14 / 21
第14話 未来に声を届けて
しおりを挟む
ソルダムさんに突きつけた、単純明快すぎる二択。
そうだってのに、彼は答えを迷う。
「え、あ、どっちと言われても……」
「なんでそこでスパッと答えないの? それとも何? ナツメさんに思いが届かなかったから、見殺しにしてもいいと思ってるわけ!?」
「そ、そんなわけないだろ!!」
「だったら答えは決まってるよね!」
「だ、だけど、ナツメは俺なんかに助けられ――」
「だから、そんなのどうでもいいんだって! ここで助けなきゃ終わりなんだよ。ナツメさんに未来はない! 閉ざされるの!」
「それは……」
「たしかに助けても、ナツメさんがソルダムさんを恨み続ける未来なんていう、最悪の未来が生まれるだけかもしれない。でも、別の可能性だって生まれる。それは思いを受け入れてくれる未来かもしれない。受け入れてくれなくても、ナツメさんが天寿を全うして、幸せな人生を歩める未来かもしれない。それらを消し去りたいの!?」
「それは、それは……嫌だ」
「もっと、はっきり言って! そんな小声じゃ明日には届かないよ!!」
「――っ!! あああああ、嫌だ! 嫌に決まっている。彼女を助けたい! 終わりなんかにしたくない!! たとえ俺の気持ちを受け入れられなくても、彼女を失った未来なんか望んでない!!」
「よ~し、それでいいの! 今はナツメさんに恨まれていても、生きてれば心変わりする可能性だってあるしね。だから今は、相手の気持ちなんか蹴っ飛ばして、自分の気持ちだけを見て――助けよう!!」
ソルダムさんは私の言葉に力強く頷き、ナツメさんの足枷に結ばれている縄を切るために剣を抜いて、彼女に近づく。
そんな彼に、ナツメさんは罵倒を浴びせ始めた。
「近づかないで、背教者! 私はそんなこと望んでいない! 私は竜神様と一体となって神になるのよ! このような崇高な思いを、あなたの自分勝手な思いで穢さないで!!」
彼女の声に、ソルダムさんの歩みが鈍る。
やっぱり、愛する人から拒絶されるというのはきついみたい。
だから私は、彼の背中を押すように言葉を漏らした。
「私のお兄ちゃんが言ってた。選択肢に悩んだときは自分がやりたいことを選べって。悩みは心を複雑化して、混乱に陥れてしまう。だから、心の奥底に眠る気持ちに寄り添えって。半端な心に耳を傾けるなって。ソルダムさん、あんたの望みは?」
「俺の望みは……ナツメの心を手に入れること……だった。それは叶わなかったけど、死んでほしくない。だから、それに……それだけに思いを傾ける。ナツメ――君の思いを穢す! 恨んでくれても構わない。俺は、君を助ける!!」
「や、やめてぇぇえぇえぇぇぇぇ!!」
ソルダムさんは剣を振りかぶり、縄へ振り下ろそうとした。
そこに、皺枯れた男性の声が飛ぶ。
「やめるんじゃ!!」
この声に驚いたソルダムさんの動きが止まる。
私もびっくりに跳ねる心臓へ右手を当てながら、声がした方向に顔を向けた。
そこには、集落の長チェリモヤおじいさんと、弓をつがえた複数の男たち。
おじいさんはソルダムさんや私たちを睨みつけて、声に怒気を乗せた。
「捧げの場から何やら騒ぎ声が聞こえると思って戻ってきたら、一体どういうことじゃ!? ソルダム! お客人!?」
この問いに、私はおじいさんや男たちを瞳に収めながら悪態をつく。それにエイが冷静にツッコんできた。
「もう、ナツメさんが大声を出すから!」
「いやいや、一番大声を出してたのは君だろう」
「うっさいな。というか、なんであんた他人事なの。ずっと黙ってるし」
「いや~、盛り上がってるから邪魔しちゃ悪いかなって。それはそうと中々の見ものだったよ。稚拙な論理だったけどね」
「無関係気取らないでよ。おまけに言葉に棘まで仕込むし」
「そうは言っても、俺はナツメに興味ないからね。そもそも、現地の文化や風習に口を出すべきじゃないというのが、俺の立ち位置だし」
「貴様ら!! ワシの言葉を聞いておるのか!? なんつもりで儀式を穢したのじゃ!!」
おじいさんが大声を上げて怒鳴り始めた。
お年寄りは短気で困る。老い先短いからかな?
でも、近所のおじいさんはのんびり屋さんだから人によるのかな?
私はおじいさんへ向き直って言葉を返そうとした。だけど、それよりも先にソルダムさんが大声を上げる。
「こんな馬鹿げた儀式を止めさせようとしたんだ!」
「ば、馬鹿げたじゃと? 連綿と受け継がれてきた神聖な儀式を! これだから村捨て人は!」
「フンッ、長たちは外の世界を知らないからな。お前たちが崇めている竜神なんて、外の世界じゃ獣の一種なんだぞ」
「け、けもの……言うに事を欠いて、神であらせられる竜神様を獣扱いとは! この不信心者め!」
チェリモヤおじいさんの激情に合わせるかのように、弓をつがえた男たちの手に力が入り、弦がギリギリと鳴く。
それを見たソルダムさんは私やエイをちらりと見ると、剣を鞘に戻して、諦めを表すように頭を横に振った。
そうだってのに、彼は答えを迷う。
「え、あ、どっちと言われても……」
「なんでそこでスパッと答えないの? それとも何? ナツメさんに思いが届かなかったから、見殺しにしてもいいと思ってるわけ!?」
「そ、そんなわけないだろ!!」
「だったら答えは決まってるよね!」
「だ、だけど、ナツメは俺なんかに助けられ――」
「だから、そんなのどうでもいいんだって! ここで助けなきゃ終わりなんだよ。ナツメさんに未来はない! 閉ざされるの!」
「それは……」
「たしかに助けても、ナツメさんがソルダムさんを恨み続ける未来なんていう、最悪の未来が生まれるだけかもしれない。でも、別の可能性だって生まれる。それは思いを受け入れてくれる未来かもしれない。受け入れてくれなくても、ナツメさんが天寿を全うして、幸せな人生を歩める未来かもしれない。それらを消し去りたいの!?」
「それは、それは……嫌だ」
「もっと、はっきり言って! そんな小声じゃ明日には届かないよ!!」
「――っ!! あああああ、嫌だ! 嫌に決まっている。彼女を助けたい! 終わりなんかにしたくない!! たとえ俺の気持ちを受け入れられなくても、彼女を失った未来なんか望んでない!!」
「よ~し、それでいいの! 今はナツメさんに恨まれていても、生きてれば心変わりする可能性だってあるしね。だから今は、相手の気持ちなんか蹴っ飛ばして、自分の気持ちだけを見て――助けよう!!」
ソルダムさんは私の言葉に力強く頷き、ナツメさんの足枷に結ばれている縄を切るために剣を抜いて、彼女に近づく。
そんな彼に、ナツメさんは罵倒を浴びせ始めた。
「近づかないで、背教者! 私はそんなこと望んでいない! 私は竜神様と一体となって神になるのよ! このような崇高な思いを、あなたの自分勝手な思いで穢さないで!!」
彼女の声に、ソルダムさんの歩みが鈍る。
やっぱり、愛する人から拒絶されるというのはきついみたい。
だから私は、彼の背中を押すように言葉を漏らした。
「私のお兄ちゃんが言ってた。選択肢に悩んだときは自分がやりたいことを選べって。悩みは心を複雑化して、混乱に陥れてしまう。だから、心の奥底に眠る気持ちに寄り添えって。半端な心に耳を傾けるなって。ソルダムさん、あんたの望みは?」
「俺の望みは……ナツメの心を手に入れること……だった。それは叶わなかったけど、死んでほしくない。だから、それに……それだけに思いを傾ける。ナツメ――君の思いを穢す! 恨んでくれても構わない。俺は、君を助ける!!」
「や、やめてぇぇえぇえぇぇぇぇ!!」
ソルダムさんは剣を振りかぶり、縄へ振り下ろそうとした。
そこに、皺枯れた男性の声が飛ぶ。
「やめるんじゃ!!」
この声に驚いたソルダムさんの動きが止まる。
私もびっくりに跳ねる心臓へ右手を当てながら、声がした方向に顔を向けた。
そこには、集落の長チェリモヤおじいさんと、弓をつがえた複数の男たち。
おじいさんはソルダムさんや私たちを睨みつけて、声に怒気を乗せた。
「捧げの場から何やら騒ぎ声が聞こえると思って戻ってきたら、一体どういうことじゃ!? ソルダム! お客人!?」
この問いに、私はおじいさんや男たちを瞳に収めながら悪態をつく。それにエイが冷静にツッコんできた。
「もう、ナツメさんが大声を出すから!」
「いやいや、一番大声を出してたのは君だろう」
「うっさいな。というか、なんであんた他人事なの。ずっと黙ってるし」
「いや~、盛り上がってるから邪魔しちゃ悪いかなって。それはそうと中々の見ものだったよ。稚拙な論理だったけどね」
「無関係気取らないでよ。おまけに言葉に棘まで仕込むし」
「そうは言っても、俺はナツメに興味ないからね。そもそも、現地の文化や風習に口を出すべきじゃないというのが、俺の立ち位置だし」
「貴様ら!! ワシの言葉を聞いておるのか!? なんつもりで儀式を穢したのじゃ!!」
おじいさんが大声を上げて怒鳴り始めた。
お年寄りは短気で困る。老い先短いからかな?
でも、近所のおじいさんはのんびり屋さんだから人によるのかな?
私はおじいさんへ向き直って言葉を返そうとした。だけど、それよりも先にソルダムさんが大声を上げる。
「こんな馬鹿げた儀式を止めさせようとしたんだ!」
「ば、馬鹿げたじゃと? 連綿と受け継がれてきた神聖な儀式を! これだから村捨て人は!」
「フンッ、長たちは外の世界を知らないからな。お前たちが崇めている竜神なんて、外の世界じゃ獣の一種なんだぞ」
「け、けもの……言うに事を欠いて、神であらせられる竜神様を獣扱いとは! この不信心者め!」
チェリモヤおじいさんの激情に合わせるかのように、弓をつがえた男たちの手に力が入り、弦がギリギリと鳴く。
それを見たソルダムさんは私やエイをちらりと見ると、剣を鞘に戻して、諦めを表すように頭を横に振った。
0
お気に入りに追加
30
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ギルドを追放された俺、傭兵ギルドのエリートに拾われる〜元ギルドは崩壊したらしい〜
ネリムZ
ファンタジー
唐突にギルドマスターから宣言される言葉。
「今すぐにこのギルドから去れ。俺の前に二度と顔を出さないように国も出て行け」
理解出来ない言葉だったが有無を言わせぬマスターに従った。
様々な気力を失って森の中を彷徨うと、賞金首にカツアゲされてしまった。
そこに助けようとする傭兵ギルドのA級、自称エリートのフィリア。
モヤモヤとした気持ちに駆られ、賞金首を気絶させる。
行く場所が無い事を素直に伝えるとフィリアは自分のギルドに招待してくれた。
俺は仕事が必要だったのでありがたく、その提案を受けた。
そして後に知る、元所属ギルドが⋯⋯。
新たな目標、新たな仲間と環境。
信念を持って行動する、一人の男の物語。

【完結】初級魔法しか使えない低ランク冒険者の少年は、今日も依頼を達成して家に帰る。
アノマロカリス
ファンタジー
少年テッドには、両親がいない。
両親は低ランク冒険者で、依頼の途中で魔物に殺されたのだ。
両親の少ない保険でやり繰りしていたが、もう金が尽きかけようとしていた。
テッドには、妹が3人いる。
両親から「妹達を頼む!」…と出掛ける前からいつも約束していた。
このままでは家族が離れ離れになると思ったテッドは、冒険者になって金を稼ぐ道を選んだ。
そんな少年テッドだが、パーティーには加入せずにソロ活動していた。
その理由は、パーティーに参加するとその日に家に帰れなくなるからだ。
両親は、小さいながらも持ち家を持っていてそこに住んでいる。
両親が生きている頃は、父親の部屋と母親の部屋、子供部屋には兄妹4人で暮らしていたが…
両親が死んでからは、父親の部屋はテッドが…
母親の部屋は、長女のリットが、子供部屋には、次女のルットと三女のロットになっている。
今日も依頼をこなして、家に帰るんだ!
この少年テッドは…いや、この先は本編で語ろう。
お楽しみくださいね!
HOTランキング20位になりました。
皆さん、有り難う御座います。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
セクスカリバーをヌキました!
桂
ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。
国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。
ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……

日本列島、時震により転移す!
黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。
【完結】帝国から追放された最強のチーム、リミッター外して無双する
エース皇命
ファンタジー
【HOTランキング2位獲得作品】
スペイゴール大陸最強の帝国、ユハ帝国。
帝国に仕え、最強の戦力を誇っていたチーム、『デイブレイク』は、突然議会から追放を言い渡される。
しかし帝国は気づいていなかった。彼らの力が帝国を拡大し、恐るべき戦力を誇示していたことに。
自由になった『デイブレイク』のメンバー、エルフのクリス、バランス型のアキラ、強大な魔力を宿すジャック、杖さばきの達人ランラン、絶世の美女シエナは、今まで抑えていた実力を完全開放し、ゼロからユハ帝国を超える国を建国していく。
※この世界では、杖と魔法を使って戦闘を行います。しかし、あの稲妻型の傷を持つメガネの少年のように戦うわけではありません。どうやって戦うのかは、本文を読んでのお楽しみです。杖で戦う戦士のことを、本文では杖士(ブレイカー)と描写しています。
※舞台の雰囲気は中世ヨーロッパ〜近世ヨーロッパに近いです。
〜『デイブレイク』のメンバー紹介〜
・クリス(男・エルフ・570歳)
チームのリーダー。もともとはエルフの貴族の家系だったため、上品で高潔。白く透明感のある肌に、整った顔立ちである。エルフ特有のとがった耳も特徴的。メンバーからも信頼されているが……
・アキラ(男・人間・29歳)
杖術、身体能力、頭脳、魔力など、あらゆる面のバランスが取れたチームの主力。独特なユーモアのセンスがあり、ムードメーカーでもある。唯一の弱点が……
・ジャック(男・人間・34歳)
怪物級の魔力を持つ杖士。その魔力が強大すぎるがゆえに、普段はその魔力を抑え込んでいるため、感情をあまり出さない。チームで唯一の黒人で、ドレッドヘアが特徴的。戦闘で右腕を失って以来義手を装着しているが……
・ランラン(女・人間・25歳)
優れた杖の腕前を持ち、チームを支える杖士。陽気でチャレンジャーな一面もあり、可愛さも武器である。性格の共通点から、アキラと親しく、親友である。しかし実は……
・シエナ(女・人間・28歳)
絶世の美女。とはいっても杖士としての実力も高く、アキラと同じくバランス型である。誰もが羨む美貌をもっているが、本人はあまり自信がないらしく、相手の反応を確認しながら静かに話す。あるメンバーのことが……

ユーヤのお気楽異世界転移
暇野無学
ファンタジー
死因は神様の当て逃げです! 地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる