上 下
41 / 42

第41話 姉妹

しおりを挟む
――――リンデン宅


 何の前触れもなく突然飛び出てきた『魔王の娘』という単語。
 これには一瞬アスティのことがよぎったが、話の前後の様子から見てそうではないと踏み、俺は素知らぬ顔で言葉を返すことにした。

「魔王の娘?」
「ガルボグ様には五人の息子と三人の娘がおった。そのうちの一人カルミアがガルボグ様のお命を奪い、三人の兄弟を殺害しておるが、一人の息子と三人の娘が生き残っておる」
「ほう、それで」

「息子の一人ガーデ様は現在、カルミアに対抗すべく魔族領地内の少数勢力として奮闘されておるが、三人の娘が行方不明なのじゃ」
「行方不明?」


「十五年前のあの日、当時五歳だったサイネリア様は魔族の有力貴族にかくまわれておったがその後行方知れず。残りの二人は双子の赤子で別々に護衛がついており、魔都からの脱出に成功し、妹君であらせられるプリムラ様は追手を切り抜けた報告を最後に行方知れず」

「ん、双子?」
「どうしたのじゃ? 何か気になることでもあったかの?」
「いや、続けてくれ」


 平静を装い、続きを促したが、俺は今の話を聞いて動揺を表に出しそうになった。
(双子の赤子……て~っと、そのプリムラという妹君は――――アスティの妹?)

 ガルボグは魔族の王。世継ぎのために複数の妻がいるだろうし子もいただろうから、アスティの兄弟となる生き残りがいた可能性はあった。


 だが、それがまさか、双子の妹とは……。
(探し物が増えたな。母もそうだが、双子の妹も探してやらねぇと。姉も)
 と、ここで、母親の存在をリンデンに尋ねればいいことに気づく。
 彼は何やら話を続けていたが、それをぶった切る。

「特に双子の姉である――――」
「村長、母親はどうなったんだ?」
「ん、なんじゃ? どうして母君のことを?」
「ガルボクの妻だった女性たち。重要人物だろう。だから、聞いておこうと」

「まぁ、よいが。妻は二人。一人はミモザ様。この方はカルミアに暗殺されておる。表向きは敵対勢力の刺客による毒殺じゃがな」
「その方はカルミアの実の親だったのか?」
「ああ、そうじゃ。ミモザ様はカルミアの行動を非難する声明を出したからの、それで」
「なるほど。で、他には?」

「もう一人は双子の赤子の母君。名は公表されておらず、ワシも知らぬ」
「それは妙な話だな。王族の妻として迎えられた女性の名前を出さないとは。リンデン村長、あんたは元諜報部の人間だろ。そこらへんは?」
「探ってみたが、名前どころか存在そのものを確認できんかったわ」
「ますます妙だな」
「じゃが、ガルボグ様が最後に寄越した文には、そのお方の御子についてこう書かれてあった」


――双子の娘が世界を救う鍵になる――


「と……」
「プリムラともう一人の……」
「双子の姉君プリエ様じゃ」


 プリエ――アスティの本当の名前。
 だけど……。
(プリエも少女っぽく可愛いが、アスティニアの方がいいよな。アスティニアには可愛さと大人としての魅力が内包されていて……)

 ガルボグとその嫁さんには悪いが、俺は自分のセンスを自画自賛して納得の声を上げ続ける。
「ふむ、ふむふむ。うむ!」
「……何を納得しとるんじゃ?」
「いや、あれだ。村長はなんかの鍵になる双子を探してほしいんだなぁと」
「異世界からの侵略者から世界を救う鍵じゃ! 納得しておったが全然理解しておらんではないか!?」


 珍しく感情的になる村長は放っておき、『世界を救う鍵』とやらに意識を傾ける。
(アスティとプリムラという妹が世界を? アスティにそれらしい雰囲気はないが?)

 たしかに魔王ガルボグ並みの年齢で魔力覚醒を得たが、その後これといって魔法の才が伸びたわけじゃない。
 剣も魔法も常人よりも秀でていてその才能の今後に期待はできるが、いまのところ世界を救う鍵とやらの雰囲気は皆無。

(となると、プリムラという子と一緒になると何かが起こるとか? 侵略者を討ち滅ぼす光みたいのがびひゃぁぁって出たりして?)

「ふむ、二人が揃い奇跡を起こす。少年少女が好みそうな冒険小説みたいだな」
「おぬし、何の話をしとるんじゃ?」
「少し妄想してただけだ。気にしないでくれ」
「も、もうそう?」


 村長は瞳にど濃ゆい疑いの色を乗せてこちらを見ている。
 いや、疑いじゃなくて憐れみか、不安か? こいつ、大丈夫かよ的な?
 俺はそれに笑いを向けて、ますます彼の不安を募らせつつ、言葉を出す。

「あはは、話はわかった。旅の途中で見つけることができたら知らせるよ。連絡手段は?」
「ここに書いてある」

 そう言って彼は紙片を投げ渡し、俺はそれに目を通してから火の魔法を指先に灯し、紙片を灰と変えた。
 そうして、踵を返して外へ出る。だが、その前にちょっとした言葉を置く。

「正直、意外だったよ」
「何がじゃ?」
「なんだろうね?」
「……おぬし、本当に大丈夫か?」


 俺は答えを返さずに手を振り、扉を開けて出ていく。
 心の中だけに言葉を広げて。

(意外だったよ、あんたがアスティのことに気づいていないなんて)

 行方不明となった魔王の娘プリムと同時期に現れた魔族の赤子。
 アスティの早すぎる魔力覚醒。
 この二点だけでも紐に結ぶには十分な情報だった思うが……なぜ、結ばなかった?

 頭を悩ますが、結ばなかった理由が見えてこない。
 だからと言って正面から問うと、なんだかの墓穴を掘りそうで尋ねにくい。 
 俺はこれらの疑問を頭の片隅に置くだけにして、今はもっともらしい答えを中心に据えておく。

(ま、魔力覚醒を除けば今のところ少しばかり才のある普通の娘だしな。振る舞いにも王族らしさの欠片もない……って、これは農民出の俺の教育のせいか、あはは)
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

生贄にされた先は、エロエロ神世界

雑煮
恋愛
村の習慣で50年に一度の生贄にされた少女。だが、少女を待っていたのはしではなくどエロい使命だった。

小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話

矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」 「あら、いいのかしら」 夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……? 微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。 ※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。 ※小説家になろうでも同内容で投稿しています。 ※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。

愛娘(JS5)とのエッチな習慣に俺の我慢は限界

レディX
恋愛
娘の美奈は(JS5)本当に可愛い。そしてファザコンだと思う。 毎朝毎晩のトイレに一緒に入り、 お風呂の後には乾燥肌の娘の体に保湿クリームを塗ってあげる。特にお尻とお股には念入りに。ここ最近はバックからお尻の肉を鷲掴みにしてお尻の穴もオマンコの穴もオシッコ穴も丸見えにして閉じたり開いたり。 そうしてたらお股からクチュクチュ水音がするようになってきた。 お風呂上がりのいい匂いと共にさっきしたばかりのオシッコの匂い、そこに別の濃厚な匂いが漂うようになってきている。 でも俺は娘にイタズラしまくってるくせに最後の一線だけは超えない事を自分に誓っていた。 でも大丈夫かなぁ。頑張れ、俺の理性。

【完結】魔王を倒してスキルを失ったら「用済み」と国を追放された勇者、数年後に里帰りしてみると既に祖国が滅んでいた

きなこもちこ
ファンタジー
🌟某小説投稿サイトにて月間3位(異ファン)獲得しました! 「勇者カナタよ、お前はもう用済みだ。この国から追放する」 魔王討伐後一年振りに目を覚ますと、突然王にそう告げられた。 魔王を倒したことで、俺は「勇者」のスキルを失っていた。 信頼していたパーティメンバーには蔑まれ、二度と国の土を踏まないように察知魔法までかけられた。 悔しさをバネに隣国で再起すること十数年……俺は結婚して妻子を持ち、大臣にまで昇り詰めた。 かつてのパーティメンバー達に「スキルが無くても幸せになった姿」を見せるため、里帰りした俺は……祖国の惨状を目にすることになる。 ※ハピエン・善人しか書いたことのない作者が、「追放」をテーマにして実験的に書いてみた作品です。普段の作風とは異なります。 ※小説家になろう、カクヨムさんで同一名義にて掲載予定です

勝負に勝ったので委員長におっぱいを見せてもらった

矢木羽研
青春
優等生の委員長と「勝ったほうが言うことを聞く」という賭けをしたので、「おっぱい見せて」と頼んでみたら……青春寸止めストーリー。

隣の席の女の子がエッチだったのでおっぱい揉んでみたら発情されました

ねんごろ
恋愛
隣の女の子がエッチすぎて、思わず授業中に胸を揉んでしまったら…… という、とんでもないお話を書きました。 ぜひ読んでください。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

処理中です...