3 / 9
勇者、恥死する
しおりを挟む
「なぞなぞ、OK。寒さ対策、OK。念のための暑さ対策もOK」
失敗から学び、準備は万端。
いざ、行かん。ラストダンジョンの攻略!
魔王城の大広間までやってきた。
例によって、気安い部下が現れる。
「よ、勇者」
「おう、って気軽に話しかけんな。敵同士だぞ」
「そんな固いこと言うなよ~。では、本日のトラップです」
「はやっ。本日というと前とは違うんだ。ま、そんな予感はしてたけど……で、いったいどんなトラップなんだ?」
「今からゲストを交え、五分間だけお喋りをしてもらいます。最後までお喋りをできたら、魔王様の部屋に続く扉が開くぞ」
「はんっ、なんだそれ? お喋りならいくらでも付き合ってやる。ほら、ゲストとやらを呼べよ」
「んじゃ、本日の~スペシャル~ゲスト~! それはなんとっ! 勇者のお母さんで~す」
「な、なんだってぇぇええ!」
部下が手を差し伸ばす。
すると、その方向の空間が歪み、歪みの中から俺の母が現れた。
「や~ね、久しぶりやない」
「か、母ちゃん。ど、どうして?」
「どうもこうもなかよ。あんたぜんっぜん、連絡寄越さんやん。だけん、心配しとったとよ」
「そ、それは、悪かったと思うけど」
「でも、そちらの部下さんが息子に会わせてくれるぅ言うてくれるから、むしろこっちからお願いしてここまで来たったい」
「いや、あの、相手魔族だよ。もう少し、警戒しようよ……」
「そんな細かいことはどうでもいいったい。あんたに会えるんなら嬉しいけんね」
そう言って、母は俺をギュッと抱きしめる。
「ちょっと、母ちゃん。やめてくれよっ、人前で恥ずかしい」
「なんば言ようとね。親子同士、別に恥ずかしことなかろうもん」
「そんなこと言ったってさぁ」
俺はあまりの恥ずかしさに頬を火照らせながら顔を背けた。
背けた先には部下が……そいつはニヤニヤしながら俺を見ている。
「プフ、微笑ましい」
「うるせい! って、ま、まさか、身内との照れ臭い会話が今回のトラップ!? お前、卑怯だぞ!」
「トラップってそんなもんだろ~」
「こ、この~……たしか五、五分だったな。よし、これくらいなら耐えてやる!」
「そう、頑張って。あ、そうそう、勇者のお母さん。勇者の幼い頃ってどんな感じだったの?」
こいつ、子供の頃の話を持ち出しやがった。
とことんえげつない奴!
俺は歯ぎしりをして部下を睨めつける。
そうだというのに、母はなんだか楽し気な声を出す。
「そうやねぇ、こん子の子どもの頃は今みたいに筋肉ムキムキじゃなくて、ひょろっこいゴボウみたいな子やったね」
「ちょ、ちょっと母ちゃん」
「村ではいっつもいじめられて、よう泣かされちょったんよ」
「母ちゃん!」
俺はなんとか母を止めようとするが、全然止まる気がない。
それどころか、部下と仲良さげに会話を重ねていく。
「やけど、こんなに丈夫に育って、お母ちゃんはもう……」
「よかったね~、ご立派になって。そのご様子から、勇者は昔からしっかりした子だったんだろうねぇ」
「そんな~、そうでもなかよっ。こん子はようおねしょばしちょったし」
「母ちゃ~ん!!」
「いっつも、大きな地図を布団に書きよったい。それを幼馴染みのミミちゃん見られて、生意気に恥ずかしがるんよ」
「か、かあちゃん、マジで、マジでやめて、お願いですから」
恥ずかしさが怒りを飛び越えて、思わず懇願するような声を上げてしまった。
だが、そんなこともお構いなしに、部下がさらに話題を掘り下げる。
「へぇ~、そんなことがあったんだ~。そのミミちゃんと言うのは、もしかして?」
「こん子の初恋の子ばい」
「母ちゃん母ちゃん母ちゃん!?」
「それじゃあ、告白なんかしちゃったり?」
「もちろんしたとよ。でも、ふられたったい」
「あちゃ~」
「ねぇねぇねぇ、もうやめようよ。ねぇ? ねぇ!?」
この二人は一体何なんだろうか?
俺がこんなにも取り乱しているのに、全然気にしやがらねぇ!
それどころか、部下はのほほんと人の恥部を広げていく。
「フラれたのはおねしょしてたから?」
「それは関係なかよ。ミミちゃんそん頃、村で一番強いクー君が好きやったんよ」
「ほうほう、それで?」
「それで、こん子は体を鍛える~、言うて、頑張って勇者になったんよ」
「なるほど~、頑張ったんだ。頑張ったね、勇者~」
「おま、おま、おま、ふざけんなよ」
「う~ん、あと一押しかな?」
「な、なにが?」
「勇者のお母さん。そのミミちゃんにフラれたとき勇者はどうしたの?」
「それが情けなかとよ。こん子ったら、ミミちゃんに嫌われた~、言うて、ず~っと泣きよっちゃん。あんまりにも泣くから、クー君がこん子を慰めるんよ」
「うわ~、恋敵に優しくされたんだ。つらかったね、勇者」
「あの、ほんと、勘弁してくれませんか……」
「え、でも、扉が開くまであと三分だよ。もう少しおしゃべりを楽しもうよ」
「え、三分? 三分? まだ三分もあるの!?」
「うん、そだよ。だから勇者、まだお喋りしよ? 魔王様を倒すんでしょ?」
「…………いえ、今回はやめときます」
この後、俺は靄に包まれ町に戻り、宿のベッドで顔を埋め、声ならぬ声を叫び続けた。
失敗から学び、準備は万端。
いざ、行かん。ラストダンジョンの攻略!
魔王城の大広間までやってきた。
例によって、気安い部下が現れる。
「よ、勇者」
「おう、って気軽に話しかけんな。敵同士だぞ」
「そんな固いこと言うなよ~。では、本日のトラップです」
「はやっ。本日というと前とは違うんだ。ま、そんな予感はしてたけど……で、いったいどんなトラップなんだ?」
「今からゲストを交え、五分間だけお喋りをしてもらいます。最後までお喋りをできたら、魔王様の部屋に続く扉が開くぞ」
「はんっ、なんだそれ? お喋りならいくらでも付き合ってやる。ほら、ゲストとやらを呼べよ」
「んじゃ、本日の~スペシャル~ゲスト~! それはなんとっ! 勇者のお母さんで~す」
「な、なんだってぇぇええ!」
部下が手を差し伸ばす。
すると、その方向の空間が歪み、歪みの中から俺の母が現れた。
「や~ね、久しぶりやない」
「か、母ちゃん。ど、どうして?」
「どうもこうもなかよ。あんたぜんっぜん、連絡寄越さんやん。だけん、心配しとったとよ」
「そ、それは、悪かったと思うけど」
「でも、そちらの部下さんが息子に会わせてくれるぅ言うてくれるから、むしろこっちからお願いしてここまで来たったい」
「いや、あの、相手魔族だよ。もう少し、警戒しようよ……」
「そんな細かいことはどうでもいいったい。あんたに会えるんなら嬉しいけんね」
そう言って、母は俺をギュッと抱きしめる。
「ちょっと、母ちゃん。やめてくれよっ、人前で恥ずかしい」
「なんば言ようとね。親子同士、別に恥ずかしことなかろうもん」
「そんなこと言ったってさぁ」
俺はあまりの恥ずかしさに頬を火照らせながら顔を背けた。
背けた先には部下が……そいつはニヤニヤしながら俺を見ている。
「プフ、微笑ましい」
「うるせい! って、ま、まさか、身内との照れ臭い会話が今回のトラップ!? お前、卑怯だぞ!」
「トラップってそんなもんだろ~」
「こ、この~……たしか五、五分だったな。よし、これくらいなら耐えてやる!」
「そう、頑張って。あ、そうそう、勇者のお母さん。勇者の幼い頃ってどんな感じだったの?」
こいつ、子供の頃の話を持ち出しやがった。
とことんえげつない奴!
俺は歯ぎしりをして部下を睨めつける。
そうだというのに、母はなんだか楽し気な声を出す。
「そうやねぇ、こん子の子どもの頃は今みたいに筋肉ムキムキじゃなくて、ひょろっこいゴボウみたいな子やったね」
「ちょ、ちょっと母ちゃん」
「村ではいっつもいじめられて、よう泣かされちょったんよ」
「母ちゃん!」
俺はなんとか母を止めようとするが、全然止まる気がない。
それどころか、部下と仲良さげに会話を重ねていく。
「やけど、こんなに丈夫に育って、お母ちゃんはもう……」
「よかったね~、ご立派になって。そのご様子から、勇者は昔からしっかりした子だったんだろうねぇ」
「そんな~、そうでもなかよっ。こん子はようおねしょばしちょったし」
「母ちゃ~ん!!」
「いっつも、大きな地図を布団に書きよったい。それを幼馴染みのミミちゃん見られて、生意気に恥ずかしがるんよ」
「か、かあちゃん、マジで、マジでやめて、お願いですから」
恥ずかしさが怒りを飛び越えて、思わず懇願するような声を上げてしまった。
だが、そんなこともお構いなしに、部下がさらに話題を掘り下げる。
「へぇ~、そんなことがあったんだ~。そのミミちゃんと言うのは、もしかして?」
「こん子の初恋の子ばい」
「母ちゃん母ちゃん母ちゃん!?」
「それじゃあ、告白なんかしちゃったり?」
「もちろんしたとよ。でも、ふられたったい」
「あちゃ~」
「ねぇねぇねぇ、もうやめようよ。ねぇ? ねぇ!?」
この二人は一体何なんだろうか?
俺がこんなにも取り乱しているのに、全然気にしやがらねぇ!
それどころか、部下はのほほんと人の恥部を広げていく。
「フラれたのはおねしょしてたから?」
「それは関係なかよ。ミミちゃんそん頃、村で一番強いクー君が好きやったんよ」
「ほうほう、それで?」
「それで、こん子は体を鍛える~、言うて、頑張って勇者になったんよ」
「なるほど~、頑張ったんだ。頑張ったね、勇者~」
「おま、おま、おま、ふざけんなよ」
「う~ん、あと一押しかな?」
「な、なにが?」
「勇者のお母さん。そのミミちゃんにフラれたとき勇者はどうしたの?」
「それが情けなかとよ。こん子ったら、ミミちゃんに嫌われた~、言うて、ず~っと泣きよっちゃん。あんまりにも泣くから、クー君がこん子を慰めるんよ」
「うわ~、恋敵に優しくされたんだ。つらかったね、勇者」
「あの、ほんと、勘弁してくれませんか……」
「え、でも、扉が開くまであと三分だよ。もう少しおしゃべりを楽しもうよ」
「え、三分? 三分? まだ三分もあるの!?」
「うん、そだよ。だから勇者、まだお喋りしよ? 魔王様を倒すんでしょ?」
「…………いえ、今回はやめときます」
この後、俺は靄に包まれ町に戻り、宿のベッドで顔を埋め、声ならぬ声を叫び続けた。
0
お気に入りに追加
3
あなたにおすすめの小説
セクスカリバーをヌキました!
桂
ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。
国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。
ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
塔暮らしの大賢者ですが、悪の魔法使いだと因縁をつけられたので自己防衛しました
いかぽん
ファンタジー
しがないおっさん大賢者ジルベールが平穏に暮らしていたら、住んでいた塔に聖騎士たちが攻め込んできた。
悪の魔法使いジルベールはおとなしく逮捕されるか、さもなくば討伐されろという。
とんだ言いがかりだが、指揮官の聖騎士少女アニエスは頭の固い正義ちゃんなので、ジルベールの言い分は聞いてもらえない。
仕方がない──ならばこちらも、悪の魔法使いらしく出迎えてあげよう。
ジルベールは「対話」の場を整えるため、自らの塔に聖騎士アニエスたちを誘い込み、塔の各階に用意してある仕掛け──スライムや触手、各種トラップなど──で彼女らを「歓迎」する。
だがジルベールはその過程で、その少女騎士の背後で蠢く聖王国上層部の闇を知ってしまう。
そんな闇も、自身の平穏に何ら関わりがなければ無視をしていたジルベールだったが、自分に噛みついてくるならば容赦をするいわれもない──
これは、悪でも正義でもないおっさん大賢者ジルベールの、気ままな自己防衛の物語。
不遇職とバカにされましたが、実際はそれほど悪くありません?
カタナヅキ
ファンタジー
現実世界で普通の高校生として過ごしていた「白崎レナ」は謎の空間の亀裂に飲み込まれ、狭間の世界と呼ばれる空間に移動していた。彼はそこで世界の「管理者」と名乗る女性と出会い、彼女と何時でも交信できる能力を授かり、異世界に転生される。
次に彼が意識を取り戻した時には見知らぬ女性と男性が激しく口論しており、会話の内容から自分達から誕生した赤子は呪われた子供であり、王位を継ぐ権利はないと男性が怒鳴り散らしている事を知る。そして子供というのが自分自身である事にレナは気付き、彼は母親と供に追い出された。
時は流れ、成長したレナは自分がこの世界では不遇職として扱われている「支援魔術師」と「錬金術師」の職業を習得している事が判明し、更に彼は一般的には扱われていないスキルばかり習得してしまう。多くの人間から見下され、実の姉弟からも馬鹿にされてしまうが、彼は決して挫けずに自分の能力を信じて生き抜く――
――後にレナは自分の得た職業とスキルの真の力を「世界の管理者」を名乗る女性のアイリスに伝えられ、自分を見下していた人間から逆に見上げられる立場になる事を彼は知らない。
※タイトルを変更しました。(旧題:不遇職に役立たずスキルと馬鹿にされましたが、実際はそれほど悪くはありません)。書籍化に伴い、一部の話を取り下げました。また、近い内に大幅な取り下げが行われます。
※11月22日に第一巻が発売されます!!また、書籍版では主人公の名前が「レナ」→「レイト」に変更しています。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる