上 下
21 / 100
第一幕

第二十一話 忘却のエルフと魔女と悪魔

しおりを挟む
 エルフ――マンガや小説などのファンタジー知識になるが、エルフとはとても美形で森に棲み、自然を愛し、そして魔法が得意な種族のはず。
 質問にルーレンが答えてくる。


「え、よくご存じですね。もう、今ではほとんど語られることのない種族の名ですのに」
「あら、そうなの? それはまたどうして?」

 ここでルーレンは、瞳を馬車の窓の先に見える町へ振り、行き交う人間たちを見て、過去の出来事を今の自分たちの姿と重ね合わせるような瞳を見せてから、こちらへ戻す。
 その瞳には生気なく、感情もまたどんよりとしたもの。
 彼女は淡々と言葉を発する。

「エルフは……千年前に人間によって絶滅させられました」


 エルフは絶滅した。
 この言葉に質問をかぶせる。

「わたくしの知るかぎり、エルフというのは魔法を得意とします。違いますか?」
「はい、その通りです」
「その彼らが、千年も昔に人間によって絶滅させられた?」
「はい」
「どのようにして? 魔法使いの数ならば、エルフが圧倒していたでしょう」

「もちろんです。エルフは生まれながらに魔法が使えます。ですが、人間の魔法と比べると非常にか弱いのです」
「え?」
「数が少ないながらも、人間の魔法使いは一人で町一つを消すことができます。対するエルフは数が多くとも、一度に十数人の命を奪うのがやっと。魔法の威力に格段の差があったのです」

 
 俺は魔法というものをゲームや物語で知っていても実際には見たことがない。
 だから、ルーレンが言った言葉を地球の道具で置き換える。
 エルフの魔法……それはマシンガンレベルなのだろう。
 対する人間の魔法……おそらく、核兵器級。

 これでは数など意味がない。人間の魔法使いが強すぎる。
 ルーレンは話の終わりにこう置く。

「当時、魔法使いにルールはなく、本当の意味で自由でした。彼らはエルフを研究しようとして、エルフを奴隷として扱いたい国家と協力。結果、絶滅させてしまったのです。この過去を反省して、魔法使いたちはルールを制定し、国家とは関わらない存在となったのです」

「そうでしたか。悲しい歴史ですが、興味深いものでした。ここまでの話で、魔法使いとは世界最強の存在だと認識してよろしいですか?」

「そういう認識で問題ないと思います。あ、でも……」
「なんですか?」

「魔法使いを上回る魔法の使い手、魔女という存在が居ます。現在は存在を確認されていませんが、もしかしたら世界のどこかにいるかもしれません」
「えっと、どういうことですの?」
「いつ、どのように現れるのかわからない不思議な存在なんです」
「そうなんですか」

「それと、その魔女の天敵となる悪魔と呼ばれる存在が居ます。こちらに関しては文献が少なく、全く謎の存在ですね」

「いろんなものが居ますわね。とにかく、現状だと魔法使いが最強というわけですわね」
「はい。だからといって普通の人間やドワーフでも勝てないというわけでもないようですが。過去には、魔法使いに勝ったという事例も。近年だと、セルガ様だけでしょうが」

「はっ!? なんて!?」


 まさかの父の名に声が素に戻ってしまった。
 慌ててお嬢様言葉に戻す。

「ゴホン! いま何と仰いました?」
「セルガ様は魔法使いに勝利したことがあると」
「町を一つ消し飛ばす化け物じみた存在にどうやってですか? というか、お父様ってそんなにお強いの?」

「ええ、セルガ様は皇国一、いえ世界一の剣士ですから」
「いくら強いと言っても剣士ですよね。それでどうやって……」
「魔法使いと言えど人間ですので、身体機能が高いわけじゃありません。セルガ様が若かりし頃、魔法使いと相対することがあり、その際、剣で魔法を切り裂き一気に詰め寄り、やいばを喉元へ突き立てたとか」

「無茶苦茶ですわね。ですが、感謝いたします。記憶を失い、忘れていた父の功績を耳で味わうことができて良かったですわ」


 ああ、マジで良かった。
 只者ではなさそうとは思っていたが、化け物相手に勝つ化け物だったとは……絶対暴力的な手段で復讐するのはよそう。
 暗殺しようとしても返り討ちに合っちまう。


 ともかく、ここまででわかったことを纏めよう。

 ドワーフは人間に敗れ、現在の地位は奴隷。
 魔法使いは最強クラスの存在。魔法使いを上回る魔女や悪魔というのがいるが存在は不明。
 エルフは絶滅している。
 セルガは魔法使いに勝ったことがある。


 さて、ここからだ。 
 シオンの依頼である復讐。
 これを果たすためにどうするかだが……良いヒントが貰えた。

 それは――ドワーフの存在。

 戦士から奴隷に堕ちた。
 それもまだ百年ほどしか経っていない。
 彼らには人間に対する憎しみが薄れず色濃く残っているだろう。
 そいつを利用しない手はない。

 セルガを相手にしようとすると世継ぎ問題で絡めとるくらいしかなかったが、ドワーフを利用すれば、セルガの領地を混乱に陥れることができるかもしれない。
 そうなれば、奴の権威は失墜。ゼルフォビラ家を失うことになる。

 あとはそこから財産をうまい具合に抜いて、俺自身は行方をくらまし、見知らぬ土地で悠々自適な生活を満喫する、と。

 他愛のない話からカードが増やせそうな情報を得ることができて良かった。
 ドワーフの件はいずれ時期を見てカードにできるか判断することにして、今は目の前のカードを増やそう。

 次兄ザディラを利用したゼルフォビラ家乗っ取りというカードを……。
しおりを挟む
感想 8

あなたにおすすめの小説

魔性の大公の甘く淫らな執愛の檻に囚われて

アマイ
恋愛
優れた癒しの力を持つ家系に生まれながら、伯爵家当主であるクロエにはその力が発現しなかった。しかし血筋を絶やしたくない皇帝の意向により、クロエは早急に後継を作らねばならなくなった。相手を求め渋々参加した夜会で、クロエは謎めいた美貌の男・ルアと出会う。 二人は契約を交わし、割り切った体の関係を結ぶのだが――

ブラックギルドマスターへ、社畜以下の道具として扱ってくれてあざーす!お陰で転職した俺は初日にSランクハンターに成り上がりました!

仁徳
ファンタジー
あらすじ リュシアン・プライムはブラックハンターギルドの一員だった。 彼はギルドマスターやギルド仲間から、常人ではこなせない量の依頼を押し付けられていたが、夜遅くまで働くことで全ての依頼を一日で終わらせていた。 ある日、リュシアンは仲間の罠に嵌められ、依頼を終わらせることができなかった。その一度の失敗をきっかけに、ギルドマスターから無能ハンターの烙印を押され、クビになる。 途方に暮れていると、モンスターに襲われている女性を彼は見つけてしまう。 ハンターとして襲われている人を見過ごせないリュシアンは、モンスターから女性を守った。 彼は助けた女性が、隣町にあるハンターギルドのギルドマスターであることを知る。 リュシアンの才能に目をつけたギルドマスターは、彼をスカウトした。 一方ブラックギルドでは、リュシアンがいないことで依頼達成の効率が悪くなり、依頼は溜まっていく一方だった。ついにブラックギルドは町の住民たちからのクレームなどが殺到して町民たちから見放されることになる。 そんな彼らに反してリュシアンは新しい職場、新しい仲間と出会い、ブッラックギルドの経験を活かして最速でギルドランキング一位を獲得し、ギルドマスターや町の住民たちから一目置かれるようになった。 これはブラックな環境で働いていた主人公が一人の女性を助けたことがきっかけで人生が一変し、ホワイトなギルド環境で最強、無双、ときどきスローライフをしていく物語!

幸福の魔法使い〜ただの転生者が史上最高の魔法使いになるまで〜

霊鬼
ファンタジー
生まれつき魔力が見えるという特異体質を持つ現代日本の会社員、草薙真はある日死んでしまう。しかし何故か目を覚ませば自分が幼い子供に戻っていて……? 生まれ直した彼の目的は、ずっと憧れていた魔法を極めること。様々な地へ訪れ、様々な人と会い、平凡な彼はやがて英雄へと成り上がっていく。 これは、ただの転生者が、やがて史上最高の魔法使いになるまでの物語である。 (小説家になろう様、カクヨム様にも掲載をしています。)

オバサンが転生しましたが何も持ってないので何もできません!

みさちぃ
恋愛
50歳近くのおばさんが異世界転生した! 転生したら普通チートじゃない?何もありませんがっ!! 前世で苦しい思いをしたのでもう一人で生きて行こうかと思います。 とにかく目指すは自由気ままなスローライフ。 森で調合師して暮らすこと! ひとまず読み漁った小説に沿って悪役令嬢から国外追放を目指しますが… 無理そうです…… 更に隣で笑う幼なじみが気になります… 完結済みです。 なろう様にも掲載しています。 副題に*がついているものはアルファポリス様のみになります。 エピローグで完結です。 番外編になります。 ※完結設定してしまい新しい話が追加できませんので、以後番外編載せる場合は別に設けるかなろう様のみになります。

『希望の実』拾い食いから始まる逆転ダンジョン生活!

IXA
ファンタジー
30年ほど前、地球に突如として現れたダンジョン。  無限に湧く資源、そしてレベルアップの圧倒的な恩恵に目をつけた人類は、日々ダンジョンの研究へ傾倒していた。  一方特にそれは関係なく、生きる金に困った私、結城フォリアはバイトをするため、最低限の体力を手に入れようとダンジョンへ乗り込んだ。  甘い考えで潜ったダンジョン、しかし笑顔で寄ってきた者達による裏切り、体のいい使い捨てが私を待っていた。  しかし深い絶望の果てに、私は最強のユニークスキルである《スキル累乗》を獲得する--  これは金も境遇も、何もかもが最底辺だった少女が泥臭く苦しみながらダンジョンを探索し、知恵とスキルを駆使し、地べたを這いずり回って頂点へと登り、世界の真実を紐解く話  複数箇所での保存のため、カクヨム様とハーメルン様でも投稿しています

記憶喪失になった嫌われ悪女は心を入れ替える事にした 

結城芙由奈@12/27電子書籍配信中
ファンタジー
池で溺れて死にかけた私は意識を取り戻した時、全ての記憶を失っていた。それと同時に自分が周囲の人々から陰で悪女と呼ばれ、嫌われている事を知る。どうせ記憶喪失になったなら今から心を入れ替えて生きていこう。そして私はさらに衝撃の事実を知る事になる―。

少し冷めた村人少年の冒険記

mizuno sei
ファンタジー
 辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。  トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。  優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。 こんなはずじゃなかった! 異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。 珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に! やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活! 右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり! アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

処理中です...