魔王城のトラップがひどすぎて魔王の部屋にたどり着けない!

雪野湯

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勇者、洞察する

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――魔王城・広間


 例によって例の如く、広間までやってきた。
 だが、そこに部下の姿はなく、何故か代わりに魔王が俺を出迎えた。


「よく来たのぅ、勇者」
「あれ、チミッ子魔王? なんで?」
「チミッ子言うな! 今回はワシがトラップを受け持とうと思っての」
「お前が表に出てきたら扉を開ける意味がないんだけど……そこは諦めるか。それで、いつもの部下はどうした?」
「部下ならそこで死んどるぞ」
「なに?」

 魔王が左手を差し伸ばし、指先を床に向けると、そこには血だまりに浮かぶ部下の姿があった。

「ど、どうしたんだ、部下は?」
「今回のトラップのための演出じゃ。気にするな」
「演出?」
「では、エフェクトGOなのじゃ!!」

 魔王が声を張り上げると、広間に光の線が交差し、それは立体的な文字を形作る。
 そして『バ~ン!』という音響とともに、ある文字を表した。


――魔王城、殺人事件! ~甘い憎しみの果てに~ ――


「というわけで、今回は部下殺しの犯人を勇者に推理してもらうのじゃ」
「また、妙なトラップを……」
「なんじゃ、頭を使うトラップは苦手か? まぁ、あまり賢そうには見えんからの」
「この野郎っ。いいだろう、受けて立ってやる」
「ふふ、それでこそ勇者じゃ。では、容疑者を紹介するのじゃ」

 一人目は魔王専属のメイド。
 二人目は魔王城の兵士。
 三人目は魔王城の料理人


 俺はざっと三人を見て、魔王に尋ねた。
「ちゃんとこの中に犯人はいるんだろうな?」
「もちろんなのじゃ。この広間内に必ず犯人はいるのじゃ。どこか別の場所に隠れてました~、なんてせこい真似をする気はないぞ」
「そっか。よし、そうだな……まずは死体の見分をしようか。いいよな?」
「かまわんぞ。好きなだけ見まくるといい」


 俺は部下に近づき、彼の様子を伺う……妙にリアルな死に顔。
 体温は確かめる――冷たい。
 脈をとる――感じない。

「おい、魔王! 部下が本当に死んでるぞ!!」
「だから言ったじゃろう。死んどると」
「いやいや、演技じゃないのかよ!? リアルな殺人事件じゃないか。俺なんかに推理させてる場合じゃないだろ。警察に連絡しろ!」

「何、魔王城じゃこういうことは日常茶飯事だから気にするな。それに部下は不死に近い生命力を持っておるから、あと五分くらいで復活するじゃろ」
「それなら、復活してから犯人を聞けよ」
「何をいうか。せっかく死体が転がっておるのじゃ。殺人事件と推理を楽しもうぞ」
「全然、楽しめない」
「グダグダ言っとらんで推理せい。あ、制限時間は部下が復活するまでじゃぞ。復活したら犯人の正体が聞けるからの」
「無茶苦茶な推理ゲームだな……」


 俺は愚痴をこぼしつつも、トラップ解除のために部下の遺体を観察を始めた。
 魔王が目の前にいるのにトラップを解除? という話はこの際無視する。

 まず、部下の血だまりを観察。
 広範囲に広がる血は凝固し始めている。
 次に出血の原因となる箇所を確かめる……腹部に深々とナイフが刺さっている。
 そのナイフの柄は少し左に傾いていた。


「なるほど。魔王、三人に質問をしていいか?」
「もちろんじゃ」
「では、まずは、メイドさん。あなたが鍋やスープ料理する際、お玉などを使いかき混ぜますよね?」
「ええ。それがなにか?」
「ちょっと、かき混ぜる振りをしてください」
「はぁ? わかりました」

 メイドさんは右手にお玉を持った振りをして、鍋をかき混ぜる。

「もう、結構です。それでは、次。兵士……」
 俺はちらりと兵士の右腰にある剣を見た。
「いえ、兵士への質問は必要ないか。次は料理人。魚を捌くふりを見せてくれませんか?」
「え、はい?」

 料理人は左手で魚を押さえて、右手に持つ包丁を動かしている。

「ありがとう。もう結構です。よしっ。魔王、犯人がわかったぞ」
「ほ~、誰なのじゃ?」
「犯人は兵士だ」
「そのこころは?」


「部下の腹部に刺さったナイフ。よく見ると、少し左に傾いているだろ。これは左利きの者が刺した証拠。メイドと料理人は右手で調理器具を手にした。彼らは右利きというわけだ。しかし、兵士は……」

 俺は兵士の腰に差してある剣を指差す。
「右に剣が差してあるということは、彼は左利き。三人の中で左利きは彼一人。つまり、兵士が犯人というわけだ」
「なるほどなるほど、良い着眼点じゃ。それでは刺された部下に直接犯人を聞いて見よう。そろそろ復活することじゃしな」

 チミッ子魔王は部下に近づき、背中に蹴りを入れた。ひどい……。
「これ、いつまで死んでおる。早よ、起きるがいい」
「う、うぐぐ、痛い……」
「痛いのは見てわかる。それよりも誰に刺されたか、言ってみい」
「そ、それは……」
 部下は血の気の無い真っ白な腕を上げて、震える指先を犯人に向ける。


「僕を刺したのは、魔王様じゃないかぁ」


「なにぃぃ!!?」
 俺は広間を切り裂く声を張り上げた。
 そして、すぐに魔王へ詰め寄る。

「お前、あの三人の中に必ず犯人がいるといっただろ!?」
「はぁ~、何を言うておるか? ワシはこの広間内に・・・・・必ず犯人がおると言うたのだぞ。つまり、ワシも含まれておるということじゃな」
「は!? きったねぇ。汚いぞ、魔王」
「フハハハ、こんな初歩的なトラップに引っかかる勇者が悪い。ま、左利きを見抜いたところまでは良かったがな」

 と言って、魔王は左手に炎の魔法を浮かべる。


「お前、左利きだったのかよ?」
「何じゃ、気づいておらんかったのか? 料理対決の時も心霊動画を見ていた時も、ワシは左手を使っておったろうが」
「推理ものに話を跨いだトリックはやめろよ!」
「何を言う。一応、冒頭で左手を使っておるぞ。左の指先で部下の死体を指差しておる。それに気づかん勇者が間抜けなのじゃ」
「この~」

「ま、今回はワシの勝ちじゃな」
「はぁ。もう、好きにしろ。だけど、一つ質問をいいか?」
「なんじゃ?」
「こんなことのために、お前は部下を刺し殺したのか?」
「まさか、そんなことで大切な部下を殺したりはせん」

「それじゃ、どうして?」
「こやつ、ワシが冷蔵庫の奥に隠しておった、超高級プリンを盗み食いしおったのじゃ。これはその罰じゃ!」

 魔王はそう言って、横たわっている部下の背中を数度蹴り飛ばす。
「痛い痛い痛い、蹴られるたびに腹部に振動が! まだナイフが刺さったままなんだから手加減してよ~」
「黙れ、盗人が!」
「勝手に食べたのは悪いと思うけど、名前をちゃんと書いてない魔王様も魔王様だよ」
「あのプリンはワシぐらいしか買ってこんことを知っておるじゃろうが! もう一辺、死ね!」
「ぐへっ!」

 魔王は腹部のナイフを蹴り上げて、部下を再度殺した……。

 俺は彼らの姿を見ながら思う。
(この命に対する価値観の差異が、人間と魔族の争いの元なんだよなぁ……)


「はぁ~。魔王、そこまでにしておけ。死体蹴りは醜いぞ」
「はぁん! これでもまだまだ優しい方じゃぞ。こやつはすぐにワシの菓子を盗み食いしおるからな。何度怒っても反省せん!」
「そうか……まぁ、内輪の話はあとで決着をつけておいてくれ。それで、トラップ解除に失敗したのに靄が出ないんだけど……?」
「あの靄はこいつの術と連動しておるからの。こいつが死んでおる今、靄は現われん」
「そうなのか、徒歩で帰るか」
「因みに扉も開かないので、ワシも部屋に戻れん」

「なら、殺すなよ……」
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