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勇者、惑う
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ついに、難攻不落の扉を越えて魔王が待つ部屋へとやってきた!
「ここまで長かった。ううっ、馬鹿馬鹿しいトラップを乗り越えて、ようやくここまで来たんだなぁ」
何故か感慨深いものが込み上げてくる。
そこへ、魔王らしき存在が語りかけてきた。
「敵の前だというのに、随分と隙だらけじゃないか、勇者」
「っ!? 魔王か?」
「ああ、そうだよ。僕が西の大陸を支配する魔王だ……」
静寂に満たされる場に響き渡る足音。
足音は影を伴い近づいてくる。
その影の姿が俺の瞳に映った時、俺は間の抜けた声を上げた。
「あれ? 何で、部下が?」
「ふふ、部下とは仮の姿。本当の僕は、この城の主である魔王なんだよ」
「なに!?」
「驚いたようだね。さて、問答は今までに十分行った。いまさら語ることなんてないだろう……………さぁ、殺し合おう!!」
部下は靄の中から剣を取り出し、俺に切りかかってきた!
慌てて剣を抜き、彼の刃に応える。
「クッ! 部下、いったい何のつもりだ!?」
「何のつもり何も、僕は魔王。君は勇者。殺し合うのが必然だろ」
「馬鹿を言うな。お前が魔王なわけが……あ、わかったぞ。これも何かのトラップだな?」
「あははは、もう扉は開いているんだよ。だから、ここに勇者がいるんじゃないか。これはトラップじゃない。現実……現実の殺し合いなのさ!」
再び、部下が剣を振るう。
俺は彼の剣を弾き、大きく後方へ飛んだ。
「くそ、何が起こっている? 部下が魔王? そんなはず……だって、魔王は、魔王は、あのチミッ子魔王だろうが!!」
「チミッ子? ああ、あの人形のことか」
「人形?」
「そうさ、君をからかうために産み出された人形。アレは偽の魔王ってわけ」
「チミッ子が、人形? そ、そんなわけあるはずがっ」
「あるよ。だいたい、その人形を切り捨てた君じゃないか。勇者」
「え?」
部下が剣先を俺の背後に向けた。
俺はゆっくりと後ろを振り返る。
そこには、胴が真っ二つに切断され、床に内臓をぶちまけたチミッ子魔王が倒れていた。
「チミッ子!?」
「何を驚いているんだい? 勇者が殺したのに?」
「俺が? そんな、そんな覚えはっ!?」
「ふふ、勇者に覚えはなくとも、君の手に持っている剣は覚えているみたいだよ」
「え?」
剣の刃先へ、ジワリと瞳を動かす。
刃はぬらりとした、真っ赤な血を纏っている。
「この血は……チミッ子の?」
「アハハハハハ、そうだよ! 君が殺したんだ」
「違う、そんなわけがない! 俺がこんなっ?」
「どうしてそんなに取り乱すんだい? いいじゃないか。人間と魔族は殺し合う仲。当然の結末。さぁ、僕と勇者の関係にも決着をつけようよ!」
部下が殺意の籠る刃を俺にぶつけてくる。
俺は刃を叩き伏せて、代わりに彼の首元を剣で薙ごうとした。
だがっ。
「クソッ」
「あれ、どうして剣を止めるの? そのまま切り伏せれば、僕の首は胴と離れていたのに」
そう言って、部下は首元で止まった剣を強く握りしめ、自身の首へ深く当てていく。
「ほら、あとは勇者が剣を横に引くだけで、僕は死ぬ」
「やめろ……」
部下はさらに深く剣を首に当てる。彼の首から血が滲み出てくる。
「さぁ、どうしたの、勇者? 君の目的は魔王との対決。そして、殺害じゃなかったの?」
「やめろ、やめろ、やめろっ」
「ほらほらほら、見て。勇者の剣が僕の首を深く深く抉っていくよ~」
「やめろ、やめろっ、やめろぉぉぉぉぉぉーー!」
城の木霊する叫び声。
一瞬、意識が遠のき、次に眩い光が目に染みた。
そして、あいつらの声が聞こえてくる。
「あ~あ、途中で目を覚めちゃった」
「うむ、またもや勇者の負けじゃな」
「え?」
俺は荒ぶる息を交えながら何度かまばたきをして、ちらつく光を追い出す。
目が光になじんだところで、自分が横たわっていることに気づいた。
俺は半身を起こして、辺りを見回す。
すると、俺のすぐそばに部下とチミッ子魔王が立っていた。
「はぁはぁ、あれ? 一体、なにが、どうして?」
「あれ、記憶が飛んでる?」
「いや、夢と現実がごっちゃなっとるんじゃろ」
「夢?」
そう、チミッ子魔王に問いかけると、彼女は傍に置いてある香炉を指差した。
「お主はその悪夢の香炉というトラップに挑戦したのじゃ。悪夢に打ち勝つことができたら、トラップ解除だったんじゃが。その様子だと無理じゃったようじゃな」
「夢? あれが全部、夢?」
俺は香炉に顔を向ける。
全てこの香炉による夢だと言われても、まだ現実感がない。
半ば惚ける俺に対して、部下が俺を案じる声を上げた。
「大丈夫~? この香炉って相当強烈だったみたいだね~」
「本当に、あれは夢だった……?」
「そだよ~。この香炉は勇者が一番恐れていることを夢にする香炉なんだ。その様子だとよっぽど怖い夢だったんだね」
「俺が、恐れる、夢?」
「う~ん、このトラップはちょっときつすぎたかな。今日はもう、早めに休んだ方がよさそうだね。靄が出るから、町でゆっくり休むといいよ」
靄が現れ、俺を包み始める。
その靄に包まれながら、俺は自分が最も恐れる夢について考えていた。
(あの夢が俺にとっての恐怖なら……俺はこの二人と戦うことを恐れているのか? どうして? 俺は勇者。魔王を退治するために、ここまで訪れたというのに…………)
「ここまで長かった。ううっ、馬鹿馬鹿しいトラップを乗り越えて、ようやくここまで来たんだなぁ」
何故か感慨深いものが込み上げてくる。
そこへ、魔王らしき存在が語りかけてきた。
「敵の前だというのに、随分と隙だらけじゃないか、勇者」
「っ!? 魔王か?」
「ああ、そうだよ。僕が西の大陸を支配する魔王だ……」
静寂に満たされる場に響き渡る足音。
足音は影を伴い近づいてくる。
その影の姿が俺の瞳に映った時、俺は間の抜けた声を上げた。
「あれ? 何で、部下が?」
「ふふ、部下とは仮の姿。本当の僕は、この城の主である魔王なんだよ」
「なに!?」
「驚いたようだね。さて、問答は今までに十分行った。いまさら語ることなんてないだろう……………さぁ、殺し合おう!!」
部下は靄の中から剣を取り出し、俺に切りかかってきた!
慌てて剣を抜き、彼の刃に応える。
「クッ! 部下、いったい何のつもりだ!?」
「何のつもり何も、僕は魔王。君は勇者。殺し合うのが必然だろ」
「馬鹿を言うな。お前が魔王なわけが……あ、わかったぞ。これも何かのトラップだな?」
「あははは、もう扉は開いているんだよ。だから、ここに勇者がいるんじゃないか。これはトラップじゃない。現実……現実の殺し合いなのさ!」
再び、部下が剣を振るう。
俺は彼の剣を弾き、大きく後方へ飛んだ。
「くそ、何が起こっている? 部下が魔王? そんなはず……だって、魔王は、魔王は、あのチミッ子魔王だろうが!!」
「チミッ子? ああ、あの人形のことか」
「人形?」
「そうさ、君をからかうために産み出された人形。アレは偽の魔王ってわけ」
「チミッ子が、人形? そ、そんなわけあるはずがっ」
「あるよ。だいたい、その人形を切り捨てた君じゃないか。勇者」
「え?」
部下が剣先を俺の背後に向けた。
俺はゆっくりと後ろを振り返る。
そこには、胴が真っ二つに切断され、床に内臓をぶちまけたチミッ子魔王が倒れていた。
「チミッ子!?」
「何を驚いているんだい? 勇者が殺したのに?」
「俺が? そんな、そんな覚えはっ!?」
「ふふ、勇者に覚えはなくとも、君の手に持っている剣は覚えているみたいだよ」
「え?」
剣の刃先へ、ジワリと瞳を動かす。
刃はぬらりとした、真っ赤な血を纏っている。
「この血は……チミッ子の?」
「アハハハハハ、そうだよ! 君が殺したんだ」
「違う、そんなわけがない! 俺がこんなっ?」
「どうしてそんなに取り乱すんだい? いいじゃないか。人間と魔族は殺し合う仲。当然の結末。さぁ、僕と勇者の関係にも決着をつけようよ!」
部下が殺意の籠る刃を俺にぶつけてくる。
俺は刃を叩き伏せて、代わりに彼の首元を剣で薙ごうとした。
だがっ。
「クソッ」
「あれ、どうして剣を止めるの? そのまま切り伏せれば、僕の首は胴と離れていたのに」
そう言って、部下は首元で止まった剣を強く握りしめ、自身の首へ深く当てていく。
「ほら、あとは勇者が剣を横に引くだけで、僕は死ぬ」
「やめろ……」
部下はさらに深く剣を首に当てる。彼の首から血が滲み出てくる。
「さぁ、どうしたの、勇者? 君の目的は魔王との対決。そして、殺害じゃなかったの?」
「やめろ、やめろ、やめろっ」
「ほらほらほら、見て。勇者の剣が僕の首を深く深く抉っていくよ~」
「やめろ、やめろっ、やめろぉぉぉぉぉぉーー!」
城の木霊する叫び声。
一瞬、意識が遠のき、次に眩い光が目に染みた。
そして、あいつらの声が聞こえてくる。
「あ~あ、途中で目を覚めちゃった」
「うむ、またもや勇者の負けじゃな」
「え?」
俺は荒ぶる息を交えながら何度かまばたきをして、ちらつく光を追い出す。
目が光になじんだところで、自分が横たわっていることに気づいた。
俺は半身を起こして、辺りを見回す。
すると、俺のすぐそばに部下とチミッ子魔王が立っていた。
「はぁはぁ、あれ? 一体、なにが、どうして?」
「あれ、記憶が飛んでる?」
「いや、夢と現実がごっちゃなっとるんじゃろ」
「夢?」
そう、チミッ子魔王に問いかけると、彼女は傍に置いてある香炉を指差した。
「お主はその悪夢の香炉というトラップに挑戦したのじゃ。悪夢に打ち勝つことができたら、トラップ解除だったんじゃが。その様子だと無理じゃったようじゃな」
「夢? あれが全部、夢?」
俺は香炉に顔を向ける。
全てこの香炉による夢だと言われても、まだ現実感がない。
半ば惚ける俺に対して、部下が俺を案じる声を上げた。
「大丈夫~? この香炉って相当強烈だったみたいだね~」
「本当に、あれは夢だった……?」
「そだよ~。この香炉は勇者が一番恐れていることを夢にする香炉なんだ。その様子だとよっぽど怖い夢だったんだね」
「俺が、恐れる、夢?」
「う~ん、このトラップはちょっときつすぎたかな。今日はもう、早めに休んだ方がよさそうだね。靄が出るから、町でゆっくり休むといいよ」
靄が現れ、俺を包み始める。
その靄に包まれながら、俺は自分が最も恐れる夢について考えていた。
(あの夢が俺にとっての恐怖なら……俺はこの二人と戦うことを恐れているのか? どうして? 俺は勇者。魔王を退治するために、ここまで訪れたというのに…………)
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