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勇者、笑う
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魔王城に入り、広間へ向かう。
その途中、俺は自分の心に生まれた迷いに葛藤していた。
(前回の悪夢が俺の本当の心を示しているのならば、俺はどうすれば……?)
迷いを抱え、前へ進む。
そうこうしているうちに、広間へ到着。
例によって、部下が現れる。
だが、彼の雰囲気が妙だ……。
「来たね、勇者」
「……ああ」
「今日のトラップはシンプルにして且つ定番。戦いで決着をつければ、扉が開く!」
部下はいつになく真剣な表情を俺にぶつけてきた。
俺は、ついにこの時が来たのだなと感じるが……迷いが手と言葉に震えを与える。
「そ、そうか。そうだな、いつかはこうなる運命。仕方のないこと……」
震える手……だが、迷いを無理やり抑え込み、俺は剣を抜く。
すると、部下が慌てた様子を見せた。
「ちょい、待ち待ち! 戦うのは僕じゃないよ!」
「ん? それじゃ、誰が?」
「ふっふっふ、それはびっくりゲストさ。では、登場して頂きましょう! トラップ解除用のボス。それはっ!」
「ワシなのじゃあぁぁぁ!」
雄叫びと同時に扉の前でボフンと煙が生まれた。
その煙の中から、チミッ子魔王が姿を現す。
「勇者よ! この扉の奥に控えるワシを倒したいなら、まずはワシを倒していけぇぇ!!」
響き渡るチミッ子魔王の声。
そして、訪れる静寂。
俺はふんぞり返っているチミッ子の姿を見て、盛大な笑い声を上げた。
「ふ、ふふ、ふふふ、はははは、あははははは!」
「な、なんじゃ? 何がおかしいっ?」
「あははは……はは、はぁはぁ、いや、ここでお前を倒したら、奥へ進む意味がないだろ」
「あ、そうじゃったな。どうする、部下?」
「あら~、これは盲点でしたね」
「う~む、こまったの~」
俺はどこまで本気かわからない愉快な二人の掛け合いを見つめながら笑いを零し続ける。
「ははは、仕方ない。トラップの準備不足ということで、今日は帰るよ」
「そうかぁ、すまぬのぅ。無駄足をさせてしまい……」
「ごめんね、勇者~。次はちゃんとしたの用意しとくから」
「ああ、そうだな。しっかり頼むよ」
いつもの変わらぬ二人に安堵し、町へ戻る。
俺は彼らと刃を交えることがなくて、心の底からホッとしていた。
――エピローグ
その後も、勇者は何度も城へ足を運ぶことになる。
勇者と魔王の決着がつかぬ日々。
それは幾年にも及び、長きに渡り、彼らは対峙し続けた。
その間、西大陸では人間と魔族の諍いはなく、とても平和な時代だったという。
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震える手……だが、迷いを無理やり抑え込み、俺は剣を抜く。
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「ワシなのじゃあぁぁぁ!」
雄叫びと同時に扉の前でボフンと煙が生まれた。
その煙の中から、チミッ子魔王が姿を現す。
「勇者よ! この扉の奥に控えるワシを倒したいなら、まずはワシを倒していけぇぇ!!」
響き渡るチミッ子魔王の声。
そして、訪れる静寂。
俺はふんぞり返っているチミッ子の姿を見て、盛大な笑い声を上げた。
「ふ、ふふ、ふふふ、はははは、あははははは!」
「な、なんじゃ? 何がおかしいっ?」
「あははは……はは、はぁはぁ、いや、ここでお前を倒したら、奥へ進む意味がないだろ」
「あ、そうじゃったな。どうする、部下?」
「あら~、これは盲点でしたね」
「う~む、こまったの~」
俺はどこまで本気かわからない愉快な二人の掛け合いを見つめながら笑いを零し続ける。
「ははは、仕方ない。トラップの準備不足ということで、今日は帰るよ」
「そうかぁ、すまぬのぅ。無駄足をさせてしまい……」
「ごめんね、勇者~。次はちゃんとしたの用意しとくから」
「ああ、そうだな。しっかり頼むよ」
いつもの変わらぬ二人に安堵し、町へ戻る。
俺は彼らと刃を交えることがなくて、心の底からホッとしていた。
――エピローグ
その後も、勇者は何度も城へ足を運ぶことになる。
勇者と魔王の決着がつかぬ日々。
それは幾年にも及び、長きに渡り、彼らは対峙し続けた。
その間、西大陸では人間と魔族の諍いはなく、とても平和な時代だったという。
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