上 下
83 / 100
第二幕

第35話 さようなら名推理。名推理、あなたは旅立ってどちらへ行かれたのでしょうか?

しおりを挟む
――――次の日


 取り巻きたちは昨日のこともあり、ブランシュに話しかけづらい様子。
 これは俺にとって大変好都合。
 放課後――取り巻きたちは申し訳なさを見せつつも、放課後の稽古には付き合いがたく、ブランシュを残して寄宿舎へと戻っていった。

 その気まずい雰囲気を利用して、俺は取り巻きたちをよそおう手紙をブランシュのロッカーの隙間に挟み込む。

 そうとは知らずに、ブランシュは手紙を読んで、そこに書かれてあった場所へ向かう――指定した場所は、大穴の開いた工事中である階段のエントランス近く。あそこは封鎖されており、人はまず来ない。
 そのエントランス近くにある資料室へと彼女は向かった。


――封鎖中の資料室

 ブランシュは資料室の扉をガラガラと横に引いて、中へ入ってくる。
「何なの? 謝りたいなら別にここじゃなくても――え!?」
「待ってましたわよ、ブランシュ様」

 資料室の中で待っていたのは俺。シオン=ポリトス=ゼルフォビラ。
 驚きに体を固めるブランシュを横目に、そばを通り過ぎて、まずは扉を閉めてカギを掛ける。
 そして、彼女が逃げられないように扉の前に立ち、話を始めた。

「ブランシュ様、いえ、ブランシュ。わたくし、あなたの本当の心を知りましたのよ」
「え? な、なに言ってるの?」
「あなたはたくさん悩んだのでしょう。深く悩んだのでしょう。ですが、自分の真なる感情を誰かに打ち明けるというのは困難。たとえそれが、近くにいらっしゃるお二人の御友人であってもね」
「だ、だから、な、何を言っているの?」
  

 待ち合わせの場所にいたシオン。そして、心に土足で上がり込む不躾な言葉。
 そのため、ブランシュの声は上擦り、動揺を隠し切れていない。
 彼女の心と頭が混乱している間に、一気に落とす!
 俺は彼女へ優しく語り掛ける。

「わたくしはご存じですの。あなたの本当の心を。そのために、ずっと悩んでいたことを。わたくしをいじめていたことにも、意味があったのですのね」
「――――っ!? うそ、ほ、本当に……」
「あなたは別に、わたくし個人が憎いわけでなかった。恨んでいるわけではなかった。だけど、心の嘆きを封じるには、こうするほかなかったのでしょう」

「や、やめて、お願い、それ以上は……」
「以前のわたくしは、ここから逃げ出すくらい辛い思いをしました。戻って来てからも、執拗ないじめを受け続けました」
「あ、あ、あ、あ、あ」
「ですが、それら全てを許しましょう」

「――え!? あなた、何を言って――」

「ブランシュ、あなたの気持ちが理解できるからです。誰にも話せず、胸の内だけで焦がし続ける苦い思いを」
「ま、まさか、あなたも?」
「元は庶民でありながら、私もまた今ではゼルフォビラ家の者としての立場があります。勝手は許されません。もっとも、あなたから比べれば重い物ではないでしょうが。それでも……」


 俺はここで、ブランシュへ手を差し伸ばす。
「同じ苦しみを知り、悩みを知る者同士。互いに手を取り合いません? 庶民出であるわたくしと皇族のあなたを比べるなどおこがましいでしょうが。それでも、悩みを聞くことはできます。同志として……」
「あ、でも、でも、でも……」

 彼女は俺の手を握ろうとして、途中で震えを纏い、止まる。
「どうしたの? わたくしじゃ頼りない?」
(ほら、さっさと握れ! お前の悩みを聞いてやれるのは俺だけなんだぞ、ほらほら!!)

 
「そうじゃない。でも、握るわけにはいかない……」
「どうして? わたくしが庶民だから?」
「違う、そうじゃない! 私の気持ちを知っているならわかるでしょ! 握れないの! 握っては駄目なの!」
「いいから握って。わたくしは、そうしてくれると嬉しい」
「駄目よ、駄目よ、駄目よ! だって、私は、私は――」
「なに?」


「私は――――愛するあなたを傷つけたんだもの!!」
「……………………………………………………………………………………え?」


「私はあなたを愛してる! それなのにこんなことをしてしまった! それなのにあなたの手を握るなんてできない! できるわけがない!!」

 唐突な愛の告白。
 ブランシュは涙を流しながら、俺に愛を訴えてきた。
 俺は必死に混乱を抑え込み、叫び声をなんとか心の中だけに留める

(えええええええええええええええええええええええええええ!? ちょ、どういうことだ? 愛してる? え、こいつ、シオンが好きなの? は? は? は? じゃあ、なんでいじめたの? 男子が好きな女子をいじめる的な? いやいや、いじめて学院から追い出したら本末転倒だろ! つまり、なんだ? どゆこと?)


 新たに浮上した事実が完璧だった俺の名推理をどこかへ旅立たせた。孤独を好む彼はもう二度と帰ってくることはないだろう。ああ、だけどせめてお便りは――。
(って、落ち着け、俺。まずは……そうだ、ブランシュも落ち着かせないと)
 
 涙を流して謝罪を漏らし続けるブランシュを落ち着かせようとした。
 そこで、思いもよらぬ言葉を聞くことになる。
「ひぐ、ひっく、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい。好きな人にこんなひどいことを」
「お、落ち着いて、ブランシュ。まずはゆっくり深呼吸を……」
「落ち着けないよ! 私は大切にしないといけない愛する人を傷つけて追い詰めたんだよ。それであなたを追い出すことに成功した。でも、それは許されないこと……」
「え、追い出すことに成功?」

「そうよ、あなたを追い詰めて学院から追い出せた。私はあなたを守るためにあなたをいじめた! あなたの命を守るために! あの、フィア=エイドス=ゼルフォビラから!!」
しおりを挟む
感想 8

あなたにおすすめの小説

うっかり女神さまからもらった『レベル9999』は使い切れないので、『譲渡』スキルで仲間を強化して最強パーティーを作ることにしました

akairo
ファンタジー
「ごめんなさい!貴方が死んだのは私のクシャミのせいなんです!」 帰宅途中に工事現場の足台が直撃して死んだ、早良 悠月(さわら ゆずき)が目覚めた目の前には女神さまが土下座待機をして待っていた。 謝る女神さまの手によって『ユズキ』として転生することになったが、その直後またもや女神さまの手違いによって、『レベル9999』と職業『譲渡士』という謎の職業を付与されてしまう。 しかし、女神さまの世界の最大レベルは99。 勇者や魔王よりも強いレベルのまま転生することになったユズキの、使い切ることもできないレベルの使い道は仲間に譲渡することだった──!? 転生先で出会ったエルフと魔族の少女。スローライフを掲げるユズキだったが、二人と共に世界を回ることで国を巻き込む争いへと巻き込まれていく。 ※9月16日  タイトル変更致しました。 前タイトルは『レベル9999は転生した世界で使い切れないので、仲間にあげることにしました』になります。 仲間を強くして無双していく話です。 『小説家になろう』様でも公開しています。

解呪の魔法しか使えないからとSランクパーティーから追放された俺は、呪いをかけられていた美少女ドラゴンを拾って最強へと至る

早見羽流
ファンタジー
「ロイ・クノール。お前はもう用無しだ」 解呪の魔法しか使えない初心者冒険者の俺は、呪いの宝箱を解呪した途端にSランクパーティーから追放され、ダンジョンの最深部へと蹴り落とされてしまう。 そこで出会ったのは封印された邪龍。解呪の能力を使って邪龍の封印を解くと、なんとそいつは美少女の姿になり、契約を結んで欲しいと頼んできた。 彼女は元は世界を守護する守護龍で、英雄や女神の陰謀によって邪龍に堕とされ封印されていたという。契約を結んだ俺は彼女を救うため、守護龍を封印し世界を牛耳っている女神や英雄の血を引く王家に立ち向かうことを誓ったのだった。 (1話2500字程度、1章まで完結保証です)

侯爵令嬢に転生したからには、何がなんでも生き抜きたいと思います!

珂里
ファンタジー
侯爵令嬢に生まれた私。 3歳のある日、湖で溺れて前世の記憶を思い出す。 高校に入学した翌日、川で溺れていた子供を助けようとして逆に私が溺れてしまった。 これからハッピーライフを満喫しようと思っていたのに!! 転生したからには、2度目の人生何がなんでも生き抜いて、楽しみたいと思います!!!

オバサンが転生しましたが何も持ってないので何もできません!

みさちぃ
恋愛
50歳近くのおばさんが異世界転生した! 転生したら普通チートじゃない?何もありませんがっ!! 前世で苦しい思いをしたのでもう一人で生きて行こうかと思います。 とにかく目指すは自由気ままなスローライフ。 森で調合師して暮らすこと! ひとまず読み漁った小説に沿って悪役令嬢から国外追放を目指しますが… 無理そうです…… 更に隣で笑う幼なじみが気になります… 完結済みです。 なろう様にも掲載しています。 副題に*がついているものはアルファポリス様のみになります。 エピローグで完結です。 番外編になります。 ※完結設定してしまい新しい話が追加できませんので、以後番外編載せる場合は別に設けるかなろう様のみになります。

巻き込まれ召喚されたおっさん、無能だと追放され冒険者として無双する

高鉢 健太
ファンタジー
とある県立高校の最寄り駅で勇者召喚に巻き込まれたおっさん。 手違い鑑定でスキルを間違われて無能と追放されたが冒険者ギルドで間違いに気付いて無双を始める。

男子高校生だった俺は異世界で幼児になり 訳あり筋肉ムキムキ集団に保護されました。

カヨワイさつき
ファンタジー
高校3年生の神野千明(かみの ちあき)。 今年のメインイベントは受験、 あとはたのしみにしている北海道への修学旅行。 だがそんな彼は飛行機が苦手だった。 電車バスはもちろん、ひどい乗り物酔いをするのだった。今回も飛行機で乗り物酔いをおこしトイレにこもっていたら、いつのまにか気を失った?そして、ちがう場所にいた?! あれ?身の危険?!でも、夢の中だよな? 急死に一生?と思ったら、筋肉ムキムキのワイルドなイケメンに拾われたチアキ。 さらに、何かがおかしいと思ったら3歳児になっていた?! 変なレアスキルや神具、 八百万(やおよろず)の神の加護。 レアチート盛りだくさん?! 半ばあたりシリアス 後半ざまぁ。 訳あり幼児と訳あり集団たちとの物語。 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 北海道、アイヌ語、かっこ良さげな名前 お腹がすいた時に食べたい食べ物など 思いついた名前とかをもじり、 なんとか、名前決めてます。     *** お名前使用してもいいよ💕っていう 心優しい方、教えて下さい🥺 悪役には使わないようにします、たぶん。 ちょっとオネェだったり、 アレ…だったりする程度です😁 すでに、使用オッケーしてくださった心優しい 皆様ありがとうございます😘 読んでくださる方や応援してくださる全てに めっちゃ感謝を込めて💕 ありがとうございます💞

ブラックギルドマスターへ、社畜以下の道具として扱ってくれてあざーす!お陰で転職した俺は初日にSランクハンターに成り上がりました!

仁徳
ファンタジー
あらすじ リュシアン・プライムはブラックハンターギルドの一員だった。 彼はギルドマスターやギルド仲間から、常人ではこなせない量の依頼を押し付けられていたが、夜遅くまで働くことで全ての依頼を一日で終わらせていた。 ある日、リュシアンは仲間の罠に嵌められ、依頼を終わらせることができなかった。その一度の失敗をきっかけに、ギルドマスターから無能ハンターの烙印を押され、クビになる。 途方に暮れていると、モンスターに襲われている女性を彼は見つけてしまう。 ハンターとして襲われている人を見過ごせないリュシアンは、モンスターから女性を守った。 彼は助けた女性が、隣町にあるハンターギルドのギルドマスターであることを知る。 リュシアンの才能に目をつけたギルドマスターは、彼をスカウトした。 一方ブラックギルドでは、リュシアンがいないことで依頼達成の効率が悪くなり、依頼は溜まっていく一方だった。ついにブラックギルドは町の住民たちからのクレームなどが殺到して町民たちから見放されることになる。 そんな彼らに反してリュシアンは新しい職場、新しい仲間と出会い、ブッラックギルドの経験を活かして最速でギルドランキング一位を獲得し、ギルドマスターや町の住民たちから一目置かれるようになった。 これはブラックな環境で働いていた主人公が一人の女性を助けたことがきっかけで人生が一変し、ホワイトなギルド環境で最強、無双、ときどきスローライフをしていく物語!

魔力値1の私が大賢者(仮)を目指すまで

ひーにゃん
ファンタジー
 誰もが魔力をもち魔法が使える世界で、アンナリーナはその力を持たず皆に厭われていた。  運命の【ギフト授与式】がやってきて、これでまともな暮らしが出来るかと思ったのだが……  与えられたギフトは【ギフト】というよくわからないもの。  だが、そのとき思い出した前世の記憶で【ギフト】の使い方を閃いて。  これは少し歪んだ考え方の持ち主、アンナリーナの一風変わった仲間たちとの日常のお話。  冒険を始めるに至って、第1章はアンナリーナのこれからを書くのに外せません。  よろしくお願いします。  この作品は小説家になろう様にも掲載しています。

処理中です...