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第1話 定番のあの宇宙人に誘拐される

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「暗いなぁ。みんなは別方向だし、一人は危ないよねぇ」

 星の瞬きよりも街灯の光が目に染み込む帰り道。
 今日は陸上部の活動にのめり込んじゃって、ちょっと遅めの帰宅。
 街頭に照らし出された黒のアスファルトは薄らと雪化粧を纏い、夜風は針を帯びて皮膚を刺す。
 
「さっむ……はぁ、来年になれば三年生。今日みたいに遅くまで学校に残れる時間は確実に減ってるよね。もう、本格的に高校受験のことも考えないといけないし……」


 そんな普通の悩みを抱えて、清涼な冬の空気に満たされた星空を見上げる。
 すると、お空が急に明るくなって気がついたら――――



「はなせ~、この銀色ぉぉぉぉ! こんにゃろめこんにゃろめ!!」

 とっても眩しい空間で私は仰向けになり、透明なベッドの上に縛りつけられていた。
 手足にかせはないのに、何故か動かせない。
 かろうじて動く頭と背中をもぞもぞと動かす。そのたびに、背中まで届く長い艶やかな黒髪がぐちゃぐちゃになっていく。
 クリーニング仕立ての学生服も。
 紺色のブラウスに深い紺色のスカートにジャケットもしわくちゃ。最悪!

 私は黒翡翠のように輝くぱっちりな瞳を動かす。
 その先には、銀色の肌とぱっちりどころかデカすぎる真っ黒なお目目を持った、如何にも宇宙人って感じの二人がいた。
 背の高さは私よりも30cmほど低い120cmほど。
 こいつらは言葉を話さずに、直接頭の中に言葉を投げつけてきやがった。

「さすがは宇宙随一の『暴虐の力』を宿す生命体。実に生命力豊かなメスだ。ワレワレのテレパシーを受ければ、普通は気を失うものだが……」
「どうやらこのメスは、ワレワレのサイキックエナジーを弾いている。才気があるとはいえ、遅れた脳の分際でこのようなことができるとはな」


「てめぇ、聞こえたぞ! 今、私の悪口言ったでしょ!! さっさと拘束を解け! そして殴らせろ!!」


 なんだかよくわからない力に拘束されてるけど、私はそれに必死の抵抗を試みる。
 すると、手と足のかせが少し緩んできたような気がした。

「この~~~~、こんじょぉぉぉぉぉぉ!! 動けぇぇえ、手足ぃぃぃぃ!」

「こいつは? ふむ、能力値は想定を超えている」
「ワレワレの念動力サイコキネシスに逆らうとはな。押さえ込め」

 二人の宇宙人から目には見えない力が発せられて、それを何となく感じる。
 だ・け・ど!!


「ちきゅうじん~、なめんなあぁぁあぁぁあぁぁ!!」

 石のように固まっていた指先を動かす。
 手のひらを広げ、体を支え、上半身を起こす。
 足を動かし、靴の裏を床につけて、立ち上がる!

「ぐぬぬぬぬぬぬ!!」
「この蛮族め。筋力に精神エネルギーを乗せてワレワレの念動力サイコキネシスを破ろうとしているぞ」
「ならば、もう少し出力を――」

「うぐ!? ぎぎぎぎ! だ~か~ら~、地球人舐めんなって言ってるでしょうがぁぁあぁあ!!」


 腹の奥底から叫び声を上げて、私は見事、宇宙人の拘束を打ち破った。

「うらっしゃぁぁあぁあ!!」
「なっ!?」
「ぐっ!」

「はぁはぁはぁはぁ、手……動く。足は? 動く……よし!!」

 私は首から白いネクタイを外し、指をぽきぽき鳴らしながら、銀の肌の宇宙人に近づいていく。
「あ、宇宙人って本当にいたんだ。すっご~い……と、言いたいところだけど。よくも、この私を誘拐してくれたね! 何をするつもりだったの? もしかして、よく聞く、金属片埋めたり内臓奪ったりとか?」
「ワレワレは単なる調査――」

「まぁ、どうでもいいけど、とりあえず、ぶん殴る!! ふんぬ!!」

 
 固めに固めた右拳で宇宙人の一人をぶん殴ろうとした。
 でも、なんでか拳は、宇宙人に当たる直前で勝手に逸れちゃう。

「なに、今の? ちゃんと真っ直ぐ当てたつもりなのに」
「フン、貴様の神経に伝わる電気信号を操ったまでだ。貴様の野蛮な攻撃はワレワレには届かない。理解できたならば、抵抗は諦め――」
「よくわかんないけど、当たらないなら当たるまで殴る!!」
「何を言って――」

「でりゃでりゃでりゃりゃりゃりゃあああ!」

 二人に向かって、殴る蹴るを繰り返す。でも、全く当たんない。
 代わりに、見えない壁みたいなものを殴る感触が伝わってくる。
 そのたびに、何やら部屋全体が揺れているような?


 この部屋の変化に、二人の宇宙人は淡々とした言葉遣いを忘れて、焦りの色を見せてきた。

「こら、暴れるな! 貴様の野蛮な攻撃は船の壁を殴っている」
「船の内部は繊細なのだ! 狂暴な獣の暴走に耐えられる構造ではない」

「誰が獣だぁ!! そんなに船が大事なら、あんたたちが体で受け止めろ! てりゃてりゃてりゃてりゃぁぁぁ!!」

「お、愚か者! これ以上、船内を破壊すれば――っ!?」


 突然、眩しい空間が大きく揺れた。
 真っ白な光の床が斜めに傾いた感じで、私は急な坂で踏ん張るような姿勢を取る。

「な、なに、どうしたの?」
「貴様が暴れたせいで、船が重大な損傷を受けたのだ」
「いかん、動力炉が暴走している。限界値を超えて加速を始めた」

 二人の宇宙人は目の前に白い靄みたいな画面を浮かべて、でっかい黒目を僅かに動かし、何かを操作する素振りを見せる。


「えっと、なんだか、やばい感じ?」
「元々、亜空間に船を隠していたが、動力炉の暴走により、次元跳躍機関が勝手に起動」
「それにより、時空間に裂け目が生じ そこから流入してきたエネルギーが船体全体を押し流して、あり得ない速度で見知らぬ座標へと吹き飛ばされ続けている。貴様が暴れたせいだぞ!」

「いやいや、私がちょっと暴れただけでそんなことになるって、もろ過ぎない?」

「ちょっとではないだろう。気の触れたゴリラのように暴れていたではないか」
「ワレワレの船の外壁は強力だが、内壁はそうでもないのだ。貴様のような獰猛な野獣が、船内で暴れまわることを想定していない」

「いちいち、悪口を挟まないでよ! あのさ、緊急停止装置みたいなのないの?」
「「貴様が破壊した!!」」

「もろ過ぎ! じゃあ、どうすんの!?」

「燃料を放棄して、次元跳躍機関を停止させる」
「その後は通常エンジンを使い、亜光速で移動し、船を修理できそうな惑星を探す」

「じゃあ、早くやってよ!!」

「いまおこなっている」
「燃料、射出。通常空間に出るぞ」


 そう、言葉が終わると同時に、眩しい空間に激しい衝撃が走った。
 私は自分が横たわっていたベッドに手を置いて、なんとか身体を支える。
「きゃあ! もう、なによ! これ宇宙船だよね! 慣性制御装置みたいのないの!?」

「「貴様が壊した!!」
「だから、もろ過ぎ!」

「通常エンジンも持たないぞ。すぐに適当な惑星を走査スキャン――ぐっ!?」


 突然、部屋全体が地震みたいにガタガタ揺れ始め、次第にその揺れが増していく。
「ね、ねぇ、明らかにヤバい感じが……」

「ああ、近くにあった惑星の引力に囚われた」
「今の衝撃で通常エンジンが停止した」

「……つまり?」
「「惑星に墜落する」」

「全力回避ぃぃぃ。無理でも何でもエンジン推力全開にしてぇえぇぇえ!! ――って、え!?」

 急に体が軽くなって、ふわりと少しだけ浮き上がる。
「なになに、どうしたの?」
「重力制御装置に不具合が発生した」

「予備システムはないの!?」

「「貴様が――」」
「壊した、でしょ! もろ過ぎ!!」


 重力を失った部屋。だけど、けたたましい衝撃音が部屋全体に響き、必死に掴んでるベッドが揺れの激しさを伝えてくる。

「うっそ、マジで墜落しちゃうの? 死んじゃうの!」
「大気圏へ突入。船体構造維持フィールド展開」
「船全体にシールド展開。なんとかなりそうだ。ふむ、喜べメス。どうやら、酸素があるぞ。貴様たちの呼び方で言えば、地球型惑星だ」
「ガタガタ揺れてる状況でよろこべな~い!! あと、メス呼ばわりやめてよよよよよよよよ」

 揺れに激しさが増して、もうまともにしゃべることもできない。
 こちらはこんな状況なのに、こいつらはふわりと浮いてて、テレパシーみたいので一方的に悪口を吹っ掛けて来やがる!


「騒がしいメスだ」
「だが、当たりだったようだな。ワレワレの念動力サイコキネシスに反発できるほどの個体とは。良いメスだ」
「だだだ、だからメスメスいうなぁぁあぁぁぁあぁぁぁぁあぁぁ。おおおちるっるるるっるるるぅぅぅぅうぅ!!」


 こうして、学校から家に帰るだけだったはずの私は、全く見知らぬ惑星へ不時着しちゃうのだった……。
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