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第21話 旅は始まったばかり
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竜神をやっつけて、雨を降らせて、今後乾季が訪れないように山を消した。
エイは竜神の死骸に近づいて、クニュクニュを回収するために両手をかざす。
すると、腹部の部分が円形状に切り取られて、半透明な球体に閉じ込められた。
それをエイは圧縮して、ビー玉くらいの大きさにしてから懐に入れた。
切り取られた部分は内臓がきれいさっぱりなくなって、血の一滴も残ってない。これがいわゆる『キャトルミューティレーション』と言うやつなのかな?
元々は誘拐されるという意味だけど、九十年代のUFOブームを期に、内臓を刳り貫かれた家畜を差すようになったんだって。
これらクニュクニュの回収方法とキャトルミューティレーションについて私は、ここまでの道中にエイから見せられた映像と、お母さんの古い漫画コレクションで知っていた。
エイとのクニュクニュ争奪戦の方はうやむやになっちゃったけど、継続していた場合、私は竜神の死骸を手に入れて脅迫するつもりでいた。
彼らは法に縛られて私に手出しできないし、したとしても拘束する程度の超能力しか使えないし、その程度なら根性で打ち破れるのは立証済みなので。
もっとも、先ほどエイから聞いたリアンの性格から考えると、この方法では駄目だったかもしれないけど。
残った内臓のなくなった竜神は、チェリモヤおじいさんたちの手によって手厚く葬られる――こともなく、焼かれて食べられちゃった。
神から邪神に降格したけど、凄い力を秘めてるのは間違いないと思われて、その力を取り込むために……。
私も竜神ステーキを勧められたけど、人間を食べてた生き物はさすがに食べたくないので遠慮した。
なんでこの人たち気にせずに食べられるんだろう?
因みにナツメさんもバクバク食べてた。あれだけ竜神に傾倒していたのに。
信仰って強い鎖を産み出すけど、一度錆びるとあっさり崩れ落ちるものなのかな?
それとも、この集落の人たちの移り気が強いから?
ソルダムさんはナツメさんを救う目的を果たしから、傷が癒え次第、再び旅に出るんだって。
ナツメさんに気持ちは届いてないけど、竜神に傾倒していた彼女の姿を思い出すと百年の恋も冷める思いだったみたい。
で、私たちはというと、もちろんこの集落を去ることにした。
地球に帰るのが目的だからね。
私は集落の人々から貰ったたくさんのお土産をエイに背負わせて、見送りに手を振り、チェリモヤおじいさんの『私の祠を作って祀り、毎日祈りを捧げ、世界中にユニ神様の教えを伝えて行きます』という言葉に苦笑いを浮かべる。教えも何もないのに……。
ともかく、私はぐったりした様子でUFOがある場所に戻ったんだけど……戻るなり、リオンがエイにブチ切れた。
――森に隠されたUFOの前
「エイ、貴様は何を考えているんだ!?」
「事故だから仕方がない」
「事故? 私は修理をしながらも観察していたんだぞ! あれは事故では――」
「事故だよ。それでいいじゃないか。それに、元々ワレワレの実験は他の生命体や高位存在。そして、地球の政府に対しても秘密裏に行われたこと。公式記録には残らないし」
「――っ!? わかった、事故として処理しておくが、私は関わらないぞ!!」
リオンは言葉を吐き捨てて、エイから竜神の内臓が詰まったビー玉を受け取り、靄掛かったタブレットのようなものを浮かべて、何やら操作している。
私は何をしているのか、リオンに問い掛けた。
「何をしてるの?」
「竜神の肝臓部分にクニュクニュが存在する。それを精錬して動力に使うのだ」
「ふ~ん……さっきの『事故』って何の話?」
「気づいていないのか? 愚鈍なメスだ」
「ユ・ニ! すぐメスって言う!」
「わかったわかった。メスだな」
「悪意! 悪意が駄々洩れ!!」
「やかましい存在だ。よし、もうすぐ精錬が終わる」
「え、早くない?」
ビー玉を覗き込む。
玉の内部に七色の波紋が浮かび、ピシリとしたヒビが入る。
そのヒビの隙間から黄金色の煙が漏れ出て、それは球体を形作った。
煙はソフトボールほどの球体になると弾力帯びた物質に変化して、リアンの三本指の手のひらの上でふわりふわりと浮かぶ。
「精錬終了だ」
「ほえ~、これがクニュクニュねぇ。柔らかそう。触っても大丈夫?」
「問題ない」
「それじゃあ、人差し指で…………ほぅほぅ、プニプニしててツルツル。グミみたい。これをどう使うの?」
「動力炉に設置するだけだ。もっとも、クニュクニュ再生機構が壊れているので使い切りになるが」
「とにかく、UFOは動くってことだね」
「UFO? ああ、地球人がワレワレの船につけた呼称か」
「うん、そうだけど。言い方まずかった?」
「別に好きにしろ。だが、この船にはワヌワヌという艦名はあるとだけ言っておこう」
と、しっかり言葉に不満を乗せてくる。
「あ、ごめんなさい。今後は気を付けるよ。それで話を戻すけど、クニュクニュを手に入れることができたから、これで地球に帰れる?」
「馬鹿を言うな。星図もわからぬ状況では地球の座標もわからぬ。まずは船の修理を済ませることだ。長距離センサーや通信装置などのな。そのために、修理に必要な物資を探すところから始めねば」
「待って待って! それじゃあ、地球に帰られるのっていつになるの?」
「さぁな。数年後か、数十年後か」
「数年後でも大問題なのに、数十年後って――すっかりおばあちゃんだよ!!」
「本当にやかましいな。細胞を若返らせればいいだけだろう」
「え、そんなことできるの? すご――って、問題はそれだけじゃない! 私は中学生の姿を維持したいわけじゃない。ちゃんと中学生やってる地球に戻りたいの! 数十年後なんて絶対やだよ!!」
「時間を逆行すればいいだけだろう。時間移動には審査が必要だが、今回のケースであれば問題なく通るから心配ない」
「じ、時間の逆行!? そんなこともできるんだ?」
「ワレワレは遥かに進んだ存在だ。その矮小な脳でそれを理解できたならば、未開な尺度しか持たぬ貴様の価値観で騒ぎ立てるな」
「ぐぬぬ、いちいち嫌味を挟みやがってぇ~。でも、ま、戻れるならいっか。それどころか、時間を気にせず宇宙旅行ができると思えばお得かも」
「言っておくが、記憶の洗浄はするからな」
「はっ?」
「ユニ、これから貴様は、本来であれば地球では得られない知識を手にすることになる。そのようなものを持ち帰らせるわけにはいかない」
「けちっ。ちょっとくらいなら」
「地球に戻らない選択肢を取るなら、記憶を残しても構わないが?」
「それは……わかったよ! 洗浄でなんでも受けてあげるから、早く地球に帰りましょう」
「では、船に戻るとしよう。まだまだ多くの案件が残っているからな」
そう言って、リアンはエイを一瞥し、船の真下に移動して、船底から降り注ぐ光に包まれて姿を消した。
エイは口端を少し上げて笑うと、私に話しかけてくる。
「さて、俺たちも行こう。土産の詰まったリュックを下ろしたいしね」
「そうだね。とりあえず、話の続きは戻ってからかな。ふふ、次の星はどんな場所になるんだろ。できれば、いかにも剣と魔法の世界って感じで、勇者と魔王がいるような世界が良いなぁ」
私は旅を楽しむことに意識を切り替えて、エイたちと一緒にUFOへと戻る。
光に包まれ、視界が一瞬歪むと、次に現れたのは何もない真っ白な部屋。壁には丸っこい窓があり、そこには森の景色が広がる。
リアンが白い靄を操る。
すると、森が広がっていた窓の視線が高くなり、木々は緑の頭を見せて、山の白い穂先を飛び越えて、青色に染まり、やがては黒に染まった。
黒一色の景色に光の粒が煌めくと、UFOは一呼吸をする間にこの星から遥か先へと飛び去った。
こうして、私たちは船の修理を重ねつつ、地球への帰還を目指し、次なる星へと向かう。
――ユニたちが訪れた集落キワノを擁する惑星
数百年後、地球の調査隊が訪れることになるのだが、調査隊はこの惑星に地球人の痕跡を見つけ、その者が女神として奉られるという摩訶不思議な状況に出会う。
さらに、これだけには留まらず、この宇宙域全体にユニの痕跡を見つけ、地球人に対して異様に好意的な種族・怯えを纏う種族・憎悪を抱く種族と、未来の地球人たちは彼女の足跡に大いに翻弄させられるのであった。
エイは竜神の死骸に近づいて、クニュクニュを回収するために両手をかざす。
すると、腹部の部分が円形状に切り取られて、半透明な球体に閉じ込められた。
それをエイは圧縮して、ビー玉くらいの大きさにしてから懐に入れた。
切り取られた部分は内臓がきれいさっぱりなくなって、血の一滴も残ってない。これがいわゆる『キャトルミューティレーション』と言うやつなのかな?
元々は誘拐されるという意味だけど、九十年代のUFOブームを期に、内臓を刳り貫かれた家畜を差すようになったんだって。
これらクニュクニュの回収方法とキャトルミューティレーションについて私は、ここまでの道中にエイから見せられた映像と、お母さんの古い漫画コレクションで知っていた。
エイとのクニュクニュ争奪戦の方はうやむやになっちゃったけど、継続していた場合、私は竜神の死骸を手に入れて脅迫するつもりでいた。
彼らは法に縛られて私に手出しできないし、したとしても拘束する程度の超能力しか使えないし、その程度なら根性で打ち破れるのは立証済みなので。
もっとも、先ほどエイから聞いたリアンの性格から考えると、この方法では駄目だったかもしれないけど。
残った内臓のなくなった竜神は、チェリモヤおじいさんたちの手によって手厚く葬られる――こともなく、焼かれて食べられちゃった。
神から邪神に降格したけど、凄い力を秘めてるのは間違いないと思われて、その力を取り込むために……。
私も竜神ステーキを勧められたけど、人間を食べてた生き物はさすがに食べたくないので遠慮した。
なんでこの人たち気にせずに食べられるんだろう?
因みにナツメさんもバクバク食べてた。あれだけ竜神に傾倒していたのに。
信仰って強い鎖を産み出すけど、一度錆びるとあっさり崩れ落ちるものなのかな?
それとも、この集落の人たちの移り気が強いから?
ソルダムさんはナツメさんを救う目的を果たしから、傷が癒え次第、再び旅に出るんだって。
ナツメさんに気持ちは届いてないけど、竜神に傾倒していた彼女の姿を思い出すと百年の恋も冷める思いだったみたい。
で、私たちはというと、もちろんこの集落を去ることにした。
地球に帰るのが目的だからね。
私は集落の人々から貰ったたくさんのお土産をエイに背負わせて、見送りに手を振り、チェリモヤおじいさんの『私の祠を作って祀り、毎日祈りを捧げ、世界中にユニ神様の教えを伝えて行きます』という言葉に苦笑いを浮かべる。教えも何もないのに……。
ともかく、私はぐったりした様子でUFOがある場所に戻ったんだけど……戻るなり、リオンがエイにブチ切れた。
――森に隠されたUFOの前
「エイ、貴様は何を考えているんだ!?」
「事故だから仕方がない」
「事故? 私は修理をしながらも観察していたんだぞ! あれは事故では――」
「事故だよ。それでいいじゃないか。それに、元々ワレワレの実験は他の生命体や高位存在。そして、地球の政府に対しても秘密裏に行われたこと。公式記録には残らないし」
「――っ!? わかった、事故として処理しておくが、私は関わらないぞ!!」
リオンは言葉を吐き捨てて、エイから竜神の内臓が詰まったビー玉を受け取り、靄掛かったタブレットのようなものを浮かべて、何やら操作している。
私は何をしているのか、リオンに問い掛けた。
「何をしてるの?」
「竜神の肝臓部分にクニュクニュが存在する。それを精錬して動力に使うのだ」
「ふ~ん……さっきの『事故』って何の話?」
「気づいていないのか? 愚鈍なメスだ」
「ユ・ニ! すぐメスって言う!」
「わかったわかった。メスだな」
「悪意! 悪意が駄々洩れ!!」
「やかましい存在だ。よし、もうすぐ精錬が終わる」
「え、早くない?」
ビー玉を覗き込む。
玉の内部に七色の波紋が浮かび、ピシリとしたヒビが入る。
そのヒビの隙間から黄金色の煙が漏れ出て、それは球体を形作った。
煙はソフトボールほどの球体になると弾力帯びた物質に変化して、リアンの三本指の手のひらの上でふわりふわりと浮かぶ。
「精錬終了だ」
「ほえ~、これがクニュクニュねぇ。柔らかそう。触っても大丈夫?」
「問題ない」
「それじゃあ、人差し指で…………ほぅほぅ、プニプニしててツルツル。グミみたい。これをどう使うの?」
「動力炉に設置するだけだ。もっとも、クニュクニュ再生機構が壊れているので使い切りになるが」
「とにかく、UFOは動くってことだね」
「UFO? ああ、地球人がワレワレの船につけた呼称か」
「うん、そうだけど。言い方まずかった?」
「別に好きにしろ。だが、この船にはワヌワヌという艦名はあるとだけ言っておこう」
と、しっかり言葉に不満を乗せてくる。
「あ、ごめんなさい。今後は気を付けるよ。それで話を戻すけど、クニュクニュを手に入れることができたから、これで地球に帰れる?」
「馬鹿を言うな。星図もわからぬ状況では地球の座標もわからぬ。まずは船の修理を済ませることだ。長距離センサーや通信装置などのな。そのために、修理に必要な物資を探すところから始めねば」
「待って待って! それじゃあ、地球に帰られるのっていつになるの?」
「さぁな。数年後か、数十年後か」
「数年後でも大問題なのに、数十年後って――すっかりおばあちゃんだよ!!」
「本当にやかましいな。細胞を若返らせればいいだけだろう」
「え、そんなことできるの? すご――って、問題はそれだけじゃない! 私は中学生の姿を維持したいわけじゃない。ちゃんと中学生やってる地球に戻りたいの! 数十年後なんて絶対やだよ!!」
「時間を逆行すればいいだけだろう。時間移動には審査が必要だが、今回のケースであれば問題なく通るから心配ない」
「じ、時間の逆行!? そんなこともできるんだ?」
「ワレワレは遥かに進んだ存在だ。その矮小な脳でそれを理解できたならば、未開な尺度しか持たぬ貴様の価値観で騒ぎ立てるな」
「ぐぬぬ、いちいち嫌味を挟みやがってぇ~。でも、ま、戻れるならいっか。それどころか、時間を気にせず宇宙旅行ができると思えばお得かも」
「言っておくが、記憶の洗浄はするからな」
「はっ?」
「ユニ、これから貴様は、本来であれば地球では得られない知識を手にすることになる。そのようなものを持ち帰らせるわけにはいかない」
「けちっ。ちょっとくらいなら」
「地球に戻らない選択肢を取るなら、記憶を残しても構わないが?」
「それは……わかったよ! 洗浄でなんでも受けてあげるから、早く地球に帰りましょう」
「では、船に戻るとしよう。まだまだ多くの案件が残っているからな」
そう言って、リアンはエイを一瞥し、船の真下に移動して、船底から降り注ぐ光に包まれて姿を消した。
エイは口端を少し上げて笑うと、私に話しかけてくる。
「さて、俺たちも行こう。土産の詰まったリュックを下ろしたいしね」
「そうだね。とりあえず、話の続きは戻ってからかな。ふふ、次の星はどんな場所になるんだろ。できれば、いかにも剣と魔法の世界って感じで、勇者と魔王がいるような世界が良いなぁ」
私は旅を楽しむことに意識を切り替えて、エイたちと一緒にUFOへと戻る。
光に包まれ、視界が一瞬歪むと、次に現れたのは何もない真っ白な部屋。壁には丸っこい窓があり、そこには森の景色が広がる。
リアンが白い靄を操る。
すると、森が広がっていた窓の視線が高くなり、木々は緑の頭を見せて、山の白い穂先を飛び越えて、青色に染まり、やがては黒に染まった。
黒一色の景色に光の粒が煌めくと、UFOは一呼吸をする間にこの星から遥か先へと飛び去った。
こうして、私たちは船の修理を重ねつつ、地球への帰還を目指し、次なる星へと向かう。
――ユニたちが訪れた集落キワノを擁する惑星
数百年後、地球の調査隊が訪れることになるのだが、調査隊はこの惑星に地球人の痕跡を見つけ、その者が女神として奉られるという摩訶不思議な状況に出会う。
さらに、これだけには留まらず、この宇宙域全体にユニの痕跡を見つけ、地球人に対して異様に好意的な種族・怯えを纏う種族・憎悪を抱く種族と、未来の地球人たちは彼女の足跡に大いに翻弄させられるのであった。
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