7 / 21
第7話 魚と言えば七輪だよね
しおりを挟む
――お祭り
賑やかな調べと華やかな舞に、空の星々を焦がす煌々とした巨大な焚火。
竜神の贄となるナツメと言う少女を中心に据えて、私たちはぐるり囲み、座る。
目の前には豪勢な食事。木の実・山菜・焼き魚……豪勢かどうか微妙だけど、集落キワノでは豪勢なんじゃないかと思う。
祭りとはいえ、突然訪れた客に対して分け隔てなく食事を振舞ってもらっていることには感謝。
ちょっぴり贅沢を言えば、手掴みじゃなくて箸やフォークなどの食器類があると良かったかな。
隣に座るエイは集落の人に酒を勧められて、それを口にしている。
彼は踊りに視線を傾けながらも、その先で大勢の人たちに声を掛けられている贄の少女ナツメに意識を集めつつ、酒をちびちび飲んでいた。
その彼にこそりと話しかける。
「ねぇ、エイ。お酒とか飲めるの?」
「生身だと無理だよ。でも今は、この特殊ボディだからね。普段の俺たちは栄養を食事で摂取しないから、現地調査を行うときはこのスーツが重宝するよ」
「普通の食事もダメなんだ。じゃあ、普段はどうやって栄養を取るの?」
「精神エネルギーを肉体の活動エネルギーに変換してる」
「え?」
「そうだなぁ、君にわかりやすく言えば、電気を充電でして動いてる感じかな?」
「なんか機械的……」
「あくまでも例えだから実体は別物だよ。それよりも、君の方はどう? 彼らの食事は口に合ってる? こちらの食べ物は地球人の君が摂取しても問題ないものだけど、味の方は?」
「うん、木の実はちょっと苦みがあってだけど、この白身のお魚はすっごく美味しい。近くに海なんてないから、このお魚は川魚なのかな?」
「集落の近くに渓流があるからそこに棲む魚だろうね」
「渓流があるなら、そこから水を引っ張ってくるなり持ち運ぶなりすればいいのに……」
「彼らの未熟な技術だと、川と畑の高低差がネックになって、引っ張って来れないよ。人力で持ち運ぶには量が多すぎるし」
「それじゃあ、畑を低い位置に移動させればいいのに」
「残念だけど、それも無理。集落一帯の標高の低い土地は畑に不向き。だからと言って、土壌を改善する知識も技術も彼らにはないからね、あはは」
と言って、エイは小さな笑い声を立てた。
姿はイケメンになっても中身は相変わらずで、遅れた技術を持つ人たちを見下す感じは変わらない。
私は鼻から軽く息を漏らし、エイから視線を外す。そして、瞳を料理に置き、親指と人差し指を使って魚の白い身をほじり摘まみ口に運ぶ。
「もぐもぐ、うまっ。塩味がついてるけど貴重品とかじゃないのかなぁ?」
「ふぉふぉふぉ、岩塩が取れる場所がありますからな。とはいえ、貴重ですが」
集落の長チェリモヤおじいさんが話しかけてきた。
彼は私とエイを交互に見てから、私に顔を戻して再度話しかけてくる。
「楽しんで頂けてますかな?」
「うん、踊りは綺麗だし、お魚は美味しいし!」
「それはそれは良かった。なにぶん、何もない集落。里からおいでのお二人。それも旅をされてるお方。そのような方々の舌を満足させられるか不安でしたので」
「いやいや、すっごく満足だよ! 本当にこのお魚美味しい。ねぇ、エイ。何匹が買って帰ろうよ」
私はエイをちらりと見る。
それに彼は眉を折って答えた。
「あのね~、俺たちはクニュクニュのために――」
「いいじゃんいいじゃん、これくらい。旅人は旅先でお金を落としてなんぼだよ。持ってんでしょ、エイならお金?」
「はぁ、調査のために必要になるからね。もっとも、ここだと物々交換だから、お金じゃなくて、村にとって価値のあるものと交換になるけど」
「よし、それで魚を購入しよう!」
「まったく……ここで強く否定しても面倒だな。わかった」
「ありがとう、エイパパ!」
「とんでもなく現金な娘だな」
と、ここで、私とエイのやり取りを見ていたチェリモヤおじいさんが頭を捻り、疑問を漏らす。
それにエイが返す。声音に不満を乗せて……。
「お二人は親子で?」
「いや、違う。ま、学術仲間だね。こう見えて、ユニは類いまれな才の持ち主で……うん、学者としての才能が……あるんだよ……そういう感じで」
「何やら、無理やり納得されているようなご様子が?」
「え? いやいや、そんなことは。まぁ、ユニは若いから、俺と一緒にいるとそう見られることも――」
「ねぇねぇ、エイ! あれ見て! 七輪じゃない! 形はちょっと違うけど七輪だよね!? あれも買わないと! 魚! 七輪! 最強!!」
この元気一杯な声にエイは乾いた笑いを見せつつ、瞳だけをおじいさんに振り、何やらぼそぼそと話してる。
「それに、俺は七輪をおねだりする娘を持ちたいとは思わないしね……」
「ははは、さすがは学者様。変わった娘さんで」
「ねぇ、ちょっと、二人とも何を話してるの?」
「ああ、ただの世間話だよ」
「ええ、ええ、そうです」
「……そう? それよりも七輪と魚は?」
「わかった、交換するよ」
「まな板と包丁も」
「……わかった、交換する」
「食器類に調味料」
「わかったわかった、交換するから!」
「やったね、ありがとうパパ」
「頼むからそれだけは勘弁してくれ。それよりも……」
エイは私に小さく瞳を振ってから、茂みの方をちらりと見て、すぐに戻す。
彼の視線に促されるように、私も茂みへこっそり瞳を動かす。
茂みの奥に人影。たぶん、訪れた時に家の物陰に隠れていた人。
同じ集落の人なんだろうけど、祭りに参加しなくて何をしてるんだろう?
もしかして、余所者の私たちを警戒してこっそり見張ってるとか?
でも、それだとちょっと変かな?
警戒する存在を歓迎する必要性もないだろうし……ま、いいや。あとで考えよっと。
賑やかな調べと華やかな舞に、空の星々を焦がす煌々とした巨大な焚火。
竜神の贄となるナツメと言う少女を中心に据えて、私たちはぐるり囲み、座る。
目の前には豪勢な食事。木の実・山菜・焼き魚……豪勢かどうか微妙だけど、集落キワノでは豪勢なんじゃないかと思う。
祭りとはいえ、突然訪れた客に対して分け隔てなく食事を振舞ってもらっていることには感謝。
ちょっぴり贅沢を言えば、手掴みじゃなくて箸やフォークなどの食器類があると良かったかな。
隣に座るエイは集落の人に酒を勧められて、それを口にしている。
彼は踊りに視線を傾けながらも、その先で大勢の人たちに声を掛けられている贄の少女ナツメに意識を集めつつ、酒をちびちび飲んでいた。
その彼にこそりと話しかける。
「ねぇ、エイ。お酒とか飲めるの?」
「生身だと無理だよ。でも今は、この特殊ボディだからね。普段の俺たちは栄養を食事で摂取しないから、現地調査を行うときはこのスーツが重宝するよ」
「普通の食事もダメなんだ。じゃあ、普段はどうやって栄養を取るの?」
「精神エネルギーを肉体の活動エネルギーに変換してる」
「え?」
「そうだなぁ、君にわかりやすく言えば、電気を充電でして動いてる感じかな?」
「なんか機械的……」
「あくまでも例えだから実体は別物だよ。それよりも、君の方はどう? 彼らの食事は口に合ってる? こちらの食べ物は地球人の君が摂取しても問題ないものだけど、味の方は?」
「うん、木の実はちょっと苦みがあってだけど、この白身のお魚はすっごく美味しい。近くに海なんてないから、このお魚は川魚なのかな?」
「集落の近くに渓流があるからそこに棲む魚だろうね」
「渓流があるなら、そこから水を引っ張ってくるなり持ち運ぶなりすればいいのに……」
「彼らの未熟な技術だと、川と畑の高低差がネックになって、引っ張って来れないよ。人力で持ち運ぶには量が多すぎるし」
「それじゃあ、畑を低い位置に移動させればいいのに」
「残念だけど、それも無理。集落一帯の標高の低い土地は畑に不向き。だからと言って、土壌を改善する知識も技術も彼らにはないからね、あはは」
と言って、エイは小さな笑い声を立てた。
姿はイケメンになっても中身は相変わらずで、遅れた技術を持つ人たちを見下す感じは変わらない。
私は鼻から軽く息を漏らし、エイから視線を外す。そして、瞳を料理に置き、親指と人差し指を使って魚の白い身をほじり摘まみ口に運ぶ。
「もぐもぐ、うまっ。塩味がついてるけど貴重品とかじゃないのかなぁ?」
「ふぉふぉふぉ、岩塩が取れる場所がありますからな。とはいえ、貴重ですが」
集落の長チェリモヤおじいさんが話しかけてきた。
彼は私とエイを交互に見てから、私に顔を戻して再度話しかけてくる。
「楽しんで頂けてますかな?」
「うん、踊りは綺麗だし、お魚は美味しいし!」
「それはそれは良かった。なにぶん、何もない集落。里からおいでのお二人。それも旅をされてるお方。そのような方々の舌を満足させられるか不安でしたので」
「いやいや、すっごく満足だよ! 本当にこのお魚美味しい。ねぇ、エイ。何匹が買って帰ろうよ」
私はエイをちらりと見る。
それに彼は眉を折って答えた。
「あのね~、俺たちはクニュクニュのために――」
「いいじゃんいいじゃん、これくらい。旅人は旅先でお金を落としてなんぼだよ。持ってんでしょ、エイならお金?」
「はぁ、調査のために必要になるからね。もっとも、ここだと物々交換だから、お金じゃなくて、村にとって価値のあるものと交換になるけど」
「よし、それで魚を購入しよう!」
「まったく……ここで強く否定しても面倒だな。わかった」
「ありがとう、エイパパ!」
「とんでもなく現金な娘だな」
と、ここで、私とエイのやり取りを見ていたチェリモヤおじいさんが頭を捻り、疑問を漏らす。
それにエイが返す。声音に不満を乗せて……。
「お二人は親子で?」
「いや、違う。ま、学術仲間だね。こう見えて、ユニは類いまれな才の持ち主で……うん、学者としての才能が……あるんだよ……そういう感じで」
「何やら、無理やり納得されているようなご様子が?」
「え? いやいや、そんなことは。まぁ、ユニは若いから、俺と一緒にいるとそう見られることも――」
「ねぇねぇ、エイ! あれ見て! 七輪じゃない! 形はちょっと違うけど七輪だよね!? あれも買わないと! 魚! 七輪! 最強!!」
この元気一杯な声にエイは乾いた笑いを見せつつ、瞳だけをおじいさんに振り、何やらぼそぼそと話してる。
「それに、俺は七輪をおねだりする娘を持ちたいとは思わないしね……」
「ははは、さすがは学者様。変わった娘さんで」
「ねぇ、ちょっと、二人とも何を話してるの?」
「ああ、ただの世間話だよ」
「ええ、ええ、そうです」
「……そう? それよりも七輪と魚は?」
「わかった、交換するよ」
「まな板と包丁も」
「……わかった、交換する」
「食器類に調味料」
「わかったわかった、交換するから!」
「やったね、ありがとうパパ」
「頼むからそれだけは勘弁してくれ。それよりも……」
エイは私に小さく瞳を振ってから、茂みの方をちらりと見て、すぐに戻す。
彼の視線に促されるように、私も茂みへこっそり瞳を動かす。
茂みの奥に人影。たぶん、訪れた時に家の物陰に隠れていた人。
同じ集落の人なんだろうけど、祭りに参加しなくて何をしてるんだろう?
もしかして、余所者の私たちを警戒してこっそり見張ってるとか?
でも、それだとちょっと変かな?
警戒する存在を歓迎する必要性もないだろうし……ま、いいや。あとで考えよっと。
0
お気に入りに追加
29
あなたにおすすめの小説
蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる
フルーツパフェ
大衆娯楽
転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。
一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。
そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!
寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。
――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです
そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。
大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。
相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話
矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」
「あら、いいのかしら」
夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……?
微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。
※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。
※小説家になろうでも同内容で投稿しています。
※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。
【R18】スライムにマッサージされて絶頂しまくる女の話
白木 白亜
ファンタジー
突如として異世界転移した日本の大学生、タツシ。
世界にとって致命的な抜け穴を見つけ、召喚士としてあっけなく魔王を倒してしまう。
その後、一緒に旅をしたスライムと共に、マッサージ店を開くことにした。卑猥な目的で。
裏があるとも知れず、王都一番の人気になるマッサージ店「スライム・リフレ」。スライムを巧みに操って体のツボを押し、角質を取り、リフレッシュもできる。
だがそこは三度の飯よりも少女が絶頂している瞬間を見るのが大好きなタツシが経営する店。
そんな店では、膣に媚薬100%の粘液を注入され、美少女たちが「気持ちよくなって」いる!!!
感想大歓迎です!
※1グロは一切ありません。登場人物が圧倒的な不幸になることも(たぶん)ありません。今日も王都は平和です。異種姦というよりは、スライムは主人公の補助ツールとして扱われます。そっち方面を期待していた方はすみません。
30年待たされた異世界転移
明之 想
ファンタジー
気づけば異世界にいた10歳のぼく。
「こちらの手違いかぁ。申し訳ないけど、さっさと帰ってもらわないといけないね」
こうして、ぼくの最初の異世界転移はあっけなく終わってしまった。
右も左も分からず、何かを成し遂げるわけでもなく……。
でも、2度目があると確信していたぼくは、日本でひたすら努力を続けた。
あの日見た夢の続きを信じて。
ただ、ただ、異世界での冒険を夢見て!!
くじけそうになっても努力を続け。
そうして、30年が経過。
ついに2度目の異世界冒険の機会がやってきた。
しかも、20歳も若返った姿で。
異世界と日本の2つの世界で、
20年前に戻った俺の新たな冒険が始まる。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる