素直になれない魔女と不思議な少年

雪野湯

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楽しい。でも……

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 楽しい食事のひと時は過ぎ去り、後片付けへと移っていく。
 一緒に後片付けを手伝ってくれているユタカのでっぷりと膨らんだ腹を見ると、申し訳なさがこみ上げてくる。
 到底、子ども二人では食べきれるはずのない、山ほど拵えたご馳走。

 それをなんと、ユタカがほとんど一人で食べてしまった。
 私に気を使い無理して食べてくれたことは、彼のはち切れんばかりの腹を見ればわかる。
 対抗心を燃やし過ぎて、料理を作りすぎてしまったことを猛省しなければならない。
 でも、ユタカは終始美味しそうに食べてくれた。量はともかく、味には満足してもらえたように思える。
 後片付けを終えて、自分の部屋に戻るため出口へ足を向ける。
 すると、ユタカが私の肩をチョンチョンと叩いて呼び止めてきた。


「うん、どうした?」
 振り向くと、ユタカは一人用のスープ鍋を手に取っていた。
 鍋の中身は空っぽだが、先程まであの中にはアルフュイというスープ料理が入っていた。
「その鍋がどうしたのか?」
「コンド、ツクリカタ、オシエテ」

「え? ああ、構わないぞ。少々手間のかかる料理だから大変だが」
「アリガトウ」
「かわりに、あのフワフワ玉子料理の作り方を教えてくれ。今まで味わったことのない食感で面白かった」
「ウンッ!」


 互いに料理を教え合う約束をして、階段を上っていく。
 三階へ続く階段の前で、おやすみの挨拶を交わしてユタカは階段を上っていった。

(料理好きな男の子か。変わった子。でも、可愛くもある)
 私の知る男の子とは、もっと粗暴なイメージだった。やんちゃで本気でバカやって、なんでも楽しんでいる。
 冷静で紳士的なユタカとは、対照的なイメージ。

(でも、料理の腕が立つのはちょっと……私が料理に自信が無ければいいんだろうけど)
 男が料理を作れるというのは良いことだと思うが、できれば程々の方が良いと感じている。

「味はともかく、技術はユタカの方がありそうだし。立つ瀬がないなぁ、フフ」
 自嘲なのか、楽しんでいるのかわからない笑いを漏らして、自室へと戻っていく。
 足取りはとても軽い。
 一人で暮らしていた頃は、こんなにも体が軽かったことなどなかった。


 そう、ユタカが来てから、生活の全てが一変した。
 毎日が楽しくてしょうがない。
 今と比べれば、一人で過ごしていた日々が、どれほどまでに無味乾燥であっただろうか。
(でも、そんな日々がいつまでも……)


「嫌っ!」
 自室のドアノブを回そうとした時、私は久しく忘れていた声を聞いた。
 不安に襲われて、思わず叫び声を上げてしまう悪癖の声を。
 叫び声が広がる前に、急いで口を押さえる。
 ユタカの耳に入れば、心配してやって来てしまう。

「う、うう、う~」
 口籠る、声にならない声。嗚咽のような声を漏らし続ける。
 頭の中には、目を逸らし続けていた問題がぐるぐるとまわり始める。
 
 ユタカはいつか、この場所から離れる。
 それがいつかはわからない。
 でも、この場所を目指していたわけではないとしたら、彼にも帰るべき場所があるはずだ。
 
 ユタカの帰るべき場所とはどこなのか? 何故、彼はここに訪れた? 
 転送? 未知の技術? カクミ語を知らない?
 ユタカには、まだまだわからないことだらけ。

 わからないことだらけ? そうじゃない、全てがわからない謎の存在……。


(心を、心を許すわけにはいかない。たとえ、どんなにユタカが、ユタカと、ユタカ……)
 ユタカの優しさに身を預けたい、信頼したい。
 しかし、相反する感情が心の中に潜んでいる。
 異なる感情は心を引き裂かんと、綱引きをしている。

 そして、かき乱れる感情の奥には、彼には見せられない、絶対的な恐怖が宿っていた。
 それは、私が魔女であるという事実……。
 ユタカは不思議な存在。もしかしたら、魔女という存在を知らないかも?
 なら、いっそ正体を明かしてみればっ。


「そんなこと、できるわけがない……」
 自分に言い聞かせるように、小さく声を漏らす。
 たしかに彼は、カクミ語も知らぬ者。だからといって、魔女を知らないとは限らない。
 知れば、彼は私を畏れる。さげすむ。
 罵倒し石を投げる。汚物を見るかのように、顔を歪める。

「ユタカに、そんな眼で見られるなんて……もう、二度とあんな思いはしたくない」
 ユタカへの想いが、過去の記憶を刺激する。
 ずっと、封印していた悲しい思い出が蘇ってくる。
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