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勘違い

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 たかぶりを鎮めた私は今、台所でテーブルの席に座り、流し台で昼食の準備をしているユタカの背中を眺めている。
 ユタカは私の部屋から走り去ったあと、昼食の準備に取り掛かっていたそうだ。
 私を怒らせてしまったと感じた彼は、せめて食事の用意をしていておこうとしたらしい。


(食べ物でご機嫌取りって……いや、別に不満はないけど、私ってそんなに食いしん坊に見えるのかなぁ? どちらかというと、私よりもユタカの方がよっぽど)

 ユタカは細身でありながら、その外見とは裏腹にビックリする量の食事をぺろりと平らげてしまう。
「ふふ、男の子って思っていた以上にたくさん食べるんだ」
 華奢なユタカの背中を見ながら、笑いが漏れ出た。だけど、その背中は私なんかよりもずっと広く逞しい。

 彼は私から漏れ出た笑いに気づくことなく、黙々と昼食の準備を進めている。
 トントントンと、小気味よく響く包丁の音が耳に届く。鍋がグツグツと煮立つ音。パチパチと弾ける薪の音。

 奏でられる音たちは調和がとれており、耳に優しく届いてくる。
 さながら、料理の演奏会。
 ホッと心休まる、どこか懐かしさを感じるメロディー。
 私は目を閉じ、音楽に身を預けた。


(私の料理を食べてもらう。私のために料理を作ってもらう。どちらも同じくらい嬉しい)


 安らぎが自然と顔を綻ばせていく。
 しばらくすると、ユタカの演奏が徐々に小さくなっていった。
 代わりに、美味しそうな香りが鼻腔を包んでくる。

 食欲のそそる香りは胃袋を刺激してきて、思わずキューッとお腹を鳴らしてしまった。
 慌ててお腹を押さえてユタカに視線を向けるが、音が小さかったため気づいていないようだ。

(危ない、危ない。恥ずかしい思いをするところだった)
 お玉でスープをすくい、味見をしているユタカの後姿を見つめる。

(ほんとに変わった男の人。大人しくて、優しくて、料理ができるなんて。そして、魔女を知らない、本当に変わった人。黒髪を見られて去られたときには、辛くて悲しくて……ん、あれ?)

 ふと、一つの疑問が浮かんだ。
 それは、魔女を知らないはずのユタカが、何故、私の黒髪を見て逃げ出してしまったのかということ。
 そこに触れるべきか、悩む。
 尋ねて、今の心地よい状態を壊すようなことになったら……でも、気になる。


(ちょっと、尋ねてみて、答えにくそうなら途中で止めよう)
「ユタカ」
「ウン?」
「あ、あの、さっきはどうして私を見て、逃げ出したんだ?」
「ニゲダシタ? ニゲルハ仝℃▽θ? ニゲル、ニゲダス……サッキ? アッ」

 ユタカは私の問いをゆっくりと噛み締め理解すると、短く小さな声を上げた。
 そこから、そわそわとし始めて、話しづらそうな雰囲気を醸し出す。
 彼の様子に怯えた私は、誤魔化すように先程の質問に言葉を被せた。


「いえ、あの、言いたくないなら、別にいいから……ね」
「ダイジョウブ。ダケド、ミラ、オコル?」
「うん? どうして、私が怒るんだ? よくわからないけど、怒らないから話せるのなら聞かせて」
「エ~ット、アノ~……ワタシ、ノックシタヨ」
「ノック? あ、そうなのか。それは気づかなかった。では、急に扉を開けたことを、怒ると思ったんだ?」


 ユタカは頬をポリポリと掻きながら、気まずそうに言葉を続けた。
「ソレモアル。ケド……シタギ、ベッドノウエニ、イッパイ」
「え……ベッドの上、いっぱいの下着? あ、ああ~!」

(そうだったっ! 私は下着をベッドに上に並べていたんだっけ‼)
 ユタカが扉を開く直前、私はベッドの上に広げていた下着を片付けようとしていた。
(あの下着を見てユタカはっ!)
 しかも、見られた下着は、幼い私にはとても似つかわしくない、ちょっとエッチな大人の下着。


「うう、あああ~、うそでしょう!」 
 私は叫び声を飛ばし、頭の血が沸騰するくらいの勢いで顔を真っ赤に染め上げた。
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