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勇者、動けず
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町から魔王城へ戻ってきた。
懐には町で購入したなぞなぞの本。
予習は完璧なので、次は前のような失態はない!
いざ、行かん! ラストダンジョンの攻略!
「と、行きたいけど、なんでこんなに寒いんだよ?」
魔王城の周りに雪が積もっている。
前来たときは、寒くもなく雪も積もってなかったはずなのに。
俺は城に入り、かじかんだ両手を擦りつつ、白い吐息がそのまま凍りついてしまいそうな寒さに耐えながら、魔王城の廊下を進む。
「じょ、じょじょじょ、城内も寒いなんて、だだだ、だん、暖房ぐらい入れたらどうなんだ?」
寒さで歯と歯がカチカチと音を立てる。
それでもなんとか大広場にやってきた。
すると、気安い部下が姿を現す。
「また来たか~、勇者~」
「も、ももも、もちろん、何度だって来るさ! せ、せせせ、世界の平和のために!」
「寒そうだね~」
「そりゃ、寒いよ! って、なんだお前、それは!?」
部下は布団で覆われた机に座っている。
「あ~、これ? これはね、こたつって言うの~」
「こたつ?」
「まぁまぁ、勇者も中に入ってごらんよ。暖かいから~」
「だ、誰がそんな誘いに、ヘックション」
「風邪を引いたら、戦いも何もなくなっちゃうよ?」
「く、しょうがない。ちょっとだけ……」
俺はこたつなる机に近づき、布団を上げる。
「おお、中は暖かいな」
「その中に足を入れて座るんだよ」
「なるほど、こう?」
「そうそう。どう、あったかい?」
「はああぁぁぁぁ~、これはたまんないなぁ」
「でしょでしょ。こたつは暖房の効いた部屋よりも、寒い部屋の方が楽しめるからねぇ~。はい、お茶をどうぞ」
「お、悪い。ずずっ、ふ~、生き返る~……ん?」
「どうしたの?」
「足元に何かふわふわしたものが?」
「ああ、それは猫だね。猫はあったかい場所が好きだから」
「そうだな~、あったかい場所はいいな~」
しばらく、こたつの暖かさを堪能する。
「うん、少し身体がポカポカしてきたな」
「そう? それじゃ、ミカンをどうぞ」
「お、ありがとう。では、皮をむいて……パクっ。う~ん、冷たくて酸味のある甘さがいいねぇ」
「寒い場所で、あったかく過ごし、冷たいものを食べるのは醍醐味だよね」
「ああ~、最高の贅沢だ~。おや?」
足元のふわふわ、もとい猫が動き出した。
猫は布団から這い出て、俺の膝元で丸くなる。
「どうしたんだ、猫は?」
「暑くなったから、出てきたんだよ」
「そうか、そういうことかぁ。これでは動けないな~」
俺は優しく猫の背中を撫でる。
まったりとした時間……そこに突然、部下が口調を真面目なものに変えて声を出した。
「はい。では、ここからトラップ発動です」
「なに!?」
「今から六十秒以内にこたつから出て、魔王様が待つ扉を開けてください。時間切れになると町に戻されます」
「な、なんだとぉぉぉ? なぞなぞじゃなかったのかよ!?」
「残り五十秒……」
「こ、こうしてはいられない! すぐにでも、」
――にゃ~
「おっとスマン。お前がいたな。ちょっと、ごめんな。どけてもらってと」
「残り三十秒……」
「よしっ。では、こたつから、こたつから出て、出て、出て」
どういうわけだろう? 体がこたつから出ることを拒否している。
「残り二十秒」
「じ、時間がない。だけど、この心地良さ。振り切れ、俺! 負けるな、俺。立ち上がるんだ~!!」
「残り十秒。9・8・7・」
「ま、まけるかぁぁぁおおおっと、猫が!」
猫が膝に戻ってきて丸くなってしまった。
「そ、そんな、これだと……」
「ゼロ。ざんね~ん。では、町に戻って下さ~い」
謎の靄が現れ、俺を包む。
「くそぅ! 卑怯だぞ。次こそは攻略してやるからなぁぁぁぁ!」
懐には町で購入したなぞなぞの本。
予習は完璧なので、次は前のような失態はない!
いざ、行かん! ラストダンジョンの攻略!
「と、行きたいけど、なんでこんなに寒いんだよ?」
魔王城の周りに雪が積もっている。
前来たときは、寒くもなく雪も積もってなかったはずなのに。
俺は城に入り、かじかんだ両手を擦りつつ、白い吐息がそのまま凍りついてしまいそうな寒さに耐えながら、魔王城の廊下を進む。
「じょ、じょじょじょ、城内も寒いなんて、だだだ、だん、暖房ぐらい入れたらどうなんだ?」
寒さで歯と歯がカチカチと音を立てる。
それでもなんとか大広場にやってきた。
すると、気安い部下が姿を現す。
「また来たか~、勇者~」
「も、ももも、もちろん、何度だって来るさ! せ、せせせ、世界の平和のために!」
「寒そうだね~」
「そりゃ、寒いよ! って、なんだお前、それは!?」
部下は布団で覆われた机に座っている。
「あ~、これ? これはね、こたつって言うの~」
「こたつ?」
「まぁまぁ、勇者も中に入ってごらんよ。暖かいから~」
「だ、誰がそんな誘いに、ヘックション」
「風邪を引いたら、戦いも何もなくなっちゃうよ?」
「く、しょうがない。ちょっとだけ……」
俺はこたつなる机に近づき、布団を上げる。
「おお、中は暖かいな」
「その中に足を入れて座るんだよ」
「なるほど、こう?」
「そうそう。どう、あったかい?」
「はああぁぁぁぁ~、これはたまんないなぁ」
「でしょでしょ。こたつは暖房の効いた部屋よりも、寒い部屋の方が楽しめるからねぇ~。はい、お茶をどうぞ」
「お、悪い。ずずっ、ふ~、生き返る~……ん?」
「どうしたの?」
「足元に何かふわふわしたものが?」
「ああ、それは猫だね。猫はあったかい場所が好きだから」
「そうだな~、あったかい場所はいいな~」
しばらく、こたつの暖かさを堪能する。
「うん、少し身体がポカポカしてきたな」
「そう? それじゃ、ミカンをどうぞ」
「お、ありがとう。では、皮をむいて……パクっ。う~ん、冷たくて酸味のある甘さがいいねぇ」
「寒い場所で、あったかく過ごし、冷たいものを食べるのは醍醐味だよね」
「ああ~、最高の贅沢だ~。おや?」
足元のふわふわ、もとい猫が動き出した。
猫は布団から這い出て、俺の膝元で丸くなる。
「どうしたんだ、猫は?」
「暑くなったから、出てきたんだよ」
「そうか、そういうことかぁ。これでは動けないな~」
俺は優しく猫の背中を撫でる。
まったりとした時間……そこに突然、部下が口調を真面目なものに変えて声を出した。
「はい。では、ここからトラップ発動です」
「なに!?」
「今から六十秒以内にこたつから出て、魔王様が待つ扉を開けてください。時間切れになると町に戻されます」
「な、なんだとぉぉぉ? なぞなぞじゃなかったのかよ!?」
「残り五十秒……」
「こ、こうしてはいられない! すぐにでも、」
――にゃ~
「おっとスマン。お前がいたな。ちょっと、ごめんな。どけてもらってと」
「残り三十秒……」
「よしっ。では、こたつから、こたつから出て、出て、出て」
どういうわけだろう? 体がこたつから出ることを拒否している。
「残り二十秒」
「じ、時間がない。だけど、この心地良さ。振り切れ、俺! 負けるな、俺。立ち上がるんだ~!!」
「残り十秒。9・8・7・」
「ま、まけるかぁぁぁおおおっと、猫が!」
猫が膝に戻ってきて丸くなってしまった。
「そ、そんな、これだと……」
「ゼロ。ざんね~ん。では、町に戻って下さ~い」
謎の靄が現れ、俺を包む。
「くそぅ! 卑怯だぞ。次こそは攻略してやるからなぁぁぁぁ!」
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