解は簡単に解けそう。ね、ラナちゃん?」
「えっと、エルマさんにこんな一面が……いつも部屋ではため息ばかりなのに」
同室とは言え、あまり交流がなかったラナちゃんは、今のエルマの姿に驚いた様子を見せています。
「ふふ、これからいろんな面を見ていきましょう。ラナちゃんもいろんな面をお渡ししましょうね」
「うん、ありなん」
「いえいえ……しかし、ただ名前を呼ぶだけでかなり時間を食ってしまいました。ではでは、私たちもサクッと自己紹介をして話を進めましょう」
私たちは互いに名前を伝え、同室の友達であることを言います。
そして、今日は一緒に頑張ろうという話をしました。
それらが終えたので、授業が始まる前に本題に入ります。
「あの、エルマ」
「ん、なに、ミコン?」
「実は今日ご一緒に授業を受けることになったのは、ラナちゃんのことが関係あるんです」
「え? ラナと?」
ちらりとエルマがラナちゃんへ視線を振ると、ラナちゃんは亀のように首を引っ込めてしまいました。
その様子を見て、エルマは小さく息を漏らします。
「ふぅ……ラナがこの授業と何の関係が?」
「実は、ラナちゃんはエルマと仲良くなりたくて、私たちに相談してきたんですよ」
「え? 仲良くって……だって、ラナは俺のことが嫌いなんじゃ?」
「え?」
小さく声を上げたのはラナちゃん。
二人は互いにお目目をぱちくりしています。
私とレンちゃんは軽く微笑んで、二人へ話しかけました。
「色々と誤解があるみたいなんで、この授業を借りて、お話しする機会を作ろうと思ったんです」
「ふふ、でも、思ったより早く誤解は解けそうだね」
エルマにラナちゃんとネティアのことを伝えます。
方言を笑われ、話しづらくなったこと。
そのせいで、エルマにも笑われるんじゃないかと思い、話しかけられても言葉を返せなかったこと。
エルマの方は、そんなラナちゃんの態度を受け取って、自分が嫌われていると思っていたみたいです。
だけど、どうして嫌われているのか、どうすれば距離を縮められるのかわからなくて、ため息を漏らす日々だったんだと。
「そっかぁ。てっきり、俺ががさつだから嫌われてんのかなぁと思ってたよ」
「そんな、わんずはエルマさんのこと別にだやなんて。むしろ、わんずがわるいとおもって、でもなんも言えずに」
「あはは、ただのすれ違いだったんだ。あ~、よかった~。これから三年間、一緒なのに話もできなくてさ。本当にどうしようかと思って……ミコン、レン。二人ともありがとう」
「いえいえ。お友達が困ってたら当然ですよ」
「ふふふ、二人とも仲良くなれそうで安心したよ。ね、ラナ」
「うん、二人のおかげ。ありがとう。エルマさんと仲良くなれそう」
ここでエルマが人差し指を立てて左右に振りました。
「ちょちょちょ、さん付けは無しな。エルマでいいよ」
「あ、うん……エルマ、ちゃん」
「ちゃんか……なんか、俺に合わねぇよなぁ。ちょっと、あははは」
エルマはまたもや日に焼けた肌の上からでもわかるくらいに頬を紅く染めて体をくねらせています。
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