大魔法使い(予定)・猫の子ミコン~現代魔法は苦手だけど、破壊力抜群の古代魔法は得意なんです~

雪野湯

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第三章 すれ違いと仲直り

実は似た者同士?

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――貧民街スラム・細道

 あの後、三人組はきっちりお代を支払い、ミコンによって謝罪をさせられた。
 リーダー格は血の止まった顔面を優しく押さえ、子分二人が彼を支えるように両脇を歩いている。

 
「なんなんだよ? あのクソガキは? いつつ」
「大丈夫、兄貴。血は止まったみたいだけど?」
「ホントだ。止まってら。あの猫獣人の言った通り、大した傷じゃなかったのかな」

「馬鹿野郎! 何が大した傷じゃないだ! 顔の半分がひりひりして、あたたた!」
「兄貴~、大声上げると傷口が開くよ」
「わかって、いつっ。あ~、くそ!」


 リーダー格は地面に向かって反吐を吐き、子分二人は彼の傷の具合を見る。
 彼らの視線が前から外れたこの時、彼らは正面に立っていた人物にぶつかってしまった。

「った」
「あら? 気をつけてください。よそ見は駄目ですよ」

「あん、てめぇが突っ立ってるからだろ!」


 唾を飛ばして彼が前を見ると、そこには黒のドレスに身を包む女性が立っていた。
 その女性の後ろに控える三人の娘。
 三人娘の一人が黒のドレスの女性を心配して声を上げる。
「大丈夫ですか、ネティア様?」
「ええ、問題ありませんわ。お饅頭も、この通り」

 そう言って、彼女は三人娘に小豆餡と黒砂糖を使用した黒糖饅頭を見せつける。

「ふふ、ミコンの情報通りだったようですわね。美味しいお饅頭を販売しているお店があるというのは。私のような貴族はスラム街に足を運ぶことがありませんから、こういった点では役立ちますわね、あのは」

「あの、ネティア様。もうそろそろ」
「そうですよ、目的のものは購入したんですから」
「こんなところに長居するのは止めましょう~」


「ええ、本当にこんなところでこれほど上質なお饅頭が販売されているなんて不思議ですわね。材料自体は普通ですのに、工程で味をカバーするなんて。さらに信じられないほど安価で。そうであっても利益がちゃんと出ている。お見事としか……」

「ああ、駄目だ。ネティア様は食べ物のことになると変になるから……」

 ネティアは三人娘の声を聞き流し、茶色の紙袋から黒糖饅頭を取り出して、半分ほどパクリと口に運び、餡と黒糖を味わっている。


 その姿に、ずっと無視されていたチンピラ三人組のリーダー格が吠えた。

「おい! なに無視してくれちゃってんだ! てめぇがぶつかったんだから頭下げろや!」

「何を馬鹿なことを、ぶつかってきたのはあなたでしょう。ほら、その証拠に、顔がぐちゃぐちゃ」
「この傷は最初はじめからだよ! ったく、この町の女どもは! 舐めやがって!! ふん!」
「あ……」


 リーダー格は、ネティアの饅頭を持つ手を振り払った。
 それにより地面に落ちた饅頭は軽く弾み、リーダー格の足元へ。
 彼はそれを踏みつけ、懐からナイフを取り出す。

「へへ、見た感じ、良いところのお嬢さんみてぇだな。どんな理由でスラムに来たのか知らねぇが、たっぷり遊んでやらぁ。だろ、お前ら!」
「え? ああ、そうだな兄貴」
「俺、貴族のお嬢様っての抱いたことねぇから、興奮してきたぜ」

「俺もだぜ。残念だったな、お嬢さんら。今、俺はご機嫌斜めでな。容赦も油断も隙もないぜ」
 彼は刃物をちらつかせて、下唇をべろりと舐めた。

 その行為に、三人娘は嫌悪と恐怖を抱く。 
 一方、ネティアは――下に落ちて、踏みつぶされ、餡を地面に染み込ませた饅頭を見ていた。


「あなたたち、今、何をしたのか、お分かりで?」
「へへ、ビビって片言になってやがる。さっきも始めからナイフを出しとけばよかったぜ。そうすれば、あのガキもビビッて何もできなかっただろうしな。さぁ、お嬢さんよ。俺の相手でも、ん?」

 ネティアは視線を地面に向けたまま、ゆっくりと言葉を生む。
「取り揃えている材料はさほどのものではない。それをこれほどまでの味へ昇華するなんて、どれほどの努力があったのかお分かりなの?」

「あん?」

「店奥にあった大きな釜。店主はお一人。お一人で大量の小豆を煮る苦労がお分かりなの? 小豆を餡にするための工程がどれほど大変かお分かりなの?」

「おまえ、何言ってんの?」

「餡の仕込み、生地の仕込み。それをおじい様お一人で行っているのですよ。老体へ鞭打ちつつも、このスラムの人々に安価で美味しいお饅頭を届けようと努力なさっているっ。それがどれだけ尊い行為かお分かりなの!」
「は? だから、さっきから何言ってんの? ん、あれ、このパターンどっかで?」



「そして、何より――食べ物を無駄にし、あまつさえ足で踏みつけるなんて、絶対に許せませんわ!!」


「ちょっと待て!」
「待ちません! 雷轟らいごう!!」

「あびゃびゃびゃびゃびゃびゃ~~!!」

 巨大な雷撃が落ち、リーダー格は悲鳴を上げ続ける。
「全く、治安が悪いとはわかっていましたが、食べ物を粗末にするなんて」
「あびゃびゃびゃびゃびゃびゃ~~!!」

「おまけにいきなり婦人に対して刃物をちらつかせるなんて情けないこと」
「あびゃびゃびゃびゃびゃびゃ~~!!」

「これだから庶民……いえ、さすがにこれは庶民に失礼ですわね。あなたは人としての最低限の誇りさえ持ち合わせていない」
「あびゃびゃびゃびゃびゃびゃ~~!!」

 ネティアが語る間も、雷撃は落ち続ける。
 これには、三人娘と子分二人も声を上げざるを得なかった。

「「「ネティア様! これ以上は、この男性が!」」」
「「もう勘弁してくれ、兄貴が!」」


――死んじゃう!!――


 五人の声を受けて、ネティアは気怠そうに雷を消す。
 リーダー格は首元から右足にかけて雷撃痕が残り、「あがががが~」と人ならざる声を上げ続けて、目の焦点は全くというほど合っていない。

 心を失った彼を二人の子分が心配する中、ネティアは言葉を発する。
「大丈夫ですわよ。ちゃんと手加減をしていますから。しばらくしたら元に戻りますわ」
「だ、だけどよ、この火傷みたいなのは……」

「然るべき場所で魔法による治療を受けなさい。そうすれば傷は残りませんから。ですが――」


 ネティアは妖艶な微笑みを悪党三人組へ渡す。
「傷が残っても問題ないでしょう? 悪党なんですから。傷がある方が、箔が付くというものですよ。ね、お三方」
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