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第二幕
第33話 御指名はシオン
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――――体育館
日本の体育館の倍の大きさはある体育館へ移動。
俺の姿はというと、上は白のトレーナー。下は赤色のハーフパンツの体操着。
内容は護身術。
てっきりテニスみたいな上流階級が好みそうな球技でもやるのかと思ったんだが、まさか護身術とはな。貴族様は文武両道でないと駄目なようで。
俺はストレッチをしながら、談笑をしている生徒たちの人数を数える。
(29・30・31・32。俺を含めて33人。二人一組になって~と言われたらいじめられてる俺はボッチ確定か。となると、護身術の相手は教官? マギーやルーレンよりも強いんだろうかねぇ。場合によってはこっちが手を抜かないと。実力がバレないように)
そう考えていると、突然ブランシュが体育の指導教官へ手を上げた。
「教官、よろしいですか?」
「どうされました、ブランシュさん?」
「皇族に名を連ねる者として、皆様にお手本を見せたいと思いまして」
「ブランシュさんが? たしかに、あなたの護身術は学年一。お手本になるでしょうね。では、みなさん、まずはブランシュさんから基本を学びなさい。相手は私が――」
「いえ、シオンを指名します!」
ブランシュがストレッチ中の俺へビシリと人差し指を突き立てた。
それに体育の教官が待ったをかけようとしたが……。
「ブランシュさん、シオンさんはあまり運動が得意ではないですから」
「私が指名したのです。何か問題でも?」
ブランシュは瞳を冷たく凍らせて教官へ声を返した。
これに教官は小さくわかりましたと返事をする。
相手は皇族。強く出られると先生と生徒の関係もなくなるようだ。
元々シオンに対するいじめも放置していたようだし、ブランシュに逆らえる者はいないと見た方が良いだろう。
とはいえ、こちらもまた学院の出資者で領主様の娘であるんだが……姉フィアの冷たい様子からシオンにゼルフォビラの威光はなく、ただ単に場違いな庶民の娘という扱いなわけか。
ブランシュはスポーツチャンバラで使用していそうな柔らか素材で保護された細身の模造刀を手に取り、こちらを急かす。
「ほら、何をしてるの? さっさと準備しなさい」
よほど腕に自信があるのか、模造刀で俺をいじめる気満々。
俺は彼女の取り巻きから無理矢理模造刀を渡され、そいつを見つめる。
(武器有りの護身術か。得物の表面は柔らかいが中の芯は結構固い。こりゃ、まともに受けると打撲くらいしそうだ。特に模造刀の頭の部分は芯が剥き出しになっていて危険。ここで突かれたら大怪我どころじゃないな。突きには気をつけないと)
俺は教官に促され、普段はバスケだかバレーだかをやってそうな広いフロアに移動させられる。
そこでブランシュと相対し、互いに模造刀を構えた。
彼女のぴしりとした構えを見て、俺は心の中で感心の声を上げる。
(ほ~、なかなかの構えだ。自信満々なだけはあるな。マギーやルーレンと比べるとさすがに劣るが、学生のお嬢様にしてはかなりのもんだ。しかし残念、マギーやルーレンだけではなく、俺よりも劣るがな)
俺も両手で模造刀を持ち、構える。
その途端、ブランシュが仕掛けてきた。
「やぁ!」
肩に振り下ろされた模造刀を、同じく模造刀で強めに弾いてやる。
「おっと」
「えい! や! とう! せい!」
しかし、彼女はバランスを崩すことなく何度も打ち込んでくる。
それは胴や足や二の腕辺りを打ち据えるか、薙ぎ払うという、いまいち致命傷になりにくい攻撃ばかり。
(なんでこいつ、頭や顔を狙わないんだ? 攻撃も突いてくるようなことはしないし)
まさか、こちらを気遣っているのだろうか?
そう言えば、階段のエントランスで取り巻きたちと話していた時も、暴力的な手段は取るなと言っていた。
暴力によるいじめは趣味でない、ということか?
だがここまで、従来のいじめが通じなかったために彼女は業を煮やしてこのような暴力的な手段に出た……それでもやっぱり過激な暴力は好まず、頭や顔などの、危険部位への攻撃を避けている? そうだとしたら、変わった奴だ。
俺は防戦に徹してひたすら相手の攻撃をいなし捌き続ける。
これは別に、反撃できないくらいの猛攻だからというわけではない。
ただ、相手が皇族なのであまり無茶をするのもな、という思いがあるからだ。
試合が始まり、三分。ブランシュは肩で息をし始めていた。
「はぁはぁはぁ、なんで……?」
彼女は額から零れ落ちる汗をぬぐい、俺を睨みつける。
(なんで、攻撃が当たらないの? それどころか、余裕であしらわれてる。こ、こんなの、私の知ってるシオンじゃない。あの子は運動なんててんで駄目で、おとなしくて、こんな、こんな、こんな!)
「うあぁぁあぁあ!」
突然、ブランシュは狂声を上げたかと思うと、数発の鋭い突きを放ってきた。
なんだ、方針転換か?
そいつを俺は、上体のみを後方に逸らすスウェーで躱す。
躱し切った――と、次の瞬間には兜割り!? それを模造刀の腹で受けると同時に少し傾かせて力を下へ流そうとしたが、ブランシュはすぐに模造刀を引いて、再び突きを放つ。
ここにきて、ブランシュの動きが良くなっている。手加減を止めたことで本来の実力を出せるようになったようだ。
ま、それでも所詮は学生のおままごとレベルだが――。
俺はひたすら防戦を演じ、彼女の激しい攻撃を躱し続ける。
この打ち合いを見て、教官も他の女生徒も唖然とした様子を見せる。
(あちゃ~、俺の実力がバレたか。とはいえ、負ける振りをして黙って打たれるには鋭すぎるんだよなぁ、ブランシュ皇女殿下の攻撃は……ま、いっか)
他者の油断を誘いたいがために、実力を秘匿にしておきたかったが仕方ない。それにもとより、屋敷では開けっ広げにマギー相手に稽古をしているんだし、どっかから話が漏れるだろうし、隠しきれるものではないし。
ま、マギーとの稽古が今ここに実ったということで。
日本の体育館の倍の大きさはある体育館へ移動。
俺の姿はというと、上は白のトレーナー。下は赤色のハーフパンツの体操着。
内容は護身術。
てっきりテニスみたいな上流階級が好みそうな球技でもやるのかと思ったんだが、まさか護身術とはな。貴族様は文武両道でないと駄目なようで。
俺はストレッチをしながら、談笑をしている生徒たちの人数を数える。
(29・30・31・32。俺を含めて33人。二人一組になって~と言われたらいじめられてる俺はボッチ確定か。となると、護身術の相手は教官? マギーやルーレンよりも強いんだろうかねぇ。場合によってはこっちが手を抜かないと。実力がバレないように)
そう考えていると、突然ブランシュが体育の指導教官へ手を上げた。
「教官、よろしいですか?」
「どうされました、ブランシュさん?」
「皇族に名を連ねる者として、皆様にお手本を見せたいと思いまして」
「ブランシュさんが? たしかに、あなたの護身術は学年一。お手本になるでしょうね。では、みなさん、まずはブランシュさんから基本を学びなさい。相手は私が――」
「いえ、シオンを指名します!」
ブランシュがストレッチ中の俺へビシリと人差し指を突き立てた。
それに体育の教官が待ったをかけようとしたが……。
「ブランシュさん、シオンさんはあまり運動が得意ではないですから」
「私が指名したのです。何か問題でも?」
ブランシュは瞳を冷たく凍らせて教官へ声を返した。
これに教官は小さくわかりましたと返事をする。
相手は皇族。強く出られると先生と生徒の関係もなくなるようだ。
元々シオンに対するいじめも放置していたようだし、ブランシュに逆らえる者はいないと見た方が良いだろう。
とはいえ、こちらもまた学院の出資者で領主様の娘であるんだが……姉フィアの冷たい様子からシオンにゼルフォビラの威光はなく、ただ単に場違いな庶民の娘という扱いなわけか。
ブランシュはスポーツチャンバラで使用していそうな柔らか素材で保護された細身の模造刀を手に取り、こちらを急かす。
「ほら、何をしてるの? さっさと準備しなさい」
よほど腕に自信があるのか、模造刀で俺をいじめる気満々。
俺は彼女の取り巻きから無理矢理模造刀を渡され、そいつを見つめる。
(武器有りの護身術か。得物の表面は柔らかいが中の芯は結構固い。こりゃ、まともに受けると打撲くらいしそうだ。特に模造刀の頭の部分は芯が剥き出しになっていて危険。ここで突かれたら大怪我どころじゃないな。突きには気をつけないと)
俺は教官に促され、普段はバスケだかバレーだかをやってそうな広いフロアに移動させられる。
そこでブランシュと相対し、互いに模造刀を構えた。
彼女のぴしりとした構えを見て、俺は心の中で感心の声を上げる。
(ほ~、なかなかの構えだ。自信満々なだけはあるな。マギーやルーレンと比べるとさすがに劣るが、学生のお嬢様にしてはかなりのもんだ。しかし残念、マギーやルーレンだけではなく、俺よりも劣るがな)
俺も両手で模造刀を持ち、構える。
その途端、ブランシュが仕掛けてきた。
「やぁ!」
肩に振り下ろされた模造刀を、同じく模造刀で強めに弾いてやる。
「おっと」
「えい! や! とう! せい!」
しかし、彼女はバランスを崩すことなく何度も打ち込んでくる。
それは胴や足や二の腕辺りを打ち据えるか、薙ぎ払うという、いまいち致命傷になりにくい攻撃ばかり。
(なんでこいつ、頭や顔を狙わないんだ? 攻撃も突いてくるようなことはしないし)
まさか、こちらを気遣っているのだろうか?
そう言えば、階段のエントランスで取り巻きたちと話していた時も、暴力的な手段は取るなと言っていた。
暴力によるいじめは趣味でない、ということか?
だがここまで、従来のいじめが通じなかったために彼女は業を煮やしてこのような暴力的な手段に出た……それでもやっぱり過激な暴力は好まず、頭や顔などの、危険部位への攻撃を避けている? そうだとしたら、変わった奴だ。
俺は防戦に徹してひたすら相手の攻撃をいなし捌き続ける。
これは別に、反撃できないくらいの猛攻だからというわけではない。
ただ、相手が皇族なのであまり無茶をするのもな、という思いがあるからだ。
試合が始まり、三分。ブランシュは肩で息をし始めていた。
「はぁはぁはぁ、なんで……?」
彼女は額から零れ落ちる汗をぬぐい、俺を睨みつける。
(なんで、攻撃が当たらないの? それどころか、余裕であしらわれてる。こ、こんなの、私の知ってるシオンじゃない。あの子は運動なんててんで駄目で、おとなしくて、こんな、こんな、こんな!)
「うあぁぁあぁあ!」
突然、ブランシュは狂声を上げたかと思うと、数発の鋭い突きを放ってきた。
なんだ、方針転換か?
そいつを俺は、上体のみを後方に逸らすスウェーで躱す。
躱し切った――と、次の瞬間には兜割り!? それを模造刀の腹で受けると同時に少し傾かせて力を下へ流そうとしたが、ブランシュはすぐに模造刀を引いて、再び突きを放つ。
ここにきて、ブランシュの動きが良くなっている。手加減を止めたことで本来の実力を出せるようになったようだ。
ま、それでも所詮は学生のおままごとレベルだが――。
俺はひたすら防戦を演じ、彼女の激しい攻撃を躱し続ける。
この打ち合いを見て、教官も他の女生徒も唖然とした様子を見せる。
(あちゃ~、俺の実力がバレたか。とはいえ、負ける振りをして黙って打たれるには鋭すぎるんだよなぁ、ブランシュ皇女殿下の攻撃は……ま、いっか)
他者の油断を誘いたいがために、実力を秘匿にしておきたかったが仕方ない。それにもとより、屋敷では開けっ広げにマギー相手に稽古をしているんだし、どっかから話が漏れるだろうし、隠しきれるものではないし。
ま、マギーとの稽古が今ここに実ったということで。
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