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第一章 勇者から父として
第39話 十五歳の記憶―勇者の娘!?―
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旅立つ覚悟を示したアスティは俺を見て微笑む。
「ふふ、急に訓練が厳しくなったのはこれが理由だったんだね。私が外の世界でも生きていけるように」
「ああ、そうだ。だが、外は俺がいた頃以上に、混迷の度が深まっている。命に対する危険がどれほどのものかわからない」
「うん、私も聞いてるかぎり、ひどい状況だとわかってる。でも、安心だよ。私はお父さんに鍛えてもらった。戦えるように、生き残れるように」
「そうだな」
「虫も食べさせられたしね」
「フフ、美味しかっただろ?」
「ぜ~ったい、そこまで追い詰められないように生き抜いてやる!」
「あはは、精々がんばれ」
「うん、頑張るよ。それに、そうならないようにお父さんが守ってくれるんでしょ?」
「…………ん?」
「あれ、お父さんも一緒に来るんじゃないの?」
「……あ、なるほど、そういう選択肢もあるのか!」
「ええええ!? まさか、一人で旅立たせるつもりだったの!? 外が危ないってのに、可愛い愛娘を一人で!?」
「自分で愛娘と言うんじゃない。そうか、言われてみればそれも可能なのか?」
今の今まで、その選択肢を考えてなかった。
どうして、こんな当然な選択肢を思いつかなかったのだろう?
それは、俺の人生の歩みと独特な価値観のせいか?
「はぁ~、俺は村を飛び出す形で旅を始めたからな。そのあとも誰かと一緒にってのはあまりなく、旅は一人でするものだという価値観で凝り固まっていた」
「え……お父さん、友達いないの?」
「ぬぐっ……友人はいるが、共に旅をできるほどの友がいなかっただけだ。それに、子が育てば、親元から離れて当然という考え方もあったからな」
「まだ、十五歳だよ。もう少し甘やかそうよ」
「たしかに、一般的には十五で大人扱いされるが、その実はまだまだ子ども扱いだからな。だけど、俺は十四で旅に出て、十五になる直前には戦場にいたからなぁ。そのせいで価値観が歪んでいるのかもな」
振り返れば、俺の人生は決してまともとは呼べない。そこで培ったもののおかげで勇者と呼ばれるようになったが、常識からは外れてしまったようだ。
俺は頭を振って、意識をアスティの旅へと戻す。
「わかった、俺も同行しよう」
「やった!」
「正直言えば、子の旅に親が同行するのはどうだろうという考えが頭をよぎるんだがな」
「子どもを過酷な旅にほっぽり出す方がどうだろう、だと思うよ?」
「そういうものか?」
「うん、そういうもの」
「そうか、それならこれに頭を悩ますのはやめよう。次はいつ旅立つかになるが――――」
「明日!」
「……いやいや、早すぎるだろう。村のみんなとの別れもあるだろうし」
「だからだよ。だから、行くと決めたこの瞬間に行かないと! そうじゃないと、後ろ髪が強くひかれちゃう」
言葉に強い決意を込めるアスティの震えを俺は見た。
母を探すと決めたものの、心の片隅に村から離れたくない感情があるのだろう。
だから、決心が鈍る前に旅立つ選択をした。
「わかった。ただし、挨拶はしていくぞ。いきなりいなくなったらみんなが驚くからな」
「うん、わかった」
アスティは天井を見上げて、どこともない場所を見つめる。
「旅か……外はどんな世界なんだろう? 何があるんだろう?」
「それは、自分の目と耳と心で確かめなさい」
「うん! それじゃ、これは色んな事を知る旅になるね。世界のこと、ママのこと。それと……パパがどんな王様だったのかも」
本当の父親は俺と言ってくれたが、やはりガルボグのことは気になるようだ。
だから、俺が知るだけの彼の像を少しだけ話す。
「ガルボグは王の中の王と呼べる男だったよ」
「え?」
「人間族よりも遥かにまとめることが難しい、魔族たちをまとめたそのカリスマ性、才知、政治手腕は本物。誰もが彼に惹かれ、彼のためになら命尽くす者が大勢いた」
「そんなに立派な王様だったんだ」
「ああ、頭も切れて、姿を瞳に納めれば誰もが魅了され、魔法の腕は賢者の名を冠するほど。剣の腕前もまた他の追随を許さず。完全無欠という言葉はあいつのためにあったんだろうな」
「そんなに凄い人だったんだ……それにしても、お父さんって随分と魔王のことに詳しいね」
「そりゃ、敵対していた相手でしっかり調べ上げていたからな。それに一度直接会って、剣を交えたこともある」
「ん? はい? 直接? あれ、外だと魔族と人間族って敵対してるんだよね? なのに直接会えるの? とゆーか、剣を交えたって? どゆこと?」
「あああ~、そういえば俺のことについては何も話してなかったな」
「お父さんのこと?」
「俺の本当の名前はジルドラン。昔、勇者をやっていた。それでガルボ――――」
「えええええええええ!? 今なんて言ったの? 勇者? 勇者? 勇者!? あの勇者クルスの先代の勇者ジルドラン!? お父さんが!?」
「ああ、その通りだが?」
「はぁぁあっぁぁぁあ? うっそでしょ!? なんでそんな軽い感じなの!? 正直、私の出生の秘密より今の話の方がよっぽどびっくりだよ!!」
「ふふ、急に訓練が厳しくなったのはこれが理由だったんだね。私が外の世界でも生きていけるように」
「ああ、そうだ。だが、外は俺がいた頃以上に、混迷の度が深まっている。命に対する危険がどれほどのものかわからない」
「うん、私も聞いてるかぎり、ひどい状況だとわかってる。でも、安心だよ。私はお父さんに鍛えてもらった。戦えるように、生き残れるように」
「そうだな」
「虫も食べさせられたしね」
「フフ、美味しかっただろ?」
「ぜ~ったい、そこまで追い詰められないように生き抜いてやる!」
「あはは、精々がんばれ」
「うん、頑張るよ。それに、そうならないようにお父さんが守ってくれるんでしょ?」
「…………ん?」
「あれ、お父さんも一緒に来るんじゃないの?」
「……あ、なるほど、そういう選択肢もあるのか!」
「ええええ!? まさか、一人で旅立たせるつもりだったの!? 外が危ないってのに、可愛い愛娘を一人で!?」
「自分で愛娘と言うんじゃない。そうか、言われてみればそれも可能なのか?」
今の今まで、その選択肢を考えてなかった。
どうして、こんな当然な選択肢を思いつかなかったのだろう?
それは、俺の人生の歩みと独特な価値観のせいか?
「はぁ~、俺は村を飛び出す形で旅を始めたからな。そのあとも誰かと一緒にってのはあまりなく、旅は一人でするものだという価値観で凝り固まっていた」
「え……お父さん、友達いないの?」
「ぬぐっ……友人はいるが、共に旅をできるほどの友がいなかっただけだ。それに、子が育てば、親元から離れて当然という考え方もあったからな」
「まだ、十五歳だよ。もう少し甘やかそうよ」
「たしかに、一般的には十五で大人扱いされるが、その実はまだまだ子ども扱いだからな。だけど、俺は十四で旅に出て、十五になる直前には戦場にいたからなぁ。そのせいで価値観が歪んでいるのかもな」
振り返れば、俺の人生は決してまともとは呼べない。そこで培ったもののおかげで勇者と呼ばれるようになったが、常識からは外れてしまったようだ。
俺は頭を振って、意識をアスティの旅へと戻す。
「わかった、俺も同行しよう」
「やった!」
「正直言えば、子の旅に親が同行するのはどうだろうという考えが頭をよぎるんだがな」
「子どもを過酷な旅にほっぽり出す方がどうだろう、だと思うよ?」
「そういうものか?」
「うん、そういうもの」
「そうか、それならこれに頭を悩ますのはやめよう。次はいつ旅立つかになるが――――」
「明日!」
「……いやいや、早すぎるだろう。村のみんなとの別れもあるだろうし」
「だからだよ。だから、行くと決めたこの瞬間に行かないと! そうじゃないと、後ろ髪が強くひかれちゃう」
言葉に強い決意を込めるアスティの震えを俺は見た。
母を探すと決めたものの、心の片隅に村から離れたくない感情があるのだろう。
だから、決心が鈍る前に旅立つ選択をした。
「わかった。ただし、挨拶はしていくぞ。いきなりいなくなったらみんなが驚くからな」
「うん、わかった」
アスティは天井を見上げて、どこともない場所を見つめる。
「旅か……外はどんな世界なんだろう? 何があるんだろう?」
「それは、自分の目と耳と心で確かめなさい」
「うん! それじゃ、これは色んな事を知る旅になるね。世界のこと、ママのこと。それと……パパがどんな王様だったのかも」
本当の父親は俺と言ってくれたが、やはりガルボグのことは気になるようだ。
だから、俺が知るだけの彼の像を少しだけ話す。
「ガルボグは王の中の王と呼べる男だったよ」
「え?」
「人間族よりも遥かにまとめることが難しい、魔族たちをまとめたそのカリスマ性、才知、政治手腕は本物。誰もが彼に惹かれ、彼のためになら命尽くす者が大勢いた」
「そんなに立派な王様だったんだ」
「ああ、頭も切れて、姿を瞳に納めれば誰もが魅了され、魔法の腕は賢者の名を冠するほど。剣の腕前もまた他の追随を許さず。完全無欠という言葉はあいつのためにあったんだろうな」
「そんなに凄い人だったんだ……それにしても、お父さんって随分と魔王のことに詳しいね」
「そりゃ、敵対していた相手でしっかり調べ上げていたからな。それに一度直接会って、剣を交えたこともある」
「ん? はい? 直接? あれ、外だと魔族と人間族って敵対してるんだよね? なのに直接会えるの? とゆーか、剣を交えたって? どゆこと?」
「あああ~、そういえば俺のことについては何も話してなかったな」
「お父さんのこと?」
「俺の本当の名前はジルドラン。昔、勇者をやっていた。それでガルボ――――」
「えええええええええ!? 今なんて言ったの? 勇者? 勇者? 勇者!? あの勇者クルスの先代の勇者ジルドラン!? お父さんが!?」
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