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時の流れは待ってくれない

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 数日経ったが、いまだ互いにぎくしゃくとした関係が続いていた。
 このままでいけないことはわかっている。でも、時間が開くたびに勇気は失われていく。
 だが代わりに、ユタカと楽しい日々を過ごしていた時には見えなかったこと、見ようとしなかったことが見えてきた。

 私は一人で暮らしている。少女でありながら森深くに一人で暮らしている。
 少女がこのような場所で一人暮らす理由とは?
 住んでいる場所は、巨木を変化させた不思議な家。
 どうすれば、このような家が造れる?

 幼い手では力仕事も満足にできずにユタカ頼り。
 以前はどう暮らしていたのか?

 おそらく、これらはユタカが胸に抱いている疑問。いや、おそらくではなく絶対だ。
 だが私は、ユタカの優しさに甘え、彼が浮かべるであろう当たり前の疑問から目を背けていた。
 向き合えば、不安や心配事が無尽蔵に膨らんでいき、なけなしの勇気が削り取られていく。
 ならば、なんて説明すればいい?

 答えは簡単。魔女であり、魔法を使えるから。
 しかし、ユタカは魔法を知らない可能性が高い。
 人は、理解を超える存在に恐怖する。私がユタカの存在に恐れを抱いたように……。
 いや、これは私の勝手な考えだ。

 ユタカが恐れを抱くかなんてわからない、全てを打ち明けて見ないと……。


 でも、そんなことできっこないっ。
 私はユタカの温もりを欲しながらも、彼に歩み寄ることを恐れている。自分の本心を曝け出すことを恥ずかしいと思っている。
 他者から見れば、馬鹿馬鹿しいちっぽけなつまらない誇り……意地。

 そんなことわかっている。自分自身がよくわかっているっ。
 誰かに……誰かに、自分を知ってもらうことがこんなに難しいなんて、こんなにも勇気がいることなんて知らなかった。

 いたずらに時間だけが過ぎていく……。
 一歩踏み出せば、先に進める。
 だけど、今の場所で足踏みして留まれば、傷つくことはない。
 傷つくことはない……この時の私は、傷つくことはないと思っていた。

 留まり続けることが、愚かな行為だということに気づかなくて。
 全てから目を背ける愚かな私。
 しかし、そんな弱い私を、愚かな私が肯定する。


『愚かでもいいじゃないの。ほら、見てよ。ユタカが私のもとへ訪れてから、灰色だった暮らしが、こんなにも色鮮やかに変わったんだからっ』


 そう、一人で過ごす変わらぬ日々から、ユタカと過ごす変わらぬ日々へと変わった。
 朝起きて、ユタカにおはようと声をかける。
 毎日、代わりばんこに朝食を作る。
 昼過ぎまで野良作業に精を出して、夕刻からはユタカに文字や言葉を教える。

 風呂に入り、夕食を食べて、最後におやすみと挨拶を交わして一日が終える。 
 たしかに、互いに一歩引いた関係が続いている。
 だけど、それは時間が解決してくれるはずっ。


 そう、思っていた。
 しかし、この考えが如何に甘いものか打ちのめされることになる。
 時間は誰に干渉されることもなく流れ続ける。
 だけど、私たちにとっては有限であり変化するもの。

 変わらないと思っていたけど、たしかに変わっているのだ。
 そして、それに気づいた時には、手遅れ。後悔することになる。
 私は馬鹿だ。臆病で愚かだ。
 恐れずに、ユタカへ曝け出しておけばよかった……。
 

――それは、唐突に訪れた。
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