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第41話 姉妹
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――――リンデン宅
何の前触れもなく突然飛び出てきた『魔王の娘』という単語。
これには一瞬アスティのことがよぎったが、話の前後の様子から見てそうではないと踏み、俺は素知らぬ顔で言葉を返すことにした。
「魔王の娘?」
「ガルボグ様には五人の息子と三人の娘がおった。そのうちの一人カルミアがガルボグ様のお命を奪い、三人の兄弟を殺害しておるが、一人の息子と三人の娘が生き残っておる」
「ほう、それで」
「息子の一人ガーデ様は現在、カルミアに対抗すべく魔族領地内の少数勢力として奮闘されておるが、三人の娘が行方不明なのじゃ」
「行方不明?」
「十五年前のあの日、当時五歳だったサイネリア様は魔族の有力貴族に匿われておったがその後行方知れず。残りの二人は双子の赤子で別々に護衛がついており、魔都からの脱出に成功し、妹君であらせられるプリムラ様は追手を切り抜けた報告を最後に行方知れず」
「ん、双子?」
「どうしたのじゃ? 何か気になることでもあったかの?」
「いや、続けてくれ」
平静を装い、続きを促したが、俺は今の話を聞いて動揺を表に出しそうになった。
(双子の赤子……て~っと、そのプリムラという妹君は――――アスティの妹?)
ガルボグは魔族の王。世継ぎのために複数の妻がいるだろうし子もいただろうから、アスティの兄弟となる生き残りがいた可能性はあった。
だが、それがまさか、双子の妹とは……。
(探し物が増えたな。母もそうだが、双子の妹も探してやらねぇと。姉も)
と、ここで、母親の存在をリンデンに尋ねればいいことに気づく。
彼は何やら話を続けていたが、それをぶった切る。
「特に双子の姉である――――」
「村長、母親はどうなったんだ?」
「ん、なんじゃ? どうして母君のことを?」
「ガルボクの妻だった女性たち。重要人物だろう。だから、聞いておこうと」
「まぁ、よいが。妻は二人。一人はミモザ様。この方はカルミアに暗殺されておる。表向きは敵対勢力の刺客による毒殺じゃがな」
「その方はカルミアの実の親だったのか?」
「ああ、そうじゃ。ミモザ様はカルミアの行動を非難する声明を出したからの、それで」
「なるほど。で、他には?」
「もう一人は双子の赤子の母君。名は公表されておらず、ワシも知らぬ」
「それは妙な話だな。王族の妻として迎えられた女性の名前を出さないとは。リンデン村長、あんたは元諜報部の人間だろ。そこらへんは?」
「探ってみたが、名前どころか存在そのものを確認できんかったわ」
「ますます妙だな」
「じゃが、ガルボグ様が最後に寄越した文には、そのお方の御子についてこう書かれてあった」
――双子の娘が世界を救う鍵になる――
「と……」
「プリムラともう一人の……」
「双子の姉君プリエ様じゃ」
プリエ――アスティの本当の名前。
だけど……。
(プリエも少女っぽく可愛いが、アスティニアの方がいいよな。アスティニアには可愛さと大人としての魅力が内包されていて……)
ガルボグとその嫁さんには悪いが、俺は自分のセンスを自画自賛して納得の声を上げ続ける。
「ふむ、ふむふむ。うむ!」
「……何を納得しとるんじゃ?」
「いや、あれだ。村長はなんかの鍵になる双子を探してほしいんだなぁと」
「異世界からの侵略者から世界を救う鍵じゃ! 納得しておったが全然理解しておらんではないか!?」
珍しく感情的になる村長は放っておき、『世界を救う鍵』とやらに意識を傾ける。
(アスティとプリムラという妹が世界を? アスティにそれらしい雰囲気はないが?)
たしかに魔王ガルボグ並みの年齢で魔力覚醒を得たが、その後これといって魔法の才が伸びたわけじゃない。
剣も魔法も常人よりも秀でていてその才能の今後に期待はできるが、いまのところ世界を救う鍵とやらの雰囲気は皆無。
(となると、プリムラという子と一緒になると何かが起こるとか? 侵略者を討ち滅ぼす光みたいのがびひゃぁぁって出たりして?)
「ふむ、二人が揃い奇跡を起こす。少年少女が好みそうな冒険小説みたいだな」
「おぬし、何の話をしとるんじゃ?」
「少し妄想してただけだ。気にしないでくれ」
「も、もうそう?」
村長は瞳にど濃ゆい疑いの色を乗せてこちらを見ている。
いや、疑いじゃなくて憐れみか、不安か? こいつ、大丈夫かよ的な?
俺はそれに笑いを向けて、ますます彼の不安を募らせつつ、言葉を出す。
「あはは、話はわかった。旅の途中で見つけることができたら知らせるよ。連絡手段は?」
「ここに書いてある」
そう言って彼は紙片を投げ渡し、俺はそれに目を通してから火の魔法を指先に灯し、紙片を灰と変えた。
そうして、踵を返して外へ出る。だが、その前にちょっとした言葉を置く。
「正直、意外だったよ」
「何がじゃ?」
「なんだろうね?」
「……おぬし、本当に大丈夫か?」
俺は答えを返さずに手を振り、扉を開けて出ていく。
心の中だけに言葉を広げて。
(意外だったよ、あんたがアスティのことに気づいていないなんて)
行方不明となった魔王の娘プリムと同時期に現れた魔族の赤子。
アスティの早すぎる魔力覚醒。
この二点だけでも紐に結ぶには十分な情報だった思うが……なぜ、結ばなかった?
頭を悩ますが、結ばなかった理由が見えてこない。
だからと言って正面から問うと、なんだかの墓穴を掘りそうで尋ねにくい。
俺はこれらの疑問を頭の片隅に置くだけにして、今はもっともらしい答えを中心に据えておく。
(ま、魔力覚醒を除けば今のところ少しばかり才のある普通の娘だしな。振る舞いにも王族らしさの欠片もない……って、これは農民出の俺の教育のせいか、あはは)
何の前触れもなく突然飛び出てきた『魔王の娘』という単語。
これには一瞬アスティのことがよぎったが、話の前後の様子から見てそうではないと踏み、俺は素知らぬ顔で言葉を返すことにした。
「魔王の娘?」
「ガルボグ様には五人の息子と三人の娘がおった。そのうちの一人カルミアがガルボグ様のお命を奪い、三人の兄弟を殺害しておるが、一人の息子と三人の娘が生き残っておる」
「ほう、それで」
「息子の一人ガーデ様は現在、カルミアに対抗すべく魔族領地内の少数勢力として奮闘されておるが、三人の娘が行方不明なのじゃ」
「行方不明?」
「十五年前のあの日、当時五歳だったサイネリア様は魔族の有力貴族に匿われておったがその後行方知れず。残りの二人は双子の赤子で別々に護衛がついており、魔都からの脱出に成功し、妹君であらせられるプリムラ様は追手を切り抜けた報告を最後に行方知れず」
「ん、双子?」
「どうしたのじゃ? 何か気になることでもあったかの?」
「いや、続けてくれ」
平静を装い、続きを促したが、俺は今の話を聞いて動揺を表に出しそうになった。
(双子の赤子……て~っと、そのプリムラという妹君は――――アスティの妹?)
ガルボグは魔族の王。世継ぎのために複数の妻がいるだろうし子もいただろうから、アスティの兄弟となる生き残りがいた可能性はあった。
だが、それがまさか、双子の妹とは……。
(探し物が増えたな。母もそうだが、双子の妹も探してやらねぇと。姉も)
と、ここで、母親の存在をリンデンに尋ねればいいことに気づく。
彼は何やら話を続けていたが、それをぶった切る。
「特に双子の姉である――――」
「村長、母親はどうなったんだ?」
「ん、なんじゃ? どうして母君のことを?」
「ガルボクの妻だった女性たち。重要人物だろう。だから、聞いておこうと」
「まぁ、よいが。妻は二人。一人はミモザ様。この方はカルミアに暗殺されておる。表向きは敵対勢力の刺客による毒殺じゃがな」
「その方はカルミアの実の親だったのか?」
「ああ、そうじゃ。ミモザ様はカルミアの行動を非難する声明を出したからの、それで」
「なるほど。で、他には?」
「もう一人は双子の赤子の母君。名は公表されておらず、ワシも知らぬ」
「それは妙な話だな。王族の妻として迎えられた女性の名前を出さないとは。リンデン村長、あんたは元諜報部の人間だろ。そこらへんは?」
「探ってみたが、名前どころか存在そのものを確認できんかったわ」
「ますます妙だな」
「じゃが、ガルボグ様が最後に寄越した文には、そのお方の御子についてこう書かれてあった」
――双子の娘が世界を救う鍵になる――
「と……」
「プリムラともう一人の……」
「双子の姉君プリエ様じゃ」
プリエ――アスティの本当の名前。
だけど……。
(プリエも少女っぽく可愛いが、アスティニアの方がいいよな。アスティニアには可愛さと大人としての魅力が内包されていて……)
ガルボグとその嫁さんには悪いが、俺は自分のセンスを自画自賛して納得の声を上げ続ける。
「ふむ、ふむふむ。うむ!」
「……何を納得しとるんじゃ?」
「いや、あれだ。村長はなんかの鍵になる双子を探してほしいんだなぁと」
「異世界からの侵略者から世界を救う鍵じゃ! 納得しておったが全然理解しておらんではないか!?」
珍しく感情的になる村長は放っておき、『世界を救う鍵』とやらに意識を傾ける。
(アスティとプリムラという妹が世界を? アスティにそれらしい雰囲気はないが?)
たしかに魔王ガルボグ並みの年齢で魔力覚醒を得たが、その後これといって魔法の才が伸びたわけじゃない。
剣も魔法も常人よりも秀でていてその才能の今後に期待はできるが、いまのところ世界を救う鍵とやらの雰囲気は皆無。
(となると、プリムラという子と一緒になると何かが起こるとか? 侵略者を討ち滅ぼす光みたいのがびひゃぁぁって出たりして?)
「ふむ、二人が揃い奇跡を起こす。少年少女が好みそうな冒険小説みたいだな」
「おぬし、何の話をしとるんじゃ?」
「少し妄想してただけだ。気にしないでくれ」
「も、もうそう?」
村長は瞳にど濃ゆい疑いの色を乗せてこちらを見ている。
いや、疑いじゃなくて憐れみか、不安か? こいつ、大丈夫かよ的な?
俺はそれに笑いを向けて、ますます彼の不安を募らせつつ、言葉を出す。
「あはは、話はわかった。旅の途中で見つけることができたら知らせるよ。連絡手段は?」
「ここに書いてある」
そう言って彼は紙片を投げ渡し、俺はそれに目を通してから火の魔法を指先に灯し、紙片を灰と変えた。
そうして、踵を返して外へ出る。だが、その前にちょっとした言葉を置く。
「正直、意外だったよ」
「何がじゃ?」
「なんだろうね?」
「……おぬし、本当に大丈夫か?」
俺は答えを返さずに手を振り、扉を開けて出ていく。
心の中だけに言葉を広げて。
(意外だったよ、あんたがアスティのことに気づいていないなんて)
行方不明となった魔王の娘プリムと同時期に現れた魔族の赤子。
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この二点だけでも紐に結ぶには十分な情報だった思うが……なぜ、結ばなかった?
頭を悩ますが、結ばなかった理由が見えてこない。
だからと言って正面から問うと、なんだかの墓穴を掘りそうで尋ねにくい。
俺はこれらの疑問を頭の片隅に置くだけにして、今はもっともらしい答えを中心に据えておく。
(ま、魔力覚醒を除けば今のところ少しばかり才のある普通の娘だしな。振る舞いにも王族らしさの欠片もない……って、これは農民出の俺の教育のせいか、あはは)
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